しばしの平和
だらだらと痛む体を引きずりながら入ったお風呂は
じんわりとやさしく俺の体を包んでくれる。
ざばっとお湯を顔にかけると銃弾がかすった時に出来た傷がちくりと痛む。
仁やセズクと離れて一人で風呂に入るのも悪くない。
水面に反射した光が天井に変な模様を描き、湯気が視界をうっすらとさえぎる。
ほっと小さく息を吐き水の浮力に身をまかせ体の力を抜く。
今回もギリギリだったなぁと思い
ジョン達は無事なのだろうかと小さな不安が胸に差し込む。
もし死んでしまっていたら……という不吉な考えは頭を振って払う。
まずありえない。
フォーゲルに襲われた時のジョンとは明らかに雰囲気が違っていた。
あの恐怖におびえた女々しいジョンを思い出し、苦笑する。
浴槽から上がりシャワーを出して頭、体と石鹸をつけて念入りに洗う。
体中にいつの間にか出来上がっていた小さな傷がちくちくするが、耐えられないほどのものではない。
最後に浴槽にゆっくりとつかり十分温まったと思ったぐらいに栓を抜いて浴槽から上がり扉を開けた。
「こんばんわ♪」
「………」
バタム。
なんかいた。
ちょっと聞いてくれないか。
今俺は風呂から上がろうとしたんだよ。
そしたら目の前にホモ野朗がいて挨拶してきたんだ。
うん、俺も自分の目が信じられない。
の、前に俺の裸見られたぞ、おい。
仁とかは友達だからかまわないってことはないが許される。
だが、あいつはホモ――つまり同性で興奮する奴。
やばいじゃすまねえと思うんだ。
ガチャ…
「ハロー、マイハニー!」
「散るがよい」
バタム。
――どうやって出よう。
バスタオル及び服は外にある。
そしてさりげなく頼りになる仁は近くにはいない。
となれば自力で何とかするしかないだろう。
きょろきょろと天井を見渡し、ダクトなどがないか探すがさすがベルカの遺跡。
そんなものはまったくなかった。
五分ほど悩むがいいアイディアは浮かばない。
だんだん体も冷えてきたしさっさと結論を出さないと。
「波音~出ておいで~♪」
うぜぇ……
「十秒だけまつよ~!
十…九…八…」
仕方ない前を隠してもうダッシュ。
マッハで下着と服をはいて脱出!
これ以外に方法はないだろう。
「ゼロ!タイムアップ!」
扉のガラス越しに赤い光が見えばらばらに砕け散る。
その瞬間に俺は一気にセズクの顔面を蹴り、もう片足でセズクの足を蹴ってバランスを崩させる。
セズクは空中で半回転したあと頭を思いっきり床にぶつけ
ものすごい、ゴン!という音をたててぐったりした。
「あー…
やりすぎたかなぁ~…」
床に伸びているセズクの顔を見てベットの上の下着と服をマッハで装着する。
そしてセズクを起こさないようにゆっくりそろりそろりと部屋から飛び出した。
部屋から出しても正直俺はやることがない。
シエラやメイナは帰ってきたとたんベットでおやすみなさいだし、仁はPCいじってるし
俺も何か趣味を見つけるか、とあくびをかみ殺しながら考え歩いていると
どやどやと騒がしい声が聞えてきた。
「ジョン達か?」
一人で呟き声の元へと歩き出す。
だんだん声は大きくなっていきやがてジョンの心地よい声が聞えてきた。
「ジョン!」
俺は大声で叫び、扉をあけるとすすだらけのジョンへ飛びついた。
「うわっ!?おっ!?波音か!
お迎えご苦労さんって所か。
俺達の完璧な勝利だったぜ!
一人残らずすりつぶしてやったよ!」
ジョンは汗臭い大きな手で俺の頭をなでて笑いかける。
血で染まった手だが、俺達のために染めてくれた手だ。
拒否する必要などなかった。
ジョンの他に二十五人ほどの兵士がお互いに笑いあい冗談を飛ばしあっている。
これが嵐の前の静けさと考えるべきか、勝ち取った静寂と考えるべきか…。
「波音もゆっくりと休めよ。
二日後、日本行きの飛行機にのるんだからな、お前達は。
日本についたら八月…真夏だな。
俺も海に入ったりとかするためにいくからな、それまでしばしのお別れだ。
まぁ、残された二日間ハイライトを楽しんでいってくれ」
ジョンは俺にそういって、総員風呂へ突撃!と謎の号令をかけて風呂場へ驀進していった。
……また暇になっちまった。
仁でもつれて買い物にでも行くか。
ため息をついて仁のところへいこうとUターンする途中でシエラの翼が乗った車を見つけた。
翼は多分あのリモコン兵器でちぎりとられた奴だろう。
車には連合郡のペイントがされていて所々に銃跡が残っている。
無理やり奪ったんだな、と思いながらまだかすかに光っていて心なしかまだピクピクと
動いているような荷台に載せてある翼に近づいた。
好奇心を刺激され、車の荷台によじ登る。
「ん、結構重いかと思ったら軽いんだな…」
両手で補助翼と主翼を持ち上げて大体の重さを測る。
約三キロってところか。
この青い無数の線からレーザーが発射されるんだな。
線を撫で翼を荷台に置きなおす。
「僕にもあるよ~。
そこまですごくないけど」
出た。
「なんでお前は俺の行く先行く先にいるんだ。
いい加減しつこいぞ」
「愛は誰にも止めれませんよ。
特に僕の場合など何人たりとも止めることは出来ません。
そして占いの結果、僕と波音との愛称はばっちりなんですよ?」
あぁ、うざいです先生。
誰かこいつを俺からとりはらってください。
「まぁ、そんなことはおいといて。
波音~♪」
すごいスピードで向かってきたセズクに無言でグーのこぶしをむける。
人は急には止まれない、この標語どおりに俺のこぶしはセズクの腹へとめり込んだ。
「おぉう…」
セズクは腹を抱えてうめく。
そんなセズクに満面の笑みでじゃ!とさよならの挨拶を投げかけた後
俺は仁の部屋へと向かった。
「どんな様子だ、仁」
「え!?
う……あはは……はは…」
「どうしたんだ?」
「あのさ、波音」
「何よ?」
「クラスのある女子にお前のメアド教えて欲しいって言われてさ…」
だまって仁を見つめる。
「――続けて」
仁が噴き出した汗をぬぐいしどろもどろで俺に話す。
「ごめん!
波音が女子を苦手って言うのは知ってる!
でも、それじゃ余りにも不憫だと思ったから…」
「もういいよ、別に。
問題は、誰になんの目的のために教えたということだ」
俺はやれやれと首を振ってソファーに倒れこんだ。
「え~と、あの人だ。
ほら、金髪ポニーの」
「あぁ、あのロシア系カナダ人留学生…って
えぇっ!?」
おれはガバッと跳ね起きて目をぱちくりした。
まじか。
あの金髪ポニーか。
家がなんでかこの街にある美少女留学生(?)か。
「まじだよ、波音。
俺らと同じ十六歳。
波音、これは恋の予感なんじゃないか?」
「女なら間に合ってるよ。
銀髪、巨乳の素直じゃない最終兵器二人がな」
だが興味がないと言えば嘘になる。
「ってか、俺の記憶には金髪ポニーとしかインプットされていないんだが。
詳しい説明頼んでいいか?」
「波音が寝てばっかりいるからだろ、知らないのは。
同じクラスだぞ?
いい加減にクラスの女子ぐらい覚えろよ…」
「俺の記憶に女子の名前を覚えれる要領はない」
仁はふぅーまったく波音は女子苦手なんだから…と呟いて目頭を押さえた。
よくうっすらと目に映っていた金髪が同じクラスだったとは…
まったく知らなかった、今年最大のびっくりだ。
と、携帯が鳴る。
さっそく来たか。
携帯を開けて受信ボックスにNew!と書かれた文字が入っているのを確認してから開く。
「どうもはじめまして
園田君に教えていただきました
永久君ですよね
私は アリル・ラミエガロイド・ナスカイア といいます
できればして頂けるとうれしいです。」
……女子のメールってカラーだよな。
男子とのメールと違って一行で終わらないところとかがすごい。
俺の携帯にも沢山顔文字が入っているが使いどころがわからないから
まったくといっていいほど使っていない。
アリルっていうのか、あいつ。
数あるカラーな顔文字を眺めて携帯を閉じる。
―またなんか厄介なことになりそうだ。
心にそう呟いた後、俺は携帯を開けて返信をうちはじめた。
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