F・D
「準備OKだな」
俺はそう小声でつぶやくと、玄関から仁の家に向かって出発した。
夜の風が肌にひんやりと冷たい。
にゃ~。
足元から声が聞こえたので見ると白い猫がこっちを見ていた。
頭をなでなですると、また歩き出す。
後ろからついてくる気配がしたが気にしない。
家で飼おうか、こいつ。
俺と仁の家は二十mも離れていない。
だからこその親友であり、相棒なのだ。
あっというまに玄関に着く。
インターホンを鳴らそうと手を伸ばすが
猫が足の上に乗ってきて気そぞろになった隙に
仁が俺にむかって走ってきた。
いや、飛んできた。
「波音~!!!」
「で、結局どこなのよ?」
俺は学生服のままベルカの遺跡に向かうつもりだったが
遺跡の場所がどうもよくわからない。
「もうすぐ、もうすぐ♪」
仁が俺に殴られたこぶの後をなでながら歌いだす。
なんて変な歌なんだ。
にゃ~。
猫も歌いだしたようだ。
ってか、いつまでついてくるんだよ、この猫。
追い払おうと、手を振るが効果なし。
足をぶんぶんふったらそれにじゃれつく始末だ。
どうしようもないことがわかりあきらめることにする。
「どこですか? そこですよ~♪っと、ついた」
変な歌とともに土のにおいがあたり一面に漂っている空き地のような場所に着く。
暗闇は一寸先も見えない。
と、おもいたかったのだが…
「こんばんわ、冬蝉どの。あ、柊さんも」
でた。
警察だ。
どうやら親についてきたようだ。
さすが、将来刑事とかになりたい願望があるやつらだと思う。
しかも、スポットライト車まででてきてそこだけ真昼のように明るい。
研究するのはアウトだが、見るのは大丈夫みたいな簡単な法律なのか?
結構抜け道あるじゃねーかよ。
それはいいんだが…
「いるじゃね~か!!」
「いるにきまってるじゃね~か!!」
俺と仁は小声で相談を始める。
「どうすんねん!!」
「どうするも何もないねんけど」
自家用PC(仁がつくり上げたとにかくすごいノートパソコン)を持ちながら仁が頭を抱える。
これぐらい想定しておけよ。
俺は頭をやれやれと頭を振った。
「これ使うぞ、耳しっかり押さえておけよな」
そういって俺はかばんをごそごそと探り協力者からもらった
スタングレネード(強烈な音や閃光で人を気絶させることが出来る)
を取り出すと、ピンを抜き放り投げた。
その直後になんともいえない大音量があふれ出す。
耳を押さえても伝わってくる大音量と大閃光。
近くにいた警察隊は気絶してごろごろ横たわっているに違いない。
「ショータイムだっ!!」
俺と仁は走り出した。
「熱反応十…十一…十二…」
どれくらいたったのだろうか。
僕の周りには白骨化した遺体が延々と続いている。
これらはつい最近まで肉がついていて自由に大地を駆け巡っていた。
左目にかかった眼帯のスイッチを切り、自分の右手をさする。
すると、遠くで変な音がなり熱反応がいっせいに倒れる。
「………?」
音爆弾のたぐいだろうか。
この遺跡細胞を通してからは何も聞こえない。
僕はベルカの遺跡を守るためだけにつくらた最終兵器。
二五三一型バトルヒューマン。
通称、大量殺戮破壊最終兵器生命体。
任務開始からすでに二六四九六時間五十二分三十四秒。
任務終了は来ない。
なぜなら、ベルカ帝国を守るのがこの僕の「使命」なのだから。
「おらっ!!」
仁が吼える。
マジックをせっせと動かしながら俺は仁のほうに顔を向けた。
「いけたか?」
「ま、まだだっ!まだおわってないっ!!」
ふぅ、とため息をつくと俺は再び冬蝉の顔に集中した。
目を中心にいくつもの円を描いていく。
そして、額には「肉」の文字。
鼻の下にはひげを現す線を何本も描いた。
そして、ほっぺたにデカデカと
「肉」と書いてやった。
もちろん、油性で。
「まだか?」
「へへへ…こりゃすごいぜ。
昔の文明のくせにおらのPCに逆ハックしてくるとはよ!!!
ぐははははは!!!」
だめだ。
ありゃ目が逝ってる。
冬蝉の顔に余白がなくなったので次の彗人の顔にうつろうとおもった瞬間
ぽんぽんと、肩を叩かれた。
「君達、何をしているのかな?」
そこらへんの住民だろうか。
かなり、怒っている。
スタングレネードの大音量で目をさましてしまったのだろうか。
ミスッタな。
ここが住宅街の真ん中だということをすっかり忘れていた。
「ちっ」
俺は小さくしたうちすると鳩尾に一発。
男がうめいて倒れる瞬間に首に一発叩き込んだ。
男は倒れ動かなくなる。
殺しはしない。
俺は血をみるのがかなり苦手だ。
手足がすくむんだ、血をみると。
「あいたぜっ!!」
仁が叫ぶと同時にピーピーと音がなりながら扉が開いた。
と…中から黒い物体が飛んできて今気絶させた男の頭をぶち抜いた。
脳漿や骨が飛び散る。
あの分だと即死だろう。
「!?」
俺は今起こったことが理解できなかった。
そして、顔を扉に向けた瞬間目の前に死が広がっているのを見てしまった。
「Syonaralara」
なにやらよくわからない言葉が死の口から発せられる。
機械ともいえなくない声が耳を振るわせた。
ように…聞こえた。
「ちぃっ!!」
全身の筋肉を使って頭をそらす。
その直後、すごい風圧が耳元を通り抜けた。
そしておこる大爆発。
波音を外した弾が一般住宅に命中したのだ。
その家はもう文字通り跡形もない。
灰すらのこらずに家は「消滅」した。
「波音っ!!」
仁が叫ぶ。
おかげで目の前に迫った刃をぎりぎりでとめることが出来た。
制服に穴が開く。
その「刃」は狙いを外したとわかると、あきらめたかのように地面に落ちた。
「な、なんなんだよ、いったい…」
気がついたら俺は汗びっしょりだった。
仁はというとPCを駆使して一生懸命に扉をとじようとしている。
だが、扉はしまらない。
か弱そうな手がそれをさせなかった。
急に閃光が走り扉が変形して、爆発する。
中から現れたのは少女だった。
しかも「美少女」。
その、「美少女」が右手にあれはいったい…?
例えるなら…そう、死神だ。
死神を持ってゆっくりと歩いて出てきた。
「bokueki yok haz sgoi」
少女は透き通った声でそう言った。
(ベルカ語!?)
俺はそうおもうと現れた少女をまじまじと見つめた。
左目の変な形をした眼帯、右目の赤紫の瞳、銀の長髪、細い体、整った顔豊かな胸などが
目に飛び込んでくる。
「お、お前は…?」
俺は自分の顔が赤くなるのを感じあわてて少女の胸から目をそらした。
「bok siru muri sayou
ana si kok sug
anns su itanai」
そう一言少女は呟くと右手を波音にむかって突き出した。
ガギギ・・・
と嫌な音がして右手が変形していく。
そして現れた、銀の刃。
「な、なんだそれ!?」
勝てるわけがない。
俺なんかにこんな化け物に…
俺にむかって刃がきらめく。
それを右手の指で掴みひねる。
それだけで勢いのついていた少女のからだは宙に浮く。
だが、すぐに体制を整え第二攻撃。
少女の左手に握られていた銃らしきものが火を噴いた。
熱いものが俺の肩を貫くと同時に飛び散る血液。
「つっ!!」
銃弾は貫通してくれたのか、内出血を起こしてはないようだった、
だが、どっちにしろこのままでは死ぬことにかわりはない。
「Belca horob mo den!!(ベルカはもう滅びたんだ!!)」
波音は少女を止めようと夢中でいざというときのために一ヶ月で習得したベルカ語を話した。
本当は国際法に違反するが協力者が覚えておけと言っていたので一応取得しておいたのが
いまさらになって役に立ったわけだ。
すると少女の動きが止まった。
そして、きれいなピンクの唇が静かに開閉しはじめた。
口からながれでる美しい旋律。
ベルカ語だ。
「boku kieru bcago.
siーbereru?
rikaiunoka?」
「(ベルカ語がわかるのか?しゃべれるのか?)」
「dei.
sixyadelte」
「(あぁ。しゃべれる)」
※ここからはベルカ語を日本語に直して書く。
「ってことは、お前はベルカ人なのか?」
少女は確かにそういった。
「ベルカ人、今で言う日本帝国人だな。
ベルカ人か?ってきかれたらベルカ人だな」
俺はそう返した。
真っ赤な嘘だがこのさい仕方ない。
そもそもベルカ自体が謎の国家なのだ。
誰がベルカ人とか知るわけがない。
「ここは…?」
少女は言った。
「ベルカの都はどこに消えてしまった…?」
「だから言っただろうが」
波音は少女に諭すよに言った。
「ベルカは滅びたって」
「うそだ!!」
急に少女の目から涙がこぼれた。
余りの変化に俺はびっくりするがどうすればいいのかなんて分かるはずがない。
それに肩の痛みが俺を翻弄していることもあって汗が体から噴出す。
「なら、僕はどうやってこれからいきていけばいいの…?
国がなくなったら、僕が…僕が生きている理由なんか…ない…」
そして、地面に崩れ落ちた。
両手(右手はいつの間にか普通の指に戻っていた)で顔を覆って泣き出す。
水滴が、指の間から零れ落ちて少女の服にしみを作った。
さっきまでの、力強さはどこへやら。
雨が降ってきて、少女が作った大穴に水が溜まっていった。
急に視界が崩れ、出血の限界がとっくに過ぎていたことに気がついた。
そして、俺は意識を失った。
チュンチュン…
鳥が鳴いている。
さわやかな朝だ。
そうおもいたかった。
だが…
「起きろ」
「えっ!?
えええっ!!!?」
「うるさい」
「な、な、な…」
俺は思わず口をパクパクさせながら指をさす。
その先には昨日の少女が腰に手を当てて立っていた。
This story continues.
また次からは二日に一度の更新となります。
ご了承ください。