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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
迫る闇な季節☆
98/210

失いたくない

「いや、あの……」


口の中がからからに乾いて混乱した。

バリ三人間アリルだな、この人は。


「どうして……ここに?」


もにゃもにゃと寝起きであろうともアリルさんは確かに俺を感知していた。

普通の人ならばれないだろ……ってレベルなのに。

なんてお方だこの人は。

抵抗しても俺とばれてるみたいだし……。


「OK、分かったよ」


両手を挙げて降参の意を示した。


「いい判断です」


するりとアリルの手から服の裾が離れる。

負けた……。


「それっ……て……」


アリルは俺の腰辺りを指差していた。


「ん?」


俺が振り返ったときにちらと銃が見えたのだろう。

アリルはすっかり怯えきっていた。

この銃は邪念の元だからな。

もう少しで俺は彼女を撃つところだったわけだし。


「こ、これはだな、そのだな。

 護身用であってだな」


「…………何です?」


うまく言い訳をさせてくれないのもこのお方の特徴だった。

なんというか、目が違うのだ。

フィルターで嘘をこそぎ落とし、真実を手に入れることがとても上手であって……。

何より、嘘とつくととても悲しそうな目をするのだ。

あざらしとでも言えばいいのか?

一生懸命に作った弁当が捨てられていた、そんなレベルの悲しい目。

しかも無言でそれをする。

……勝てないだろ?

違うか、男性諸君。


「どうして、ここに? 

 私を殺しに……来たんですか?」


裾を引っ張りながらも目を逸らす。

アリルの目からは明らかな強い軽蔑の色が現れていたからだ。

まともな神経していたらこんなの真正面から見れない。

そりゃサプレッサーをつけた銃を持って、自分の部屋に人がいたらそう思うわな。

その思考回路は正しいといえた。

今は憎むけどな。


「違う、違うんだよ」


首を振って否定するも駄目だこら。

全然聞く気がないんだもんなぁ。


「…………」


ちなみにひそひそ声だぞ、この間も。

でないとばれちまうけんな。


「何が違うって言うんです?

 さっきだって私に銃を向けていたじゃないですか?」


頭を鈍器で殴られたような衝撃がした。

がーんじゃないくごいーんって感じではあったが。

鈍器というか魔法瓶?


「おま……え?

 起きてたの?」


じゃああのせくすぃぽーずは必然?

いや、自発的?

自発の助動詞はる、らる、でよかったかな。

古典の話ですよ。

ってバカなことで鼻の下を伸ばしてないで……。


「当然です。

 私は眠りが浅いのでドアが少しなるぐらいで目を覚まします」


うぐっ……。

言葉につまるじゃないか。


「……そうか」


見られてしまったのか……。

脱力した俺はため息をついて、床に座り込んだ。

そのまま腰から外した銃をアリルに渡した。


「えっ、これ……」


驚くアリルに俺は優しく話しかける。


「――持っていてくれないか?

 俺は……そいつがあると駄目なんだよ」


驚くアリルに俺は少し微笑んだ。

駄目なんだよ。

邪念というか、自分の憎しみを見てしまったから。


「何が……あったんですか?」


話したら嫌われるよな……。


「……月が、明るいな」


「はぐらかさないでください」


この人やっぱり鋭すぎて涙出るわ。

ここまで自分の意図がばればれだとやるせない気持ちになる。


「…………」


黙りこくって受信機を一瞬だけ見た。

白は変わらず同じ場所で点滅している。

俺から銃を受け取ったアリルはベットから降りた。

そのまま机に向かって歩き何かごそごそしはじめた。

薄暗かったが部屋内に豆電球以上の明かりが灯った。

ことりと机の上に重たいもの――銃を置く音も聞える。


「波音君……どうしたんですか?」


その一連の作業の後、アリルは俺の顔を覗きこんできた。

話すしか……ないよな。


「――言ってもいいのか?

 お主は俺を絶対に軽蔑することになるぞ?」


ゆっくりと後悔するかもしれないという事だけは伝えておく。

ちなみにお主ってのはお前って意味だ。

お前って人から言われたらなんかイラッって来ないか?

それを防ぐために俺が勝手にお前の代わりに使っている言葉だ。

前もメールで使ってた。


「……言ってください」


アリルの決意を感じた。


「聞いても俺を嫌いにならないで……ほしい」


もう一度、確かめる。

いいんだな?


「なりませんよ。

 何言ってるんですか?」


安心した。

普通に俺は話した。

前回電話で言ったこととかは省いたがシンファクシの任務。

鬼灯のおっさんのビルのこと……なんか全部。

簡単に簡潔に。

頭痛が痛いだなこれ。


「……ってわけ。

 俺はへたれだから殺せるわけがないんだ。

 これからも殺すことなんて出来るわけがない」


話し終わった。

これだけで十分は話していた。

喉が痛い。


「私の父がそんなことを……。

 波音君、ごめんなさい」


アリルは俺に頭を下げて謝ってきた。

でも正直アリルに謝られたところでどうしようもない。


「いや、もうどうしようもないことだしさ。

 謝られても、俺どうしたらいいのか……」


アリルは頭を上げて机の上の銃を手に取った。

しばらくそれを胸に抱き何かを考えるように目をつぶっていた。

俺は話しかけることが出来ずにそれを眺める。

やがてアリルは俺に銃を差し出した。


「何……?」


ろくな反応を出来ずに俺は聞き返した。


「これで私を撃ってください」


今度は魔法瓶以上のレベルで殴られた。

大型タンカーぐらい。


「はぁ!?」


「うるさいですよ」


俺の口を抑えたアリルはその銃口を眺めた。

俺は今、お主を絶対に殺さないって言ったばっかじゃないか?

信じられんと呟いた俺の言葉を否定するように


「私の父がした罪は……私の罪でもあります。

 私の彼氏の波音君の両親を奪ったのが私の父ならば……。

 私はこの身をもって謝罪したいです。

 ごめんなさい、と。

 私の父が帝国郡を売って、そのときに四万人が少なくとも死亡したそうです。

 直接ではないですが盗み聞きしてしまいました。

 ……私は生まれながらにして血に浸かった殺人者の娘。

 薄々は気がついていました。

 私の家は元ベルカ守護四族の一つ。

 それがどうして連合郡にいられるのか……。

 ――分かっていました。

 でも認めたくなかったんです」


アリルはそう言って固まる俺の手に銃を握らせた。

俺が来たことによってそのことが確信に変わってしまったのだ。


「…………っ!」


俺の手が懺悔の思いで震えている。

こうなることを自ら望んでいたわけじゃない。

だがこれはシンファクシの任務の……絶好の機会。

まだそう考えることが出来ることが自分でも不思議で仕方がなかった。


「さあ、撃ってください」


アリルは自ら銃口を胸に押し付けた。

確かな軟らかい肉の感触が銃の冷たい固い金属を通して手に伝わる。

俺は気がついた。

かすかに銃も震えていることが。

アリルは無理をしている……。

ここで俺が引き金を引くと即、死に至る恐怖に打ち勝てずに震えているのだ。

怖いのだ。


「――バカだな」


それは違う、と否定させてもらおう。

俺は撃たない。

俺の手から力が抜け銃を床に落とした。

ごとん、と床に銃が落ちる大きな音がしたが気にもならなかった。


「俺はこれ以上失いたくないって言ったべ?

 だからこんなもの今は必要ないんだ」


立ち上がってアリルの肩を掴んだ。


「これ以上なぜ俺が失わなけりゃならない?

 また小学生のときのような気持ちはまっぴらごめんだ。

 金平ゴボウと同じぐらいにな」


静かな沈黙が訪れた。


「でも……それじゃ波音君は満足しないんじゃないですか?」


ためらい、言葉につまりながらもアリルは俺を上目遣いで見てきた。

その姿勢は反則だろう。


「満足する、満足しないとかじゃないんだよなぁ。

 人間として失っちゃいけないものがあるんだ。

 それを失いたくないだけ。

 ましてやこんなバカな俺をここまで好いてくれる奴ならなおさら失いたくないね」


これは今の空気なら言えるっ、と思って言っただけで。

家に帰ったらぐぉぉおっていいながら部屋を転げまわるんだろうな。


「は、波音君……」


この空気っ!

絶好の俺の初キスチャンス!

初めの草食系の空気なんざしらねぇ!

俺は俺のままに生きるっ!

――落ち着くんだ。

素数を数えろ、一、四、八、よし。

落ち着いてるな。


「ありがとうございます、波音君――」


軍曹、行きます。

俺は男になります。

唇が、俺の唇がアリルの唇と重なるっ――!






わけはなかった。






次の瞬間に邪魔が入ることなんて全然考えてなかった。

あの銃のゴトンという音で多分気がつかれたのだろうと思う。

それか窓に穴が開いているのが見つけられたか。

いずれにせよバタバタと足音がして扉が大きく開いた。

それは事実だ。


「お嬢様、大丈夫ですか!?」


電気が薄明かりのかかっている部屋をかき消すように一気につけられると

三人ほどの兵士が瞬間的にアリルを掴み、扉から脱出させた。


「は、放してくださいっ!」


俺の手はあっというまにアリルから離れ、いい感じの空気はぶち壊し。


「このコソ泥がっ!!」


距離から考えて四メートルもないところから兵士の持っていた銃が火を吹いた。

銃口が向けられるという条件に反応して反射的に床に伏せる。

熱い金属が頭の上を通り、アリルの部屋の壁を砕いた。


「くそっ!」


俺はアリルの部屋のガラスを破り外へ飛び出した。

地面にうまいこと着地して、兵士が来る前に走り出す。

顔は見られていないだろう、マッハでマスクつけたし。


「まて、この野朗!」


後ろから怒号が聞え地面が銃弾でえぐれ、粉が飛んだ。

銃で応戦しようにもアリルの部屋におきっぱなしだしなぁ。

一番まずい状態になっちまったな。

……絶対に月が明るいせいだ。






            This story continues.

波音はアリルを絶好の機会にも関らず殺しませんでした。

それはシンファクシに。

帝国郡に逆らうという結果になってしまったわけです。

それにおっさんの任務にも失敗。

どうするんでしょうね、彼(他人事


ではここまで読んでいただきありがとうございました。

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