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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
迫る闇な季節☆
95/210

くだらぬ嫉妬、ねたみ。

「よし、起立。

 礼、さようならだ」


桐梨が教材を教壇の上で整えて適当にあいさつをした。

授業は午前中で終わって蜘蛛の子を散らすように運動場は帰宅する生徒で溢れた。

俺も帰ろうとほとんどからの鞄をひっさげて椅子を机の下に入れた。


「波音君っ!」


さっさと帰ろうとする俺を後ろから呼び止める人物。

アリルさんはぐいっと俺の制服の裾を掴んでいた。


「一緒に帰りましょうよ?

 朝、迎えに行っても起きなかったわけですし」


アリルはポニーテールの金髪を結いなおして


「えっ、来たのか?」


「行きましたよ?

 七時四五分にね」


まったくと俺のデコを突いた。


「いたッ」


「起きてこなかった罰です」


だって。

聞えんかったんやもん。


「おーおー、お熱いこった」


さっとアリルの後ろを見ると片手にPCを持った仁が

唇をゆがめているところだった。

おそらく笑ってる。


「おい、仁やめろ」


仁のメガネが変にきらっと光りやがった。

その仁がくいっと俺に顎で隣を示す。

なんだ?

横を振り向くと、鞄をもった最終兵器の二人が立っていた。

おそらく俺と帰るのを待っているのだろう。

俺はアリルさんに捕まった今、一緒に帰れる保証はない。


「あー、シエラ、メイナ」


先に家に帰るように言っておこう。

そうしよう。


「ん?」


「?」


二人はほとんどおんなじタイミングで目をぱちぱちさせた。

どうでもいいけどこの最終兵器二人は四時間目がはじまる前に教室に飛び込んできた。

なんというか、俺がついたのは二時間目の始まりだったので

約五十分プラス二十分、七十分間何をしていたのやらと内心あきれた気がする。

ここで記憶が曖昧なのは四時間目はまた桐梨の授業で寝ていたからだ。

真上から照ってくる日差しが逆に心地よくてな。

ついつい……えへ♪

今にはじまったことじゃあないし別にええやろ?

許してくれな。


「俺、なんか捕まったから先に帰っておいてくれ。

 セズクが多分飯作って待っててくれてると思うから。

 あ、川の中につけてあるコクァコーラ飲んで良いぞ。

 俺はもういらんから。

 それと、自家発電機はあまり動かすな?

 もう燃料が少なくなってる。

 多分、少し盗まれたと思うんだ。

 俺のご飯は多分要らない。

 食べて帰ってくると思う。

 じゃ!」


俺はふーっと息を吐いて一息で言い切った。


「分かった、行こ、シエラ」


「うん」


二人は手をつないで教室(といっても板張り)から出て行った。


「あ、ちょっと!

 まってよお二人さ~ん!」


「シエラ、メイナ~!」


「あっ、仁てめぇ!

 いつからあの二人を名前で呼ぶようになったんだこら!

 てかあの二人がシエラとメイナって名前だったってのも

 俺ははじめて知ったんだぞ!?」


「ウルセー、バカ!」


遼と仁が口汚く争いながらその後ろを追いかける。

疲れる友人達だ。


「おい、お前ら待てよ!

 俺も忘れんなよー!!」


「……ったく……」


冬蝉と彗人兄さんが走って遼たちの追撃した。

詩乃と綾は学校にすら来ていない。

二人が財閥のご令嬢だということを考えるといたしかたないような気がする。

だれが好き好んでまたいつ爆撃されるか分からない街に娘を置いておくというのか。

アリルはいるけどなぁ。

友人が消えると、アリルは急に俺の裾を掴んだ。

もう二十トンぐらいの勢いで俺をぐいぐいと引っ張りはじめる。


「な?

 ど、どうしたのさ?」


「いいから早く帰りましょう?」


「は、はい」


俺のバランスを取るために右に伸ばした腕が国語の宇佐先生に当たった。

げっ、まずい。


「こら! 

 永久、お前!」


怒ってる!


「うっぉっ、ちょ、すいません!」


アリルは俺の狼狽ぶりなんて知らずに引っ張る、引っ張る。


「待て、逃げるのか!?」


泥だらけの地面に落ちたプリントを拾うために屈みながら

宇佐先生は右の拳を上げた。


「不可抗力です!」


「生徒指導部行きだー!」


それは死刑宣告です先生!


「それだけは勘弁してうわっ!?

 ご、ごめんなさい!」


後ろの裾をつかまれている俺は今逆向きにアリルに歩かされていることになる。

ぶつかった人に謝りつつ、校内から出て町中を引っ張りまわされる。

いい加減に離してくれてもいいだろう。


「ちょ、アリルさんストップ!」


「……………」


無言。

歩みは止まらない。


「ちょ、おいっ!

 ストップ、お願い止まって!」


裾を掴んだ手をぱしぱし叩いてアリルにメッセージを送った。


「……あ。

 そうですね、ごめんなさい」


我に返ったのかアリルはようやく裾を離してくれた。

しわしわになった裾をひっぱりながら自分より頭一つ下にあるアリルの顔を眺める。

頬は熱で上気して薄いピンクで、太陽光を返す金髪がまぶしい。

流石ロシアらへんの血筋だ。

いいじゃない。

俺達黄色人種とは異なった、白人の血だ。


「は、恥ずかしいですよ波音君。

 どんだけ眺めるんですか?」


あっ、そうか。

俺眺めてるんだった。

笑ってごまかすんだ、俺!


「あは、あはは……。

 ごめんなさい。

 えっと……?

 俺はアリルさんの家に行けば?」


違うだろ、永久波音?

今こそシエラにすらスルーされたギャグを使うときだ。


「行かんといかんのか?」


「…………」


アリルは無言で首を縦にふった。

肯定の意味でいいんだろ?


「行かんといかんのか?」


「………………」


反応がない。


「……寒い」


がーん。

頭を鈍器で殴られた気分だ。


「じゃ、じゃあ行きますか」


泣いてねーよ。

これは目から汗が出てるだけだ。






「あら、波音ちゃんじゃない!!

 よかったわぁ~~!」


アリル家の階段エレベーターを使ってあの長い道のりを登り

門の中に入るとマダムが頭にタオルを巻いたまま出てきた。

おそらく風呂にでも入ってあがりたてなんだろう。

ちなみにマダムの服はちゃんとしていたぞ。


「生きていたのねぇ?

 めでたいわぁ……」


マダムはつつと近寄ってきて


「本当によかった……!」


そういってぎゅっと俺を抱きしめた。


「ちょ、大丈夫でしたよ。

 マダム落ち着いてください」


顔に一気に血が上って赤くなった。

うっひぃ。

三十路とはとても思えんボリュームが当たっててうははは。

ごほん。


「お母様、私の彼氏です!」


アリルがマダムの腕を引っ張って俺から引き剥がそうとする。


「分かってるわよぉ。

 取りはしないわぁ?

 よかったわね、アリル。

 波音ちゃんがいきているってのがわかって」


マダムはちらりと笑みを含みアリルを見た。


「このこったら。

 波音ちゃんが行っちゃって……。

 二日ぐらい丸々泣いていたのよ?

 私も流石に気が気じゃなかったわぁ」


思い出したようにくすくすと上品に笑うマダム。

アリルは顔を真っ赤にして


「お母様!?

 恥ずかしいんであまり言わないでくださいよ!」


マダムの腕を軽く叩いた。


「いえ、大丈夫です。

 続けてください」


いやぁこういうの聞くの楽しいなぁ。

俺のS心が少し動いちゃったよ。


「波音君!?」


アリルは「信じられないです……」とつぶやいて庭の隅の方でうずくまった。

地面を指で擦ってすねているようにも見える。


「うふふっ。

 まるで昔の私と夫みたい。

 なつかしいわぁ。

 詳しくは中で話すわね?

 暑いしささ中へどうぞ~」


マダムは目を細めた。


「と、とりあえず離してください」


俺はだんだん息がつまってきて……。

げほ。


「あら。

 ごめんなさいね」


マダムははっとしたように俺を解放してくれた。

ああ、空気がおいしい。


「もー!

 お母様!!

 私の彼氏なんですよ!!」


アリルは隅っこから戻ってきてまたマダムに怒り出した。

怒るといっても、じゃれあうみたいな感覚だぞ。


「はいはい、分かってるわよ」


仲良いなぁ。

家に入れもらいつつ後ろから見ていてそう思った。

母さん――ね。

もう顔もあまり思い出せないな。

親父ももう思い出せない。

アリル家の廊下が少し眩んで見えた。

高貴なつくりになっている家。

これもアリルの父が……。


「おー、我が息子!

 来ていたのか!?」


ぞわっと自分の中の何かが目を覚ました気がした。

得体の知れない怒りが胸の奥の火山から噴火しそうだ。

よくも――。

よくも俺に話しかけることが出来るものだ。

俺の両親を殺し……。

シンファクシの両親。

おっさんの妻、つまり詩乃の母ちゃん。

ドアから顔だけを出す形でアリルの父は当然俺の内面の熱を

知ることなく俺を優しい目つき見ていた。


「あ、こんにちわ。

 お邪魔しています」


心の中を知られてはならない。

俺は皮一枚下に心の混濁を悟られないようしまいこんだ。

仮にも俺に好意を持って接してくれているのだ。

こちらもいくら恨みがあるとはいえ……。


「いいあいさつだ、我が息子よ。

 よしよし。

 もうこんな時間だ、昼食食べていくだろう?」


怒りをも上回る嫌な予感がした。

飯……?

あ。

さーっと血の気が引いた。


「よーし。

 おい、セバスチョウ!

 セバスチョウはいるか?」


アリル父は大声でセバスチョウとかいう人を呼び始めた。


「私の名前は谷氏闘志朗です、だんな様」


俺達の後ろからヒゲまで真っ白になったおじいさんが出てきた。

典型的な執事だ。


「至急昼食のメニューに一つ『わたくしめにゅー』追加だ。

 客人……というか私の息子だ。

 沢山食わせてやりたい」


わ、わたくしめにゅー……。

悪気は……ないんだろう。

悪気は。

多分。

でも……あ、ほら谷氏さんって言われたおじいさんが

俺を哀れみを含んだ目で見てるじゃん。

やっぱり、アリル父、あんた食感おかしいんだよ。

なんで誰も止めないんだよ。


「食べるよな?」


アリル父のひげ面の満面の笑みがずいと俺に近寄ってきた。

断るわけには――いかないよな。


「あっ……はい。

 はい」


「よーし!

 先に行って待っていてくれたまへ。

 私はこれがもう終わりそうなのでこれが終わってから行く」


ずいぶんと先を歩いていたアリルはようやく父の存在に気がついたのか


「お父様っ!」


走ってアリル父に抱きついた。


「おっ、アリルお帰りっ!」


笑って娘をを抱き上げる父。

和む風景だろう普通は。

だけど俺は……嫉ましかった。

なんでだよ。


なんで……。


心が叫んでいた。






                This story continues.

ありがとうございます。

できたてほかほかをお届けいたしました。

ここまでありがとうございます。


どうかこれからもお付き合いくださいますよう

お願いいたします。

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