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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
迫る闇な季節☆
92/210

圧倒的な恐怖。

「こんなの持って行って何になるの……」


不思議で仕方なさそうにシエラはPCを持ち上げた。


「まぁまぁいいから。

 頼むぜ、シエラ」


俺は窓から下を見下ろした。

真っ暗の街が眼下に広がり地面のない地獄に吸い込まれそうな

感覚に頭がくらくらした。


「……波音、これ持てない」


「へ?」


いや、今お前持ち上げてたやん?

俺の勝手な解釈だったか?


「このケーブルとか切ってもいい?」


首を捻る。

PCの下からどるるっとケーブルが束になって生えていて机とつながっていた。

これは取れないな確かに。


「どーするかな」


俺は懐中電灯を持ったまま机に座った。

電気もないだろうから、ここじゃあな……。

ここでデータも取れないだろうし。

懐中電灯をケーブルに当てて切ってもいいやつかどうか判断しないと。

シエラからPCを受け取ってケーブルをたぐる。


「波音!」


シエラが小さく叫んで急にガラスの割れた窓から何かが入ってきた。

PCを思わず手放してズボンにずぼらに突っ込んだ拳銃の

安全装置をはずして銃口を向ける。

窓から入ってきた何かは人の形になると


「大人しくしなさい。

 我々はVelcaのものだ」


こっちにアサルトライフルを向けてそう言った。

焦りつつも何とかばれないように

銃を隠して殺意を感じ取られないようにする。

格好からして特殊部隊だろ。

それに俺昔こいつらに会った気がする。

別人だったけどこの特殊部隊に。


「Velcaっつっても連合郡の一組織だぜ。

 静かにしておけよ、ふふへへへ……」


一番端の男が急に喉を鳴らした。


「おだまりっ!」


何だこれ。


「仮にも私たちは特殊部隊なのよ?

 そんなに情報をばらしていたら駄目じゃない」


女の人に怒られたさっきの一番端の男は


「へいへい、ごめんなさい」


ひねくれたように謝った。

なんか……うん。

ありがとう。

本当にこんなアホみたいな特殊部隊いるんだ。


「何見てるのよ?」


いやぁ……。

見たくて見てるわけじゃあないんだなこれが。

女の人は


「じゃあ手分けして探すのよ!

 早くしなさい!」


ほとんど右腕を振り回す勢いで部下達に命令を下した。


「そんなわけだから……。

 ごめんよ、おじょうちゃん達」


一番端のとはまた違う物腰柔らかそうなお兄さんが

すまなそうに俺達に言った。

いや俺は男だけど。

そんな心の突っ込み聞えていると良いんだけど。


「おっと、ぼっちゃんもいたね。

 へへへ……」


何だわざとか。

俺こういう笑い方嫌いだ。

ふざけやがって。

怒りがわいてきた。

沸点低いけど怒りわいてきたコノヤロー。


「さっ、早いとこさがすよ!

 時間は限られてるんだからね!」


女の人がもう右腕を回して命令してる。

五人のうち、四人がおっさんの部屋のあちこちをひっくり返し始めた。

ゴミ箱の中や机の引き出し。

ベットの下まで。

そこは男心的にちょっと遠慮してあげて欲しいところである。

あ、でもおっさん言ってたっけ。


「大丈夫、すべてはHDDの中だ」


親指ぐっと立てて。

そういう問題じゃねーだろクソジジイ。

死んだらあんた、HDDどうするの。

俺に処理任せるとか言ってたけど俺どうすればいいの。

詩乃泣くぞ。

ガサガサ音が漂う中一人は銃を俺達に突きつけつまらなそうにガムを噛んでいる。

くちゃくちゃ音に混ぜながら、おそらく暇つぶしだろう。

話しかけてきた。


「それにしても坊主。

 なんでこんなところにいるんだ?」


それは俺の台詞だ。

なんであんたら連合郡はいつも俺の邪魔をしてくるんだか。

ここは正直に答えるべきじゃないな。

何かいい嘘を言わないと。


「PCを忘れたから。

 取りに来ただけだ」


完璧な嘘だ。

これなら誰もがだまされるだろう。


「ってぇと、お前は鬼灯家の人間か?」


「いや鬼灯の友達だ。

 娘さんのな」


「ボーイフレンドってワケか。

 で、そっちのお嬢さんは?」


男はガムを紙に包んでポケットに入れた。

マナー良いじゃないか。

胸ポケットから一本の煙草を取り出し火をつける。


「僕?」


シエラの顔を始めて真正面から見ることになった

男は言葉を途中で切った。

いや切らざるを得なかったというべきか。


「そうお前――!?」


男の咥えていた煙草がぽろっと床に落ちた。

そしてつけていたゴーグルをあげて


「た、隊長、隊長!」


結構な大声で隊長を呼んだ。

ばれた――っ!

さっき隠した拳銃のグリップをぎゅっと握った。

シエラがいる以上使わなくても大丈夫だとは思うが……。


「どうしたのよ?」


女が隊長だったようで作業を邪魔されたことに

むすっとして男に突っかかる勢いでやってきた。


「きょ……恐怖神です!」


男が震える手でこっちを指差す。

女の隊長もゴーグルを取って


「は?

 そんなバカなことがあるわけないじゃない!」


一瞬のフリーズを乗り切って隊長は俺達二人の顔を

鑑定するかのようにじっくり見てきた。


「どっちがその恐怖神なのよ?」


ふぅと眉をひそめ目頭を抑えた隊長は

疲れた表情だったが


「お、女のほうでさぁ!」


そう聞くと顔が引き締まった。

隊長はふーんとシエラに一瞥をくれると


「……何?」


シエラは面倒そうに隊長の顔を睨んだ。

機嫌が悪そうな顔をしている。

喧嘩を売られたと判断しているのだろう。


「――へぇ。

 これが最終兵器ねぇ」


「た、隊長?」


隊長は部下の制止を聞かずに腰から一丁の拳銃を取り出した。

それをシエラに向ける。

唇をぎゅっと引き締め僅かな隙間から


「悪魔めっ……!」


その言葉と乾いた音が鳴り、銃口から白い硝煙が昇った。

薬莢が床に当たって金属の音をたてた。

至近距離で撃たれたにも関らずシエラは動じなかった。

万能の守りにいぶられた銃弾はシエラをはずれ壁に刺さっていた。


「イージスね。

 じゃあこれはどう?」


隊長は拳銃、アサルトライフルを外すと黒の手袋を外した。

すらっと細長い指に赤いマニキュアが正反対の印象を与えてくる。

その指が全てくっつき銀色の金属に変わると鋭い刃となり

懐中電灯の光をたたえた。

シエラは少し驚いた表情でその光景を見下す。

最終兵器モドキ。

セズクとおんなじやつだ。


「驚いた?

 さっきは止められたわよね」


隊長は短い髪を結んでいたゴムを外して目を見開いた。


「――ならこれはどう?」


風のようなスピードでその刃をシエラに向けて突き出した。


「死ねッ!」


俺の目には確かにシエラが少し笑った気がした。

隊長が突き出してきた刃をシエラは素手で掴んだ。


「なっ……!?」


隊長の反応を待たずして面倒そうな表情を維持したまま

シエラが掴んだ刃を覆うように一瞬青の光が走って


「ぎゃぁあぁぁっ!!」


隊長は右手を押さえて地面に膝を付いた。

シエラが離した刃が床に静かに突き刺さった。

断面図から煙が昇りその刃をシエラが足で踏み潰した。

隊長の手は千切られていると言うよりは切断されていた。

断面図から血が噴き出し、隊長の顔が痛みに染まる。


「ねぇ、波音」


頬に付いた血を右指でさらりと撫でシエラが聞いてきた。

許可を求めているのだ。

殺人の。

歪んだ笑いの頬に一筋の赤い線が付いている。

それが余計に不気味だった。

赤紫の目と黒稀銀髪が雲の切れ目から現れた月で光っていた。


「……うん。

 もう好きにしろよ……」


ここで駄目といってもシエラは聞かないだろう。

完全にスイッチが入っているからだ。

俺が殺さなけりゃ誰が殺しても良いのか?

そんな疑問クソくらえだ。

止めれるなら止めてる。

あまりに力差が歴然すぎるのだ。

そういう時人間はただ指を咥えて見ているしかないのだ。

それに今シエラがやってくれなきゃ俺は確実に死ぬ。

全員の注意が逸れている隙に俺は机の下にすべりこんだ。

情けないけど俺は足手まといにしかならん。


「…………」


さっきまで普通の手だったというのにシエラは

一瞬にしてその両手をそれぞれレーザー銃に変えていた。

その門から赤の光が発射されシエラに残った左手を刃に変え

襲い掛かってきた隊長の頭を飛び散らせた。

血しぶきが壁に広がり次に煌いた赤線が顔のない体を焼く。

壁にぶつかるほど勢いよくとんだ元隊長だった体は部下にぶつかり

隊長の体ごと部下の体をまた一本のレーザーが貫いた。

そのレーザーがさらに細かく分かれまだ命の残った体を四散させる。

確実に息絶え原型がなくなった体から一丁のアサルトライフルが落ちる。

残りの三人がシエラに銃を放つが全てが空中にて。

いつもどおりに軌道が湾曲してシエラには当たらない。

仲間の血を全身に被った男が歯軋りをした。


「化け物かっ――!」


そうだ。

シエラは、恐怖神はまさに化け物。

身をかがめ、一瞬にして接近した最終兵器に

アサルトライフルを向けるも銃身が刀によって二つに切れた。

中につまっていた銃弾がばらばらと床にこぼれる。

引き金を引くような形で残っていた右手ごと。

その男が右手を失った痛みを感じる前にシエラの黒に

青い線のはいった刀が男の首と体と別れを告げさせていた。

糸の切れた操り人形のように倒れた兵士を乗り越え


「Shit!」


接近戦を挑んできた一人のパンチを身のこなしで避けたシエラは

右腕を勢いの乗った兵士の腹へとめりこませた。


「がふっ……」


兵士の口から大量の血が流れシエラはその血を

汚い物を避けるように足を上げて避けた。

体を突き破り血がぬらぬらと光る右腕は血の糸を引いて兵士の命を拭い去る。

残り一人。


「うっ、うわぁあぁっ!!」


最後はこうなるのだ。

ドアから逃げて行った兵士。

右手に付いた血を舐め取りその右手がまたレーザーに変わった。

逃げる兵士をパンソロジーレーダーでキャッチしながら

シエラは壁へとレーザーを発射した。

壁に穴を開けながら進んだレーザーは正確に。

一ミリのズレなく最後の一人の脳天に穴を穿った。

中枢を失った体がめちゃくちゃに動き男は地面に倒れる。

それでもなお体は動いていたがめちゃくちゃにされた

脳が勝手に指令を出しているのか、神経がいかれてしまったのかは

俺には判断は付かなかった。

なぜ見えてるのかって?

シエラの眼帯をつけてるからだよ。

ちょうどあったのを拾ったのさ。


「終わり……」


シエラは右手の血をぱっぱっと払った。

床の染みがまた一箇所増える。


「終わった!」


鼻を押さえながら俺は机の下から出た。


「……うっ」


血の臭いが充満した部屋。

五人の命を吸い取った恐怖神は満足そうに俺に微笑んだ。

とにかくこのPCをもってさっさとここをおさらばしよう。


「これ」


「あ、ありがとう」


シエラに眼帯を渡して俺はPCを持ち上げた。

でもPC取れないんだよな。

仁をつれてくるんだった。

死後痙攣している兵士を見ないようにして本棚にもたれた。

そういえばさっきシエラの眼帯でこの部屋を見たとき

何かよく分からないものが見えた。

一瞬だったが……。


「ちょっとごめんなさい……」


肉塊に謝ってどいてもらう。

確かこの本棚だったよな。

思いっきり蹴飛ばしてみた。

血を吸い込みふやけた本が落ちる。


「これだ……」


奥に赤のスイッチがあった。

自爆スイッチとかだったらいやだな。

おっさんのことだからそんなことはないだろうが。

人差し指で思いっきり押し込んだ。

カチ。

本棚の中で何かが聞えた。






             This story continues.

ありがとうございました。

久しぶりの戦闘シーンだった気がします。

やはり最終兵器ですね。

時々自分で怖くなります(自画自賛乙


では本当にありがとうございました。

これに変わる挨拶が欲しいところです。

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