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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
甘恋な季節☆
35/210

リア充な俺

「あ、お嬢様!?

 どこへ行かれるのですか!?」


門の奥にある扉から女の人の声が聞えると同時に

アリルが俺に向かってダッシュしてきた。


アリルは金髪とすらっと長い足に華奢な体つきをしており

膨らんでいる場所はきちんと膨らんでいる成長正しき女子のようだ。

アリルの後ろには四〇代半ばに見えるおばさんが立っている。

すげーな俺本物のメイドなんてはじめて見たぞ。

詩乃の家は全自動式だし、綾の家はメイドじゃなくて召使だし。


「ご、ごめんなさい!

 ま、まさか今日こられるとは……」


「いやっ、別にいいんだ!別に!」


メイドは空気を察したのかそそくさとその場を退散する。

蝉の声と猛暑の中に取り残された俺達。


「あの……」


「何?」


「汗……凄いです。

 な、中に入りません……か?」


一語一句慎重に選んでいるのかしどろもどろで話すアリル。

普通に可愛い。


「え、じゃあ遠慮なく。

 しっかしでかい家だなぁ…」


俺が承諾した瞬間アリルの顔が気のせいか輝き胸をなでおろすという言葉そのものの動作をする。


「よかったです」


「?何が?」


「波音君…なぜか怖かったんです。

 実は迷惑がっているんじゃないか…とか考えてしまって…

 でも会ったら私の思ったとおりの永久――波音君で…

 それで安心しました」


アリルは一気に吐き出した後うつむいてしまった。

しばらく蝉の合唱が俺達をじくじくとつつく。


「……別に…」


「はい?」


「……別に面倒くさくはないぞ?

 なんというか――俺も可愛い彼女出来てうれしいし……」


「か、可愛い……ですか……」


なんだろうなこの気持ち。

言いたいことが言えなくてもどかしいしなぜか体の奥からあふれてくる暖かさ。

女は苦手といって告白を断ったこともあったが、なぜ今回に限って了解しちまったんだろう。

あぁー、空が高いな。

雲ふわふわしてておいしそうだし。


「と、とにかく中に入りましょう!

 ここじゃ暑いですし……」


蝉うるせぇなぁ、あぁ俺このまま彼女持ちの…

遼とかうっせぇだろうなぁ。

彗人兄さんは大人だから大丈夫かもしれんけどさ…


「波音君…?」


「えっ?あぁすまん。何だ?」


「考え事でもしてたんですか…?

 何か上の空でしたから…」


「ん、いや別にたいした事じゃないんだ。

 気にしないでくれ、しっかし暑いな」


「あ、暑いですよね、本当に!

 中に入りましょうよ!ね、そうしませんか!?」


「悪いだろ?

 迷惑じゃなきゃいいんだが……」


「ぜ、全然大丈夫です。

 えっと……中へどうぞ…です」


アリルはそういって俺に手招きする。

屋敷の中に入るとき自動的に扉が開き、閉まるのには正直びっくりした。

自動ドアの扉バージョンと言ったところか。

やっと冷房が効いた部屋に入れると思って安心すると共に

今俺は禁断の女子の部屋に入るんだって思ってドキドキもする。

うまくいえないけどとりあえず俺は案内されるがままついていった。


「私の部屋ですけど……あの…いいですか?」


「え?

 うん、別に、うん、構わないよ、うん!」


句読点連発だな、俺。

アリルはドアに『アリルの部屋』とシンプルに書かれた部屋にどうぞと俺を入れてくれた。

一言で言うならあっさりとした部屋だ。

いや、かわいいくてあっさりした部屋というべきか。

もっと女子の部屋にはぬいぐるみがあるような気がしていたんだがな。

あとこんなこと言うのもなんだろうがいいにおいがする。

なんだろうな、このにおい。

いかんいかん、俺のキャラとしての立ち居地が。

冷静につっこむというこの俺の立ち居位置が崩れてしまう。

部屋はかなり広くて机やベッド、本棚などが置いてある。


「えっと、失礼します」


一応挨拶してからアリルがぽんぽんと叩いたところに座らせてもらう。

まぁその場所はアリルの隣なんだけどな。

夕日が部屋内を照らしていて机の上のわんこが紅くなっている。

本棚には少女漫画かと思わしきものが並んでおり他には参考書などがぎっしりと詰まっていた。


「あの、私の用事をすましてもいいでしょうか…?

 用事なんですがその……電話でしか『好きです』って言ってないから…

 私の口から…あの…聞いてほしくて……」


一気に顔が爆発した。

アリルじゃない、俺だ、俺。

アリルの場合は赤い顔がさらに赤くなった。

言ったかもしれないがもう一度言っておく。

俺はまったくといっていいほど女に耐性がないのだ。


「ご、ごめん!ちょっと待って、心の準備させて!」


バクバクとうるさい心臓を押さえつけ息を整える。

あぁ心臓うるせぇ、ちょっと黙れ、死ぬのは嫌だけど。

自分の心の音さえもうるさいと感じるほどの静寂。


「よしこい!」


その言葉を待っていたかのようにアリルが目をつぶって


「好きです、大好きです。

 付き合って欲しいとです!」


言葉を俺にぶつけた。

俺は俺で迫る言葉のせいで大変だ。

アリルだってシエラ達と並ぶぐらい可愛いのだ。

そんな娘に告白されてなにも動じないのはホモかホモかホモであって

それはセズク量産型の認定がつくお方だけだ。

いや別にホモを否定しているわけではないがセズクは死ね。


「えっと俺からもお願いします」


頭の中がパニックになっておりようやくその言葉だけを吐き出す。

俺もアリルも顔が真っ赤だろう。

心臓が胸を突き破って飛び出しそうなぐらいバクバク打ち、顔が炎に舐められたように熱い。

そして再び沈黙が場を支配する。


「あ、あのっ……」


「は、はひっ!?」


俺なさけなさすぎて笑えねぇ。

声が裏返ってしまった。


「やっぱり、こんな時って…あの……キ、キスとかするんですか……?」


いやいやいやいやいや。


「えっと、ですね、えーと…ははは……さぁ…」


暑さとは違う汗でもう背中がぐっしょりだ。


「やっぱり…私じゃ駄目ですか?」


「えっ!?い、いやそんなことは……」


アリルは胸に手を当て深呼吸をしたようだ。

そしてしばらく目をつぶる。

顔の赤いのがおさまってきたな、と俺が思った瞬間アリルの目が開き


「よし、もう大丈夫です。

 緊張なんてしません」


俺、唖然。

覚悟を決めていたと?

そして事の成り行きについていけない。

案外アリルもシエラとかと同じで強い女の子なのかも……。


「波音君は私でいいんですか?」


女の覚悟すげぇ。

一回も噛んでないぞ。


「えっと、ちょっと待て。えーとだなぁ…」


俺も覚悟を決めるべきか。

深呼吸して精神統一、精神統一。

よし。


「俺もアリルのこと前々から気になってはいた。

 それで、今日告白されて嬉しい、うん。

 とりあえず――ありがとう」


アリルの目を見て話す。

目は口ほどにものを言うというのは本当のことだからだ。

でもまた言ってる途中でグダグダ感がぬぐいされない。

もう一度いうぞ。

俺は女に耐性がまったく無いんだからな。

シエラやメイナは女として見てないから大丈夫。


「……それで?」


「え?」


「それでどうなんですか? 

 私と付き合ってくれるんですよね?」


この質問二回目じゃね?

ってかこのセリフ少女マンガくさくね?


「あ…あぁ!もちろんだ!

 お前みたいな可愛い女と付き合える俺が幸せだ!」


決まった。

完璧なまでに決まった。

これでほれない女はいないだろう!

はっはっはっ。


「……もう……大好きです」


あぁ甘いね。

これが青春か。

すこし怒ったように言ったアリル。

照れ隠しなのだろう、顔がまた赤くなってきた。

もういいだろうか。

俺はもう限界、もう無理、もう駄目なのだ。

HPも残り少ないしこのままなぶり殺しにされるのも……。


「と、とりあえず俺は帰るから……」


そう思い言葉をアリルへと突きつけた。


「えっ…。

 あ、はい……」


アリルの顔が一気に曇る。


「いや、やっぱりもう少しいるよ」


ちくりと良心が痛み次の瞬間に俺は前言撤回していた。

あー、やっちまった、畜生。


「ほ、本当ですか?」


曇り空が一気に快晴へと傾く。

この天気の下に暮らす人はたまったもんじゃないな。

さっきの曇り空の時に守ってやりたい感に襲われた。

なんていうかこうやって庇護欲を刺激するのは…うん。

――反則だろ?

結局俺が解放されたのは夜の八時ぐらいだ。

俺とアリルをさえぎる壁はなくなり二人してどもることもなくなり

もどかしい思いをしなくてもすむようになった。

そして話し疲れたのか俺がトイレから帰ってきて来たときはぐっすりとアリルは寝ていた。

起こすのもかわいそうだからそのまま観察する。

……帰るか。

そっと部屋を抜ける前に携帯の写真で寝顔を取っておく。

主な理由としては後でアリルをからかうためだ。

アリルの机の上の紙ににそっと


『今日は楽しかったぜ、ありがとうな!

by Special Boy Towa Hanon』


ふむ、なかなかの出来だ。

そう書いて俺の女神様を起こさないように部屋から抜け出した。

女神ねぇ、まぁいいか。

自分で思ったことに突っ込む俺。

メイドさん達の視線を潜り抜け、外に出ようとしたとき綺麗な女の人に捕まった。

うん、俺帰れなかった。


「貴方が…永久君ね?」


「あ、はい。

 すいませんでした」


逃げようとした俺の肩をがっちりとつかむ。


「なんであやまるのかしら?」


俺がはぁ、とぼやきながら振り向いたら大人のアリルがいた。


「娘の好きな人ってあなただったのね?

 まぁなんてお似合いのカップルかしら」


娘…ってことはこのお方アリルの母ちゃんか!?

え、えぇっ、うそだろ?

いくつだよこのひと。

年齢を感じさせない姿勢や顔立ち。

同見ても二十代前半にしか見えない。

そんな俺の疑問を知らずに話を続けるアリル母。

主婦の立ち話って長いって思うことがあるけど本当に長いんだな。

アリル母の言葉の要点をかいつまんで話すと


アリルはこの家のたった一人の跡取り。

入学時から俺に思いを寄せていた。

今回告白にこたえてくれてうれしい、大事にしてやってくれ。


そういうことだ。


「えぇ、当然大事にさせていただきます」


そう答えて俺は帰ろうと挨拶をしようとした。

だが……


「ちょっとお茶でも飲んでいきなさいな」


えーっ。


「あ、いえ、かまいませ…」


「飲みなさいな」


ぴしゃりと異論を認めない声だ。


「はい…」


俺いつになったら帰れるんだろう。





             This story continues.

読んでいただきありがとうございます。


ちょっと今回はアレですが・・・


と、とりあえず気にしないでください!←

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