ゴリラ?
マレーシア奥地の山林にて探検家ビアンカ・熊谷は奇妙なゴリラを目撃した。
『ビスミッラーヒ ッラフマーニ ッラヒーム!』
ウホ?
聞き慣れないその鳴き声に困惑するビアンカ。思わず零した疑問符はまるで自身にゴリラが乗り移ったかのようでありその混乱ぶりが窺える。大丈夫か?
鳴き終わると彼は手元のバナナものを豪快に齧り……いや、綺麗に剥いてなんとも上品に食べ始めた。
信じられない。これが本当にゴリラなのか?
茂みに身を隠し静かに相手を観察する。
記録用の機材がないのが残念だ。せめて携帯くらい持って来ていればカメラで撮影できていたのに……。
悔やんでみたところで何も現実は変わらない。ならば己の目と耳でその生態を具に記憶するのみ。その身の全てを完璧に機械と化すのだ。
偶然の齎した奇跡的遭遇に、この機を絶対に逃すものかと燃えるビアンカ。
景色に溶け込まんと周辺に繁る青草を毟り擦り付け、木の枝を拾っては身に纏う。本人は忍者か何かのつもりだろうが、もし誰かがそれを目にしたとすればきっと変人にしか映らないであろう、そんな滑稽さに本人は気づいているのだろうか。
『アルハムドゥリッラー』
食事を終えるとやはり奇妙な声で鳴くゴリラ。
これはもしや食前食後の祈り的なルーチンなのだろうか。高い知性が感じられる。
ガサッ、ガサッ、ガサッ!
何かが藪を切り裂く音がする。
見ればゴリラの手には鎌が。
「ウホ?」
またしても奇怪な声を漏らすビアンカ。いや、今のは「ウホ?」ではなく「嘘?」か。なんとも紛らわしい。
いや、そんなことなどどうでもいい。
なぜならば鎌を手にした彼がビアンカの方へいそいそと近づいて来ているのだ。どうやらいつの時点でか気付かれていたらしい。
「何やってんだ、アンタ?
この辺は熊が出るし若い女性が来るところじゃないぞ」
「しゃ、喋ったー!!」
流暢な英語でビアンカに話しかけてきたゴリラ。人の言葉を操るゴリラなんて聞いたことない。
「いやまあ一応英語は準公用語だしな。
……って、そういう驚き方じゃないな?」
と、そろそろこの話の結末だが、実は彼は現地の人間で、ここは彼が新たに切り拓かんとしていた彼の畑。つまり彼はゴリラに似ているだけのちょっと(?)毛深く厳つい容姿をしただけの男性だったというオチである。
なお、食事前後のあれはイスラム教徒ならではの祈りの言葉。宗教に関してはああしてアラビア語が使われることがよくあるのである。
真相を知ったビアンカだがそれだけに言えない。彼のことをゴリラだと思っていたとは。
言えばきっと気分を害するに違いない。案外皮肉が冗談として返ってくるなんてことも。「こっちがゴリラならアンタは半分は黄色い猿だろう」とか。かつて日本人は海外でそんな風に揶揄されていたというし他人のことを言えた立場ではないと言われればその通りで返す言葉などありはしない。
「え? いえ、あははははは」
結果できたことは笑って誤魔化すことだけであった。
これも日本の血を引く者ならではの得意技だ。
う~ん、ちょっと無理のある話だったかなぁ……。
いやそれよりも、実はとある相互ユーザーさんを勝手にネタ元としてしまいました。
ごめんなさい。ですがお陰で一作品書けました。




