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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
帝国群な季節☆
86/210

ふとしたこと

コーヒーと一緒に運ばれてきたサンドイッチを口に入れる。

よく考えたら俺サンドイッチまた食べてるやん。

昨日もトラックの中で食べたぞ。

しかも狙ったかのようにハムやし。


「にー」


俺の腕にスリスリしてサンドイッチをねだるルファーに

仕方無しにパンだけ与えながらコーヒーをすする。

にっがぁ……。

テーブルの端の白い容器を開け二つの角砂糖を投下。

スプーンでかき混ぜる。


「新聞いる?」


「いる」


ミルクもたっぷり入れ、混濁した色になったコーヒーをわきに置いて

シエラが俺に渡した帝国郡新聞を広げた。


「あ、僕のりんごが」


小さな悲鳴が横で上がりセズクがショックそうな顔をした。

ルファーがセズクのりんごをかじりにかじっているらしい。

いらっとしたようにセズクが皿の上でころころ転がるルファーをつまみ上げ

でこぴんを食らわそうと指を曲げた。

そして射撃用意の号令、弾が発射される。


「あうたぁー!」


弾はがっちりと捕獲されてしまっていた。

指が伸びた刹那、ルファーが口をあけセズク指に噛み付いたのだ。


「こいつ……」


涙目になりながらもセズクはルファーを机の上に戻して

少し離れると食堂のおばちゃんに新しいりんごを頼んでいた。

俺はすっかり苦味の抜けたコーヒーを飲み干すとほとんど読んでいない新聞に目を落とした。

ベルカ語でかかれてるじゃないですか。

もし俺が小さいときからずっぷりおっさんに教えられてなかったら

この新聞なんてとてもじゃないけど読めないだろう。

それに皆はちゃんと読めて……るんだよな。

まぁ別にいいか、言葉なんて曖昧なもんだ。

考えるだけ無駄ですな。

と、肝心の内容は……と。


『爆撃の街。

 死者二千二百人。

 重傷者五千人突破か?』


重たい。

上のような大見出しが二ページ目にきていた。

ちなみに一ページ目は装置についてのことだ。

建物の中に運ばれていく例の装置が大写真で載っている。

なぜ一番の貢献者である俺の写真がないのかが多少なりの不満だったが

別に目立つことはあまり好きじゃないので五分五分でよしとしよう。

それよりも二ページ目のこの重たい見出しだ。

俺は記憶の中にある爆撃の光景をひっぱり起こして記事を斜め読みした。

日本帝国、中部州鯵江市の縮小地図が

建物が多々残っているのみとなったのをあらわす写真の隣に鎮座していた。

俺が住んでいたところは真っ赤に染まっている。

九十パーセント以上が消失してしまった唯一の場所らしい。

説明書きによると。

鬼灯のおっさんのビルもきっと無事では済んでいないだろう。

頭に付着してきた死のイメージを拭い去る。

今回の爆撃により何が変わったのかというと簡単で

連合郡内では国民の危険意識の上昇により

減り続けていた軍事費の大幅増加が認められたようだ。

迎撃にでた戦闘機はどうなのかとかどうのこうのの一部から批判は出ているものの

政府の言うことに絶対的な信用を置くようになっている国民は

疑うことすらせずに政府の言っていることを鵜呑みにするだろう。

金のためだけに自国の領土に爆撃をするさまは

愚かの一言に尽きるというかもうコントといってもいいのではないだろうか。

踊らされる側に踊らされる側が見事に踊らされている。

見事なまでの連携プレーだ。

新聞を折りたたみコーヒーのお変わりを受け取りに行こうと立ったときだった。

ふと今、ある約束を思い出した。

そうだ、アリルに全てを話さなければならない。

うぎゃー嫌だ。

だって絶対俺なじられる。

ちぎっては投げ、ちぎっては投げされる。

四肢に五トントラックをぶら下げられたような

ずんとした重みを感じつつ

空になったコーヒーカップの底をぼんやりと見つめる。

俺は腕を伸ばしてりんごをむさぼるルファーをむんずと鷲掴みすると

足早に食堂をあとにした。

何人かの兵とすれ違いながら出来るだけ

人気がない休憩所のベンチを探し出し腰掛ける。

電話帳を開き、アリルを選択する。

そのまま通話ボタンを押して朝日を返す液晶を見つめる。

三回ほどのベルが鳴ると

『呼び出し中』から『通話中』に液晶表示が変わった。

俺も男だ。

よし、こい。

心を決める。


『はい?』


「あ、もしもし俺だけど」


『名前出てるんで分かりますよ?

 いちいち言わなくても大丈夫です。

 それにオレオレ詐欺なんていまどきもうはやりませんよ?』


「もしもし、わしだけど」


『わしわし詐欺ももう無理かもしれませんね。

 それで約束を果たしに電話してきてくれたんですよね?』


いたって普通の会話にしか見えないだろうがこれ実際は全然違う。

声の凄みとか本当にヤバイ。

うひゃぁああ……怖い、怖いよ。

母ちゃん助けて!と叫びたくなるほど。


「あ、あのー……」


恐怖に打ち勝つんだ。

それしか方法はない。

がんばるんだ俺。

ふぁいと、自分えいえいおー!


『約束でしたよね、

 全てを話すって。

 ずっと待ってたんですよ。

 あの倉庫で約束してからずーっと。

 それで一体どんなことを私に教えてくれるんですか?

 期待してますよ』


もうくじけそう。

話すものを屈服させるようなすっごい重力だ。

光すら吸い込むのではないかと思わせるほどの――。

まるでブラックホール。

アリルブラックホールだ。


「話すと長いんだ」


ため息交じりに言ってみた。

あきらめてくれないか、これで。


『どうぞ』


「…………」


もくろみはたった三文字で打ち砕かれた。

電話でよかった。

もし面と向かってだったら俺は耐え切れない。

逆に聞きたい、耐えれる奴いる?

アリルブラックホールの前ではすべてが吸い込まれる以外の

選択肢というものを残していない。

つまりあり地獄。

たとえ悪いけど。


「じつは……」


もうずっと待たせている。

話すしかないのだ。

俺は話した。

シエラたちのこと。

ベルカ、超兵器。

そしてバイトのこと。


『それであそこに……』


話し終わるまでには大体三十分ほどかかった。

途中ちょくちょく冗談を交えながら話していた為

あまり疲れは感じなかったが喉が痛い。


「……警察に通報するならしてくれてもいい」


通報するなら俺はあきらめて牢に入ろうと思う。


『いや、しませんけど。

 何で自分から彼氏を失うようなことをしなければならないんですか。

 それにしても――たまに新聞とかに載るレルバルって人波音君だったんですねぇ』


どこか面白そうに話している。

俺は話し疲れたため相槌のみしかうてない。


「……うん」


『――なんか嬉しいかもしれませんね』


えっ?

いや常々少しおかしいところがあるとは思っていたが……。


『私だけしか知らないことを波音君が教えてくれた。

 秘密を共有するのって楽しいと思いませんか?』


「ま、まぁ……」


一理あるっちゃあるか。


『それにやっと話してくれました。

 ここでも嘘をつかれるんじゃないかと心配でしたが……。

 そんなことなくてよかったです。

 正直に話してくれてありがとうございました』


何にもいえなかった。

ここまであっさり受け入れてくれるとは。

俺は予想もしていなかった。

少なくとも少しぐらいは難航すると思っていた。

見事に良い意味で期待を裏切ってくれた。


『それで、いつ帰ってくるんですか?

 あと一週間で文化祭だそうですよ?』


……学校か。

たまには行くとしよう。


『まぁ校舎は多少なり壊れてしまったみたいですけど。

 青空教室と同じ類で青空文化祭をやるみたいです』


こちょこちょと鼻をくすぐった学校生活の一部だった。

文化祭か、中学校とは比べ物にならないぐらいに

大きい催しがたっくさんあるんだろうなぁ。


「そっか、

 わかった。

 今週中にでも帰る事にするさ。

 てかアリルはもういるのか?

 鯵江市に」


「えぇもう帰ってますよ。

 帝国郡の下手な爆撃のおかげで

 家も綺麗さっぱり無事です」


「そっか」


連合郡幹部のお家に連合郡が爆撃をするわけにはいかないもんな。


「詩乃とかは無事なのか?」


『――みんな無事ですよ。

 私の家のシェルターでかくまっていたので』


よかった。

クラスメイトは皆生きている。

遼や冬蝉、彗人兄さんも生きている。

マダムも生きてるに違いない。

というかあの人が死ぬわけがない。

知らず知らずのうちに俺はルファーを

ぎゅっと握り締めていた。


「に……に?」


嬉しいはずなのになんだろうか。

胸の端に巣くっていた不安はじりじりとその領土を広げつつあった。






                This story continues.

ありがとうございました。

ここまで続いてきましたがいやはや・・・。

大変でした。


それ以上にこれを読んでくださる方。

ポイントを入れてくれたりお気に入りに入れてくれたりしてくださる方。


あなた様が来てくれるからがんばれます。

絶対に感動の作品にしあげてやるぜ!


のでお付き合いくださると嬉しいです。

よしっ。

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