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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
甘恋な季節☆
38/210

ザ・ピクニック

二階ではシエラとメイナがまだ話し込んでいた。

仲が良いのはいいことだと思う。


俺はなにやら理不尽な怒りをうけたんだけどな。

とりあえずアリルにデートする場所はどこがいいのか聞く。

なんか最近充実しているような気がしないでもない。

これが最近噂のリア充とやらか。

携帯を開きメールするべく画面を見るとジョンからメールが来ていた。


《二人を貸して欲しい》


なるほど、あのときの約束か。


「シエラ、メイナ!

 ちょっと来い!!」


「何だ?」


「ジョンから応援の要求だ。

 行って好きなだけ暴れて来い」


「え、何?戦争?いいの?」


二人の顔に笑みが広がる。

肉を得た獣のような目だ。

嬉しそう過ぎて直視できない、そんなに喜ぶことなのだろうか。


「えぇと場所はハイライト中央部第二区だとさ。

 行ってらっしゃい」


ハイライト内での場所を教えてあげる。

それ以前にこの二人ハイライトにたどり着けるのか?


「行ってきますっ!」


二人は嬉しそうに玄関まで走り出る。

そして消えた。

その直後に開いたままのドアからすごい風が吹き込んできて俺にアタックをかましてくれた。


「うぉぉっ!?」


そして俺はこけた。

尻餅で衝撃を和らげたがしっかりと痛かった。






自分の部屋に戻りラブラブモード開始。

アリルにメールをする。

自分で言っておいてなんだが、ラブラブモードってなんだよ。


《デート行くとしたらどこがいい?》


送信。


《私は静かな所が好きなので……そうですね……

 なかなかの難問ですね》


《山とか?》


《ピクニックですか、私がお弁当作りますね!

 いいですね、ピクニック♪》


アリルって天然なのか?

山=ピクニックか。

あまりよく分からない思考回路だなぁ。

こうして案外あっさり決まってしまった。

明日、比較的近くの山でピクニックとのこと。

地図で選んだ場所は『南越中山』らしい。

マジか…。

あそこは嫌なんだがアリルの嬉しそうなメールを見ていると反対する気もうせた。

俺は迎えに来い、明日が楽しみになってきました。とのこと。

最後に《おやすみ》と送った後携帯のデジタル時計を見るともう夜の十二時になっていた。

もう寝るか…明日は大変そうだし。

布団に入ったとたんに疲れていたのかたちまち眠りに引きずり込まれていった。






急にいやな物に覆われている気がして目が覚めた。

なんか寒い、クーラー弱めるか。

そう思って目を覚ますと枕元にセズクがいた。


「うわぁああああああ!!!」


「やあ♪」


「死ね!!マジで死ね!!考えられねぇ!!なんでいるんだよカス!!」


布団を跳ね飛ばし思いっきり壁まで後退する。

なんでいるんだよ!


「セズクー、波音にまたちょっかいかけてるでしょ?

 駄目だよ~、ダメッ!」


メイナがセズクの名を呼んでいる。

それにここは俺の家なんだよな?


「なぁにやってんだぁ!」


声がドアの方から響いた次の瞬間セズクの体が俺の目の前から消え壁に突き刺さる。

文字通り、突き刺さる。

壁に、そうだ、壁にだ。

身長一八五センチ、体重七〇キロの巨体が――だ。


「ったく、油断も隙もねぇな」


シエラが腰に手を当てて壁に突き刺さっているセズクにため息を一つ二つ。

壁から出ようともがくセズク。

なんで生きてるのかが不思議なぐらいだ。

あ、こら、パラパラと瓦礫を落とすな、後で掃除しておけよ、セズク。


「どうでもいいけど俺明日デートなんだ。

 静かにしてくれねぇかな?」


「………デート?」


ピクッと目ざとく反応したセズクは壁にめり込んだままくぐもった声で聞き返してくる。


「そう、デート。

 邪魔はしないでくれ、シエラとメイナは早く寝ろ。

 じゃ、お休み、うるさくしたら怒る。

 めっちゃくちゃ怒る」


再び布団をかぶり目をつぶるが目がさえてしまって眠れない。

この最終兵器二人+最終兵器モドキの馬鹿野朗。

時計を見ると真夜中も真夜中。

時計の針は三時四十分を指していた。

明日着ていく服などを考えちょっと心が躍る。

女が嫌いとか行っていてもコレはもう本能。

そう、本能なんだ、だから仕方ないんだッ!

そう自分に納得させて必死に眠ろうとする。


「抜けたーっ!」


うるせぇーっ……。






「んっ……ふぁぁ……」


目覚ましのベルが八時に鳴り、グーで時計をぶん殴る。

リーンと最後の断末魔を鳴らし時計が電池を撒き散らす。

そして湧き上がるあくびをかみ殺す。

シエラとメイナはまだぐっすりと眠っており台所へ髪をくしゃくしゃしながら出ると

セズクがコーヒーカップ片手に新聞を読んでいた。

いつもの軍服からさわやかなタンクトップとGパンに着替えたセズクは

正直かなりかっこいい。


「おはよう、波音。

 ご飯は僕が作っておいたから食べてくれ」


セズクが指した先を見ると焼き鮭と味噌汁、ご飯、モズク…セズク?似てるな。

―つまんねぇ。

それらが湯気を立てておいてあった。


「何も入ってないだろうな?」


「ん?

 大丈夫さ、今日は波音の大事な日って聞いたから何もいれてないさ」


にっこりと笑う顔と対照にセズクが手に持っているカップが砕け散った。

コーヒーがセズクの手にたっぷりとかかったがセズクは動かず熱がることも無かった。

服が汚れてもお構いなしでただにっこりと笑っている。

ただただ、笑っている。


「い、いただきます」


おびえながら席に座って食べる俺。

うまい。

日本食はやっぱりおいしい。


「ふあぁ~、おはよ~うにゅ~~」


最後のうにゅ~が意味不明。

メイナが起きてきて大あくびをする。


「シエラは?」


「まだ寝てるよ、とりあえず私にもごはんっ!

 ごはんっ!!」


「まってろ、メイナ」


セズクがコーヒーカップ(新しいやつ)を机に置きフライパンなどを取り出す。

セズク料理できるんだ。


「波音、服とかはそこにおいてあるからね。

 かっこいいのをハイライトで買ってきておいたぞ。

 似合うのばっかり僕の独断で買っておいたからね?」


「お、おう。

 ありがとう」


「どういたしまして……っほら、完成。

 メイナ、ほらスクランブルエッグ」


「なんか私だけ波音と扱い違うよね?」


「当然だ」


そんな会話を聞きながらセズクが用意しておいてくれた服を着込む。

なるほど、いいセンスしてるぜ、セズク。

ただこのTシャツは……だめだろ。


『I love Battleship YAMATO』


なんでコレが似合うと思ったんだし。

反論していいのか、コレ。

なんだよ、これ。

日本語訳すると


『私は戦艦大和が好きです』


になるだろ。

外人から見ても日本人から見ても意味不明の英文だな、おい。

もう仕方ないからこのままポーチを持って


「行ってきます!」


大声で元気よく家から飛び出した。

からっと晴れていて日本海側としては珍しくとてもいい天気である。

気持ちがいい快晴だ。

と思ったのは初めの五分だけ。

あとは朝っぱらからぎらぎらする太陽にひたすら毒づく俺の姿があった。

これえでアリルの家の山を登るとなると死んでしまう。

別に死にはしないが。

そして現実は常に厳しい現状を俺に押し付けるのかと思いつつ今回ばかりは

少しだけやさしかったようだ。


「あ!波音君おはようございます」


麦藁帽子にワンピース。

手には昼ごはんが入っているのであろうバスケット、そして水筒。

アリルが家の玄関から降りて下で待ってくれていた。


「あら~、永久君おはようじゃないの」


「あ、マダム。

 おはようございます」


「娘をよろしく頼んだわよ?

 怪我の一つ二つぐらいは別にかまわないわ。

 でも絶対に娘は返してね?」


「はい、もちろんです。

 では、行ってきますマダム」


「それでは、お母様、行ってきます!」


「いいわねぇ、青春。

 私も旦那とピクニックにでも行こうかしら。

 行ってらっしゃい、二人とも。 

 気をつけるのよ~」


テクテク二人で歩く。


「山歩くんだけど、その格好で大丈夫なのか?

 いくら舗装いるとしても虫とかにさされるんじゃ…」


「あ、大丈夫です。

 虫除けスプレーつけてきましたから」


準備が完璧すぎる。

俺虫除けスプレーしてねぇ。


「本当は遊園地とかに連れて行ってあげたかったんだが…ごめん」


「あ…いえ、私は……波音がいてくれたら……」


耳まで真っ赤になるアリル。

俺は太陽とはまた別の熱を感じた。

しばらく無言で歩く。


「な、なぁ……

 あー言いにくいなぁ……」


「?何ですか?」


「手…つないでも……その……」


俺は何を言っているんだろう。

よくアニメとかマンガで手を軽々しくつなぐが

現実でやってみるととてもじゃないけど心臓がヤバイ。

嘘じゃないぜ、本当だぜ。


「そういう時は何も言わずにさらっと掴むのがコツですよ?」


あれ、動揺してたの俺だけ?

パッと左手がアリルに掴まれる。

一瞬のためらいもなく奪い取られた左手。

そこだけ炎に手を突っ込んだかのように熱い。

ぎらぎら太陽は今俺が出す熱に負けていた。

のぼせそう、そしてむずがゆい。

でももう少しこのままでいてたい気がする。

蝉の声も何も聞えない。

思考回路も停止状態だ。


「思ったより早くつきましたね」


その声にハッと我に返る。

あっというまに目的の場所についていた。

目の前に木製の階段が続いている。

町並みはいつの間にか消え去りあたりはすっかり田舎だ。


「お、おう、ついたな。

 とりあえず登るとするか」


「上についてしばらく散策したらお弁当食べましょうよ。

 私がんばったんですよ?」


「OK,いただくさ」


ポーチから水筒を取り出し水を飲む。

水分が体中を駆け巡る。


「けっこう涼しいから大丈夫だろ。

 さて行くか」


この山は途中まで緩やかな道が続き大体五十メートルぐらいで

芝生が広がる山上公園となっている。

それに桜が綺麗で森も豊かなので結構この辺の住民からは好かれている。

そしてここは俺が小さい頃姉ちゃんと一緒に見つけた絶景スポットがあるのだ。

姉ちゃんの名前は『海音かのん』で俺よりも三つ上だった。

ここに来ると姉ちゃんのことを家族のことを思い出すから来たくはなかった。


「あんた、男でしょ?

 ほら泣くな、波音、泣くな。 

 泣き止んだら姉ちゃんが何か買ってあげるから」


よくそう言われたっけ、結局何も買ってはもらえなかったんだけどな。

でもその話に何度も何度も引っかかって一生懸命泣き止むべく努力したのを覚えている。

そしてアリルとここに来たことで家族に…姉ちゃんに

俺は成長したということを見てもらいたい。


「ふぅ……結構疲れますね」


「あぁ…」


「どうかしたんですか?」


「いや、懐かしくてな。

 もう少しするとだな……」


ほら懐かしい芝生の公園においてあるキノコの形のおもちゃが見えてきた。

変わらない臭い。

変わらない記憶。

風景。






               This story continues.

今日から8月9日までオープンキャンパスに行くため更新することができません。


なにとぞご了承くださるとうれしいです

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