Dangerous light zone
「セズク、切れる?」
「まかせといて」
ベルカ語で『第二倉庫』と書かれた扉をセズクは綺麗に切り取った。
「便利なナイフだな」
運転席の窓から関心しながら
倉庫の扉が倒れるのを見学する。
「ありがと♪」
大きくジャンプして荷台に一気に滑り込んだセズクを確認すると
俺はゆっくりとトラックを進ませた。
「なぁ。
ふと思ったんだが、その便利なナイフで一気に下まで降りれないのか?」
通路を二十メートルほど進んだところで尋ねてみた。
だって、楽したいなら楽したいじゃない?
肩に乗ったぷにぷにのルファーが欠伸をした。
こいつずっと静かにしてたなぁ。
寝てたのか?
ハンドルから手を離して右手でつつく。
「にー」
撫でる。
かわいいなぁ。
「波音、ちゃんと前見て運転して。
そして答えは無理。
この床含め機関室周辺の床はとっても強く作られてる。
――まぁ、でも初めは倉庫なんてついてなかったんだから
もしかしたら弱くなってるかもしれないけど」
シエラがシートベルトを伸ばしたり縮めたりしながら答えた。
遊ぶんじゃない。
この超兵器、ホドデデスもやっぱりメガデデスと同様
ベルカの超光化学と今の技術との融合体として存在しているようだ。
要するにサイボーグみたいなものなのだろう。
さっきシエラが豆知識として語ったのだが
もともとメガデデスもホドデデスも乗組員は『核』と呼ばれる一人だけだったらしく
その『核』がいない今はこうやって大人数を同様しないと動かせないらしい。
『核』が人間なのかどうかが気になるところだがまぁ今はいいだろう。
またそのうち教えてくれるさ。
「じゃあ、試してみる価値はあるってことだよね?」
すらりとその右腕を刃に代えたセズクは床をじっと眺めた。
おそらく装甲の厚さでも見積もっているのだろう。
今回やたらお前の出番多いな。
「まぁ……そうだね。
でも気をつけて欲しいのは……」
「えやっ♪」
「あっ」
シエラが何かを言う前にセズクは荷台から飛び出し
そのヤバイを床に突き刺していた。
そのままトラックの周りを回りだす。
「んー、僕の心配のしすぎだったか?」
首を傾げるシエラは心配そうにセズクのその様子をじっと眺め続ける。
ゆっくりとトラックの重さに耐え切れなくなった床が傾いていく。
このままだと斜めに落ちる可能性があるため一度セズクに静止をかけ
一息入れて一気に切り取ってもらった。
ふっと宙を舞う感じがしたのも一瞬のことでまたすぐにトラックのタイヤが地面につく。
天井にはぽっかりと一つの穴。
無事に一つしたの階に着くことが出来たようだ。
装置は確か……
「もう一つ下だったな。
よし、セズクもういっちょ頼むぜ」
仁の励ましにセズクは頷くとゆっくりとまた床にその刃を入れた。
「―――っ!!」
その瞬間目がくらんだ。
風が髪をかき回す。
「にーっ!!」
ルファーが耳元で鳴く。
完璧に起きたか、おはよう。
床から目がつぶれんばかりの強烈な光が溢れていた。
光は一瞬にして天井にぶつかる。
何も起きないだろとか思っていた俺の予想を遥かに超えることが起こった。
天井が赤くなりやがてドロドロと溶けぽっかりと穴が開いた。
溶解した鉄が床にたれ、白い煙がほっそりと上がる。。
「なッ、なんだよ!?」
目を覆った光は十ほどの筋となり、あちこちに乱反射しはじめた。
光の当たったところは溶けて赤い鉄の滝となっていく。
「まずいっ!
ナクナニア超光の通路を切っちゃったんだ!
波音、とりあえずこのトラックはイージスに守られてるから良いとして
ホドデデス自体がヤバイかもしれないっ!」
メイナがイージスで守りながら荷台に引っ張り込んだセズクを
シエラがほらと首で指した。
セズクの自慢のナイフはぽっきりと根元から刈り取られ
ぶしゅっと吹き出た鮮血が水溜りをつくっている。
「メイナ、セズクの治療してやってくれ!」
メイナはその右手をセズクの右腕に押し付けた。
緑の光が湧き出てセズクの右腕を包んでいく。
これであいつは大丈夫だろう。
「仁、このままどこに行けば……!?」
轟音が俺の言葉をかき消した。
ナクナニア超光が甲板に設置された何かの武装に命中したのだろう。
今までとは桁違いの爆発が天井方向から発生した。
ぽっかりと装甲が消し飛び、空が顔を覗かせている。
さっきセズクが空けた穴からそれが見えた。
『消火にあたれ!
機関室修理班ははやく現場に!』
やかましく、再び鳴り始めたスピーカーと
サイレン音がホドデデスの中を駆け始めた。
明らかな緊急事態を告げる赤のランプも回っている。
蛍光灯がオレンジ灯に切り替わり通路が暗くなる。
床からの光がそのおかげでさらに明瞭に見取ることができる。
乱反射しまくってるじゃねーかよ。
通路のあちこちが溶けはじめていた。
「波音、急ぐよ!」
シエラにせかされ、ちらっとセズクを見る。
メイナの緑の光につつまれ、まだ顔色は少し悪いものの
セズクはにやりと俺に笑い返した。
うん、元気だな。
ばっさり切り捨てる。
アイツは死なないだろ。
「あれ、止める事は出来ないのか!?」
噴出される光に顎を向けて聞くが
「無理。
あれは超空城砦戦艦の武装の一つぐらいと同じぐらいの温度。
つまり約一万度程度ある」
触れただけで物が蒸発する温度じゃねーか!
どうやってベルカの人はこの艦を修理したんだ。
気になるところではある。
「とにかく急ぐんだ!
この道をすぐ右に行けばもう一つ下に行ける!」
仁がPCの液晶を見ながら言った。
了解だ。
俺ももうここに長いこといたくないからな。
時間までもが敵に回ったな。
後ろの三人にちゃんと捕まるように指示して
トラックを急発進させた。
通路の天井が落ち、さっきまで俺達がいた所に落下する。
仁に指示された右の通路に滑り込み、一つ下の階にあっというまに到着した。
だがそこは既に火の海と化していた。
天井からあの光が漏れている。
その光が別の場所を傷つけ
傷つけられた場所からもあの光が飛び出してきた。
まるで連鎖反応のように。
火の海&光の雨というわけだ。
その中をイージスでちぎっては投げちぎっては投げして進んでいく。
光はトラックに何度も伸びてきたがそのたびにイージスが捻じ曲げ
捻じ曲げられた光がパイプや電子機器を破壊し――とまぁ
一言で軽くまとめると大惨事だ。
「あっ、あそこだ!」
仁がにゅっと運転席と助手席の間から顔を出してきた。
当然扉は閉まっている。
「あの扉は約二十センチの分厚い扉だ!
このトラックでも無理かもしれない!」
メイナのレーダーから計算したのだろう。
ならその計算は間違いなく正しい。
ここまできたのに諦めるのか?
否。
セズクが間違ってこの光を出したときはなんてことをしてくれたんだと思ったが
そのおかげでどうやら倉庫に入れそうだ。
理由は簡単。
ロックは光に溶かされ、扉もその例外ではなかったからだ。
まだ完全に溶けてはいないが赤く光ってるってことは
溶融する一歩前と考えてもいいだろう。
「仁、しっかりシートベルトしとけ!」
俺はぐっとアクセルを踏んだ。
いくら軟らかくなっているとは言え、扉は扉。
扉を突き破るわけだがそのためには当然スピードがいるのだ。
流れる景色が速くなる。
スピードを示すメーターがレッドゾーンに侵入する。
時速百五十キロで……どうだっ!
扉は大きくその体を歪ませのけぞった。
赤く光ったところはやっぱり軟らかくなっていたようで
そこから大きく裂け、二つの破片に変わり俺達の侵入を許した。
ドリルが赤い鉄を切り裂き装置の部屋に転がり込む。
すかさずブレーキをかけ、ハンドルを切って横滑りでトラックを止めた。
装置を持って早く脱出せねば。
「……で、装置は?」
仁が気の抜けたような声を出した。
はっへ?
ないの?
見回した。
「上、上にある」
メイナが指差した方に顔を向ける。
あら、本当だ。
鎖でつるされたままの装置があった。
「セズク、あのクレーンの鎖切れ……ないわな」
「ご、ごめんよ……マイハニー……」
そうだった、弱ってるんだった。
すっかり忘れてた。
「気にすんな。
たまには休め、お前は」
やさしい言葉かけといた。
「うぅっ……やさしいなぁマイハニーは」
はいはい。
泣いとけ、泣いとけ。
ふぅと息を吐いて首を振る。
気分転換だ。
さてと。
「シエラ、イージスはいったん解除してくれ。
トラックをあの下に持っていく。
そうしたら鎖を――」
ぐらっと大きく床が揺れた。
今までとは格段に違う揺れ方だ。
推力を失った――そんな揺れ。
『くっ、こちら艦長!
総員に告げる!
退艦準備に入れ!
繰り返す、総員退艦準備!』
さっきからなっていたスピーカーの声はほとんど無視していが
改めて聞くとかなり重要なこと言ってたな。
この倉庫の壁をぶち破る爆発の音でかき消されそうになっていたが
これだけはなんとか聞き取ることができてよかった。
ようするに時間がない。
「シエラ、頼んだぞ!
セズクと仁、メイナは荷台からどいてくれ!」
三人が降りたのを確認後、黒のスイッチを押した。
荷台を覆っていたアルミニウム製のコンテナが左右に広がる。
コレで真上から落ちてきた荷物も受け止めれるわけだ。
ゆっくりバックして、装置のおおよそ真下に止めた。
「シエラやれ!」
「まかせて」
シエラの右手レーザー砲から伸びた青の光が鎖を切断した。
装置はそのまま真下――つまりトラックの荷台に。
落ちてきた。
よっしゃっ!
This story continues.
ありがとうございました。
ルファーさんここまで出さなかったわけですが
別に忘れていたわけじゃないです。
本当です。
忘れていませんでした、本当です。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
感謝です。
外伝、しゃくでば!もどうかよろしくしてやってください。