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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
帝国群な季節☆
87/210

ケーキ=砂糖の塊

『それで――どうしたんですか?

 急に黙って……』


「ん?

 いや……大丈夫。

 続けてくれ」


そう答えた俺の声は見事に上ずっていた。

完璧に動揺が伝わったに違いない。


『……?』


不思議に思ったのかアリルまでもが黙ってしまい

気まずい沈黙が満たされてきた。

なんでこう俺は下手なんだ。

何か話題は……。

この気まずい雰囲気を消し飛ばせる話題――。

今感じている不安の解消法でも聞いてみるか。


「……あのさ」


気まずい沈黙にそっとメスを入れた。


『?』


「嫌な予感がさ」


『はい』


切れ切れでだが俺は何かを確かめるように

ゆっくりと確実にアリルに話しかけていた。


「嫌な予感……ってか胸騒ぎがおさまらなかったらさ。

 どうしてる?」


どうしてる?って聞く俺もどうかしてる。

というか学校の話してたのにいきなりこんな話を

突きつけられたアリルは混乱するんじゃないだろうか。


『んー、そうですね。

 一番効果が高いのは……甘いものでも食べることですかね』


アリルはしばらく黙り込んだあとそう教えてくれた。

率直な感想としては女子だと再認識した。

あいにく俺は甘いものあんまり好きじゃない。

ただ一つアイスは別だぞ、アイスは。

あれはすばらしい。


「やってみる。

 他には?」


『寝たり……?

 とかですかね』


ね、寝るのか……。


『波音君なら寝るだけで治ってしまいそうですし……。

 私は寝ても治らないと思いますけど』


ああ、つまり俺は常々寝ているようなお間抜けだと。

そういいたいんだろう。

悪いか、俺は寝ることが大好きだ。


「――そうか」


ちょっとがっかりした感じの声で返してみた。


『っと、もうこんな時間。

 私学校に行くので切りますね』


時計を見ると八時。

確かに学校の時間だな。


「おう。

 ありがとうな」


お礼をしっかり言って


『どういたしまして♪ 

 では』


電話の切断ボタンを押した。

甘いもの、寝る(俺限定かもしれない)……か。

よし、ちょっとやってみるか。

俺は小走りで食堂に舞い戻った。

通り過ぎるガチムチ兄さんたちに変な目で見られたけど

あまり気にしないようにしよう。

はじめのうきうき気分がごっそり削げ落ちたテンションで

食堂のドアを開けた。


「あっ!

 どこ行ってた?」


肩に乗せたルファーを机において

俺は人数がすっかり減った食堂の中央テーブルに座った。

それを見つけたシエラがよってくる。


「甘いものが食べたくて。

 それもたくさん。

 持ってきてくれ」


びしっと指を一本立てて注文した。

シエラは目をまんまるにして


「波音も甘いもの食べるんだ……」


とつぶやきながらもショートケーキを持ってきてくれた。


「おかわりは自由じゃけんね~」


愛想のいいおばちゃんが俺に手を振る。

あざっす。

あまり食べたことがないからどんな味かすら忘れてた。

とりあえずいただきます。

ショートケーキにフォークをぶすり。


「にー」


ルファーの口に苺を入れてやった。

おそるおそる口に入れる。


「…………」


シエラがじっとこっちを見ていた。

気になる。


「なんだよ」


「いや……」


変なやつだな。

ショートケーキの感想だがただただ甘い。

甘すぎる。


「甘ッ!

 なんでこんなに甘いんだよ!」


シエラを少しにらみつけた。


「えっ……だって。

 ――ショートケーキだし」


僕なにか悪いことした?

とでも尋ねたげな目をして俺を困惑の色で認識している。

ごもっともな意見である。


「もういっこ食べる」


「えっ、わ、わかった……」


また苺をルファーに与え平らげた皿をどかせる。

使いまわしのフォークでショートケーキを削り食べ削り食べる。

なんだかんだで文句を垂れつつ結局五個ぐらい平らげた。

その勢いといったら。

途中でやってきたメイナが引くぐらいのスピードでショートケーキと

口の間を往復したのだ。

食堂でケーキと奮闘すること約二十分。

俺は無事に勝利を収めて個室への道を歩いていた。

ちなみにこの個室、ミッション成功のご褒美みたいなもので

幹部クラスの部屋を一つもらったのだ。

うっぷぃ。

胃の中に大量の砂糖をつめこんだので

満足してお腹をさすりつつ俺は睡眠のために個室に向かっていた。

えーと、ここだ。

『レルバル少佐』と書かれた八二号室。

渡されたカードでロックを外し開いたドアをくぐった。

何のことはない。

ベットが一つ、テレビ、パソコン、冷蔵庫、タンス。

それと小さなシャワー室があるだけだった。

部屋の割合に不釣合いな小ささの窓の下には

青い海がずーっと広がっていた。

窓を開けると潮の香りがつんと昇ってきた。

タンスをあけパジャマを引っ張り出す。

布団に入る前にパジャマに着替えるのはもはやマナーだろう。

結構軟らかい布団に入り、肺から空気を抜いた。

海の音が耳に心地よい。

これはぐっすり眠れ……うっ。

気がついてしまった。

体がべたべたするじゃないかよ……。

やっと居心地の良い姿勢が見つかったというのに。

俺はベットから重々しく起き上がった。

脱衣所で下着を全てを脱ぎ捨て

風呂場のシャワーのパイプを捻る。

ぼーっとお湯が流れるのを眺めつつ

温度を確かめるという意味で足先を浸してみた。

ちょうどいい温度だったので椅子に腰掛けつつ湯を浴びる。

湯気でうっすら白がかかった視界を自分の体に向けた。

別に何のことはない。

いつもどおりの万全な自分の体が水を滴らしているだけだった。

そういえば白人は腋臭が多いって聞いたんだが本当なんだろうか。

なぜかセズクが頭に浮かび苦笑して頭をお湯の中に入れた。

他でもお湯を使っていたのか急にお湯の温度が上がって

あわててシャワーの先を他のところに追いやった。


「あっつ……」


少し水をプラスしてシャワーの雨にダイブした。

ほかほかと良い湯だ。

何も考えずにこうやってぼけっとしているのが

個人的に一番好きだったりする。

ボディーソープの柔らかな臭いの石鹸を取り

体中にぬりたくってタオルでごしごしこする。

泡が隅々までいきわたるとまた一息ついた。

緑色の容器からシャンプーを手に押し出し

頭に塗ってあわ立てる。

泡が入らないように目を閉じた。

妙な胸騒ぎはおさまってきてはいた。

ただの一瞬の気の紛れだったんだろう。

それが一番良いポジションにある理由だった。

俺の家は無事なんだろうか。

ふと家のぬくもりが思い出された。

新聞で見た俺の家のある場所は唯一赤く塗られていたところ。

一番被害の大きいところだ。

パソコンとかもあったんだけどなぁ。

それに家族の、姉ちゃんとかの写真とかも。

あまり覚えてないけどそこに俺の家族は確かにいたんだよなぁ。

仁には考古学者の親父さんがいるし。

連合郡のアホ。

変な気持ちを泡と一緒に水に流した。

シャワー室から出てバスタオルで体、頭を拭く。

椅子にかけてあったパジャマをはおり、ベットに飛び込んだ。

疲れていた。

やっぱり。

あっという間に眠気が襲ってきた。

風邪を引いたらかなわないのでむそっと起き上がり

開いている窓を閉めるついでにカーテンを閉め、クーラーを入れる。

よし寝るぞ。


「ふぅ…………」


天井を眺めるも間もなく、ぐっすりと眠りの渦に巻き込まれた。






んで、目がさめたら午後六時だった。

九時ぐらいに寝たから約九時間。

その間ずっと、布団の中でごろんごろんしていたことになる。

妙な胸騒ぎは落ち着きを見せ、カーテンの隙間からは

オレンジ色の夕日が壁に細長く伸びていた。

ぼさぼさになった髪をくしでとかして整える。

なんとなく気分がのったので俺はパジャマから

軍服に着替えて外に、港に行ってみた。

たくさんのかもめが空を舞い、小さな白い漁船が並んでいる。

その人たちが帝国郡の紋章の入った服を着ていなかったら

どこか寂れた漁村と間違えただろう。

水平線より少し上にいる太陽に照らされ

キラキラと水の反射を返す海は澄んだ色をして

俺のとどめない不安を一度、また一度と波が押し寄せるたび

薄めていってくれているようだった。

ヒビの入ったコンクリートに

大小たくさんの貝が付着していて、かにがその上を歩いている。

ガスタービンの煙を吐きながらミサイル巡洋艦が遠くに

黒い影となって滑っていた。

その後ろに戦艦などが続いている。

低い汽笛が夕日に響きかもめの群れがぱっと散った。

かもめの姿を目で追い鋼鉄の城達に目線を落とす。

遠くに見える人差し指ほどの大きさでも

奇妙な形をした艦に視線が止まるのは必然だった。


『ヴォルニーエル』


今、その超兵器は水上に浮かびその翼を休めていた。

所々で火花が散っている。

おそらく修理中か何かなのだろう。


「ベルカ……か」


口に出したはいいものの

その言葉は行き場所を無くしてやがて地面に落ちた。

俺の靴の上をかにが一匹歩いていた。






               This story continues.

ありがとうございました。

お気に入りにいれてくれた、方。

もっと気に入ってくれるようにがんばっていきたいと思います。


それでは。

本当にありがとうございました。


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