第10話:vs 獣王国(後編) ~二重螺旋の閃光、そして……~
後半開始早々。リオン王子が、センターサークル付近で不気味な構えを見せた。
「消滅しろっ! 雑魚ども! これが俺の最強シュートだぁぁぁっ!」
リオンの背後に、巨大な鷲と獅子が融合した幻獣のオーラが立ち昇る。隠された対勇者用必殺技、空陸一体の魔弾。
「『イーグル・レオ』ッッッッッ!!!」
ヒュオォォォォォッ!!
放たれたシュートは、一度空高く舞い上がり、そこから鷲のように急降下してゴールを襲う。予測不能の軌道。
「ガッドさん、上だ!」
「分かっているッ! ……俺の全魔力を、ここに賭けるッ!!」
ガッドは防御を捨て、前に飛び出した。右腕が赤熱するほど魔力を充填し、鋼鉄を超えた「紅蓮の鉄」へと変わる。
「ぐうぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
バチィィィィンッ!!
空中でガッドの拳と魔弾が激突する。衝撃波がスタジアムを揺らし、ガッドの体が独楽のように吹き飛ばされた。
「ガッドさん!!」
ボールは弾かれ、枠外へ。だが、ガッドは地面に倒れたまま動かない。右腕からは煙が上がり、義手は砕け散り、完全に限界を迎えていた。
「……へへっ。最強シュート止めた、ぞ……。あとは、頼んだ……」
その光景に、リオン王子が目を見開き、わなないた。
「嘘だろ……!? 『イーグル・レオ』は魔力消費がデカすぎて1試合に1発しか撃てない、俺の最大奥義だぞ!? それを……勇者でもないただの人間が……止めた、だと!?」
ガッドが担架で運ばれる。代わってゴールマウスに入ったのは、控えGKのフォレストだ。
「ぼ、僕が……やらなきゃ……!」
震えるフォレストを見て、リオンはすぐに気を取り直し、残忍な笑みを浮かべた。
「フン……だが、最大の邪魔者『鉄腕』は消えた。代わりに出てきたのは、震える小鹿か? なら、奥義が使えなくても問題ないな!」
試合再開。
リオン王子が、手加減なしの全力で『ライガーショット』を放つ。
「雑魚がぁぁぁっ! 消し飛べェッ!! 『ライガーショット』ッ!!」
ドォンッ!!
獣の顎と化したボールが、フォレストへ襲いかかる。2年前にガッドがたった1発で魔力をゼロにされた悪夢のシュートが弾丸となり迫る。だが、その射線上に巨体が割り込んだ。
「させるかァッ!!」
DFストーンだ。彼は逃げるどころか、自らボールへ正面衝突しに行った。
「なっ、貴様、死ぬ気か!?」
「ガッドさんが守ったゴールなんだ、俺が死んでも割らせん! うぉぉぉッ!
身体強化『ストーン・ウォール(石の城壁)』!」
ストーンの全身の筋肉が岩のように硬化する。
ズガァァァンッ!!
ボールがストーンの腹部にめり込む。肋骨が軋む音が響くが、彼は退かない。だが、リオンの威力は身体強化したDFすら貫通しようとしていた。
「ぐ、がぁぁぁッ……!! 重、てぇぇ……!」
「ストーンさんッ!!」
ストーンの体が、ボールごとゴールへ押し込まれていく。そこへ、フォレストが飛び込んだ。
「僕だって……フェイルロードの代表だッ! 身体強化ッ!」
フォレストが全魔力を身体能力へ変換し、後ろに下がるストーンの背中を支えるように抱きとめる。
「うぉぉぉぉぉッ!! 止まれぇぇぇぇッ!!」
ガガガガガッ!
スパイクが芝を削り、ゴールラインぎりぎりで二人の体が止まった。ボールは、ストーンの腹とフォレストの胸の間で、完全に勢いを失っていた。
「……と、止めた……!」
ストーンが膝から崩れ落ちる。フォレストも肩で息をしている。まさに、全員で繋いだ命のリレー。
耐え凌ぐフェイルロード。だが、防戦一方では勝てない。そして、後半残り10分。
「シエル君、お待たせ」
サイドラインに、ケープが立つ。胸のペンダントが静かにしかし強く輝いている。
「ケープ君!」
フィールドに入ったケープは、冷静に戦況を見渡した。
「シエル君。ガッドさんやストーンさんたちが作った時間、無駄にはできないね」
「うん! でも、獣王の守りが固すぎて……」
「策はあるよ。あれをやろう……ボールに磁力をチャージする手間を省くんだ」
ケープの提案は、傭兵王国との試合で見せた『マグネ・ドライブ』をゼロモーションで放つシュートの再現だった。ケープがボールに極限まで磁力をチャージして、全属性パスをシエルに託す。チャージなしのシュート。『マグネ・ドライブ・ゼロ』
「いくよ! 『虹色の放物線』!」
「合わせたッ! 『マグネ・ドライブ・ゼロ』ッ! いけぇぇぇっ!!」
シエルの必殺シュートが放たれる。だが、リオン王子がニヤリと笑った。
「傭兵野郎達と同じレベルだと思うなっ! 『ライガーショット』で打ち返すっ!」
リオンが真正面から右足を振り抜く。獣のオーラと虹色の光が激突した瞬間、悲鳴を上げたのはリオンの方だった。
「ぐ、ぅ……重い……だがッ! 『ライガー・カウンター』ッ!!」
ドォンッ!!
リオンの巨体が弾き飛ばされ、ピッチに転がる。だが、その捨て身の相殺によって、ボールの勢いは大きく削がれていた。
ヒュルルル……と失速したシュートは、ブッチ王の掌に軽々と収まった。
「わっはっは! 蚊が止まったかと思ったわ!」
「う、嘘だ……!」
シエルは目を見開き、凍りついたように立ち尽くした。
「『マグネ・ドライブ・ゼロ』が……完全に止められた……?」
これまで数々の強敵を打ち破ってきた最強の必殺技。それが、獣王国の圧倒的なフィジカルの前に無力化されたのだ。
必殺技が破られた。残り時間は1分。万事休すかと思われた、その時。
『……まだだ、試合は終わっていない。諦めたらだめだ、シエル君』
脳内に、ケープの透き通るような声が響いた。
『傭兵王国の双子を覚えているかい?』
『えっ?』
『彼らは二人で魔力を合わせ、巨大な雷を生み出した。……僕たちにも、できる』
シエルがケープを見る。ケープの顔色は蒼白で、胸の魔導具は警報音のような赤色点滅を繰り返している。
『いきなり実戦だけど、君とならできると僕は信じている。……僕の全属性と、君の磁力。二つの魔力を螺旋に編み上げるんだ……君は僕を信じてくれるかい?』
「……うん。信じるっ! 君とならできるっ!」
シエルとケープが並走する。二人の魔力が共鳴し、ボールを中心に巨大な虹色の竜巻が発生した。
「なんだあの光は!?」
倒れていたリオンが驚愕し、目を見開く。
「いくよ、シエル君!」
「うん、ケープ君!」
「「『マグネ・ツイン・ドライブ』ッ!!!」」
二人同時に蹴り出されたボールは、二重螺旋の光となってフィールドを切り裂いた。リオンが反応する暇もない。
獣王ブッチが反応し、腕を構える。
(ぬんッ! これぐらい、ワシの『ベア・クロー』で……ッ!?)
だがその瞬間、ブッチの腕が一瞬重く強張った。
――前半からの執拗な波状攻撃。
――休みなく使わされたスキルの代償。
――アイアン・エンドが刻んだ疲労が、最後の最後で王の反応を鈍らせた。
(しまっ……魔力が……ッ!?)
光の奔流は、防御が遅れた王の腕ごとゴールネットを粉砕した。
ズガァァァァァンッ!!
1-0。直後、試合終了の長い笛が鳴り響いた。
ピーッ! ピピピッーーーッ!!
『試合終了ォォォォォッ!! 決まったぁぁぁッ! ジャイアントキリングだぁぁぁッ!! 2年前の交流試合のリベンジも達成だぁぁぁぁぁっ!』
実況アナウンサーの絶叫が、スピーカーを震わせる。
『なんと、なんとぉッ! 万年最下位のフェイルロード王国が、あの獣王国を破りましたァッ! 歴史的快挙! ついに、ついに彼らが決勝の舞台へ駒を進めます!!』
「やったぁぁぁ! 見た!? 今の僕たちのシュート!!」
スタジアムが割れんばかりの歓声と拍手に包まれる中、シエルは興奮のあまり、後ろを見ずに叫んだ。
「僕たち、最強だよ! これなら決勝も……ねえ、ケープ君?」
最高の笑顔で振り返る。ハイタッチを交わすために手を伸ばして。
だが、その手は空を切った。
「……ケープ、君?」
ケープは答えない。
熱狂するスタジアムの中で、彼だけが時が止まったかのように、ピッチの上に倒れ伏したままピクリとも動かなかった。その胸の魔導具は、光を失っていた。




