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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
迫る闇な季節☆
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苦しい将来、迫る闇

「おい、レルバル」


はっきりとした声が後ろから飛んできた。

誰だろうか。

そう思いながら振り返ると

額に脂汗を浮かび上がらせた兵士が俺に手を振っていた。

何か用だろうか。

俺はかがんで地面からてごろな石を一つつまみあげた。

つるつるの感触を少し楽しむとそれを思いっきり海に放り投げる。

水面に波紋が広がって小さな水柱が立った。


「………」


海ともう少しでキスしそうなぐらいに傾いた太陽を眺め

赤い日が戦艦たちを黒く浮かび上がらせていた。

それを見届けると俺は兵士の近くに行った。


「どうしたんで?」


結構俺を探したのであろう兵士は汗を拭かずに

さっさと用を終わらせたいとハキハキ短く完結に俺に用を伝えた。


「シンファクシ元帥がお呼びだ。

 至急」


俺の出番ですか。

一体何だろうか。


「了解……」


小さく呟きまた目を細めて海を見た。

次第に風が強くなってきており帽子を抑えようとしたまさにそのとき

急に吹いた海風が帽子を飛ばし、砂の上に落とした。


「風が強いな」


兵士がそう話しかけてきたのに適当に相槌をうって

ぼんやりと何かを思いながらそれを拾い上げ、砂を払う。

帽子のつばの上に付いた帝国郡の紋章が俺を眺めていた。

綺麗な金色の光が海をただ美しく浮かび上がらせていた。

前髪が風になびく。

軍艦特有のとげとげしいシュルエット。

特異な雰囲気をまとう超兵器。

上空を一機の飛行機が飛んでいた。

緑と赤のランプを光らせながら高度を下げていく。


「おい、急げよ」


兵士にそう言われ後ろから迫る夕闇に追いつかれないうちに

俺はシンファクシのところに行くことにした。






ここで少し愚痴ろうと思う。

何でこんなに遠いわけ?

シンファクシの部屋まで果てしなく遠い。

大げさに言うと十四万八千光年ぐらいあるんじゃないかと思うぐらい。

俺は放射能除去装置――コスモクリーナーでも

取りに某二重惑星にまで歩かされているんじゃないか?

そう思うぐらいに遠いのだ。

一歩一歩道を確かめながら歩いてようやくたどり着いた。

時間にして約三十分、遠すぎて泣けてくる。

そういえば俺のほかにシエラとかは呼ばれているのだろうか。

気になるところだ。

まぁ中にいるだろうきっと。

服の袖は折ってないな、汚れは付いていないな。

念のため隅々まで確かめる。

よし、完璧な服装だ。

しわもない。

ゆっくりとドアをノックした。


「レルバル少佐、参りました」


「うむ入れ」


くぐもったシンファクシの声を確認してノブを回して中に入った。


「参りました」


敬礼する。

今、俺はこの人の部下だから敬意は払わなければならない。

シンファクシは自分の机の上においてある金魚を眺めたまま


「うむ。

 待っていたぞ」


かすれるような声で言った。

めずらしい。

いつもはハキハキとしているというのに。

なぜか今のシンファクシには何か弱ったオーラがあるように思える。

嫌な予感だ。

黙っていたらいつまでたっても用件を良いそうにないので

俺から話を切り出した。


「それで、急な用とは?」


琴線には触れないようにたずねる。

明らかにシンファクシは動揺した。

さっそく触れてしまった。

だが流石は元帥でシンファクシは動揺を抑えると


「……こなして欲しい任務がある」


重苦しくそう話し出した。

はぁ。

まぁそれ以外に俺を呼ぶ意味はないわな。


「――全然OKです。

 それで、一体何です?」


また黙りこくったシンファクシに切り込む形でたずね返した。

なかなか用件を言わないシンファクシに

少しだがいらだちを感じていたこともある。

そんなにためらうことなのか?

メガネの奥の赤紫の目が暗く沈んでいた。


「レルバル。

 お前は我が帝国郡に忠誠を誓うか?」


また重たい雰囲気に止めを刺すようなことを言う。


「はい」


少し間を空けて返事を返した。

忠誠を誓うか?って言われたらはいとしか言えないだろ。

元帥の前でNOなんて言ってみろ。

八つ裂きにされて超兵器の燃料にされちまう。


「なら私の頼みを聞いてくれるはずだ」


回りくどい。

だから俺は何をするんだ?

シンファクシは俺に何をして欲しいんだ?

はやいこと言ってくれないか。

イライラが声には出ないようにしてじっと続きを待つ。

シンファクシは金魚の水槽をデコピンして

指を組んだ。


「ある人物を……殺して欲しい」


…………。


「―――は?」


ぞっと背中に冷たいものが伝った。

何を言ってるんだ、この人は。


「失礼ですが俺は……」


これは断らなきゃいけないだろ。

ココまで無血を貫き通してきたんだから。

間接的になら人を殺したかもしれないけど……。

でも直接手にかけたことはない。

あ、ハイライトのヘリコプターのプロペラを撃ったあれはどうなるんだろう。

ちゃんとパイロット脱出したんだろうか。


「分かっている。

 殺しはやらないんだろ?」


組んだ指の向こうでシンファクシの口が歪んでいた。

笑ってやがる。


「ならなぜ俺に……」


分かっているならなぜ俺に頼むんだ。


「任せれる人間がお前しかいない。

 我々帝国郡が大々的に動くと

 連合郡のやつらを刺激する結果になるからな」


もっともらしい理論だ。

これ以上戦闘が激化したらたまらないからな。


「特殊部隊とかで……」


隠密が仕事の奴に頼めばいいじゃないか。

別に俺を使わなくとも。


「それが出来たら苦労はしない。

 詳しいことはあまり言えないが動かせない状況にあるのだ。

 つい先日の話になる。

 我が軍はミサイルによる連合郡軍事衛星の破壊を試みたのだ。

 だが失敗した。

 このことが余計に連合郡を刺激する結果となり

 今現在二十四時間ずっと監視を受け続けている」


そうやって分かるのはやっぱりスパイがいるからなんだろうな。

連合郡に帝国郡が監視されるのは当然かもしれない。

俺達が連合郡からあの装置をうばったとなるとなおさら。

メガデデス級をはるかに上回るヴォルニーエル級まで出てきたのだから。

連合郡の帝国郡に対する警戒は今までにないほど厳しいものとなっている……と。

当然隠密部隊なんて送り込もうとするそぶりを見せたら

よりいっそうターゲットの周りの監視は強力なものになる。


「当然、シエラ、メイナもマークされている。

 あの二人が行く所勝利しかないからな。

 そこで、貴官の出番というわけだ」


やっぱりマークされているよな。


「……」


「ひどい任務なのは分かっている。

 だが、こいつをなんとかしない限り戦争は終わらない。

 このままだと、シエラとメイナがいようと

 帝国郡は連合郡に時間も無く潰される。

 ここからあの艦隊が見えるか?

 帝国郡にはもう海上戦力はあの艦隊しか残っていない。

 陸軍、空軍も消費が激しく戦線は簡単に拡張できないのも事実だ。

 つまり私達は今完璧なまでに追い詰められている。

 ここに爆撃機が来るのも時間の問題だ。

 今までは迎撃することが出来ていたが

 最近ではそれもままならなくなってきている」


そんなに追い詰められていたのか。

棒切れと戦車(だったか?)ぐらいにまで差が開いている

連合郡と帝国郡の技術の差はとても埋めれるものではない。

圧倒的な技術力と財をもつ連合郡は弱体化してゆく帝国郡に

もうじき止めをさせるところまできているのだろう。

だから何としてでもヴォルニーエルという超兵器を取り出す必要があった。

少しでも多くの希望を持っていたいから。

勝利をつかめても連合郡の一部を削っただけという虚しさは

帝国郡の士気をも低下させていたに違いない。

泥沼というよりは一方的な虐殺。

それを止め、巻き返すことが出来る鍵がこいつなのだと。

たった二十の国の集まりの連合郡が

百六十もの国の集まりの帝国郡に勝てるわけがないという先入観も

今ではもうこなごなに打ち砕かれてしまった。

そうシンファクシは語った。


「つまり、戦争を起こしている張本人を殺せと?」


「いや、そこまでは行かないのだが……。

 我々が連合郡のとある奴の言うことを聞かせるため……

 とでも言った方が良いだろうか?」


ふぅむとシンファクシは唸った。


「でも俺は人殺しは……。

 失礼します」


そういって後ろに三歩下がりドアノブに手をかけた。


「お前の両親を殺した奴に関係があると言ったら?」


俺は部屋から出かけた足を止めた。

振り向く。


「どういうことですか?」


シンファクシは指を組むのをやめて背もたれに

ぎっと深くもたれかかった。


「お前の両親が鬼灯と仲良しだったのは知っているな?」


鬼灯って、おっさんだよな?


「はい」


「今からお前が狙うことになる標的の親は

 鬼灯にとっての数少ない心許せる親友……。

 そう、永久家の人間を」


シンファクシがコーヒーを一口飲んだ。


「まとめて殺すように指示を出したのだ。

 次はお前の家族だと脅迫を突きつけた上でな。

 そうやって恐怖で人を従わせる」


「…………」


つまり俺の家族は……おっさんを脅すために

標的の親によって殺されたと……?

ただの脅しのために。

俺の家族は……。

俺の顔色が変わったのを悟ったか

シンファクシが一気においつめてきた。


「鬼灯は妻と親友を一度に失ったことから分かるな?

 決して、鬼灯は屈しなかった。

 あくまでもベルカ守護四族の一員として裏切らなかった。

 もし鬼灯が連合郡に負けていたら……。

 財閥の財力、権力を使ってこのアフリカの地には核の炎が揺れていただろう」


「…………」


「その張本人の娘が標的だ。

 私の父、母をも殺したあいつの娘を殺し

 あいつに同じ苦しみを味わわせるのだ。

 そして帝国郡の操り人形となってもらう。

 そのために必要な犠牲となってもらうのだ」


シンファクシの目に怒りの色が灯っていた。

俺の家族を殺し、おっさんの家族。

そしてシンファクシの両親までもを……。

許さない。

絶対に許さない。

相手側のミスじゃない。

連合郡の故意な殺人。


「で、誰なんだ?

 俺が殺す標的は」


俺の声は 自分でも驚くほど冷静だった。

冷たい怒りがじりじりと心臓を焦がしていた。


「やってくれるか」


シンファクシは引き出しから一枚の写真を取り出し、俺に渡した。

ぺらっと表を向けた瞬間俺の表情は凍った。


「――っ!」


……なんで?

そんな…………嘘だろ?

アリル――!


「そいつを殺すんだ。

 そうしないと私、そして天国の両親も浮かばれない」


「し、しかし……」


「どうした?」


「いえ……失礼します」


「――頼んだぞ」


俺は廊下に出ると大きなため息をついた。

アリルの父があんな……。

嘘と思いたい現実だった。






              This story continues.

ありがとうございました。

殺しを頼まれた波音。

自分の掟にしたがうのか。

それとも……屈するのか。


自分の愛している人を。

――殺せるのか?


では、ここまで読んでいただきありがとうございました。

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