涙!
「さぁ、今度こそ話してもらいます!
どうして波音がここにいるんですかっ!」
アリルは逃げようとする俺の腕をがっちりと掴んで離さない。
つまり逃げれない俺は大ピンチ。
「お、落ち着け。
話す、話すから!」
「いいえ、落ち着きません!
これで落ち着いていられるほうがおかしいです!」
顔を真っ赤にして俺を上から押さえつけてくる。
ご、ごめんなさい。
「アリル~?
どこにいったのかしらぁ……」
やばい、マダムだ。
足音から考えてこっちに向かってきている。
「大体ですよ――キャッ!?
な、どうしたんですかっ!?」
直感的なヤバさを感じた俺は腕にアリルをぶら下げたまま
そばの薄暗い部屋に逃げ込んだ。
駆け込んだ勢いでドアを思いっきり閉める。
ここならしばらく時間も稼げるだろ。
マダムの気配をうかがい遠ざかるのを確認した俺はアリルに話しかけた。
「いいか、アリ……うっ!?」
急に壁へ思いっきり押さえつけられた。
この体のどこにそんな力があるのかと思うほどの強い力で。
思わず悲鳴を上げそうになった。
何をするんだと問い詰めようとアリルを見ると……半泣きになっていた。
「どうして……メールも電話もしてくれなかったんですか……」
「えっ……いや、すんごいワケがあったんだ。
今話すと長くなるんだが」
大体百光年ぐらいは軽く突破するはずだ。
「今言ってください」
「今!?」
「今」
……まいったな、こりゃ。
百光年分話さなきゃならないのか。
「今言ってくれないとまた逃げるじゃないですか……っ!
もう私……こんなに長い間……ずっと心配するなん……てっ……!
嫌なんです……波音君……」
アリル目にたっぷりたまった涙が頬を伝った。
泣かれた。
「………………」
何も言えなかった。
無言のまましばらくアリルが泣いているのを眺めるしか出来ない。
こういうときに自分の無力さが分かる。
こんなにも俺はアリルを心配させていたのか。
アリルはこんなにも俺のことを思っていてくれたのか。
胸の奥がほわっとした。
よく分からない衝動が体を突き抜けた。
全身の細胞が一斉に覚醒したみたいだった。
そして俺はアリルを……抱きしめた。
「は、波音君……!?」
「アリル……ごめんよ。
確かに俺が悪かった」
「……そぅですよ……波音君が悪いんですっ……」
まだ止まらない涙が次々と俺の服にしみを作っていく。
しばらくそのままアリルの愚痴を聞く。
「波音君は……昔からっ……」
そうやって不満を聞かされていると改めて
自分のマイペースぶりが嫌になってきた。
アリルの愚痴が途切れ途切れになったことを見計らって
俺はアリルに今からすべきことを言う。
「聞いてくれ、アリル。
俺は今から大きな仕事……やるべきことがあるんだ」
「…………はい……」
「絶対に俺がここにいる理由はそのうち話す」
「――――そのうち……?」
「あ、いや……。
えーっと、だなぁ――」
「その大きなお仕事が終わったら――」
アリルが腕を俺の背中に回してきてがっちりと固定した。
涙で濡れてはいるものの強い眼光が俺を取り巻いていく。
まるで蛇に捕まった気分だ。
「絶対に私に話してくださいね?
私ずっと待ってますから……」
これは、アレか。
俺は絶対に話さなきゃいけなくなっちまったわけか。
なんということでしょう。
っと、そんなこと考えている暇ではない。
ヘリで運び出すんだ。
ただでさえ少ない時間が削られていく。
それにもうこいつに心配かけたくないな。
また心配かけたら今度は殺されかねん。
「……分かった、約束する」
これは男として当然の選択だろう。
俺はアリルの目をしっかりと見据えて約束した。
アリルは泣き笑い顔になり
「……気をつけてくださいね」
そういうと俺の背中に回していた腕を緩めてくれた。
俺は最後に強くアリルに頷くとドアを叩き開けて走り出した。
この任務には俺だけじゃない。
帝国郡の未来がかかっているのだ。
分かりやすく数字を出そう。
全世界人口三十二億人のうちの帝国郡兵力二億人が助かるのだ。
いや、兵器工場などもあわせたらもっと行くかもしれない。
うっ……、胃が痛くなってきた。
「ハァ……ハァ……」
走っても走っても仁達の姿が見えない。
なんて速さなんだろう。
約十分ほど全力疾走の努力がちっとも報われない。
とんとんと俺のスピードは下がっていき
最終的には息切れで壁にへたれこむこととなった。
どこか別の場所で行き違ったのか?
それとも俺がまた迷っただけなのか?
どこかの部屋に入ったのかもしれないな……。
すぐそこの部屋とかにいるんじゃないだろうか。
アリルに捕まってまだ十五分ぐらいだぞ?
これだけ全力で走っているというのに追いつかないなんて考えられない。
何かがあったということでいいのだろうか。
とりあえず最深部に行ってみるしか手はないようだ。
今から一つ一つの部屋を見て回るなんて……。
無理だろ。
なえかけた好奇心に喝を入れるように
「SηieΘ」
変な言葉が聞えてきた。
……今のはベルカ語か?
「Shiotnns」
一人……いや、二人……?
全力疾走による疲労で額から吹き出た汗をぬぐい、その正体を確かめるために
ゆっくりとその先の部屋へ向かう。
声のくぐもり方から考えて間違いなく部屋内にいるはずだ。
「Kjomannd」
『216』と書かれたドアの前に立ちつくす。
ベルカ語をしゃべるなんて、古代の遺跡に決まってる。
ということはあの装置の可能性が高いと言うことだ。
しっかりと腰に収まっている拳銃を無意識に握り締める。
敵という黒い考えを頭から払い、ゆっくりとドアノブを回してドアを開ける。
「……」
誰もいない。
いや、誰も……というのはおかしいか。
結論から言うと例の銀色の「アイツ」が三匹。
部屋の中でうじゅうじゅと動いていたのだ。
前回のニセ程大きくないとしても……。
不安だ。
大体直径二十センチと少しといったところか。
丸い形状だ。
それがベルカ語をしゃべっているもんだから気持ち悪い。
この部屋に仁は……いるわけないか。
……仕方ない。
素直に最深部で仁達を待つことにしよう。
のんびりとな。
静かに気づかれないようにドアを閉めた。
見なかったことにしよ。
ヘリが行ってしまったら作戦は失敗。
あいつらどこ行ったんだよ……。
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ありがとうございます。
今回は少し退屈かもしれませんが・・・。
ごめんなさい。
今からヒートアップしていきます。
なにとぞお付き合いの程を・・・。