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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
迫る闇な季節☆
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またそのメニューか。

「ほぉら、たくさん食べるんだぞぉ……?」


アリル父が仕事を終わらせて食堂に入ってきた。

なにやら両手一杯に持ってる。

例のメニューの一部だな、間違いなく。

俺終了間際な件について。


「は、はいっ!」


でも素直に返事をするしかない。

情けない。


「ふむ、いただきます……だな」


アリル父が食堂の椅子に座って手を合わせてみんなで箸を持った。


「いただきますですっ!」


ここで余談なんだがアリルとかが箸を持って食べているのを見るのが何か好きになりつつある。

変なフェチだな、俺。

箸フェチ?

箸もちフェチ?


「たぁくさんあるからなぁ。

 いっぱい食べるんだぞ、我が息子よ~」


まぁ予想通りぎったんぎたんの筋肉料理をお腹の中に

たらふく詰め込む……いや詰め込まれたな。


「も、もう無理っす」


食い始めて二十分ほどでもう俺は音を上げた。

これ以上は無理。


「何を言っているんだ。

 ほら、もっと食べろ」


ほっぺたにぐいぐいと押し付けられてくる卵(白身だけ)がすごく恨めしい。

せめて塩かマヨネーズください。


「いや勘弁してください。

 お願いしますから」


次々進めてくるアリル父の特製メニューを断って

腹を押さえながらごちそうさまをして食堂から離れた。

逃げれてよかった。


「ふむぅ……」


アリル父は困ったような顔をしてもくもくと卵(白身)を頬張っている。


「は、波音君大丈夫ですか?」


心配そうに覗き込んでくるアリルに手を上げて大丈夫と諭す。

あまり俺にふれるんじゃねぇっ。

戻してしまうからな。

腹を押さえてよろよろ向かった先が玄関だった。


「もう帰るんですか?」


ここまで俺の後ろを心配そうについてきたアリルさんが

ちょっと泣きそうな顔でそう言ってきた。


「ん……いや。

 どうすっかなぁと」


鞄も食堂横に置き忘れたからなぁ。

どっちにしろまた中に戻らんといかん。

アリルははにかんだ。


「なら、私が勉強を教えてあげますよ!

 ね?

 良いアイディアでしょ?」


数学……。

アリル……。

くっつけちゃいかん二つな気がしてならんぞ。


「うーむ。

 よし分かった。

 やる、やります」


ご飯だけ食って帰ったなんて分かったら印象は最悪だろう。

それにまぁ俺も俺でな。

いや言わないけどよ。

悟ってくれ。


「良い判断ですっ!

 じゃあお母様、私達は勉強してきますよ!」


アリルが扉の向こうのマダムに聞えるように大声を出した。

アリル父の皿にマヨネーズを追加してあげながら


「はいはい、行ってらっしゃい」


ふふっと上品に微笑むマダムは小さく俺にガッツポーズをしていた。

いやがんばらねぇから。

何を?

何を俺にガッツしろっていうんだ?


「波音君、行きましょう?」


おそらくアリルはマダムのさっきのしぐさを見ていなかったんだろう。

純粋なまでな眼で俺を上目遣いで見てくるのは心をほじくられる思いである。


「お、おお」


食堂の入り口においてある机の上から鞄を取ってアリルの後ろをたどる。

この広い屋敷じゃこの方が居てくださらないと一瞬で迷うという恐ろしい仕様になっている。

対泥棒用の意味もあるんじゃないか?

ここを知っている人じゃないと間違いなく出れなくなる。


「はい、どうぞ~」


五分ぐらい歩いた。

これだけでもうどれだけ広いか分かるだろう。

家の中で五分って普通じゃありえない広さだぞ。

それだけ歩いてようやくアリルさんの部屋に着くんだからもうやばい。


「お、おじゃまします」


遠慮しながら入ったは良いものの、なんら変わらぬアリルの部屋だった。

唯一つ違うのは街の……。

――なんでもない。


「じゃあまずは理科からですね」


地獄タイムの始まりの鐘がなったのを俺は確実に感じ取った。






「ただいまーがふ」


俺は家に倒れこんだ。

疲れきっていた。


「おかえりーってどうしたのさ?」


メイナがエプロンで手を拭きながら迎えに来てくれた。

ご飯を作っていたんだろう。

それかもう出来上がっているか。


「つかれただけだぁ」


ふーとって鼻から息をはいてピクピク震える右手を押さえた。

邪気眼じゃないぞ。

これ痙攣しているだけだからな。

というのもアリルさんのすんごい授業はもう筆舌に表しがたいのだ。

まさか化学記号を全部暗記させられるとは思ってもみなかった。

別に覚えなくてもいーじゃん、俺二年生になったら文系行く予定だし。

半分投げながらもアリルの必死に教えてくれる顔を見てるとがんばらなって気持ちにはなった。

またまた余談なんだけどさ。

いつもはポニーの人があるきっかけで髪を下ろしたりするとドキッと来ない?

あるあるだろ?

俺はドキッとする派だったよ。

じりりと携帯がなった。

寝転んだままポケットから携帯を取り出して耳に当てる。


「はい?」


『波音か?

 私だ、ちょっと頼みたいことがある』


独特なハスキーボイス。

間違いなくおっさんだ。


「おっさん!?

 どこなのさ?」


『結構近くに居るぞ。

 ある山のてっぺんに乗っている家を知っているよな?

 あの大豪邸だ。

 そう波音の彼女の家だ。

 ちょっと忍び込んでメモリーチップをかっさらってきて欲しい』


いきなり仕事の話かよ。

しかもお前、たったさっきまでお世話になっていた家に……。

そんなことできるわけねーだろ、普通は。


「嫌って言ったら?」


『そうだなぁ。

 まぁ、嫌って言うわけないだろうからあえて何も言わないけどな。

 玄関を見てくれれば分かるだろ?

 午前二時になったらその車に乗り込んでくれ。

 以上だ』


拒否権はなし……か。

そんなことよか情報が足りなさ過ぎる。


「ちょっ、メモリーチップはどこにあるんだよ?

 超光学記憶媒体は?」


『俺のビルから奴らが盗んだ奴だ。

 発信機がついている、それを感知する装置も一緒に入れといた。

 じゃあ頼んだぞ。

 逆探知されるからな』


まぁなんとかなるかな。


「はいはいさ」


俺は携帯のボタンを押した。

ブッ、プープー。

パタンと閉じてもう一回ポケットに入れる。


「ったくよぉ」


玄関のマットが気持ちいい。

ゴロゴロしながら文句を言いたい。


「誰だった?」


セズクが両手にたくさんのピーマンの肉詰めを持って立っていた。

普通においしそうだから困る。

ん、いい臭い。


「ん、今夜仕事だってさ」


くんくんと鼻を動かしながら俺はセズクに話した。


「へぇ~、そうなのかい? まぁ僕も今夜帝国郡本部にちょっと行く用事が出来たんだ。

 残念だけど波音、今夜は熱い時間を……」


ごほん。

そんな熱い時間を過ごした記憶はないぞ。

第一俺は夜はお前とは別室だろうが。

ばかちん。


「変なことは言わなくていーぞ。

 飯にしようぜー」


あんだけたくさん食ったのにまた腹減ってきた。

卵は消化が早かったりとかするのだろうか。


「ああ何て冷たいんだろう。

 でもそんな波音も素敵だなぁ♪

 クスクス、照れているのかな?」


笑うセズクを置いて台所まで歩いた。

食って寝て風呂入って用意。

誰が得するのかわからん入浴描写は省略するぞ。

今日アリルに教えてもらったところをもう一回見直しておく。

全部化学記号を覚えていることが分かったらゲームをつけた。

ぼけーっとやっているうちにあっという間の午前二時。

俺は家の前に止まっている黒い車に乗り込んだ。

運転手も誰も居ない。

俺が運転しろということだろう。


『よぉ。

 乗ったか?』


カーナビにおっさんの姿が映り車内のスピーカーから声が出た。

明らかに俺があっちからは見えているのだろう。

おっさんは俺だけを見ている。


「おっさん?」


色々聞こうとする俺を手で押し止め


『今からこの車でアリル家へ向かうんだ。

 後ろのトランクを開けてみな?』


俺の後ろをおっさんは指した。


「ん~?」


俺は車内から出てトランクを開けてみた。

一つの得たいの知れない金属で出来た鞄が入っている。

それを持って車の中に戻った。


「これが?」


カメラがどこにあるのかは分からないが

液晶に映っているおっさんに見せ付けるように鞄をぐりぐりっと押し付けた。


『その中には金庫を自動で開けてくれるやつとか。

 はりがねとか色々入っている。

 もちろん銃もな。

 受信機も入っているはずだ』


それが全部この中に……?

ほえ~すげぇ科学の進歩だな。

帝国郡のトラックもすごかったが、これもすごいな。

そんだけあれば十分だ。

はじめるとするか。


『よし、じゃあ頼んだぞ。

 うまくいったら何か買ってやる』


ほう。

アイスか何かおごってもらうとしよう。


「今の話忘れんといてや。

 財布握って待っててくれ」


かっこよさげな台詞を言ってみたかった。

ただそれだけで最近プレイしたゲームから引用してみた。


『はいはい』


おっさんは呆れたように笑うと液晶から消えた。

変わりにカーナビが起動した。

俺は運転席に座って車を動かした。


「静かだなぁ」


エンジン音がゼロで本当に静かなのだ。

こんな車があるなんて知らなかった。

それに黒塗り、完璧に闇に溶け込む目的で作られたとしか思えない。

まぁヘッドライトつけているから意味ないんだけどな。

復旧が進んできた道は帰ってきた直前と比べてがたがたが少なくなっているように思う。

脇に車を寄せて車の後ろにたたんで置いてあった服に着替えてみた。


「よっし……」


真っ黒な服だ、俺もしかして今かっこいい?

カッターシャツを黒くしてみただけだけの奴に見えるが感謝だ。

これもらっておこう。

帽子はいらんだろ。

邪魔だしな。






               This story continues.

出来立てをお届けいたしました。

よろしかったらめしあがってくださいまし。


まだほかほかでございますよ~。


ではありがとうございました。

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