女子大生マドカ出血多量。
読むと貴方は、きっとイライラします。
ゴホッ、ゴホッ……
ゴホッ、ゴホッ……
激しく咳込んで目が覚めた。
目に飛込んできたものは鮮やかな赤……
「!!!!」
驚いて一瞬、心臓が止まったような気がした。
その赤が血だということはすぐに理解出来た。
黄色いクマさんの布団がアタシの血に染まっている。
頭の中は真っ白で何も考えられなかった。
その間にも、口の中からはどんどん血が流れ落ちていく。
どうしよう
どうしよう
どうしよう
……
お母さん!!
大学に進学し、一人暮らしを始め一年近く経つが、未だに“困ったときは母!”なのだ。
(お母さんに電話しなきゃ!)
アタシはベッドから降りると、床に転がる携帯に手を伸ばした。
携帯に触れた、その時。
♪ピーピピロッピー
ピロリラーピーピッピー♪
着信音が鳴った。
(お母さん!)
電話に出なきゃ!
きっとお母さんだ!
助けて!
しかし、何度も携帯のボタンを押しても着信音は止まない。
カチカチ……カチカチ……
どうして?!どうして?!
電話に出なきゃ!
どうして?!
♪……ピロッピー
ピロリラーピーピッピー♪
「んー…ぅぅん……」
ゆっくりと目を開ける。
朝日が眩しくてなかなか目が開けられない。
携帯の着信音がうるさく耳に響く。
目を細めながら携帯を探していると、シーツや布団の色がいつもと違って見えた。
「……!!!」
アタシの目は一発で全開になった。
黄色いはずのシーツが、布団が、枕までもが赤く染まっている。
その赤は口からどんどん溢れ出ていた。
♪ピーピピロッピー
ピロリラーピーピッピー♪
床に転がる携帯を見つけると、アタシは迷わず電話に出た。
「もしもし!」
「あ、マドカ?俺だけどさァ」
「タツヤ!」
電話の声は彼氏だ。
「おめぇ今日の昼は一緒に食えんのかァ?」
「タツヤ!それどころじゃないよ!血が!血が!!」
「はぁ?」
「血が止まんないの!口からいっぱい出て!」
「は?何言ってんの?」
「だから血が!!」
「落ち着けよ」
あ〜〜〜!!もう!どう言ったらいいの?!
とにかくお母さんだ!
お母さんに電話で知らせなきゃ!
「ごめんタツヤ!また後で!」
ピッ
彼氏の返事も聞かず、一方的に電話を切る。
カチカチ……カチカチ……
口からはペットボトルから水を注ぐようにドボドボと血液が流れ出ている。
アタシは必死に携帯のボタンを押し、母のメモリを探した。
(早く!早く出てきて!)
♪ピーピピロッピー……
また着信だ。
携帯の画面に表示された名前はタツヤ。
こんな時に何?!
アタシは苛立ちながら電話に出る。
「何?!」
「どうしたんだよマドカ。急に電話切って。大丈夫なのか?体調悪いのか?」
心配してかけ直してくれたのは嬉しいが……
はっきり言って今はうざい!!
「いやっ、大丈夫だから!気にしないで!じゃあ!!」
ピッ
アタシはまた急いで電話を切った。
そして再び母のメモリを探す。
カチカチ……
♪ピーピピロッピー……
またァ?!
もう!いい加減にして!!
仕方なく電話に出る。
「タツヤ!また後にして!お願い!」
ピッ
もう!進まないじゃない!!
早くしないきゃ出血多量で死ぬ!
カチカチ……
♪ピーピピロッピー……
もう!!
もうやめて!!
やめて!!!!!!
♪ピーピピロッピー
ピロリラーピーピッピー♪
アタシは泣いた。
うゎんうゎん声を上げて。
訳がわからなかった。
何故血が溢れ出てくるのか。
何故彼氏がこれ程までしつこいのか。
アタシはどうすればいいのか。
アタシはどうなるのか。
床は血液が水たまりを作り、アタシの体は血と涙で覆われ、それはもうグチャグチャで……
アタシはもう泣く事しかできなかった。♪ピーピピロッピー
ピロリラーピーピッピー♪
♪ピーピピロッピー
ピロリラーピーピッピー♪
♪ピーピピロッピー……
ゴホッ、ゴホッ……
目を覚ますと枕元は赤く濡れていた。
黄色い熊さんの布団も、血と……涙で……グチャグチャに……
アタシはもう驚かなかった。
これはユメ?
アタシは現実の世界にいるの?
自分が存在しているのかも、もうわからなくて。
口から勢いよく血は流れ……
でもアタシはベッドから起き上がることもなく
ベタベタの赤いベッドに転がっていた。
目と口はだらしなく開けて。
ピーンポーン
「!!」
突然響いた高音に体がビクッと反応した。体は動かさず、視線だけを玄関へ向ける。
ワンルームの部屋から丸見えの玄関。
「……」
ダレ
あ
ナッチ
ナッチは毎日一緒に登校する友達だ。
いつもアタシが寝坊しないよう、迎えに来てくれる。
ピーンポーン
ピーンポーン
「あ……」
ナッチ……
これは現実だ、と思った。
助けて
ゆっくりと体を起こすが、全身に力が入らない。
「あ……は……」
声を出そうにも、喉に何かが詰まってかすれた声しか出てこない。
ピーンポーン
ピーンポーン
やっとのことでベッドから出て、口から血を流しながら床を這う。
待ってナッチ
行かないで
ゴホッ、ゴホッ
クルシイ
アタシはゆっくりゆっくり、玄関へ這って行った。
もうすぐ玄関扉に手が届く……
♪ピッピラリラ〜
背後で電子音がした。
携帯のメール受信音。
アタシはズルズルと這いながら、ベッドの下に落ちている携帯に近付いていく。
携帯を手に取る。
カチカチ……
送信者はナッチ。
”まだ寝てるの?
今日急ぐから先行くね!“
ダメ
行かないで
カチカチ……
メールを返信画面に切り替える。その時
♪ピーピピロッピー
ピロリラーピーピッピー♪
メール返信画面が着信画面に変わった。
着信:タツヤ
♪ピーピピロッピー
ピロリラーピーピッピー♪
出てはいけないと思った。
さっき見たユメが気になって。
ピッ
アタシは着信拒否ボタンを押した。
そして再度、ナッチへの返信メールを作成する。
“緊急事態!今すぐウチに
♪ピーピピロッピー
ピロリラーピーピッピー♪
着信:タツヤ
ピッ
今度は迷わず着信拒否ボタンを押す。
メール作成は最初からやり直し。
“緊急事態!今
♪ピーピピロッピー
ピッ
着信拒否。
“緊急事態!今すぐウ
♪ピーピピ
ピッ
また拒否。
“緊急事
♪ピーピピロッ
ピッ
“緊急事態
♪ピーピピ
ピッ
“緊急事態今
♪ピーピピロ
ピッ
“緊急
♪ピーピピロッピー
ピロリラーピーピッピー♪
♪ピーピピロッピー
ピロリラーピーピッピー♪
♪ピーピピロッピー
ピロリラーピーピッピー……
……
……
ピーンポーン
ピーンポーン
ピポピポピポピポピーンポーン!
「こらぁ!!ねぼすけマドカ!起きろぉぉぉ!!!」
ピポピポピポピンポーン!
「ぅ……んぅ……」
朝日が眩しくて目が開かない。
「マドカぁ!!遅刻するよ!!」
玄関扉の向こうからナッチの元気な声が聞こえる。
ぼんやりと見えてきたのは
黄色い熊さんの布団。
お気に入りの
可愛い
黄色い熊さんの布団。
これは私が実際に見た夢です。
夢の中で夢を見る……とても不思議な感覚でした。そして本当に死ぬと思いました。
もし友達が起こしに来てくれていなかったら、私はもうこの世にいなかったかも……