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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
帝国群な季節☆
85/210

飛行機雲

ヴォルニーエルの艦首が青い澄んだ海を割り

次に緑色に塗られた喫水下が海に沈みこんでゆく。

静かに波をたてながらヴォルニーエルは桟橋から

約四百メートルほど離れたところに停船した。

艦首と艦尾に付いたE字型の錨が海面に落とされ小さく水柱が立つ。

艦橋のハッチが開いて中からシンファクシが出てきた。

小さくてもよく分かる。

あいからわずぴっちりと服を着こなし、メガネをかけた姿は

こっちに手を振っていた。


『元帥のお帰りだ。

 幹部は直ちに第一集会場に集まるように』


そばに立っていたスピーカーから美声が響きマックスが

デコにかかった金髪を撫でる。


「さて、じゃあ第一集会場へ向かうとするか」


マックスが俺の背中を押すようにして誘う。


「ん……分かった」


俺はマックスの後ろを離れないようにして

とことこ帝国郡の中のひときわ大きな建物の中に入った。

広いも広い。

ひんやりとアフリカらしくない空気を溜め込んだ木造の建物の中は

中が本当に広いのだ。

もともとは乾ドックだったのだから広いのは当然といえば当然だけどな。

ここで戦艦や駆逐艦が作られていたと考えるとすごく胸が躍る。

まだかすかに潮の香りが残っており、天井にある無数の窓から

やわらかい太陽の光が斜めに差し込んでいる。

軍事基地にはいささか合わない穏やかな景色だったがすぐにそこも

わいわいと入ってきたむさくるしい猛者たちが並ぶ場所に変わった。

もちろんその中に俺も仁もマックスもいる。

シエラとかは特別席が用意されている。

中将だから。

くそっ……!

俺は少佐だからのんびりと地面に起立しているわけだ。

シンファクシは陽光の中、元クレーンだったであろう

鉄骨の上に立つとぐるりと少佐から大将までの

いわゆる幹部がならぶ集会場を見回した。


「作戦は成功した。

 これより我が帝国郡は連合郡への復讐へうってでることとなる」


わっと歓声が上がった。


「私達は装置を手に入れた。

 そして一つ超兵器を持っている。

 力には力を持って対抗するべきだった。

 だが今まで我が軍にはそれすら許されてこなかった」


シンファクシはメガネを外して天井を見た。

その先には無くなった英霊などが見えているのだろう。

キッと目を見開き


「だがもう違う。

 我々は――力を!

 連合郡を破滅させれるほどの力を手に入れたのだ。

 諸君、我々の夜明けは間違いなく近い。

 世界に再びベルカの――故郷の旗を立てようではないか。

 世界に寄生しているゴミを掃除してな。

 ――こほん。

 さて、生産部門から割り当てを改めて決めて行きたいと思う」


余談なのだが帝国郡は

戦闘部門、開発部門、医療部門、生産部門など大きく四つに分かれている。

戦闘部門は空軍や海軍、陸軍などこれまた三つに分かれ

空軍は戦闘機管理機関、輸送機管理機関など。

海軍は輸送部隊、戦艦部隊、機動部隊などに細かく分かれていく。

それら全てをまとめているのが最高司令官にして元帥のシンファクシだ。

ちなみに戦闘部門空軍輸送機管理機関(長いなぁおい)の最高責任者がマックスで

医療部門全体の最高責任者がラフファクシらしい。

ラフファクシを覚えている方いるのだろうか。

分かる?

あの再生カプセルの人。

シンファクシの双子のあの人。

シンファクシとラフファクシ、マックス。

――なんか一人浮いている気がしてならない。

……輸送機部門なだけに。

どうですか、このギャグ。

自分的には結構気に入っているんだぜ?


「……によってそこのレルバル少佐により

 この装置は手に入れることが出来た」


ぼけーっとしていたおかげでまったく聞いていなかった。

シンファクシが俺を指していて少将や大佐達の目が俺を射抜いている。

ここに上がって来いといわんばかりにシンファクシの指が激しく上下していた。

あわてて隣のマックスを見てその横の仁に視線を平行移動させた。

二人とも小さく口を

「がんばれ」

の形に動かすのみ。

えぇー……。

俺今からあの上に行くんだよ。

何かアドバイスとか……ないの?

俺は覚悟を決め一歩踏み出した。

「すいません」といいながら屈強な男達の森を通り抜け

シンファクシのいる台の上にたどり着く。


「こっちこい」


ぐいと袖を引っ張られかなり近くにまで寄せられた。


「全員、聞け。

 こいつがレルバル少佐だ」


頭に手がぽんと置かれた。

シンファクシ身長高い。

一八〇センチあるんじゃないか、この人。


「まだ若い、一六歳だ。

 だがこんなに大きなことをやりとげた。

 子供の力を借りてまで得たこの力だ。

 これを絶対に忘れるな。

 私達が出来ないわけがない。

 こいつのおかげで……」


この後三分ぐらいで演説は終わった。

あまり長くはない。

長い演説は校長先生で十分だ。

全員解散の命が下り、屈強な男達が回れ右をして

自分達の所属の所へと戻ってゆく。

きびきびとしたその動きを眺めながら俺はシンファクシに話しかけた。


「あの装置にそこまでの価値があるので?」


シンファクシは髪をさらっと揺らして外していたメガネをかけた。

シエラと同じ赤紫の目が細まり


「説明しなかったか?」


笑いを含んだ声が返ってきた。


「私は一度言ったことは二度も言わない主義でな。

 ――この装置はなナクナニア超光を生み出すための

 重要な位置部品なんだよ。

 今まで連合郡の奴らに圧倒されていた戦況を

 これで覆すことが出来るほどの価値がある。

 我らの勝利を握る鍵といってもいい」


結局言ってるじゃないですか。

シンファクシは虚空に目をむけ


「分かった?」


と諭す様に言った。


「は、はぁ……」


と生返事を返すと


「前にあったときは部下ではなかったから丁寧に接したが

 今はもう私の部下だからな、少佐は。

 これからもまた任務についてもらうときが来るだろう。 

 そのときはよろしく頼む」


まだ若い顔に苦労の色が浮かんだ。


「今回見たいに無茶苦茶な展開にならないならお受けしますよ」


俺はやれやれと胸についた勲章をいじりながら答えた。

今回の作戦の成功によってシンファクシから与えられたものだ。


「心配するな。

 それほど大事なことを高校生に任せる気はない。

 それもまだ十六歳の若者には……な」


シンファクシはそういって何か言いたげな目を向けた。

俺は首をかしげ「何か?」と述べたが


「いや……」


とシンファクシは顔を背け、階段から降りていってしまった。

何かざらついた感触が残り俺はそのままシンファクシが

第一集会場からその姿を消すまで鉄骨に腰掛けた。

大体五分ほどひんやりした空気を楽しむと

俺は集会所から出て綺麗な青に染まった空を見上げた

どこまでも突き抜けるような快晴。

ごうと空気を震わせ、上空を哨戒している一機の戦闘機が飛んでいく。

一本の白い筋がその後を追う様にしてついて行き

太陽が昇った空に白い絵の具を塗りたくった。


挿絵(By みてみん)


携帯をポケットから取り出して時間を確認する。

午前七時半。

あと三十分ほどで朝飯の時間になる。

もうこんな時間か。

俺は近くに海があるため多々潮を含んだ甘ったるい空気を胸いっぱいに吸い込み

食堂へ行こうと歩き出した。

重いエンジン音が響いたのはそのときだ。

耳を振るわせるその音は確実に近づいていた。

四機のエンジンをそなえ、黒く電波吸収剤で塗られた大型機が

その機体をこすり付けるようにして滑走路に着陸した。

まだ完全に止まっていないうちにドアが開き、ジョンとおっさんが出てくる。

二人は談笑していたもののどこか思いつめたような目をしておいり

手を振っている俺に気がつかずに建物の中に入っていってしまった。

何か物寂しさを感じながらその二人を目で追っていたが

そのおかげでジョンの持っていた黒い鞄から一枚の紙が落ち

無風の熱を持ち始めた滑走路にへばりついたのを見過ごさなかった。

俺は着陸する戦闘機などが来ないのを確認してその紙を拾い上げる。


「?」


『伝説についての考察』


と明朝体で書かれたその紙には誰もが知っているあの絵本の

伝説についての解釈が書かれていた。


「大切なものが消えるとき

   三つの死は姿をあらわす。

    死は力を使い地上を無に戻す。

      死は鬼神となり

       恐怖の中で消えていく。

        大切なものを失った悲しみと共に」


改めて見てみるとこの死ってのはかなり自分勝手だな。

大切な物が消えそうならその力を使って守れば良いのに。

絵本ではどうだったけか……?


『この伝説は約五千年まえから今日に至るまで世界中に知られている。

 この時代は……』


伝説――か。

中途半端な所で終わっている紙の裏をめくり続きを探した。

だが文字一つ書かれていない白い裏面が太陽光を照らし返しただけだった。

俺は紙をそのうちジョンに渡すためにポケットに入れた。


『騎士団の栄光』


何でそんなおとぎばなしをジョンが論文にしてまで

熱心に研究しているのかは知らないがどうせろくな物ではないだろう。

三つの死とか書かれている時点で胡散臭い。

前まで俺は三つの死はシエラとかメイナの最終兵器――と

考えていたんだがどうなんだろうか。

この伝説どおりに行けばあの二人は世界を滅ぼすだろう。

とめることが出来る奴なんて誰一人いるわけがない。

大切な物なんてあいつらにあるのか?

そういえば昔セズクは連合郡が俺を殺しに来るとか言っていたが……。

大切な物ってもしかしたら俺――?

連合郡は俺という存在を消すことによって一度世界を掃除しようとしている……?

そんなバカな。

ジェットエンジンが焼けた空気を吐き出す音を聞きつけて俺は

あわてて思考の渦から抜け出した。

滑走路脇に移動して戦闘機のタイヤが滑走路を舐めるのを見物する。

気温は徐々に上がりはじめ

既にしっとりと汗ばんだ体が涼を求めていた。

嫌な予想だ。

物事が全て伝説どおりに進むわけがない。

ばかばかしい。

俺はため息と同時にその考察を吐き出した。


「波音、早く来いよ。

 皆まってんだぞ」


振り返ると仁が胸に光る俺と同じ勲章をつけた体を

ボードで扇ぎながら手を振って来た。


「ほいほい」


一滴垂れた汗を掌でぬぐい、俺は仁に続いて食堂へ入った。

自動ドアを通り抜けこれまた広い食堂を見回して顔なじみを探す。

俺達と同じ勲章をつけたセズクがいたので

その隣によいしょと腰掛けた。


「何食べる?」


人数分の氷水を運んできたメイナが聞いた。

俺は机の上を眺めてメニューを探す。


「にー」


机の上でルファーが転がりながら置かれたコップの

水を飲もうとぴょんぴょん跳ねていた。

どこに行ったのか分からなかったがここにいやがったか。


「メニューは?」


ルファーが大きく開けた口の中に水を少しずつ流し込んでやりつつ

セズクに聞いた。


「これ」


紙一重。

頬をかすめてメニューが突き出された。

あ、あぶねぇ。

紙で手を切ったことのある人はいるだろう。

だが俺は小さい頃メニューの薄い保護プラスチックで手を切ったことがある。

かなりざっくり言ったため今でもトラウマと化していて

メニューを扱うときは慎重に扱うようにしているのだ。

それを……このバカ最終兵器シエラは

のほほんとした顔で俺にメニューを突き出した姿勢のまま立っているのだ。


「さ、さんきゅ……」


怒るにも怒れず俺は萎えた戦意を机にメニューを叩きつけることで発散した。

プラスチックの中に紙が挟まれた『朝食めにう』と書かれたメニューに

写真つきで載っている食べ物を物色する。

どれもおいしそうで迷う。

たっぷり三十秒は悩む。

――よし、サンドイッチにしよう。






             This story continues.

どうもありがとうございました。

今回はのんびりとした空気――?

なのかな。


をかもし出してみました。

どうでしたか?

ようやく訪れた平和。

波音はいったい次はどのような流れに巻き込まれるのか。

楽しみにしていてください。


それでは。

できたてほかほかをお届けしました。

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