R2
鉄と鉄がぶつかった音。
装置は鎖の支持を失い落下する。
そして美しいまでにトラックの荷台に収まった音だった。
六百キロもの落下物の衝撃は流石にすさまじいものだ。
このトラックの前輪がちょっと浮いた。
少しびっくりした。
「よし、乗れ!
この堕ちる棺桶から脱出するぞ!」
運転席の窓から顔を出して呼びかけつつ
黒のボタンを再び押して左右に開いた荷台を閉じる。
仁たちが荷台の開いた隙間に収まったのを確認して……。
さてここで問題です。
「……どうやって脱出する?」
一瞬の静寂。
「は?」
俺の問いかけに全員が信じられないといった顔をした。
いや、だって。
「俺はこのホドデデスが目的地に着いたときに
トラックでホドデデスの薄いところを突き破って出るつもりだったんだ。
でもさ。
今はその状況になることはないだろ?
だって……」
落ちてるんだから。
その言葉は飲み込んだ。
別に言わなくても全員分かっているに違いないからな。
「どう脱出するって……。
そりゃ……」
仁が倉庫の床に目線を落とす。
「だよなぁ。
そこ以外ないよな」
俺も仁に同調する。
この倉庫の外は火と光の海と雨。
こっから出られたところで助かるわけがない。
かといってこのままホドデデスと一緒に落ちるのを
指を咥えて待っているわけにも行かないのだ。
となると答えは必然的に絞られてくる。
この倉庫の床から落ちるのだ。
「しかたないかぁ」
俺は運転席から降りて床を空けるスイッチを探し出した。
――だが、ない。
ないじゃないか。
「そりゃ……そうだよなぁ……」
小さくぼやいた。
扉の開け閉めなんて現場には普通ないよな。
ましてや倉庫なんて場所なんだから当然っちゃ当然だ。
しかも大切な物(装置)を積んでいたところの床を開くための
スイッチなんて艦橋とかぐらいにしかないよな。
「メイナ、頼んだ」
俺は少しうなだれて運転席にまた乗り込んだ。
「それ以外に方法はないみたいだねぇ。
仕方ない……か。
私がいっちょ十パーセントほどの本気で……」
軍服の腕を捲くりながら帽子を取ってにやりと笑う。
「わかったから早くしてくれ」
「むっ……」
俺の早くしろコールに頬を膨らませながら
メイナは荷台から「よっこらせっ」とおじじ臭い台詞を吐きながら
のんびりと這い出た。
「さって……行くかねぇ?」
素早く右腕を砲に変える。
紫と赤の光が脈動して砲を覆い光を放つ。
見るものを不安にさせるような………。
そんな光。
その砲の銃口を床に向ける。
「波音、念のため少しは遠くへ行った方が良い」
シエラの言葉に素直に従う。
こいつはなんだかんだで正しいからな。
メイナにちょっと待てと告げて
エンジンをふかしてトラックを倉庫の壁に押し付けるようにして固定した。
「メイナ、やっちまえ」
「そらっ、開通だねっ!」
カッと黄色の光がホドデデスの約四〇センチもの装甲を
しかも一番分厚いところをぶち抜いた。
一瞬にしてあの鋼鉄の塊が蒸発するのは見ていてすごい爽快感がある。
下から噴き出してくる風がメイナの短い黒稀銀髪を揺らした。
「メイナ、乗れっ!」
トラックを壁から引き剥がし、メイナに乗るように促す。
それと同時にどうやらあのデンジャラスな赤い光が倉庫の壁に到達したようだ。
さっき一度倉庫に穴が開いたのは知っていたが
今回はそれを遥かに上回るの破壊が起こった。
装置を吊り上げたであろうクレーンが倒れ、壁を貫き
すごい勢いで出てきた炎が床を舐め始める。
赤い光が倉庫の中にまで侵入し始め
今まで静かだった倉庫はあっという間に火と光で騒がしくなり始めた。
「なぁ、落ちるのはいいんだけど……。
どうやって安全に着地するんだい?」
メイナがイージスで光を弾きながらトラックの中に戻ってきた。
それをチャンスと捕らえたのかどうかは知らないがセズクが
一番の。
ここ一番の問題を言う。
おい。
セズクさんや。
「……………」
それをいま俺も考えていたところなんだよ。
い~い質問ですね。
どうしようか?
少し悩む俺の隣で仁の手がちょいちょいと動く。
「波音、波音。
ロケットエンジン付いてただろ?
それ使えば?」
ははーん。
「お前天才だわ、仁」
問題解決。
「行っくぞっ!」
また落ちるのか……。
肩のルファーが俺のポケットに入り込んだ。
「にーっ!!」
かわいい。
俺がアクセルを叩き潰す勢いで踏むと
トラックは一気に、メイナのつくった大穴から外に出た。
俺は前輪が倉庫の床を離れた瞬間にギアをR2に入れる。
つまりロケットブースターに。
マニュアル本によれば噴出方向も変える事が出来るらしい。
超便利。
というかコレ以外の使い道があったのだろうか。
ロケットブースター点火!
ハンドル裏についている噴出ボタンをぐいっと押し込んだ。
トラックが大穴から出ると同時に火を入れたことにより。
落下スピードが急激に減っていくのが分かった。
サイドミラーから確認すると二本のロケットエンジンが
下へ向かって炎を吐いている。
噴出ボタンをある程度の間隔をあけながら連射する。
トラックは重力に従い落ちようとしたがそれをロケットエンジンが許さない。
約三十秒しかふかすことが出来ないようだから丁寧に丁寧に。
ある程度落ちたら噴出ボタンを押してスピードを殺す。
それを何度も何度も繰り返す。
そうやって安全に着地しようという魂胆なのだ。
無事脱出した俺達をうらめしそうに睨み付けながらホドデデスは
「見て!」
全身から赤い光を吐き出し淡い炎の線を描いて
近くの山へと激突した。
空気を震わせ、山がえぐれるほどの大爆発が発生した。
黒いキノコ雲がのぼり、空が一瞬明るく染まる。
端から見たら火山の噴火に間違われてもおかしくない爆発だ。
トラックほどある大きな砲塔がばらばらに飛んでいくのも見えた。
「うわ……。
また一機葬っちゃったね……」
セズクがおいおいと俺に話しかけてきた。
う、うん。
そうだね。
これで連合郡のを二機おしゃかにしちゃったわけだよな。
護衛の三機は結局ホドデデスを守れなかったわけだ。
はじめっから計算に入れなくてよかった。
ホドデデスの中に入ったらこっちのものだったしな。
連合郡が誇るベルカの超兵器を自ら攻撃するわけにはいかないし……。
相当護衛の三機は迷ったことだろう。
まさか俺達がトラックで侵入するなんて誰も思いつかないよな。
俺も思いつくまでは考えたこともなかった。
こうやって心でつぶやいてるけど腕は
しっかりと噴出ボタンに集中している。
案外忙しい。
それよりもこのロケットエンジンの青の炎目立つんじゃないだろうか。
小さな不安。
《――です……。
ホドデデス爆散しました。
なんてことだ……》
セズクがおそらく周波数を合わせておいたのだろう。
毎度毎度ごくろうさまだ。
トラックの無線傍受装置がようやく声を流し始めた。
それホドデデスの中にいるときに鳴って欲しかったわ、個人的に。
《では、装置はどうなった?》
《おそらく、ホドデデスと一緒に……》
はぁ……とため息が聞えた。
狼狽してる、狼狽すてる。
《か、艦長!
見てくださいっ!
あれはホドデデス内のカメラが送ってきたトラックでは!?》
確かな手ごたえと共にトラックが山道に着地した瞬間だった。
無線がその声を発したのは。
R2ギアをDに戻し、ロケットエンジンが収納されたのを確認する。
ロケットエンジンは後十二秒ほど噴出できれば良いほどの
燃料しか残っていない。
素早くメーター類に目を配ってトラックの状態を確認する。
《映像を僚艦にも回せ!
間違いない!
あれによってホドデデスが落とされたと考えて良いだろう!》
見つかった!
敵が攻撃態勢に入る前に少しでも遠くに。
俺は山道を四十キロほどのスピードを出して走り始めた。
これ以上スピードを上げると俺のハンドルさばきが付いていかない。
ゲームだと全然いけるんだが残念ながら現実。
安全第一だ。
《ホドデデスの仇をとるんだ!
ジクドデスとわがネメラデスはあのトラックを。
ラシアデスはホドデデスの乗組員の救助を頼む。
行くぞ、シグドデス!
ついてこい!》
《こちらシグドデス艦長。
了解した》
一隻がホドデデス墜落地点へと向かっていく。
無線によるとラシアデス。
これは俺達を攻撃してくると考えづらいから
放っておいても害はないだろう。
問題は二隻。
通信によるとシグドデスとネメラデスだ。
それが俺達に向かってきたのだ。
「来たーーーー!!」
仁、うっさいっ!
道がどんどん狭くなっていく。
一瞬でも気を抜いたらこの深い谷底に落ちるに違いない。
二隻の巡洋戦艦の機銃塔がちかちかと光る。
それとほぼ同時に地面を弾が抉り出した。
「シエラ、しっかりイージス頼む!
でないとあっというまに蜂の巣にされちまう」
歯を食いしばってひたすら進む。
「仁とメイナはこの山の道を詳しく教えてくれ。
さっきホドデデスの中でやったみたいに」
「任せろ」
このままマックスの飛行機のところに行くわけだが
それまでにこの二隻を何とかしないとな……。
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