いやそういう意味じゃない。
その次の日、俺達は日本に帰った。
シエラたちと一緒にシンファクシたちに手を振る。
帝国郡の全員が見送りに来てくれていた。
「ありがとうよー!」
とか
「また来いよ!」
と口々に言って来てくれる。
皆日々の連合郡の戦いで疲れていて
俺達を見送ってくれる時間もないはずなのに……。
日本から出たときはシエラにつられて
帰るときは二人、いやセズクも入れて……うん。
五人か。
仁も入るからな。
それだけの人数で大空をものすごいスピードで飛んだ。
大体二十分ほどボーっと下を通り過ぎる雲を眺めていた。
大きい雲、小さい雲。
その下で時たま町の光が光っていた。
「ついたよ」
シエラがそういったと思ったら地面に靴の底がついて
よろけてこけそうになった。
周りを見渡す。
俺達の街はボロボロで大小さまざまな瓦礫が散らばっていた。
あれだけうっとおしかった蝉もいない。
ちらほらと人はいるものの疲れきった表情を頬に貼り付け
やけに大きく見える目が俺達をにらみつけていた。
あらかたの人は避難しているようだからおそらくここにいる人達は
自分の意思で残った人なのだろう。
「にしてもなぁ……」
俺は『I LOVE ○○』と書かれたシャツの裾をつまんだ。
ダサい。
あ、どうでも良いがもう一般人の服に着替えてあるぞ。
いつまでも帝国郡の軍服なんて着てたら連合郡兵士に連れて行かれてしまう。
しばらく街の酷さに慣れないままぽつぽつと歩いた。
すっかり変わってしまった街でようやく
見慣れた建物が残っているのが分かった。
その建物は俺の唯一無二の親友、仁のお家だからだ。
「親父……」
仁が玄関先を指差した。
その先をたどると仁の親父さんが玄関の前でへたれこみで唖然と空を眺めていた。
「もしかして俺死んだって思われてる?」
仁が半分笑ったよう分からん複雑な表情で俺に聞いた。
俺はさぁと肩をすくめた。
知らんがな。
「まぁ、いってやれよ。
親父ぃぃぃぃいいーー!みたいな感じでさ」
仁は俺に「そうだな」と軽く嬉しそうに笑顔をこぼして
親父の所へと駆けて行った。
「おぉっ、仁っ!!!」
涙を流して息子を抱きしめる父の姿がぐっと胸に来た。
目にたまった水を払いそーっと仁に気づかれないようにその場を離れた。
そこから一分も歩かないうちに自分の家の前についた。
家は無事っちゃ……無事だった。
人の頭ほどのコンクリート片が壁にめり込んでいたり
三台の車が突き刺さっていること以外は。
しかも中に入ると冷蔵庫の中はくっせーわ、水はでねーわ。
仕方ないっちゃ仕方ない。
我慢する。
ここは俺の街だ。
親父たちの唯一の形見の家が傷ついているのを見るのは
あまり良い気分ではない。
しゃがんでお気に入りの黒い植木鉢をぽんぽんと叩いた。
ぐるっと反転させると黒に細かい破片が突き刺さっていた。
がっつりとコンクリートのパンチを受けている。
「はぁ…………」
植木鉢をこれ以上壊れないように丁重に置いて空を見た。
突っ込んだ車どうしようか。
もしこれが柱代わりになってバランスが保たれてたりとか、ないのか?
ありえないか?
「シエラ、ひっぱってひっぱって」
とりえあえずシエラに引っ張ってもらった。
もちろん最終兵器の力で。
崩れそうな気配があったらすぐに元に戻してもらおう。
たとえ崩れたとしても幸運なことに回りに人はいないし。
俺の家に突っ込んだのは普通サイズの乗用車。
あと二トントラック。
なんでわざわざ俺の家に突っ込んできたのか。
トラックは荷台が大きく凹んでいたがまだ動くようだった。
運転席に乗り込んだセズクに頼んでどけてもらう。
車二台はシエラとメイナに処理してもらって……。
俺は散歩する。
「じゃ、あとよろしく!」
シュビと手を上げて走り出す。
「逃げるな!」
がっしとつかまれた。
やっぱり無理だったか。
「トイレ、トイレ」
「駄目」
「もれそう」
「うそつき」
俺が手伝うにも人間じゃないお前らの何をどう手伝えば良いのか。
そう聞くと
「家の中の掃除」
即答された。
いや、あぶないだろ。
崩れたらどないすんねん。
なぁ、セズクさんや。
「柱の補強はしておいたよ♪」
セズクが汗をキラキラさせつつ手を広げ、回る。
いらんことしやがってからに。
しかもこのタイミングである。
「僕が穴を補修するよ。
波音たちは家の中の掃除にかかって。
あ、車その辺にほうっておけば良いと思うよ。
あの鼻が曲がりそうな臭いの方が深刻だからね」
「あいあい」
そう答えて中に入った。
すぐに外に出た。
家の中に入ると既に臭いが充満していた。
なんで冷蔵庫の扉を閉めなかったのかと後悔させられる。
くっさぁ。
穴をつまんでもなお、かすかに残った隙間から入ってきた臭いは
しつこいまでに鼻腔にからみついてくる。
俺達三人は苦痛に顔をゆがめながらも冷蔵庫を外に引きずり出した。
その拍子に扉が開く。
「ぐぉぉぉぉ……」
悶絶した。
気絶してもおかしくないほどの臭いだ。
「はやぐじめろ!」
鼻をつまんで涙目になりながら冷蔵庫を指差した。
「うん」
メイナが扉を蹴って閉めた。
臭いが風に流れてどこかに行くまで鼻の封印は解除しないでおく。
「どうずる?」
「さぁ」
メイナはすまし顔で眠そうに欠伸をした。
「ヴぉういい?」
「んー?
うん、良いよ」
それでようやく鼻の封印を解除。
「っはぁ、はぁっ!
息が出来んかった。
とりあえずこいつは一番後回しだ。
家の中を早くもとの状態に戻さないと。
ポツポツと残っている周りの家にも迷惑だからな」
シエラ、車を投げて遊ぶな。
切るな、壊すな、穴を開けるな。
暇か、暇なのか、てかこっちこい。
俺の話を聞け。
「今聞いてた?」
シエラの近くに行って話しかけた。
「ん?」
こいつ……。
「よし、穴ふっせぎ終わった。
窓もつけたペンキも塗った。
完璧だ」
シエラに文句を言う前にセズクが額のハチマキを外し
真っ黒の新しいトンカチを置いて地面に転がった。
すばらしい出来だ。
でもこれだけは言わせてくれ。
さっきから文句ばっかり言っていると思うけど
頼むから言わせてくれ。
「I LOVE HANON とか別にいらねーから。
なんで書いたの?」
ねっころがってるセズクにのたもうた。
「愛ゆえに」
意味分からん。
「消して」
「えー!?」
信じられないといった表情で見られた。
そりゃそうだろう。
でかでかで赤(しかも蛍光塗料)で書かれてるんだから
たまったもんじゃない。
それと名前を赤で書くな、縁起が悪い。
「ったく……」
頭を掻きながら家の中に入った。
「波音、これどうする?」
食品類だろ?
「捨てとけ、捨てとけ。
臭いだけだし」
「りょーかい」
シエラが玄関から出たのと引き換えにセズクが入ってきた。
「これでどうかな?」
自信満々だ。
「どれどれ」
俺は玄関から出てセズクの後に続いた。
「どうだ」
セズクがどやーと壁を指差す。
パンチを一発。
「げほっ、何で?」
「あのなぁ。
赤から青とかそういう意味じゃないんだよ。
この文字をやめろって言ってんだよ。
やりなおし」
「えーっ!?」
信じられないか?
だが事実だ。
セズクを放って置いてまた家の後片付けに戻る。
「出来たよー!」
早ッ!
今俺中に入ったばっかりやで?
「どれどれ」
「今回は自信があるんだー♪」
ほーそうかい。
どらどら。
「どう?」
パンチを一発。
「げばらっ!」
「いや、だからそういう意味じゃない!
何でだよ!
I LOVE 形式をやめろって意味じゃない!
何で『私は永久波音が好きです』にしたんだよ!
違うよ、何で和訳したんだよ!」
「どう違うんだい?」
「いやね、あのね。
もう文字要らないから。
普通に回りとおんなじ色で良いから」
「それじゃ僕の愛が「愛とかどうでもいいからやめろ」
ったくもぉ。
また家に入って掃除を続けた。
後三回ぐらいセズクはやってきては
文字の大きさを小さくしたりフランス語とかにしていたが
俺が変わりにペンキを塗ってセズクを家の掃除に回すという名案で
ようやく壁のペンキ塗りが終わった。
朝方に帰ってきて夕方になるまで作業は続いた。
「残りはまた明日だな」
俺は伸びをしながら腰を叩いた。
あの冷蔵庫も片付けたしな。
どうやったかって?
簡単だ、シエラのレーザーで蒸発さした。
倉庫の扉を開け、中にある自家発電機を作動させる。
たっぷり入っている灯油のメーターを確認してレバーを引いた。
黒い煤煙が噴き出して倉庫の中に充満する。
「げほっげほっ……」
咳をしながら倉庫の壁についているスイッチを捻った。
電球が点滅して……よし。
付いた付いた。
いざというときのためにエネルギーは大事にせんと。
自家発電機のスイッチを切り倉庫から出た。
まぁ、今がそのいざというときだと思うけど。
倉庫の扉を閉めて鍵をかけた。
すっかり夕方だ。
今までちらほらとしかいなかった人が戻ってきたようで
人気がわっと増し始めた。
皆簡易プレハブ小屋の中に篭っていた。
みんなが笑顔だった。
「波音君!」
物思いに沈んでたそんな時であった。
後ろから呼ばれたのは。
ラスボスや。
ラスボスさんのお出ましや。
「おう!」
笑顔で返す。
これで大丈夫だろ。
きっと大丈夫、怒られはしないはず。
「おかえりなさい」
すっごい笑顔でにっこりそういわれた。
頭痛が痛いみたいな文章だな。
まぁそれはいい、置いておく。
「ただいま」
アリルさんに手を上げて返事を返す。
「ところで学校は?」
あー。
「行く」
「あと三日で文化祭ですよ」
そっか……。
「絶対行く、また明日迎えに来てくれ。
久しぶりすぎて間違いなく寝坊するから」
「はいはい、分かりましたよ。
明日七時四十五分ぐらいに来ますね」
えっまだ早いだろ。
――とは言えず。
「分かった、よろしっく!」
「では、また明日会いましょうね~!」
アリルはそう言うとたたたっと駆けて行った。
ズキンと胸が痛む。
そっか……。
俺、この人――アリルを……。
少しでも忘れていたと思ってたんだがな。
This story continues.
どうもありがとうございました。
暑いですね。
本当になんとかならないものでしょうか。
では、ここまで読んでいただき……。
と略しちゃだめでしょうか?(笑)
冗談です。
ここまで読んでいただきありがとうございました。