5月27日 火曜日
処女作です。指摘を受けるとこも多々あると思いますが、気にとめてくださるなら読んでください。
紫陽花の葉から水滴が落ちる。
先程まで雨が降っていたのだろう。まだ乾ききれない空気の中に一台の一輪車と一人の少女、いや、女性がいた。
この時点ではまだ、私にとって彼女は女性であった。
それにしても、珍しい光景であった。それは私には間違いなく新鮮であったのだ、もうすぐはたちと見られる女性が一輪車の練習をしていることなど。
彼女の家であろう一軒家に備わっている手すりにしがみつき、一輪車にまたがっていたのだ。ただ、見ていた。目に留まったものであったが、見ていた。
そしてふと思い出したのだ、自分がゴミ出しの途中であったことに。私があわてて自分の仕事に戻るのは、数秒後のことだ。
「ねぇ、暑いんだけど」
突然うちわで叩かれた。しかし、反抗の意を示すにもこの気怠い空気がそれを吸い取ってしまっている。私はとりあえず無視を決め込んだ。
「涼介、暑いんだけどぉ」
うちわ攻撃の犯人が再び攻撃を仕掛けてきた。しかも先程のより叩かれる回数が増えている気がする。しょうがない、そう思い応戦する。
「うん、暑い」
これが精一杯の応戦だ。これ以上はなんとも面倒くさい。
「涼介、あんたさぁ、涼介なんだから、『涼』なんだからさぁ、すずしくしてよぉ」
なぜ、語尾をのばす。なぜ、この蒸し暑い空気の中でさらに不快指数を高めるような喋り方をする。
「それは関係ないだろ」
よし、一応ちゃんとつっこんでやった、もうこれ以上はメンドクサイ。
「あつぅい、なんでこんな暑いのぉ。5月だよぉ。ぜったいおかしいよねぇ」
あぁ、私の耳はくるったか。この鬱陶しい語尾を切ってやりたい。
「安田がさ、なんと言おうと暑いんだから黙ってろよ」
「うっわぁ、ひっどぉい、涼介君こっわぁい」
この語尾延長マシーンの女、もとい、安田雅と今はバイトの休憩中であった。仮にも私の『涼』について文句を言うなら、彼女の『雅』にも文句を言いたいものだ。そんなことを考えていたら、頭の中に急にあの一輪車の少女が出てきた。頭の中で一輪車に乗ろうとしている。あぁ、あの子の名前はなんというのだろう、そんなことを思ってしまった自分に驚いた。
今までの人生、つまり嶋涼介が生きてきた21年間の中で、涼介はあまり他人に興味をもたなかった。いや、持っていてもそれを意識するほどではなかった。
だから涼介は自分に驚いてしまったのだ、しかも自分で。涼介にはなんとも新鮮なことであった。
一輪車が涼介の頭の中で転がっていた。しかし、そこにはあの女性はいなかった。




