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消えた水音のことをうやむやにしたまま、僕は学校に向かった。
彼女の携帯に限って、電源が落とされているのは珍しいことだった。
何気なく覗いた隣の教室に、水音の姿は見つけられなかった。
偶々に違いない........。
自分にそう言い聞かせながら臨む授業は、いつになくのろい空気を漂わせた。
二限目の始まりを告げるチャイムが鳴った時だった。
不意に教室の戸が開き、配り始めていた教材のプリントを抱えたまま、受け持ちの教師がそそくさと廊下に消える....。
そこで耳打ちをする副担任の不穏な表情を、僕には窓際の席から洞察することができた。
込み上げる胸騒ぎに息を呑むのと、副担任と目が合うのが同時だった。
それから先のことはあまりよく覚えていない。
気がついた時にはもう副担任の車に乗せられていて、僕はただ意味もなく、後部座席から前方のフロントガラスをぼんやりと眺めていたような気がする。
次に思い出せるのは、水音の母親の、涙を溜めた悲しい目と、僕の手を握りしめる妙に熱い掌の感触だ。
「君島君に会いたいって...........
あの子................
あなたを呼んでって................」
水音の母親は、僕の目を見て同じ言葉をくどいほど繰り返していた。
病院に搬送される車の中で、水音が救急隊員にそう告げていたのだと、水音の母親は何度も僕に念を押した。
まるで映画のワンシーンに、突然投げ込まれたようだった。
ふと思い当たるエタノールの臭気は、今起ころうとしていることが、間違いなく自分が直面している現実であるという不安を、攪拌させながら鼻腔に染み込ませた。
分散して宙に浮かんだ気後れが、どろりとした真っ黒な墨に塗り潰されてゆく手触りを知ってからも、その無常を認知するまでには、更に多くの時間を要した。
僕が病院に到着したのは、水音の死が告げられて間もなくのことだった。
登校時の、加害者の飲酒運転による交通事故だった。