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パンをかじって曲がり角  作者: 双鶴


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4/7

メロンパン

「恋するメロンパンって、どんな味だと思う?」

放課後の部室で、こむぎはしおりに問いかけた。

「そりゃあ…甘くて、ちょっと切ない味?」

「じゃあ、ビスケット生地にレモンの皮を少しだけ混ぜてみようかな」

「それ、切なさの表現なの?」

「うん。甘いだけじゃ、恋じゃないから」


文化祭が近づいていた。

パン焼き同好会は、出店を許された。

テーマは「恋するパン」。

こむぎは、メロンパンに恋の味を込めようとしていた。


表面の格子模様は、恋の迷路。

中のふんわり生地は、心のやわらかさ。

焼き色は、照れた頬の色。

そして、ほんの少しのレモンの皮が、恋の切なさ。


メロンパンの焼き方には、タイミングが命。

パン生地の一次発酵が終わったら、すぐにビスケット生地をかぶせる。

「遅れると、ビス生地が割れちゃう。恋も、タイミングが大事」

格子模様は、包丁の背で優しく刻む。

「強く押すと、傷になる。恋も、やさしく触れないと」

焼成は180℃で12分。焦げ目がつきすぎないよう、途中で向きを変える。

「焼き色は、期待の色。焦らず、でも見逃さず」


妄想は止まらない。

こむぎは、文化祭の屋台でメロンパンを渡す自分を想像する。

「これ、私の気持ちです」

男子は驚き、そして微笑む。

「君の気持ち、甘くて、ちょっと切ないね」

こむぎは赤くなり、パン袋を握りしめる。


現実。

試作1号は、焼きすぎて表面が焦げた。

「うわ、恋が焦げた…」

しおりが笑う。

「恋もパンも、焦らないことが大事ってことだね」

「それ、前にも言ってた気がする」

「うん。気に入ってるから何度でも言う」


試作2号は、ちょうどいい焼き色。

格子模様もきれいに出た。

こむぎは、焼きたてを手に取り、そっとかじる。

甘い。やわらかい。

そして、ほんの少しだけ、切ない。


「これなら、恋の味になるかも」

こむぎはつぶやく。

しおりが頷く。

「文化祭、楽しみだね。誰かに届くといいね」

「うん。パンが恋人だけど…誰かが食べてくれたら、それだけで嬉しい」


夕焼けが、部室の窓を染めていた。

メロンパンの甘い香りが、ふたりの間に静かに漂っていた。


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