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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
帝国群な季節☆
59/210

はじけるドア、飛ぶPC

「で……」


「ん?」


「お前はいつまでここにいるつもりなわけ?」



「やだなぁ、何言ってるんだい?

 マイハニーがいる限りここに……いるよ♪」


久々なせいかそれを聴いた瞬間背筋がぞっととした。

まぁ今の状況を考えてみれば俺は相当ヤバイかもしれない。

飢えた狼の前に銀の皿に乗ってる肉状態だもんな。

大声出しても誰にも聞えそうにない場所だし……。


「いや……別にいなくていいから」


「え?

 どうしてだい?」


その満面の笑みを浮かべた顔を横から思いっきりぶん殴ってやりたい。

それだけでこりるヤツとは思えないがそうでもしないと気が晴れそうにない。

ただでさえ最近曇り勝ちな心だというのに。


「波音!?起きたのか!?」


心の天気予報、明日は雨の確率が高いですねーとか頭の中で考えていたら油圧駆動のドアが開き

久しぶりに見る我が親友、仁が立っていた。

あんまり久しぶりじゃないんだが丸二日寝ていた身には久しぶりに違いなかった。

久しぶりじゃないんだが久しぶりなんだ。

例えるなら……昼寝していたら真夜中の十二時になっちまった……。

うん、そんな感覚である。


「仁!」


声に出して親友の安全を確かめなければ気がすまなかった。

よかった、生きていた。

よかった。

生きていた。

とにかくそれが嬉しかった。


「心配したぜ。

 シエラが俺を助けに来てくれたんだ。

 親父は外国に出かけてたから大丈夫し。

 家も燃えなかったし」


仁は俺のベッドの横にある椅子に座り片手に持っているPCを机の上に置いた。


「足ついてるよな?

 これでついてなくて幽霊とかだったら俺死んじまうぜ」


恐る恐る仁の足を見る。

なかったら肝潰すわ。

百パーセント肝潰す自信ある。


「もちろんついてるさ!

 死にかけた身に堪える疑問だな、お互い」


面白くもない冗談にすら笑ってしまうほど安心していたのだろう。

なぜかツボに入り声を出して笑ってしまった。


「おぉ、起きてたか!」


またドアが開いて入ってきたのはおっさんとジョン。


「おっさん……ジョン……」


心配だったおっさんも生きていた。

ニセが起動するよりも早く逃げていたのだろう、きっと。

逃げたなら俺に電話してくれるとか何かしてくれればよかったんだ。

そうしたら俺は鬼灯財閥のビルになんか寄らないで――。

過ぎた事はもういいや。

とにかく生きていた。

今はそれが分かっただけでいい。


「波音、すまないな。

 俺達の不注意な実験のせいでこんな傷を……」


開口一番にジョンからその言葉が出て、申し訳なさそうに頭を下げた。

おっさんも「すまんかった」と俺を見てうつむく。

一気にキナ臭くなった空気の居心地の悪いこと。


「いや、もう別にいいよ。

 本当に気にしてないから。

 ジョン、頭上げてよ。

 おっさんもなんだよ水臭い」


空気を明るくしようと努めて出した明るい声が余計にむなしく病室を埋めた。

明るい声は天井に反射し、部屋の角で丸くなり消えた。


「すまなかった……。

 本当に……」


「もういいよ、ジョン。

 俺は本当に気にしてないから、ね?」


おっさんとジョンの二人は本当にすまなそうな顔をしていた。

もういいって言ってるのに。


「そういえば、波音はあいつ倒したんだろう?

 例の……」


険悪な空気に耐え切れなくなったのか仁があわてて話題を切り出した。

この空気にその話題は駄目だろ。

そう思ったのだが


「そうらしいな」


案外おっさん達の顔がほころんできた。


「まさか普通の人間がESSPX細胞相手に勝つとはな。

 驚きだったよ、それに……」


私のビルも散々破壊してくれたようだしな。

そういっておっさん達はにんまりと笑った。


「メイナだけどね、蒸発させたのは」


「それでも手榴弾で追い込んだのは波音だろう?

 流石だよ」


「僕の教え方がうまかったからだよね、きっと」


「多分お前は一番関係ないと思う。

 なぁ、ジョン」


「あー、そうだな。

 まずお前手榴弾の使い方教えてないだろ?」


そういえば教えてもらったっけ。

セズクに武器の扱い方。

何から何まで手取り足取り。

明るくなった雰囲気はやはり良いものだ。

話が必然的に弾む。

心から笑った冗談もあった。

そんな時間だけは早く過ぎていくもの。


「っと、おいジョン、時間のようだ」


急におっさんの腕時計がぴーぴー鳴き「またくる」といって二人は病室を飛び出していった。

ちゃっかりお菓子の袋詰めなんかおいて行ってる。

やるじゃん、おっさん達。

のんびりと時間が過ぎセズクも仁もお互いしゃべらず

本を読んだりPCをいじったりと自分の世界にこもり始めた。

何のためにいるんだか……と内心罵りながらも俺も袋詰めを空けるのに余念なし。

急に広くなったように見える病室が余計に虚しさを加速させた。


「仁……」


「どうした?」


沈黙に耐え切れなくなり俺から仁に話しかける。

ぼーっとしてセズクが梨を剥くのを見つめる。


「シエラとメイナは?」


「あの二人は今戦闘中だよ。

 インド洋の連合郡機動隊と。

 十二時間ほど前に出て行ったから……そろそろ帰ってくるんじゃないか? 

 多分だけど」


「分かった」


欠伸をして起こしていた体をベッドに預ける。

窓際で鼻歌を歌いながら梨を剥いているセズク。

なにやらよく分からないハーモニーが頭蓋の中を震わせうとうとと眠気を誘う。


「そういえばセズクさんにお礼は言ったのか?」


眠気が吹っ飛んだ。

混乱が頭で革命を起こした。

一気に占領された。


「は?

 俺が?

 何で?」


思わず怒りを孕んだ口調になってしまった。

そんなことは歯牙にもかけないという雰囲気のセズクは


「仁、別にいいんだよ僕は。

 とっても幸せな時間を過ごすことが出来たんだからさ♪」


戦闘機が空を飛ぶような爽快感溢れる言葉を発しやがった。

その戦闘機に撃墜された気分になった俺。

嫌な予感がする。


「セズクさんすげぇんだぜ?

 お前の服を着替えさせたりタオルで体を拭いてあげてたり……」


期待を裏切らない答えが返ってきた。

目の前が真っ暗になった。


「他にもトイレとか……」


「あ~~~~~~~~~!!!!

 もういい!!!分かった!!!!やめろ!!!」


頭を抱えながら絶叫してしまった。

確かに自分の体から嫌な臭いはしない。

頭も痒くない。

服も上と下にパジャマが一枚きりってことは誰かに看病してもらっていたということ。

今考えてみれば当たり前のことだった。

ただ認めたくなかったって言うのもあることにはある。

つまり、うん。

そういうことだ。

俺は汚されちまったわけだ。

ごめんよ、アリル。

情けなくて涙が出そうになった。


「別に変なことはしていないから安心してね?

 無反応なのにそういうことしたって面白くないし。

 僕は声を聞きたいからさ?」


声聞きたいとかそんなことはどうでもいい。

ってか濡れタオルで拭かれているのなら気がつくべきだろう。

無反応なのに――ってことは反応があったらやってたってことなのか?

なんなんだろう、この人。

見られたけどまだ穢れてはいなかったようだ。

よかった、こちらとてそれが心配で……。

今日はやたら安心する出来事が多い。


「ま、結論から言えば病人は休んどけってことだな」


「まとめにすらなってねーよ。

 しかも怪我だから病人じゃないし」


屁理屈だって分かってるけどなんか反論してみた。


「いや、だけどな……」


「マイハニー、梨が剥けたよー」


お、その梨は俺にくれるために剥いていたのか。

反論の口を開く仁をさえぎる形で梨が登場した。

いやはやありがたい。


「いただきます」


渡されたひんやりしたフォークを梨の切り身に刺して口に運んだ。

口の中ではじける甘み、水分。

あ、普通においしいです。


「仁も食べれば?」


「じゃ、もらうとするか……。

 うん……うまい」


「よな?」


「うまい、うまい」


おいおい次々と手を伸ばすなよー。

はははこいつめー……。

なんで二つ一気に頬張ってんだよ。

俺の分だっての、それは!


「僕が剥いたからおいしいんだよきっと」


「うるさい黙れ」


二日間何も食べていない胃が突然入ってきた食べ物にビックリしたのかキリキリ痛んだ。

思いのほか痛む胃から気を逸らそうと外の滑走路を眺めた。

とっぷりと日が暮れた中、青や赤の光が点々と宿っている滑走路は

無骨な基地の唯一のオアシスのように見える。

そのオアシスに二つの彗星が目に残像を刻んだ。

青っぽい光――。

おそらくシエラとメイナだろう。

おかえりなさいってか。

案の定五分ほどしたらわいわいがやがやと外が騒がしくなった。


「と、とりあえず食事を……」


全部の梨を食べ終わり満足げにPCを眺めている仁の横顔を

ぼーっと眺める俺の耳に困惑した女の人の声が聞えてきた。


「かまわんと言っているだろう?」


「私もいい」


「しかし……」


なにやら言い争ってるな。

話し声が少しずつ、少しずつ大きくなっていく。

そしてぴたっと俺の病室の前まで来ると止まった。


「貴官たちは持ち場に戻れ。

 ココから先の護衛はいらない」


口調からしてシエラだろう。

命令されたどやどやと大勢いたであろう人間の気配が少しずつ薄れる。


「シ、シエラから先に行ったら?」


「姉さん、ほら遠慮しないで。

 どうぞ、ビッテ」


「そう?

 じゃ遠慮なく……はっ!」


とっさの判断で身構えた。

そしてその判断は正解だったようだ。

プシュッと開くはずのドアがはじけ飛んで火花を上げながら病室内を暴れまわったからだ。

その被害を一番初めに受けたセズクはもろに顔面に直撃を食らった。

次の被害者は仁のPCだ。

セズクから反射してきたドアはそれだけで軽量化されてはいるものの五キロほどある。

その突進をまともに受けたPCはくだけ散り仁の涙も一緒に散った。

砕けた仁のPCは部品を撒き散らしながら部屋の隅へとドアと一緒に飛んで行く。

運動エネルギーをそこですべて使い切ったドアは大きくへこんだ体を壁に預けると動かなくなった。

大惨事だ。


「波音っ!

 よかった……。

 あの時死んじゃったのかと……ばかり……」


飛び込んできたメイナに思いっきり抱きつかれた。

胸当たってる、おい、胸。

それはともかく仁に謝れ、お前は。

ドアの開け方を知らないのかお前ら三人は。


「お、俺の……PC……。

 あ……あ……俺の……ははは……」


仁の涙が頬を伝っていた。

そりゃそうかショックだよな。

その姿を見たメイナは俺の耳元で


「仁、何で泣いてるの?」


小さくたずねた。

百人の人がいたら間違いなくみんな「お前のせいだ」と突っ込んだに違いない。

当の俺は呆れて声が出なかったわけだが。

それでも普通は気がつくよな~。

鈍いのかアホなのかバカなのか一体どれなんだろうか。


「姉さんったら任務中もずっと。

 ずぅ~っと『波音大丈夫かな?』と、そればっかり。

 疲れちゃってさ」


「もううんざり」と言いながらシエラがドアの無くなった扉枠に手をつき微笑んでいた。


「シエラ……」


これもまた久しぶりに声にしたせいか変なざらつきが舌の上に残った。

あのESSPX細胞の主……。


「僕の細胞が迷惑かけたっぽいね。

 ごめん」


「おいおい、お前もかよ……」


まったく……。

過ぎた事などどうでも良いというのに。

生きているだけで俺はありがたいってのに……。






               This story continues.

ありがとうございました。

仁……。

そんな感じの話になってしまいましたね((((ノ≧▽≦)ノ

まぁそんな感じでまだ続きます←


http://ncode.syosetu.com/n2021p/


この物語の中で波音の学校生活(?)という視点で新しく

ギャグ小説を書き始めました。

前にも一度うpしたことがあると思いますが……。

そうです、しゃくでば!です。

本編中でできなかったあんなことやこんなこと。

シエラがまさかあーんなことを……。

などと色々おかしいですがよろしかったらどうぞw

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