男の浪漫
「無計画っちゃ無計画だよなぁ……」
仁は俺の作戦を改めて見直しながら口をとがらせた。
確かに成功に限りなく近い無計画だということは確かだ。
第一に装置をどうやって持ち出すのかすら決まっていないのだ。
気合で何とかなるかも知れないのだが世の中それほど甘くはないと思う。
だが、あまりにも情報が少ないのも事実。
つまりあっちもこっちもあわあわ状態なわけ。
「あっ、でっかい船……」
そんな俺の気持ちを恒例通り知ることなくはしゃいでいる最終兵器二人には
毎度の事ため息が出るばかりである。
余談だが機長マックスのすごい操縦からやっとさっき開放された。
大体二十分ぐらい逆さまに飛んでいた気がしてならん。
からっと晴れた午前七時現在、青い空、青い海が窓の外に広がっていた。
シエラとメイナはあまり大きくない窓から飽きもせず、ずっと外を見続けている。
セズクはうつらうつらと船をこいでいるし、仁は腕のPCに情報を詰め込むのに必死だ。
俺はぶっちゃけ何もない。
暇つぶしの道具も何もないのだ。
携帯も電波をキャッチされたら厄介だというので電源を切ってある。
暇というものは本当にイライラするな。
シートベルトを外して立ち上がりトラックに歩み寄る。
中を覗く。
広々とした荷台の中に今はぎっしりとダンボールが詰め込んである。
このダンボールにしてもトラックにしても特殊改造が施されたものなのだ。
運転席に乗り込みアクセルとブレーキなどの癖を確認しておく。
助手席に無造作においてあるマニュアル……というか説明書を手に取りざっと流し読みしてみる。
『使用上の注意……。
このトラックは運搬以外の目的に……』
自動車の使用上の注意なんて書かれてもなぁ。
しかも全然面白くない。
「暇だ……」
ぼそっと一言呟く。
もちろん何も起きない。
『……以上のことを守り……。
搭載してある特殊機器についての説明……』
前言撤回、面白そうだな。
男の浪漫……大艦巨砲主義とかが組み込まれてあったらいいのだが……まぁ……車だし?
あまりそういう期待はしないほうがいいかと。
『①オクトパスミサイルについて P121
②百万ボルト放電について P135
③睡眠ガス放出について P148
④ロケットブースターについて P152
⑤ツインドリルについて P198
⑥チェーンソーについて P209
⑦ホイールニードルについて P218
⑧特殊防弾装甲について P224
⑨スクリューギアチェンジについてP234
⑩特殊テクニックについて P321
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・
ま、まだ続くんだが省略させてもらうぜ!
多機能にも程があるだろ!
ロケットブースターって何だよ、何が出るんだよ。
まさかロケットエンジンが出るんじゃないだろうな。
このトラックそんな爆発しやすい燃料積んでるのか?
P152か……どれ。
『敵を撒きたいときや包囲網突破の時にオススメ!』
手書きの付箋がくっついていて、そう書いてあった。
技術部のチーフが入れてくれたのだろう、ありがたい。
ざっくりとした説明が時間の短縮にもなるし。
『ハンドルをロックした後、ギアをR2に入れること。
車体後部からロケットエンジンが展開され、音速で三十秒間走行可能。
車体をかなり傷めるとともに、燃料の消費が激しいのでめったに使わないこと』
やっぱりロケットエンジンが出るのか……。
すばらしく素敵な機能だこと。
絶対に使ってやる。
このツインドリルってのは……大体分かるけど……どれ。
『敵を貫け!』
付箋をはがして丸めて捨てる。
ドリルなんだからそれぐらい言われんでも分かる。
どうでも良いがドリルも男の浪漫だと思うのだ。
『ギアをWDに入れる。
同時にチェーンソーを展開することも可能。
男の浪漫の武器である』
この人も俺と同じ考えか。
浪漫だよな。
そしてドリルトラックというわけか。
街中で使うとすぐに警察に質問されるだろうな。
動かさなければこれぐらいなら大丈夫だろう。
ちょっとやってみるか。
ギアを一度手前に引き一気にWDに入れた。
――あれ?動かないな。
おかしいな、なんでだ?
もう一度説明書を読み返す。
あぁなるほど、エンジンかかってないからか。
キーは……あったあった。
エンジンスタート!
一度ギアをNに戻し今度こそと気合を入れてWDに持っていった。
ガガッとトラック前部の鉄板が左右に開き、先端のとがった……てらてらと鉄光りする二つの
双端がゆっくりとトラックの中から出てきたのである。
なんか地味に感動するな。
「波音、何してるんだ?」
運転席の窓からシエラの顔がひょいとのぞいた。
「ん?
機能の確認だ、確認」
「このボタンは?」
シエラが窓から身を乗り出して押そうとしているボタン。
赤色。
大体この赤色ってのは自爆スイッチだったりするから押すな、おいやめろ。
「ちょっとまて、押すな、おい。
自爆とかだったらどうするんだ、待てって」
ボタン一覧どこだ、探せ。
説明書を迅速で読破する。
あった、これだ。
「――暖房のボタンか。
別に何のことはない、ただのあったかい風が出るだけのボタンさ」
「つまんない」
むっつりとそっぽを向くシエラ。
「そう言うな。
結構この車はすごいと思うぞ?
このコンパクトな車体にミサイルやらドリルやら入ってんだからな」
シエラに手を振ってどかせて、運転席から降りる。
トラックの前まで歩いていってじっくりと男の浪漫を眺めてみた。
二本のドリルが美しい。
掘削用みたいなドリルではなく貫通を重視したドリルだ。
それがまた美しいのだ。
「おっと、これ閉まっとかなきゃな」
さっき突っ込み忘れていたのだが今突っ込ませてもらう。
ツインドリルって名前なのにギアのところにはTDじゃなくてWDって書いてあるのな。
ツインじゃなくてダブルになってるのな。
ギアを再びNに戻してエンジンを切る。
ドリルが収納されたのを確認してキーは差し込んだままトラックから降りた。
痛む腰を抑え伸び。
…………。
また暇になったな。
落ち着きがないな、今日の俺は。
朝飯でも食うか、飛行も安定していることだし。
トラック荷台の隅にある小さなダンボールを引っ張り出してきた。
この中にはサンドイッチやおにぎりやらがたくさん入っているはずなのだ。
封を切りわくわくしながら開ける。
あった、あった♪
思わず最後に♪がつくほどおいしそうなサンドイッチやおにぎりが所狭しと並んでいる。
一人五個としてもこんなに入れる必要は?
まぁ、文句を言うところでもないので遠慮なくいただくことにする。
……サンドイッチか。
アリル元気かな、電話もしてないけど。
今考えたら生きてるってメールor電話をアリルにしてないよな。
もしかしてかなり心配してるんじゃなかろうか。
この作戦が終わったら電話でもしてやるとしよう。
そんで、どっか行こう。
うん、恥ずかしいが機嫌を取るためだ。
リア充な俺。
すいません、ホント。
This story continues.
どうも、ありがとうございました。
ね、男の浪漫です。
分かっていただけましたでしょうか。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
それでは。