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蹴球ファンタジア~ボールは、唯一の家族。万年最下位の国だって、僕の必殺シュート「マグネ・ドライブ」が救ってみせる  作者: cross-kei


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第06話:vs 傭兵王国(前編) ~双子の雷鳴と、磁力の檻~

 試合開始前だというのに、控え室の空気は鉛のように重かった。


 ガッドはベンチに座り、氷嚢で右腕を冷やしている。ドワーフ戦の代償は大きく、ドクターストップ寸前だ。


「俺は、万全な状態じゃない。なるべく、試合参加時間を減らしたい。重要な試合だが、前半は……フォレスト、お前がゴールを守れ」


「は、はいっ! 死んでも守ります!」


 フォレストの声が震えている。だが、その目に以前のような怯えはない。


「それから、確実ではないが、俺なりに応援を手配した」


 ガッドは、包帯をきつく巻き直しながら、鋭い視線をシエルに向けた。


「相手の『傭兵王国』は、容赦ないラフプレー主体のチームだ。しかもシエル、相手チームは、全員お前と同じ磁力魔法を使う天才集団だ。気をつけろ。


……みんな、前半なんとか持ちこたえてくれっ!」


 フィールドに出たシエルたちを待っていたのは、異様な威圧感だった。


 傭兵王国の双子の王、ゴルドとシルバ。


 彼らが歩くたびに、バチッ、バチチッと乾燥した空気が弾ける音がする。漆黒のスーツには、青白い電流が蛇のように這っていた。


 (なんだろう……髪の毛が逆立つ。すごくピリピリする)


 キックオフの笛が鳴る。


 シエルがボールを持った瞬間、世界が反転した。


「磁力が弱ぇんだよ、雑魚が」


 ゴルドが指を鳴らす。


 ドンッ!!


 見えない巨大な手に首根っこを掴まれたように、シエルの体が強引に引き寄せられた。


「うわっ!? 体が勝手に……!」


捕獲ロック。――『マグネ・ライロックバースト』」


 バチィィィッ!!


 ユニフォームに接触した瞬間、高圧電流がシエルの神経を焼き、直後に強烈な磁力反発が炸裂した。


 シエルはボロ雑巾のように吹き飛ばされ、芝生を転がる。


「ぐぁぅ……あ……」


「シエルッ! ……てめぇら、よくも!」


 巨漢のストーンが、シエルを守ろうと前に出る。彼は全身の筋肉を膨張させ、身体強化魔法を発動させた。


「俺が壁になる! 来やがれ!」


 だが、冷笑を浮かべたのは双子ではない。双子の後ろに控えていた、名もなき傭兵選手たちだ。


「壁? いいマトの間違いだろ」


 その傭兵が手を掲げる。放たれた磁力が、見えない巨大な手に首根っこを掴まれたように、ストーンの体を強引に引き寄せた。


「な、なんだ!? 足が……動かない!?」


「くっつけ――『マグネ・ライロックバースト』」


 バチィィィッ!!


「ぐ、があぁぁぁッ!?」


 岩のようなストーンの巨体が、紙屑のように空へ弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「ストーンさんッ!?」


 シエルが悲鳴を上げる。双子だけではない。このチームは、全員が磁力を「凶器」として使いこなしている。


「へえ、お前ら意外と頑丈だな。俺たちは磁力魔法をこうやって使うんだぜ」


 シルバが冷徹にシエルを見下ろす。


「引き寄せて、殺す。『蹴球ファンタジア』では直接の攻撃魔法は禁止されているが、付与魔法による接触プレーはルール上問題ない。……賢い使い方だろう?」


「違う……っ!」


 シエルは痺れる体を起こす。自分の大好きな魔法が、他人を傷つけるために最適化されている。その事実が、傷の痛みよりも深く心を抉った。


 しかもフィールド全体が、敵の『磁力の檻』となっていた。シエルがパスを出そうとしても、空間に充満するノイズが磁力を狂わせる。ボールの声が聞こえない。繋がらない。


 前半終了間際。


 執拗なラフプレーにも戦意を失わないフェイルロードのイレブンに苛立ちを隠せない双子が、センターサークルで足を止めた。


「チッ、しぶとい雑魚どもだ。……兄者、終わらせようぜ」


「ああ。前半で心をへし折っておくか」


 ゴルドとシルバが、互いの腕を組んだまま、空へと舞い上がる。


 瞬間、二人の間に青白い雷のアークが発生し、巨大な翼のような形状を描き出す。


「なっ……なんだあれは!?」


 ゴール前、フォレストが戦慄する。


「消え失せろ! 必殺『マグネ・ツインバードシュート』ッ!!」


 ドォォォォォォンッ!!


 二人同時に放たれたシュートは、雷をまとった怪鳥と化した。強烈な磁場の歪みがボールに不規則な軌道を与え、雷鳴のごとき轟音と共にゴールへ襲いかかる。


「くそっ、止めなきゃ……止めるんだぁぁぁッ!」


 フォレストが泥だらけで飛びつく。だが、雷鳥は直前で鋭角に軌道を変え、その指先を嘲笑うようにすり抜けた。


 ズガァァン!!


 0-1。先制を許す。手も足も出ないまま、絶望のハーフタイムを迎えた。


 ***


 控え室は、沈没船のように静まり返っていた。


「ごめん……僕の磁力が、全然通じないんだ……」


 シエルが膝を抱える。


 フォレストも、ストーンも、誰もがうつむいていた。だが、唯一人、右腕を氷嚢で冷やしているガッドは、祈るように入り口を見つめていた。


 (……くそっ、間に合わなかったのか)


 コツン、コツン。その時、静寂を破る、硬質な杖の音が響いた。


「あっ師匠! またアドバイスに来てくれたの? 僕、どうすれば……」


 シエルが縋るように駆け寄る。


 入り口に立ったアルベルトは、シエルの頭をポンポンと無言で撫でた。その手は大きく、温かい。


「焦るな、相手は同じ磁力魔法の使い手じゃ。良い勉強になったじゃろ?」


「……アルベルトさん。引き受けてくれたんですね?」


 ガッドが、氷嚢を置いて立ち上がる。その声には、重責を担ってきた者だけが持つ疲労と、ようやくそれを手放せる安堵が混じっていた。


「俺達なりに、必死に喰らいつきましたが……磁力魔法とラフプレーが厄介で、攻め手がありません」


「うむ。0-1か。上出来じゃよ、ガッド」


 アルベルトは深く頷き、ガッドの肩に手を置いた。


「お前が支えてくれなければ、ここまで勝ち抜いてこれなかったはずじゃ。


……さぞ、重い責任だったじゃろう。よくぞ、このチームを守り抜いてくれた」


「……へっ。よしてください」


 ガッドは照れ隠しに鼻を鳴らし、キャプテンマークを巻き直した。その表情は、憑き物が落ちたように晴れやかだった。


「これでやっと……俺も一人のキーパーに戻って、暴れられますよ。……後は頼みます、新監督」


 ガッドが頭を下げる姿に、チームメイトたちがどよめく。あのプライドの塊のようなガッドが、これほど信頼を寄せるとは。


「承知した。……これより、わしが正式にこのチームの指揮を執る」


「監督!? アルベルトが!?」


 シエルが目を輝かせる。


「わしは20年前に誓ったんじゃ。二度と指揮は執らんと。……じゃが、お前達のような素晴らしい若者達がこの国を背負い必死で戦ってくれておる。黙っておれん」


 アルベルトは眼鏡の奥で、策士の光を宿した。


「戦力が足りないのは承知の上じゃ。じゃから……陛下と共に、最高のピースを揃えてきた」


 アルベルトが杖をずらすと、背後から二人の男が現れた。手錠の痕が残るフォルズと、胸に魔導具をつけたケープだ。


 シエルが、あっと声を上げる。


「君は……!」


 そこにいたのは、昨日、丘の上で絵を描いていたあの儚げな少年だった。ケープは、シエルに気づくと、薄く、しかし力強い笑みを浮かべた。


「やあ、シエル君。……昨日、僕を誘ってくれたよね? あれってまだ有効かな?」


「えっ、もちろんだよっ!」


「僕のプレーできる時間は短いけれど……君たちが走るその景色の中に、僕も筆を加えさせてもらうよ」


 シエルの顔がぱあっと明るくなる。


「うんっ! やろう! 一緒に!」


 ガッドがニヤリと笑い、もう一人の男、フォルズへ視線を送る。


「……へっ。待ってたぜ、フォルズ。シャバの空気はうまいか?」


「へっへっへ……。看守の作った飯よりはな」


 ガッドは深く息を吐き、チーム全員に向き直った。


「……全員、聞けッ! ここからは俺の指示じゃねえ。このアルベルト監督が黒と言えば白も黒だ! 俺たちはただの『駒』になって、死ぬ気で勝利をもぎ取るぞッ!」


「「「おうッ!!」」」


 アルベルトは満足げに頷き、ホワイトボードに杖を走らせた。


「よし、皆に作戦を伝える。……後半は、少し『イタズラ』を仕掛けよう」

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