失うもの、これからのこと
自分の個室に戻っても頭がふらふらしていた。
現実を受け入れるのを拒んでいるのだと。
そうおぼろげながら理解はしていた。
ベッドにもたれ、冷や汗でべとついた服を脱ぐ。
気持ち悪いからであって、露出狂じゃあないぞ。
シャツとパンツだけの姿で窓のカーテンを開けて
窓から外を気晴らしになるかと見渡した。
もう一度いうが露出狂じゃないからな。
偏光仕様であっちからこっちは見えないしな。
青くカラーリングされた三機の戦闘機と
その周りを男達が笑いながら整備をしている。
爆撃されたら一発で吹き飛んで消える命。
俺に任されたのはあの命を守ることにもなるのだろう。
人を殺すなんて。
物を盗んできた俺が人の命を盗む?
怪盗――てかコソ泥とかいってた俺が殺人者になる?
こんなことを思うのは俺らしくないと思うが――。
それぐらいに頭が混乱していた。
「マイハニー!
セズクのお兄さんが来ましたよー!」
がらにもないことを考えていたせいか
あのアホの接近にも気がつかなかった。
歓喜の色に染まった顔で拳を振りバカ力でぶっとんだドア。
それをぎりぎりで右にかわしベクトル的にもすごい力を持つ
ドアの鋼鉄がガラスを突き破って外へと落ちていった。
俺を殺しかねない威力にぞっとするも体の反射神経に感謝しつつ
反撃に移ろうとしたが、先ほどの考え事で少し鈍った隙を突かれた。
がっちりと俺の両肩を奴は掴んでいた。
「つっかまえった♪」
にたりと歪んだ口元に黒い恐怖を覚えながら抵抗する。
セズクの体重を思いっきり受けた体が軋み
足が耐えれなくなって後ろへと体が傾斜する。
いくら久しぶりのハッスルタイムだからってはしゃぎすぎだハゲ。
俺の両肩を掴んでいる手を両腕で掴み
後ろに倒れる勢いを利用して思いっきり壁へとアホをたたきつけた。
壁にかかっていた花の絵がずり落ちて、気絶しているセズクの頭に当たる。
少しぶつけた腰を押さえつつ
「ったく……」
のびたセズクの頭の上を飛ぶひよこたちを見ないようにして新しい服を
タンスの奥からひっぱりだして着用した。
どうでもいいけどひよこって飛べないよな。
大人になっても飛べないよな。
俺はまじまじとひよこを見つめた。
何で飛んでるわけ、謎極まりない。
ひよこじゃない何かなのか?
深まる謎は置いておいて
セズクが目を覚まさないようにさっさと逃げることにする。
起こさないようにそっと……。
静かに……物音一つたてないように。
「…………甘いよ」
俺がドアから出る寸前真後ろからその声が聞えた。
両肩にセズクの手が触れるのを感じた瞬間
ぐるんと天地が一回転した。
天井が回って、地面が高い。
頭を打つ、と理解して受身を取ったのにもかかわらず
ぽすっとベットの上に俺の体は落ちていた。
「くっ……!」
すかさず立ち上がろうとしたが眉と眉の間。
まぁつまり眉間にセズクの指がぐぐっと頭を押しており
どんだけ力を入れても起きれない。
「じゃあ、いただきまーす」
わさわさとセズクが両手を動かした。
「ちょっ!
おい!!」
下へぐぐっと頭を埋め込んでセズクからの距離を開けると同時に
両手を駆使してセズクの体を押す。
「くのっ……」
ちっくしょぉ。
踏んだり蹴ったりだ。
てか考え事してる場合じゃない。
このまんまだと俺のはじめてが危ない。
「離れ………ろっ!」
一生懸命にセズクの体を引き離そうとがんばる。
セズクはそんな俺の顔を見るとにっと笑い
「………………」
すっと俺から離れた。
「………?」
一瞬ほうけたもののあわてて体を起こす。
セズクは少し歩いて俺から離れたところにある椅子に座り
「――何かあったのかい、波音?」
全てお見通しだと言わんばかりの顔で
セズクは両手を絡ませて唐突に俺に尋ねてきた。
「い、いや……別に……」
何で分かったんだ?
それにアリルを殺すなんて内容を
セズクに……いや誰にも言えるわけがない。
「―――そう?
でも嘘を言っても僕にはすぐに分かるんだよ?」
びしいっと指を突き出してそういった。
否定はしない。
何度もお前は俺の心を読んでるからな。
「本当に何にもないよ。
なんで何かあると思った?」
平常を装って話しかけた。
これでセズクさんの読心術を学ぶことが出来るかもしれない。
「………愛……かな」
バカだった。
まじめな答えが返ってくると思った俺が大バカものだった。
あ、そうですか。
愛ですか。
「愛……?」
「そう、愛だよ」
俺の頬にびしっびしっと少しずつ伸びてきた指が
今の愛の気合でぶにゅっと突き刺さった。
「……で、何だってぇのさ?
一体お前何しに来たんだよ」
その指を払って、俺はセズクを睨んだ。
セズクは「ほほえましいなぁ」と呟いて
「そうふてくされることないだろう?
まぁ十分にその顔も可愛いんだけどね♪
クスクス……」
おい、笑うなホモ野朗。
俺のふてくされた顔はたちまち呆れ顔に変わった。
でもこいつなら……。
もしかしてセズクなら俺の今の気持ち分かってくれるかもしれない。
――駄目でもともと、聞いてみるか。
「……たとえなんだけどさ」
セズク頬杖を突きながら俺をきょとんと見返してきた。
「どうしたんだい?☆」
「例えだよ。
もし、セズクがさ。
愛する人を殺せって言われたらさ。
どうする?」
俺は話していた。
セズクは目を細め、少し驚いた顔をしていた。
俺が急にそんな話をするとは思ってもいなかったのだろう。
急に話す気力が萎えて
「いや、なんでもない。
忘れてくれていいよ」
あわてて話をきろうとした。
だが被せるようにセズクは
「愛する人……ね。
僕には昔、愛する人がいてね……」
そうポツリと口に出した。
確かに聞いたことがある。
ハイライトで俺と二人っきりの射撃訓練中に
セズクは教えてくれた。
「その女の子――言ってなかったかな?
シャロン……っていうんだ。
シャロン・CV・ヴィルクリズ」
俺は嫌いじゃない名前の響きだ。
その名前を出したときうっすらセズクの目に
涙の曇りが見えた気がした。
「僕はその娘を……守ることができなかったんだ。
愛する人を目の前で失ったんだよ」
…………。
セズクは瞳を閉じてふぅと息を吐いた。
おでこに手を当て目を開けたセズクは
「その娘はね、波音。
どうでもいいけどそっくりなんだ」
にっこりと笑っていた。
「は?」
聞き直そうと首をかしげた。
「波音にそっくりなんだよ」
俺?
確かに髪は長いと思うけど……。
それでも女子の髪よりは短いぞ。
完璧に俺男の髪型してるんだぞ?
「そのきょとんとした顔なんて本当にそっくりだ。
僕はもしかしたら……。
シャロンに出来なかったことを……。
波音、君にやっているのかもしれない」
セズクは髪をかきあげた。
「ベットに押し倒すみたいなことをか?」
今しがた押し倒されたベットのしわを伸ばしながら
反駁してみる。
「や……まぁ。
否定は……しないかな。
そ、その話はいいんだよ」
少し赤くなったセズク。
「どの話?」
いじわるっぽく攻めてみる。
「別に僕はシャロンをだね。
あーんなこととかそういうことを
やってみたいな♪なんて思っていたわけじゃないんだ」
「うん」
「ほ、本当だよ?
別にベットがどうのこうの――」
「分かったから、次行け、次」
顔が真っ赤になっている珍しいセズクをはたいた。
脱線した話を軌道に戻す。
「……で、愛する人を殺す……だっけ?」
水差しの水を丸ごと飲み干し
少しこぼれた水を袖で拭った。
うん。
「僕なら絶対に拒否するね」
すまし顔だった。
何の曇りもない。
そうだよな。
そうだよな!!
「……だよな。
でもさ。
もしその一人を助けたら何百万人と死ぬんだったら?」
さっき言ったのと同じすまし顔で
「そんなの簡単だ。
非常に悔しいことなんだけどね。
――愛する人を失うしかないんだ」
セズクはあっけらかんと言い放った。
足元がぐらりと崩れたような感覚がして頭を右手で押さえた。
「なんで……?」
残った左手でベットの布をぐしゃぐしゃに掴んだ。
何か知らんがあげて落とされた気がする。
「……簡単だよ。
個より多を人間は優先するものだからさ。
戦争も例外じゃないんだ。
人間の営みは常に何かを失うことで成り立っているんだよ。
今日はそれが自分の番になっただけのこと。
逆らえない濁流に飲み込まれる番だったってだけのこと」
「…………」
やるせない気持ちだった。
「あ、でも」
俺は完全に沈黙した。
それをみていたたまれなくなったのか
「――失いたくない。
どうしても守りたいなら……守れるよ。
変わりに何かを失うことになるとは思うけど。
じゃあ僕はもう出て行くことにするよ♪」
セズクはそう言ってドアから手を振りながら出て行った。
This story continues.
ありがとうございました。
お気に入りに入れてくれた方、ありがとうございます。
波音にそれそうおうの意味の分からないアドバイスをしたセズク。
彼が部屋を去るときに残した意味の不明な言葉。
波音はその言葉をどう受け止め
どう行動していくのか。
まだまだ精進せんと。
これからもわくわくさせるような小説にしたいです。
どうか応援よろしくお願いします。
では、ここまで読んでいただき
本当にありがとうございました。
(これコピペみたいになってますがちゃんと打ってますよ!)