散る火花、砕ける防壁
燃え上がった炎が視界を赤く染める。
ガトリング砲の弾が次々と飛んでくるが
それらは一つとして我がトラックに傷一つつけることが出来なかった。
まぁバリア張ってるから当然といっちゃ当然だがな。
低い警報が鳴り赤いランプがちかちか回る。
『第二一の防壁作動しろ!
早くしろ、急げ!』
唸るような声が生き残ったスピーカーから聞えてきた。
「波音!
今の放送!」
あぁわかってる。
きちんと聞えてたさ。
「第二一って言うと……あぁ!
目の前ドンピシャだ!」
仁が悲鳴を上げた。
目の前でゆっくりと左右から二枚の扉がしまってゆく。
「ちぃっ!
スピード上げるぞ!」
アクセル踏みます。
スピード上がります。
「え、でもっ!
扉は既に閉じて……」
メイナが俺を止めようとする。
扉?
「はっ、笑わかすんじゃねぇ!
何のためのドリルだ!?
いっくぜぇえええっ!!!」
一つ言っておくがおれは運転席に座ると性格が変わる
――みたいなのは一切ない。
ただ、今は体中をだな。
アドレナリンさんが尋常じゃないスピードで回ってる。
ただそれだけだ。
目の前で完全に閉まりきった第二一防壁に向かってスピードをもっと上げる。
トラックの巨大な質量とともにドリルの貫通力。
そしてシエラのイージスが加わりいとも簡単に第二一防壁は砕け散った。
巨大な鉄の塊が巨大な力によって捻じ曲げられ、崩壊する。
テンションはさらに上がる一方。
それにしても……。
ホドデデスの全長は約二百メートルちょいだというのになんという広さだろうか。
円形だからこんなに広く感じるのか?
時速五十キロで飛ばしているというのにまったく付く気配がない。
なして。
半径×半径×円周率で円周の長さが出るんだっけ?
もう忘れた。
「あっ、おい!
次の所を右だぞ!」
仁が運転席を足で蹴った。
聞えてないとでも思ってんのか。
「OK!
それと聞えてるから蹴るな、運転席を。
気が散るだろ」
「あー、ごめん、波音。
今の私が間違えちゃったの」
メイナかよ。
荷台では仁とメイナが今二人で一人となって動いている。
メイナがレーダーで艦全体を読み取り、USBに変えた右腕を仁のPCに接続しているのだ。
つまり仁のPCには最終兵器のパンソロジーレーダーを映像化したもの。
ホドデデスの断面図とこのトラックが映っているはずなのだ。
ハンドルから片手を離して汗をふき取る。
これでミスはしたくないからな。
と、空気をかき回す音がかすかに聞えた。
おそらくロケット弾――ほらな?
円錐型のロケット弾が向かってきた。
「何としてでもここで食い止めるんだ!
撃てッ!!」
一気に五発ほどのロケット弾がそりゃすごいスピードで突っ込んできた。
だが残念。
こちらにはイージスというものがあるのだ。
ロケット弾はまっすぐに飛ばず、目標――つまり俺達の目の前で大きく曲がり
ホドデデスの装甲を内側から少し削り取った。
今の技術で、ホドデデスの風化した艦の足りない所を補ったのだろう。
容易に鉄板がはがれ、パイプが爆風で捻じ曲がる。
パイプから光が漏れている。
あのパイプはベルカの技術だったか。
案外弱い部分は弱いんだな。
いきなり吹き上がった噴煙と爆風がこのトラックを真横から蹴飛ばした。
「やっばっ!」
トラックは大きく右へ曲がり壁に車体をこすり付ける。
「っ!?」
がくんと強い衝撃が体を押さえ、さっきもらったお茶の
空のペットボトルが跳ね回る。
「ゴミ箱ないの?
うっとおしいんだけど」
シエラが空のペットボトルを右手で掴んで窓から放り投げた。
マナー悪いあげくに、そこ怒る所と違う。
壁がシエラのイージスとぶつかり、大きく凹んでいく。
そのまま引っかき傷を残しつつ、ロケット弾を撃ってきた兵士達に突っ込んだ。
人のいないところを狙って突っ込んだから死者はいないはずだが
やはりあまり気持ちのいいものではない。
人を殺しかけると背中がぞくぞくっとしやがる。
そして大事なのは車は急には止まれない。
「そ、それよりも大きく進路をずれちまった!
早くもとのコースに戻らないと!」
仁が後ろから声を飛ばしてくる。
さっきの衝撃で曲がれなかったからな。
「どこをどう行けば良いのか説明しろい!」
どこからか持ってきたガトリング砲の弾が
ひゅんひゅんと飛んで来るのを無視して仁に怒鳴り返す。
「ここをまっすぐ!
まっすぐ行けば艦首付近だから
そこからまた行けば良いんだ!
円形ってのは楽だな、おい!」
なるほど艦首か。
艦首……えー?
艦首ってどっちだよ。
まぁいい。
「OK!」
仁の指示に従っとけば間違いはないだろ。
ここはさっき通った第二一防壁付近だな。
ここからだと確か……。
『繰り返す!
第二一防壁区画より退避しろ!
繰り返す!
第二一防壁区画より……』
急な艦内放送とともに銃声がぱったりやみ
兵士達があわててどこかへと消えてゆく。
「……なんだ?」
ブレーキをかけ、あちこちが燃えている廊下に停車する。
ぼんやりと遠い所にあの第二一防壁の扉が倒れており
黒煙がうっすらと視界を覆っている。
頭だけ出して周囲を確認する。
ちなみに煙はイージス内には入れない。
本当に便利なバリアだ。
出した頭を引っ込めようとして頬を叩くように強い風を感じたのは
その一瞬の間だった。
装甲に穴でも開いているのだろうか?
思わず天井を見上げる。
「お、おい。
うぉぉい、仁!」
ビックな発見してしまったかもしれない。
「んあ?
どうしたんだよ、変な声出して」
荷台の窓から仁が顔を出した。
俺は指を上に向けて仁にそっちを見ろと促す。
「天井動いてないか?
それにだんだん遠くなって……」
俺の目がアレなのか仁にもそう見えるのかが知りたい。
ガコン。
鋼鉄の連結器同士が外れましたよー。
そんな音が廊下一杯に広がった。
すっと嫌な予感が上の視線を前に戻す。
仁と顔をあわせた。
「やべぇええっ!!!」
ゆっくりと廊下――つまり通路が降下をはじめていた。
第二一防壁より向こう側の通路が浮いていく。
いや――違う。
俺達が落ちているのだ。
「お前らちゃんと捕まってろよ!」
あわてて頭を引っ込め、運転席にしっかりと座りなおす。
「分かったよ♪」
ぎゅむっと後ろから体をつかまれた。
なぜか静かだったセズクさんだ。
「おま、なんでこのタイミングで出て来るんだよ!
まぁいい、行くわもう」
間に合え間に合え。
間に合ってくれ。
あわててハンドルを握り、アクセルを目いっぱい踏みつける。
前輪が浮くほどの急発進をしたトラックは一気に時速一二〇キロまで加速した。
待つわけないじゃんと登ってゆく通路。
前も後ろもどんどん登ってゆく。
つまり俺達がいるこの場所だけが
バームクーヘンで切り取ったようにホドデデスから切り捨てられたのだ。
俺達という虫と一緒に。
「ここで落ちてたまるか!」
その時、神の助けが見えた。
さっきぶっ飛ばした第二一防壁の巨大な鉄板が
橋のようにして引っかかっている。
俺は迷わずそこにトラックをぶち込んだ。
多少ボディが擦れただろうがそんなけちけちしている場合ではない。
大きく跳ね上がったトラックは
ジャンプ台から飛んだスキー選手のように美しく舞った。
黒煙を上げて落ちてゆく第二一区画を尻目に隣り合った第二十区画に
ドリルで床を削りながら着地する。
駄目かと思ったね。
こんな映画まがいのアクション続けてたら心臓が持たない。
止まるぞ、そのうち。
This story continues.
本当にありがとうございました。
いやはや通路の部分、よく分からない方がいらっしゃったら
ごめんなさい。
言葉不足だったかも……と反省しております。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
外伝の『しゃくでば!』ともども
どうかこれからもお付き合いしてくださるように
心よりお願い申し上げまする。(ごわす
↓しゃくでばURLです。
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