表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蹴球ファンタジア~ボールは、唯一の家族。万年最下位の国だって、僕の必殺シュート「マグネ・ドライブ」が救ってみせる  作者: cross-kei


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/13

第02話:vs 疾風のエルフ ~理屈(ロジック)を砕く、二度目の閃光~

 フェイルロード王国、王都スタジアム。


 そこは、熱狂よりも重苦しい諦念に支配されていた。


 ノーマルリーグ10年連続最下位。


 この国の国民にとって、『蹴球ファンタジア』は希望の象徴ではない。毎年の「増税」を告げる絶望のサイレンだ。それでも客席が満員なのは、どこかに「もしかしたら」という、捨てきれない祈りがあるからだろう。


「……ついてねえな。初戦から相手は『エルフの森連合国』かよ」


「あーあ。こりゃ今年もダメだ。あいつらのパス、速すぎて目で追えねえんだよ」


 観客が指差したのは、ぶかぶかのユニフォームを着た小柄な少年――シエルだった。


 新人をスタメン? 捨て試合か? そんな嘲笑とため息が混ざり合う。


 だが、ピッチ上の二人は違った。


「シエル。足は震えていないか?」


「うんっ! 絶好調だよ。ガッドさんが休めるように、僕が頑張るね」


「……ふっ。デビュー戦の新人が調子に乗るなよ」


 ガッドが不敵に笑い、シエルの背中をバシッと叩く。


「――楽しんでこい」


 その直後、試合開始のホイッスルが鳴り響いた。


 ***


 ヒュオオオオオオオッ!!


 開戦と同時、フィールドに緑色の暴風が吹き荒れた。


 エルフたちが一斉に『身体強化』と風魔法を発動させたのだ。


「遅い遅い! 止まって見えるぞ人間!」


 風魔法――『エアフィールド・パス』。


 ボールが空気のレールを滑るように走り、DF陣の間をすり抜けていく。速い。目で追うのがやっとだ。


 エルフの戦術は徹底していた。左右に大きくボールを動かし、ガッドの視線と巨体を揺さぶることで、彼の魔力スタミナを削りに来ているのだ。


「キャプテン、エルフィン! フリーです!」


 目にも止まらぬパスワークの終着点。ペナルティエリア手前でボールを受けたのは、エルフのエース、エルフィンだった。


「よし……まずは挨拶代わりだ。ガッド、貴様の鋼鉄を削り取ってやる!」


 エルフィンの足元に、竜巻のごとき風が渦巻く。


 必殺、風属性シュート『エアロゾーンシュート』。


 その予備動作に入った、その瞬間だった。


「――やらせるかぁぁぁッ!!」


 バチチチチッ!!


 横合いから飛び込んだシエルが、紫色の火花を散らしてエルフィンの懐へ滑り込んだ。


 磁力魔法――『マグネ・タックル』!


「なにぃッ!?」


「ボールは貰ったよ! ……もう君たちには渡さないっ!」


 シエルはエルフィンの足元からボールを奪うと、そのまま流れるように反転した。


 その動きに迷いはない。ただ一直線に、敵ゴールだけを見据えている。


「生意気なチビめ……! 全員で囲め! 『エアロゾーンプレス』だ!」


 エルフィンの号令と共に、三人のエルフが疾風となってシエルに殺到する。前後左右、逃げ場のない包囲網。


 だが、シエルは笑っていた。


「見えてるよ」


 シエルの体から磁場が発生する。ボールがまるで体の一部であるかのように吸い付き、ありえない角度で敵の足を回避していく。


 磁力魔法――『マグネ・ドリブル』。


「な、なんだあいつは!? ボールが離れない!?」


 風よりも速く、磁石の同極のように敵を弾き飛ばしながら、シエルは一瞬で敵陣深くまで切り込んだ。目の前に立ちはだかるのは、敵GKマリガンのみ。


「いくぞ……最大充填フルチャージッ!!」


 シエルはボールを垂直に蹴り上げた。自分自身へのトス。


 高々と舞い上がったボールを追いかけ、シエル自身もまた、重力を振り切るように跳躍する。


 シエルが、空を舞う。


 右足に、全ての磁力魔力を収束させていく。


 バチバチ、バチチチッ!


 空気が焦げる音と共に、青白い雷光がシエルの足を包み込む。


「貫けぇぇぇぇッ!! 『マグネ・ドライブ』ッ!!!」


 ――そして、世界から音が消えた。


 ドォォォォォォォンッ!!


「エ……『エアロシールド』ッ!」


 GKマリガンが慌てて風の障壁を展開する。だが、そんなものは薄紙一枚に等しかった。


 光の奔流となったボールは、風の激流をたやすく貫通し、GKごとゴールネットを突き破り、背後の石壁に激突した。


 ズガンッ!! とスタジアムが揺れる。


 『ゴ、ゴォォォォォォルッ!! フェイルロード王国、先制ェェェェッ!!』


 10年ぶりの快挙にスタジアムが揺れる。だが、エルフのベンチは冷徹だった。


 気絶したマリガンに代わり、新たな守護神がピッチへ送り込まれる。


 背後に半透明の精霊を従えた男――『精霊使い』カゼル。


「調子に乗るなよ、人間。……ここからは、風すら吹かせん」


 ***


 試合再開。


 カゼルの投入により、フィールドの空気は一変した。


 彼の的確な指示によりパスワークが加速し、フェイルロードは防戦一方となる。


「……くっ。急に動きが変わった!」


 ボールは再び、エースのエルフィンへ。彼は屈辱に顔を歪めながら、渾身の魔力を足に込めた。


「今度こそ決める! 『エアロカッターシュート』ッ!!」


 放たれたのは、カマイタチを纏った真空の刃だ。


 シエルが反射的に自陣へ戻ろうとする。


「危ない! 僕が――」


「戻るなシエルッ!!」


 ガッドの怒号が念話で頭に直接響いた。


 『前に居ろッ! ここは俺の城だ、俺が止める!!』


 脳裏をよぎるのは、去年の屈辱。自分が下がった後にゴールを割られ、崩れ落ちたチームメイトの姿。


 (二度も同じ悪夢を見せてたまるか……ッ!)


「エルフィンっ、なめるなよッ!!」


 ガッドの右腕が瞬時に黒鉄色に染まり、巨大化する。


 硬質化魔法――『鉄腕アイアン・ハンド』。


 ガギィィィィィンッ!!


 高速回転する風の刃を、鋼鉄の掌が真正面から受け止める。


 火花が散り、ガッドの足が地面を削る。だが――彼は一歩も引かなかった。


「……ぐ、ぅおおおおッ!!」


 バシィッ!!


 風を握りつぶし、ボールの回転を完全に止める。ガッドの勝利だ。


「シエル、行けッ!!」


 ガッドが前線へボールを放り投げる。


「ガッドさんから託されたボールだ……!」


 シエルは胸でボールを受ける。だが、目の前には既にGKカゼルが立ちはだかっていた。チャージ時間が足りない。『マグネ・ドライブ』は撃てない。ならば!


「いけぇぇッ! 『リニア・シュート』ッ!!」


 予備動作なしのトゥーキック。初速最速の一撃がカゼルの足元を襲う。


 しかし。


「浅い」


 カゼルは表情一つ変えなかった。


「風の精霊魔法――『エアロダブル』」


 彼自身の両手と、背後の精霊の腕。計四本の腕から放たれた突風が、シエルのシュートを真正面から押し包んだ。ふわり、とボールの勢いが殺され、カゼルの手の中に収まる。


「『リニア・シュート』が、止められた……!?」


「この程度か。……エルフィン、時間を稼げ。敵の魔力切れ(ガス欠)を待つぞ」


 カゼルの冷徹な判断。


 後半残り10分。エルフたちは攻めるふりをしてパスを回し、時間を浪費していく。


 卑怯ではない。これも勝つための『計算』だ。


 シエルの耳元に、念話の声が届く。


 『シエル……はぁ、はぁ。このまま守り切れば1-0で俺たちの勝ちだ。無理に攻める必要はない』


 ガッドの声は弾んでいた。魔力は残りわずかだが、勝てる確信がある。


 だが、シエルは首を横に振った。


「……ガッドさん。あと1回だけ、攻めさせて。僕、あのキーパーに勝ちたいんだ」


 通信の向こうで、ガッドが息を呑む気配がした。


 セオリーなら時間稼ぎ。だが、少年は「勝ちたい」と言った。試合にではなく、勝負に。


 『……ふっ、とんだエゴイストだ。……好きにしろ。後ろは俺が死んでも守ってやる』


「うん! ありがとう!」


 シエルが走る。残った全ての魔力を振り絞り、ボールホルダーへ突っ込む。


「なっ、まだ動けるのか!?」


 油断していたエルフからボールを強奪。


 カゼルが叫ぶ。


「来るぞッ! ボールに魔力がチャージされている! 最大級のが来るぞッ!」


 シエルの身体から、青白い光が溢れ出す。


 スタジアム中の視線が、小さな背番号10に釘付けになる。


「いくぞ……最大充填フルチャージッ!!」


 再び、ボールが高く舞い上がった。


 シエルが跳ぶ。一番高い場所へ。誰の手も届かないシエルへ。


 右足に全ての磁力魔力を収束させていく。


 バチバチ、バチチチッ!


 その光は、一度目よりも強く、激しく輝いていた。


「貫けぇぇぇぇッ!! 『マグネ・ドライブ』ッ!!!」


「なめるなぁッ! 計算上、防ぎきれるはずだッ!」


 カゼルもまた、全魔力を解放した。


「風の精霊魔法、『エアロダブル・フルパワー』ッ!!」


 背後の風の精霊が巨大化し、カゼルと共に四重の障壁を展開する。絶対に抜けない風の壁。


 だが。


「いっけええええええええええッ!!」


 ドォォォォォォォンッ!!


 光の奔流が、風の壁に激突する。


 拮抗したのは、ほんの一瞬だった。


「バカな!? 風の強度は足りているはずだ! なぜ止まらない!?」


「これが……理屈を超える力だというのかァァァッ!?」


 磁力で加速し続ける砲弾は、物理法則をねじ曲げ、風の精霊ごとカゼルを吹き飛ばした。


 カゼルの身体が宙を舞い、ボールがゴールネットを揺らす。


 2-0。


 ピピーッ!!


 その瞬間、試合終了の笛が鳴り響いた。


 フェイルロード王国、10年ぶりの勝利。


 スタジアムが揺れるような歓声に包まれる中、シエルは芝生の上に大の字になって転がった。


「やった……勝ったよ、ガッドさん!」


「ああ……ああ! 俺たちの勝ちだ!」


 駆け寄ってきた『鉄腕』の男が、小さな英雄を力任せに抱きしめる。


「あはは、苦しいよガッドさん……」


 シエルは笑った。だが――視界の隅が、チカチカと白く明滅しているのが見えた。


 (あれ……? なんか、指先の震えが止まらないや。……それに、心臓の音が、いつもより少しだけ速い気がする)


 身体の奥底から這い上がるような違和感。


 シエルはそれを心地よい疲れだと解釈し、深く考えずにガッドの腕に身を預けた。


 万年最下位からの反撃が、今ここから始まったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ