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数えるだけでも

 

※上原視点



***



蒼の親は過保護だと思う。特に父親。


年の離れた奥さんとそっくりな蒼を溺愛していて、時には一緒に風呂に入ったり、一緒の布団で寝ていたらしい。


ちなみに妹の朱理しゅりちゃんがないがしろにされているという事ではない。2人とも溺愛しているが、蒼の方がちょっぴり重…いや、可愛がっているという事だ。


中学時代の事もあって心配でしょうがないというのは見ていて分かる。でも高校生男子が親と一緒に風呂入ったり寝たりするかな。

泊まった事あるけど風呂はそんなに広い訳でもない。反抗期だってあるしどうしてたんだろう。


蒼に突っ込んで聞いてみると、「風呂は勝手に入ってくるし知らない間に一緒に寝てる」という事らしい。

さすがに最初はやめるように言っていたが、全くやめる気配がないので諦めたとか。


おじさん…(遠い目)。


もしかしておばさんや朱理ちゃんも同じようにしているんじゃ…と心配したがそれは大丈夫らしい。

「この年で母親と妹と風呂とかキモイしありえない」と言っていた。

蒼にはちゃんと一般常識があるようで安心した。妹さんはよく蒼の所に遊びに来てるけど、それはまあ仲が良いという事にしておこう。








おじさんの溺愛ぶりを示すエピソードがある。

それは蒼の家に遊びに行った時、蒼が席を外した時に部屋に来たおじさんに延々語られた話だ。


「大丈夫?蒼君は何か迷惑かけてない?」


「はい、大丈夫だと思いますけど…」


「あの子は辛くても我慢してしまうからね。上原君に見ていて欲しいんだ。例えば――」


今もそうだが、蒼は小さな頃から我慢強く、どんなに辛くてもなかなか言わないのだとおじさんは言っていた。

そして「もっと甘えて欲しかったのに~」と愚痴っていた。そのひとつがこれだ。







―――。



それは蒼が3歳の時。

おじさん達はいつものように夕飯を食べようとした。だが蒼の様子がおかしかった。


いつもならば「ママのごはんおいしいねえ」と頬を染めて食べる蒼(天使のように可愛いらしい)が食べようとしない。


『あれ?蒼君食べないの?』


『いらない』


『蒼、どうしたの?今日は蒼の好きな物ばかりなのに』


『…食べたくないもん』



置いてあるスプーンにも手を付けず、頬を膨らませてプイッとそっぽを向く蒼は本当に可愛かった。可愛いすぎて萌え死にするかと思った(おじさん談)。


蒼は今まで親に反抗した事がなく、手のかからない子どもだった。妹が生まれてそちらにかかりきりになっても変わる事はなく、だからこの様子にびっくりしたらしい。


『どうしたのかしら…お昼は食べてたんだけど』


『蒼君、ちょっとでもいいから食べようね?ほら』


『や!食べないもん!パパきらい!』


『い゛だーー!!』


ちょっとでも食べて貰おうとおじさんがスプーンを蒼の口に運んだ。すると物凄い勢いで嫌がられ、蒼はおじさんの腕をがぶりと噛んで逃げようとした。

この時の「パパ嫌い」がショックすぎて、おじさんは後で泣いたらしい。おじさん…。


『あ!待ちなさい!』


『蒼!待って!』



『やー!』


引き止める両親の声を無視して椅子から降り、頼りない足取りで逃げようとする蒼。


「だってね?蒼君が歩く度にぽてぽてって可愛い音がするんだよ?」


「ぽてぽて…ですか」


その姿は本当に可愛かったという(結局それかと思ったが、おじさんが楽しそうだったから言わなかった)。


『蒼君!』


『や!』


『あ!』


そしておじさんが追いかけようとしたら、いきなり「びたん!」と大きな音を立てて前に転んだらしい。


『『……』』


息を飲んで見守る両親を背に、蒼はなかなか起き上がらなかった。


『…蒼君?』


『蒼、痛くしちゃった?』


『…う゛』


両親の掛けた言葉に反応したのか、わずかに指が動いた。だが、頭を持ち上げたのは一瞬の事で、すぐにパタリと倒れてしまった。


『キャー!』


『そ、蒼くうううううううううんんんん!!!』


慌てておじさんが抱き起こすと蒼の身体が熱かった。熱があったのだ。

急いで病院に連れて行くと「はしか」と診断された。



『蒼、いつから苦しかったのかな?ママに教えて?』


『…おひる』


おばさんが聞くと、お昼を食べた後から具合が悪かったと言ったらしい。静かだが普通におもちゃで遊んでいたので気づかなかったのだそうだ。


『これからはちゃんとパパとママに言うのよ?蒼が苦しいとパパもママも苦しいの』


『蒼君、もっと甘えていいんだよ?』


『はい…ごめんなさい…』


涙を浮かべて謝る蒼は本当に(以下略)。


それからそういう事が何度かあり、蒼が怒りやすかったり拗ねたりしている時は大抵具合が悪い事に気づいたらしい。





―――。



「それでねえ、弱ってる時は甘えたくなるのか“パパ、だっこ”って必ず言うんだよ。本当に可愛くてねえ…」


「はあ、そうですか」


「ほら、見てこれ」


するとおじさんは携帯の待受けを見せてきた。そこには頬を染めた笑顔の女の子の写真があった。

3歳くらいだろうか。床に座っておもちゃを持ち、撮影者と思われる人物を見上げるようなカットだ。


朱理ちゃんかな。物凄く可愛い。 


「朱理ちゃんですか?可愛いですね」


「違うよ上原君!これは蒼君だよ」


「え…」


「本当に女の子みたいだよねえ。朱理ちゃんと並ぶと天使が2人みたいでおじさん嬉しかったなあ」


マジか。中学時代までは女のような可愛さだったのは知っているが、小さい時は女の子そのものだ。誰も男だなんて思わないだろう。


「凄いですね…」


「それでね、この写真の時は…」


それから延々と蒼の昔話は続いた。

おじさんが蒼を溺愛しているのは知っていたが、小さな頃からだったのか。


「もっと聞きたい?」


「興味はありますが…いくつくらいあります?」


「ざっと数えるだけでも150個はあるかな」 


「ひゃくごじゅ…!?」


しまった。多くても20個くらいかと思っていた。おじさんの溺愛ぶりをなめていた。


「どれがいい?入園前だけでもいくつかあるんだけど…」


にこにこと蒼の面影のある目元を緩ませ、オススメの話を上げるおじさん。

だがその目は「断る事は許さない」という光を孕んでいた。


その視線に俺は負けた。


「こ、公園デビュー編からお願いします…」


それから蒼の家に遊びに行く度に昔話に付き合わされた俺だが、だんだんそれが楽しみになっている事に気づいたのは3ヶ月後の事だった。


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