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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
甘恋な季節☆
37/210

人間とは何か。

「ほら、食器ぐらいは洗えるだろうが」


食べ終わった食器を俺はメイナに手渡した。


まかせなさい!といわんばかりの勢いで食器をひったくったメイナは流しに食器をぶち込む。

割れるから注意しろといいたいのだが汚名挽回のチャンスと受け取ったのだろう。

洗剤をつけてごしごしと一生懸命にこすっている。

ピロリーン♪

お、メールが来たぞ。

アリルからの返信のようだ。

受信boxを開く。


《ふぇぇぇ!?本当ですか!!?

 ふにゃぁ…恥ずかしいです……!

 でも嬉しいです!》


ふっと鼻で笑い《嘘だ》とだけ打って送信する。


「おーおー熱いこって。

 今夜は熱帯夜かねぇー」


仁がメールを見ていたようで面白くもないギャグを飛ばす。


「え?波音風邪なのか?

 熱いんだろ?大丈夫か?」


ギャグと分からずに真剣に受け止めるシエラ。

そこはギャグと分かれよ、一応さ。


「バカだなぁ、違うよシエラ。

 波音には彼女が出来てなぁ。

 これまた可愛いんだが今その彼女から……」


「もういい」


ひやりと氷のように詰めたい声だった。

思わず身震いするぐらいの殺気が俺と仁をビリビリと威圧する。


「ど、どうしたんだよ、シエラ」


「うるさい」


なんなんだよいったい。

シエラは「波音なんて死ねばいい」とひどいセリフをはいて俺をにらみつけた後

ぷんぷん怒りながらメイナのところへといってしまった。

いまさらながらだが食堂は一階にあり食後は二階でくつろぐのが俺の習慣となっている。

テレビをつけお笑いコントを仁と見ていると階段がミシリとなりメイナが手を拭きながら上がってきた。


「ねぇ、シエラどうしたの?」


「ん?

 しらねぇよ、分かるわけ……ぶぶっ!はっはっは……」


仁の沸点低いなぁ、今の人どう考えても面白くねぇだろ。

そう心に毒づいているとテレビが火花を吹き上げ画面にドデカイ穴が口を開けた。

ガラスが粉々に砕け煙がゆっくりと立ち昇る。


「ねぇ、シエラどうしたの……?」


どうやら俺は最終兵器二人を怒らせてしまったらしい。

穴が開いたテレビを仁がポカーンと眺めているのをよそに俺はメイナにたっぷり絞られている。


「だから!

 何でかわかんねぇんだよ!」


「そんなわけないでしょ?

 殺すよ?」


「はい、すいませんでした。

 言葉が過ぎたとおもいます。

 ですが本当に何か分からないんです、はい」


ライトを当てられ脅されている姿はまるで刑事ドラマの一シーンのようだ。

もちろん俺は犯人役である。


「もういいわ…今日はここまでにしてあげる。

 でも、そのうち絶対に吐かせるからそのつもりで」


違う、違うんだ、お前らすごく間違っている。

俺が一体シエラに何をしたと?


「とりあえず、俺は帰るとするわ。

 じゃあな、波音」


「お、おう」


「あ、風呂たまったみたいだから入れよ」


仁がちらっと風呂のランプを見て教えてくれる。

その後手を上げ仁は階段を下りて家へと帰っていった。

残された俺とメイナ。気まずい。


「お、俺風呂入ってくるから……」


そういってその場からそそくさと逃げ出すしかなかった。






「一体なんだったんだよ……」


あのときの殺気と憎悪に満ちた冷たい目。

とても冷たい目で俺に恐怖を与えていった。

防水加工の携帯がバイブと共に鳴り響き風呂場に反響する。

びっくりして水の中に落としてしまった。


「あちゃーやっちまった。

 でもそんなときのための防水加工だからな」


一人で言っててむなしい独り言だ。

余り気にしないで欲しい。

とりあえず背面ディスプレイを見て、アリルからのメールということを確認する。


《う、嘘なんですか……がっくり……

 でも波音君さえよければ私はいつでもいいですので……》


あれ、アリルって結構積極的じゃね?

女の気持ちが分かるのは女だけ――か。

ん?ってことはこのことをアリルに聞いてみるか。

シエラがおかしくなった件をアリルに聞いてみることにした。


《ちょっといいかな。

 今さ仁がお主からのメールを見ておーおー熱いねと冷かしたんだ。

 それを心配したシエラに仁が俺にお主という彼女が出来たんだって言った瞬間

 なんか殺気みたいなのを出してな。

 すごく困ってるんだけど何か分からない?》


なるべく詳しく状況を書いたつもりだ。

まともな返事が返ってくることを期待して送信する。

どうでもいいことだが俺は「お前」とはメールでは使わないことにしている。

なんか距離とかありそうだからな。

だから大体は「お主」と使うようにしている。

まぁ俺の趣味の問題だから余り気にしないで欲しい。

湯船から出て頭をごしごしと洗う。

体や顔を綺麗に洗い産毛を剃る。

そして再び湯船に使ったときアリルから返信が来た。

と思ったら二通目がすかさず来た。

頭の上に?を浮かべながら受信box覗くと一つは詩乃からでもう一つは待っていたアリルからの返信だった。

後からいい思いをしたほうがいいので先に怖い人からのメールを開く。


《シエラがすねているらしいじゃねぇか。

 てめぇ何したんだボケ。

 とりあえず今お前の家に着いたからな。

 さっさと風呂から上がってこいカス》


こえぇっす。

ハンパなくこえぇですはい。

震えながらアリルからの返信を開く。


《多分『嫉妬』じゃありませんか?

 私はその時にいないから分からないんですが……》


なるほど、そうかもしれない。

そう考えたらすべて納得できるかも。

とりあえず詩乃が来ているということで風呂から上がりバスタオルで体を拭く。

髪を乾かしパジャマを着てゆっくりと足音を立てないように三人がいる部屋へ向かう。

そしてゆっくりと三人がいるであろう部屋ドアの隣にある壁の蓋を開け中からイヤホンを取り出しはめる。

これは鬼灯のおっさんが部屋の中の状況確認のためにと作ってくれたものだ。


「だからさ、大丈夫だから」


「…そうだよな……」


うんばっちり聞える、ふふふのふ。

今の俺は調子に乗っています。


「私だって昔そんな風に思っていたんだから。

 あいつはハンパなく鈍いやつでどんなに私がアピールしても全然わかってくれない。

 本当にあいつのせいで何度枕を濡らしたことか……」


絶句した。あぁ絶句した。


「でも僕はアリルなんか消えてしまえばいいって思ってしまって……

 波音にも冷たく当たってしまって…

 こんなもどかしい感情を受けたのははじめてで……制御できなくて……」


「シエラ、それは『嫉妬』というらしいよ」


メイナの声が説明を始める。

どうやら国語辞典を持っているようだ。



「えーっとねぇ……嫉妬だよね?

 読むよ?

 自分よりすぐれている人をうらやみねたむこと。

 と

 自分の愛する者の愛情が、他の人に向けられるのを恨み憎むこと。やきもち。悋気(りんき)

                                   『大辞泉』より

 だってさ、ふーん……」

                                        

再び言うが絶句した。いや本当に。

俺はこわごわイヤホンを外し冷蔵庫の中の牛乳を腹に流し込む。

腹の中からゆっくりと体が冷えていき茹で上がった俺の脳は再び処理を開始した。

胸を見られても恥じることが無かった最終兵器が『嫉妬』だと?

つまりコレは感情をなくしたはずの……いや感情を持ってはいけないものが

感情を持ってしまった…とそういうことか?

『怒り』や『悲しみ』などの単純な感情があるのは知っていた。

だが何かと何かが混ざり合うことによって出来た複雑な感情『嫉妬』をシエラは感じている。

それがあらわすのは最終兵器二人が普通の人間と同じ感情を再び持つことが出来る……

つまり人間へと戻ることが出来るということだ。

気まずい、そう考えると。

あの二人は可愛いが絶対に恋仲になるわけがないと思って一つ屋根の下で暮らしてきた。

だが今日新たな感情を取り戻した最終兵器は非常に使い道が狭まったことになる。

人を殺すためだけに生まれてきた平気が人間らしさをゲットする……一言で言えば簡単だ。

だがそれは説得によって二人が敵側へ寝返ったり自己判断で勝手に作戦を中止したりするという

可能性が出てきたことをも示唆している。

こういうことが無いように感情を一切消し去ったのであろうベルカ帝国。

感情を取り戻すことが出来るということは人間がなせる当然のことなのか、ベルカの計算違いだったのか。

とりあえずあの兵器は『感情の一つである嫉妬』を取り戻してしまったのだ。

まぁ俺的には人間らしさがある最終兵器のほうが嬉しいんだけどな。

イヤホンから流れてくる声はやがて笑い声に変わっていた。

もうあの話には戻らないだろうと考えドアを蹴って踊り入る。


「鬼灯詩乃いらっしゃ~い!」


リズムをつけて詩乃に言う。


「おっす、邪魔してる。

 でシエラがすねてるんだが?」


あれ……計算ミスったかな……?

いかん、まずいことになった。


「もういいんだ。

 詩乃ありがとうな」


シエラが詩乃の言葉を止めにっこりとわらいかける。


「シエラがいいって言うなら別にかまわないけど……むー…」


よかった、どうやら俺は罪にとらわれなくてすむようだ。

そこから先は他愛もない話で盛り上がり時間だけが過ぎていった。

夜の九時ごろになり「もう帰るわ」と詩乃が立ち上がり俺も「おうじゃあな」と言って玄関まで見送る。


「アリルとデートした?」


「まーたはじまった」


あふれ出るため息。


「あんたバカなほど鈍感なんだからね。

 明日にでもデート言ってきなさい。

 あ、後海にも行くわよ!みんなで!

 異論も反論も認めないから!」


反論しようと思った俺の気配を打ち消すように一気に畳み掛けられた。

海か、たぶん詩乃の別荘についてきたプライベートビーチだろうよ。


「さっさとデートしないと女の子はさめちゃうんだからね?」


あー海の話になってまたアリルの話に戻ってきたのか。

話題をころころ変えんなよな。


「わった、わったよ。本当に母ちゃんみたいに言いやがって……ったく……

 明日にでもデート行ってくらぁな!」


「うむ、よろしい」


はじける笑顔で笑いじゃと手を振って詩乃は闇に溶け込んで見えなくなった。

………やっぱり女って面倒だな……そう思いながら玄関のドアを閉め階段をのんびりと登った。






               This story continues.


ありがとうございました。

かなりリア充になってきましたがご安心を!(何

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