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蹴球ファンタジア~ボールは、唯一の家族。万年最下位の国だって、僕の必殺シュート「マグネ・ドライブ」が救ってみせる  作者: cross-kei


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第12話:vs 勇者王国(前編) ~神を騙る絶対王者、絶望の0-0~

 決戦前夜。宿舎のミーティングルームには、深海のような重圧が満ちていた。


 ホワイトボードの前に立つアルベルトの横には、フェイルロード国王ビクトリアス・フェイルロードが、軍議に臨むような険しい表情で座している。


「明日の相手は、10年連続優勝の『勇者王国』。……そして、この男じゃ」


 アルベルトが杖で叩いたのは、勇者王ガイガの黄金の肖像画だった。


「ポジションはGK。彼が守護の座に就いてからの十余年。公式戦において、彼からゴールを奪ったものはいない」


 沈黙。誰かが飲み込んだ唾の音が、やけに大きく響いた。


「そのため試合結果は、常に1対0。……攻略の鍵は二つ。鉄壁の彼から1点を奪うこと。そして――」


 アルベルトの声が一段低くなる。


「後半の残り三十分。味方全員の魔力を強制徴収し、彼自らが放つ『神罰』を凌ぎきることじゃ」


「GKが点を取る……? 自陣からですか?」


 ストーンの疑問に、アルベルトは冷徹に頷いた。


「それが『勇者王』の理不尽さよ。攻防一体の怪物を前に、我らは試される。魔力の強制徴収がある以上、ガイガの魔力切れは狙えん。まずは前半を耐えるのじゃ。チャンスは後半にある。そこでこちらの切り札を投入する」


「……監督」


 その時、シエルが挙手をした。その瞳には、すでに覚悟の光が宿っていた。


「もし……前半で僕の全力マグネ・ドライブが止められたら、個の力では勝てないという証明です。その時は……その後半のチャンスに、父のノートにあった『究極のシュート』を試させてください」


 ざわっ、と空気が揺れる。


「あれは理論上の産物じゃ。成功率は限りなく低い。……それをいきなり実戦で試すなど、作戦というよりは、賭けごとの世界の話じゃぞ」


 アルベルトはチラリと国王ビクトリアスを見た。国王は静かに頷く。


「じゃが、その案も検討しておこう。……そのカードを切らずに済むのが一番じゃがな」


 アルベルトの言葉に、イレブンは無言で頷いた。


 ***


 翌日。スタジアムは、爆発寸前の熱気に包まれていた。観客席は超満員。世界中がこの「最弱 vs 最強」の戦いに注目している。


『さあ、運命の決勝戦だぁぁぁッ!! 10年連続最下位から這い上がってきた奇跡のチーム、フェイルロード王国! 対するは、絶対王者・勇者王国! 歴史が変わる瞬間を、我々は目撃することになるでしょうッ!!』


 アナウンサーの絶叫と共に、両チームが入場する。


 開かれた魔導ゲートより、勇者王国のイレブンがやって来た。白と金を基調とした軍服のようなユニフォームに身を包んで颯爽と行進する。その中には、長い銀髪をなびかせる聖女セイランの姿もある。


「あれが……勇者王ガイガ」


 シエルは、敵ゴール前に仁王立ちする男を見つめた。その体から放たれるオーラは、これまで戦ってきたどの相手とも違った。大きいのではない。「高い」のだ。まるで天空から見下ろされているような錯覚。


 ピーッ!! ついに、運命の決勝戦の試合開始の笛が鳴る。


 フェイルロードのキックオフ。シエルがボールを蹴り出し、決勝戦の火蓋が切って落とされた。


「行くぞッ! 先手必勝だ!」


 スプリングが叫び、風を纏って疾走する。


「おうよ! 挨拶代わりだ!」


 ライブが並走し、フォルズが影から飛び出す。フェイルロードが誇る連携攻撃。三人の魔力が螺旋を描きながら一点に集中していく。


「喰らえッ! 3属性『アイアン・トライ・ボレー』ッ!!」


 ドォォォォンッ!!


 初弾から最大出力。獣王ブッチすら一歩下がらせた必殺のシュートが、一直線に勇者王のゴールへ迫る。


 だが。


「……遅いですね」


 ガイガは一歩も動かなかった。ただ、右手のひらをボールに向けただけだ。


「『聖盾:ホーリー・シールド』」


 パァンッ! 乾いた音が響き、3属性の魔法が霧散した。まるでハエを叩き落とすかのように、無慈悲に、簡単に。


「なっ……!?」


 絶句するフォルズたちの足元へ、勢いを殺されたボールが転がる。


 ガイガはボールを拾おうともせず、腕を組んだままシエルを見据えた。


「10番、確かシール君だったかな? 君のシュートを見せてみろ。……私がパスを出してやろう」


「えっ?」


 ドォンッ!! ガイガがボールを蹴り出した。それはシュートではなく、シエルの足元への正確無比なロングパスだった。


「……ここまで勝ち上がった諸君らへの褒美だ。君の最強の必殺シュートを、真正面から止めて見せよう」


 (シール……?)


 名前すら正しく呼ばれない。それほどまでに眼中にないということか。余裕の宣言。それは慈悲か、あるいは絶対強者の傲慢か。


「……このチャンス無駄にしないッ!」


 シエルがボールに磁力を込めて蹴り上げる。昨夜の取り決め通り、まずは自分の力でこじ開ける。


「いくぞ……最大充填フルチャージッ!!」


 空へ舞うシエル。


 バチバチバチッ! 青白い磁力の雷光がスタジアムを染める。


「貫けぇぇぇぇッ!! マグネ・ドライブ!!!」


 ドォォォォォォォンッ!!


 放たれた光の砲弾。これまでの試合で数々の壁を粉砕してきた最強の一撃が、勇者王へ襲いかかる。


 だが、ガイガは口元に薄い笑みを浮かべたままだった。


「……なるほど。『聖剣:ホーリー・グロリアソード』ッ!!」


 彼が手刀を下から振り上げる。ただそれだけの動作で、巨大な光の剣が出現し、シエルの『マグネ・ドライブ』を上空に舞い上げた。


 ズパァンッ!!


 ボールは勢いを殺され、力なくガイガの手元へ落下した。


「……歴代2番目の威力と評価しよう」


 ガイガは冷ややかに言い放ち、ボールを踏みつけた。シエルが着地し、愕然と見上げる。最強のシュートが、通用しない。


「さあ、ここからはこちらの番だ。蹂躙の時間だ」


 ガイガが指を鳴らす。それを合図に、勇者王国の猛攻が始まった。


 圧倒的な個の力。絶望的なまでの実力差。フェイルロードの悲願は、やはり夢物語で終わるのか――。


 ***


 前半終了の笛が鳴り響いた瞬間、フェイルロード王国の選手たちは、まるで糸が切れた操り人形のようにその場へ座り込んだ。


 0-0。


 スコアレスドロー。それは奇跡と言ってよかった。勇者王国の猛攻は、文字通り「嵐」だった。個々の身体能力、魔法の精度、連携の速度。全てにおいて次元が違う。


 だが、ゴールだけは割らせなかった。GKのガッドが、神懸かり的なセーブを連発したからだ。視界の隅で捉えた魔力の残滓だけを頼りに、まるで腕が増えたかのような反応速度で、魔力消費量を抑えつつゴールを死守していた。


 しかし、その代償は大きい。控え室に戻った選手たちの顔には、疲労の色が濃く滲んでいた。


「……化け物だ、ありゃあ」


 フォルズが荒い息を吐きながら、ベンチに倒れ込む。


「スリ取る隙もねえ。ボールを持った瞬間に、もう次の場所へ消えてやがる」


「弱音を吐くな。まだ点は取られていない」


 ガッドが氷嚢で腕を冷やしながら、チームを鼓舞する。だが、その腕は痙攣し、限界が近いことは誰の目にも明らかだった。


 重苦しい空気の中、シエルが顔を上げた。


「僕の『マグネ・ドライブ』は完全に止められました。……個の力では、絶対に勝てません」


 悔しさを噛み殺し、シエルはアルベルトを見た。


「監督。……昨夜の作戦を」


「うむ」


 アルベルトが重々しく頷き、ホワイトボードの前に立つ。


「後半の残り三十分。ガイガの『神罰』を全員で逸らす。そして、その直後の隙を突いて……例の『究極のシュート』を放つ」


 全員がごくりと唾を飲み込む。


「じゃが、成功させるには、高負荷の魔力パスに耐えうる中継役ハブが必要じゃ。疲労困憊のお前たちの中には、もう適任者がおらん」


「その役目は、私が担おう」


 部屋の隅から、低い声が響いた。黒いローブに身を包み、白い仮面をつけた男だ。


「……あなたは?」


 シエルが首を傾げる。


「アンフェイルとでも呼んでくれ。後半、疲労しているDFのストーン君と代わって私が出る」


「おい、ビクタ……いや、アンフェイル。本気か?」


 ガッドが詰め寄る。


「お前、素人だろ? こんな殺し合いみたいなフィールドに立って、死にたいのか?」


「ふっ。国の一大事なんだ。ただ指をくわえて見ている愚者でいるのはごめんだな」


 仮面の奥の瞳が、鋭くガッドを見据えた。


「アルベルト監督、まさかこいつが例の切り札なんですか……?」


「ふぉっふぉ。監督就任の要請を受けた時から、アンフェイルとは師弟関係のようなものでな。……彼がこちらの切り札じゃ」


 アルベルトは不敵に笑い、選手たちの背中を叩いた。


「さあ行け! ここからが本当の『蹴球ファンタジア』じゃ!」

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