はりきる戦闘神
《敵もイージスを持っているという報告は本当だったか!
弾が全然当たらないではないか!》
まだイージスを持っていると疑っていたのか敵さんは。
ホドデデスに侵入した時点で気づいてたと思ってた。
メイナのカーナビが見えない道を照らす。
これがなきゃ運転なんてとても出来ない。
なぜかって?
答えは簡単、道が暗すぎて見えない。
ライトつけたところで変化があるとは思えない暗さだ。
あっ。
そうか、ライトつければいいんだ。
道理で暗すぎると思った。
でもライトをつけることによりもっと位置が
敵に分かりやすくなるんじゃないだろうか。
ちら、とサイドミラーで追いかけてくる二機を確認する。
その巨体のあちこちで発砲の光をちらつかせながら追ってくる。
その様子はまさに死神のごとくで、百%勝てなそうにない。
オクトパスミサイルは二発ぐらいしか残ってないし
完璧に詰みの状態である。
でもそんなことでも出来ることが一つ。
逃げることだ。
三十六計、逃げるに如かずって言うだろ?
三十六計逃げるに如かず
①〔補説〕 南史(王敬則伝)
作戦はいろいろあるにも関らず逃げるべきときには逃げて身の安全を確保し
のちの再挙を図るのが最上の策であるということ。
②(転じて)
面倒な事からは手を引き逃げるのが一番よい、というたとえ話。
ようするに逃げるが勝ちということ。
この場合①が適応されるだろう。
作戦?
あぁ、あるにはあったんだけど全部真っ白になっちまったわ。
さてと。
この整備されていないがたがた道をトラックごと跳ねながらとにかく逃げる。
あまり高くないこの山を降りたら隠れることが出来る
樹海が広がっているのだから。
結論から言うとここが踏ん張りどころというわけだ。
《対イージス貫通レーザー用意!
ぶちかませ!》
「波音、これだけは避けて。
いくら僕でも無理。
あのこじ開けられるような感覚がイヤ」
ネメラデス、シグドデス両機が空中で静止して発射態勢に入る。
経験上発射まで少しのタイムラグがあるから
それまでにどこか死角になるような所に入れたら……。
《発射!》
なっ――!?
空を貫く二本の光が伸びていく。
静寂。
そして響くあの甲高い音。
「くっ……!」
そうだった。
確かシエラは言っていた。
一番艦のメガデデスとは違って多少なり改良が加えられた機体があると。
要するに改メガデデス型があるって。
多分あの二隻の充填速度から考えて製造番号は
後ろから数えた方が早いに違いない。
弾道レーザーのタイムラグがほとんどないのがその証だ。
唸りながらハンドルを右に思いっきり捻る。
タイヤをきしませトラックが道から少し逸れ、山肌に乗り上げた。
その直後青のレーザーが目の前を横切る。
熱で膨張した空気が弾け、地面がめくれ上がり、大きな岩が宙を舞う。
その下をイージスで守られた俺達が走る。
今度は右すれすれを通っていくレーザーに冷や汗をかきながら
トラックを右へ左へと操って逃げまくる。
《撃てっ!》
三十センチ砲の弾が撃ち込まれてきた。
当然当たらないが砲弾の火薬が使えなくなったわけではない。
地面に着弾した砲弾の爆炎が視界を覆う。
そこを狙ったように横からなぎ払うようにやってくるレーザー。
降り注ぐ岩をくぐりレーザー、砲弾の隙間をくぐる。
「っあっ!」
すかさずブレーキを踏んだものの右サイドミラーがレーザーに飲み込まれた。
一瞬にして蒸発したみたいでそこだけが綺麗になくなっている。
っとやばい。
前から二本のレーザーがきやがった。
トラックを挟み込むように。
サイドブレーキを踏んでめいっぱいハンドルを切る。
ブレーキとアクセルを調節しながら車体を百八十度回転させた。
レーザー同士のギリギリの隙間をすり抜け
またアクセルを踏み百八十度回転させる。
つまり走ったまま三百六十度回転したんだ。
どうだ、俺の操縦テクをなめんな。
だてに鬼灯のおっさんの訓練を受けたわけではないのだ。
ゲームもしたし、何度も死にかけたけどな。
今ではいい思い出だ。
ちら、とメーターに目を落とす。
荷台の損傷状態が緑から黄色に変わっていた。
どうやら端っこらへんが持っていかれたらしい。
車内に熱された空気がゆっくりと入ってくる。
「山が終わる!
森が見えてきたよ!」
メイナの声を聞き流し、横から来たレーザーを大きく迂回してかわす。
熱でヒビの入ったフロントガラスを通して前を見ると
道は一直線に森の中へと続いていた。
もう少しで逃げれるっ――!
《森に逃げられます!》
敵の悲鳴が聞えた。
どうやら俺の読みは正しかったようだ。
森の中に逃げればこっちの勝ちだ。
《大丈夫、こっちにはパンソロジーレーダーがある!
逃げられはしない!》
希望の光が一瞬にしてブラックホールに吸い込まれた。
さようなら、希望の光。
ってコトは森の中に潜んで
しばらくじっとしてやり過ごすという作戦は無理ってことか。
「上から来る!
避けて!!」
左に車体をすかさず滑らせた。
間違いなくあのまま直進していたらアウトだった位置に
青いレーザーが降り注ぎ、岩が赤く溶けた。
そりゃ鉄も溶ける温度なわけだ。
急に道が岩から土に変わった。
もう森の中にいるようだ。
木にぶち当たるすれすれの所を気合でのりきる。
夜道をこうやって通ること自体が危ないんだが
もし止まったら即死が待っているに違いない。
二本の太いレーザーが木を焼きながらせまってくるのが気配で分かった。
止まった瞬間あれにやられる運命一択だ。
《パンソロジー起動!
自動追尾装置とリンクさせろ!》
《了解、パンソロジー起動。
自動追尾装置とリンク開始》
シエラとメイナも使える全方位万能レーダーが
射撃を手伝うようになると、すぐに狙いは格段に上がるだろう。
ネメラデスの下部砲台がちかっと発砲の光を煌かせた。
衝撃波を伴った三十センチ砲弾がシエラのイージスとぶつかった。
まさか初弾から当てに来るなんて。
なんって命中力だ。
一機――おそらくネメラデスが俺達のトラックの先に回り、ぴたりと止まった。
待ち伏せでもする気なのだろうか。
もう前にいるって分かっているんだが
この場合も待ち伏せという定義は適用されるのか?
それに俺達の先にいるとネメラデス自体も
シグドデスも誤射を恐れて弾道レーザーを撃てないんじゃないか?
一体何を……。
ネメラデスの艦底がオレンジに光っていた。
眠気なんて一発で吹き飛ばすような強烈な光。
あれはエンジンの光――ナクナニア光反動炉の光とは
また別物の――。
メガデデスもそういえばあんな光を放っていたような気がする。
何だったかは覚えて――。
ぱっと頭の中のカプセルが溶けた。
答えが分かった。
「「爆撃光!!」」
シエラと声が被る。
正解を祝うように俺達のトラックの前に光が落ちてきた。
ぱっと見て小さそうな威力にしか見えないが地面にその光が付いた瞬間
一気に大きく膨れ上がった。
衝撃波でトラックが大きく道から逸れ木にぶつかる。
ドリルとすかさずシエラが研ぎ澄ましたイージスが
木を貫通してくれたおかげでたいした損害は見られないが
これがなかったら完璧に今のでおしゃかだった。
ネメラデスの真下をくぐり何とか道に戻る。
だが安心する暇もないままピーピーと計器から音が響いた。
何だ、いったい。
メーターに目を通す。
ドリルへのダメージが九十パーセントを超えていた。
いくらイージスで保護されているとはいえダメージがゼロになることはない。
もともとシエラだけをガードするのが使命だからな。
それをこのトラックぐらい広げたらそりゃ多少なりガードが薄くなるに違いない。
今説明で脇にやっていたドリルなのだが
木にぶつかった衝撃で回転機構がショートしたようだ。
予備回路も起動しない。
仕方がない。
ここでドリルを破棄するしかないようだ。
ギアをWDに入れ、ブレーキの横にある黒と黄色で塗られたレバーを踏んだ。
説明書によればコレで装備の破棄が出来る。
ガギョ……、とロックが外れる音と共にドリルが車体から剥がれた。
「メイナ、もうレーダーはいいから少しやってくれないか?」
ネメラデスがまた前に出てきた。
今までよくもやってくれたな?
「ん?
何を?」
退屈を含んでいたメイナの声が切り替わった。
「一機、一機のイージスに穴を開けて欲しい。
そこに俺……というか仁がオクトパスミサイルを叩き込むから」
「んー……分かった。
今回は私の出番というわけだねぇ。
何かわくわくしてきたわ」
メイナはUSBの腕を普通の腕に戻すと荷台の扉を蹴り開けた。
弾道レーザーにほとんどを持っていかれた扉は
拘束具ごと道に転がり追ってきている弾道レーザーに飲み込まれた。
「んっ……」
メイナは小さく唸ると連合郡の軍服の背中を突き破り
醜い鋼鉄の四枚の翼が現れた。
脈動している。
何度みても痛そうなんだが。
俺もし最終兵器だったら絶対あれはやりたくない。
「頼むぜ?」
「ニッ」
「頼んだよ♪」
ルファーとセズクが俺の台詞にかぶせてきやがった。
お前ら空気だったもんな、ずっと。
「まかせなって。
私は最強だよ~?」
にっと振り向きざまに笑い生じた疾風が車内を駆ける。
その直後ネメラデスの隅に膨大な光が発生した。
《な、何だ!?》
《かっ、艦長!
せ、戦闘神がっ……!!!》
《もう一度言え!
何が来たんだ!?》
《戦闘神――メイナですっ!!》
This story continues.
さてさて。
やってきました、メイナさん。
今までだいたい派手な活躍を見せてくれたのは
シエラだったのですが今回はメイナさんです。
ずっと待っていた方(いるのか?)
いましたらもう歓喜してくれて構いません。
次回はメイナさんの本気です。
ではありがとうございました。