悪夢再び
「後一人…Tは死んだかもしれないんだ。
僕達は別々に行動していたから、お互いの存在を知らされるだけで顔はもちろん
男なのか女なのかそれすら分からないのだ」
それからシエラはメイナを見て
「僕達は姉妹だったからお互いの事を知っていたのだが…」
と付け足した。
つまりすべては謎ってわけか。
出てくるなら出来るだけ早く出てきて欲しいものだ。
「ちなみに『Delete』はベルカ語では死も表すんだ。
これからは豆知識なんだが、『最後の削除(死)』っていうのは
これで壊すもの…つまり戦争が終わりますように…っていう意味も込められていたらしい」
ジョンはようやく目障りなダンスをやめて、シエラの説明に+αした。
「波音…僕の一人称がどうして『僕』なのか…って考えたことあるか?」
シエラが真剣な顔をして俺に迫ってきた。
「ないな」
だって俺、僕っ娘萌えだし。
…なんだよ、趣味は人それぞれだろうが。
「『T・D』のレーダーを傍受したときにあいつの一人称が僕だったんだ。
だって、知りたかった…男か女なのかぐらいは。
どっちなのか分からないぐらいジャミングがひどかったが
一人称が僕だったっていうのは間違いないんだ」
「だからか…」
どうりでだ。
僕っ娘なんてめったにいるもんじゃないし、いたとしても…
って感じだったからな。
そういうわけがあったのか。
シエラが僕を一人称として使うのはTへの憧れでもあるのだろう。
「と・に・か・く!
後どれぐらいでアジトに着くんだよ?」
仁がシビレを切らして変なトーンでジョンに話しかけた。
もう、最終兵器とかどうでもいいんだな、仁…
まぁ、俺も正直つかれた。
はやく帝国郡アジトで飯食って風呂入って寝たい。
「そこだよ」
ジョンが新しいタバコに火をつけながら地面を指差す。
「は?」
「だから、そこだ」
そこっていわれてもなぁ…
草と石がものさびしそうにあるだけなんですけど。
「そこに飛び込んでみ」
いや、足くじくでしょ!
何言ってんの、ジョン。
冗談はやめろよ、という顔をしたつもりなのだが鉄仮面を崩さないジョン。
あきらめた俺は覚悟を決めて目をつぶって思いっきり飛びこんだ。
なんかぬるっとした膜のようなものを突き破りあまりの触感に全身の毛が逆立つ。
くさったみかんにさわっているようなあの感触が体中を包み込み思わずはきそうになる。
そして、足が何か硬いものにあたったかと思うと俺は鉄の床に無様に倒れていた。
「ようこそ」
ようこそじゃねーよ。
目を開けた瞬間、目の前の兵士が敬礼をして俺を迎えてくれる。
寝転がったままは流石に失礼だと思い立ち上がって俺も敬礼しようとした瞬間
「うを!?」
俺の脚にジョンがぶつかってきて、再び俺は床に転がった。
「お、おいジョン何するん…あうがっ!!」
なんか、読める展開だがシエラが俺を踏みつけて落ちてきて
メイナがさりげなく俺を蹴り上げ、仁がボディプレスで俺は完璧にKOしました。
だが、これで全員のターンは終了。
「お、おまえらなぁ!!」
次は俺のターンだぜ!
「食らうがいい、我がちか…らっ!?」
壊れたフォーゲルが上から落ちてきて俺にとどめのボディプレス。
まさか、こんなところで俺が負けるとは…
不覚だった…がふ。
痛いところをさすり、ぶつぶつと愚痴りながら俺はジョンの後についていった。
帝国郡ハイライト司令部とかいう所に報告しに行くんだとか。
連合郡はいまだにここの事を気がついていないらしい。
もしくは、発覚してはいるがあえて無視しているのかのどっちかだろうな。
蟻などいつでも踏み潰せる。
こういうことなのだろう。
「ついたぞ」
ジョンが俺たちを振り返って言った。
「上着は脱いではいるようにっ!?」
そういや忘れてた。
シエラのやつ今裸同然だ。
ジョンは鼻を押さえながら床に倒れた。
指の間から血が噴出してる。
こいつは、仁並の噴出規模だな。
どくどくと血溜まりが広がっていき流石に危ないと思った俺はシエラに制服を着るように指示した。
いや、だってジョン死んじゃうだろ、これは。
また一人、幸せそうに大量出血する人がでてしまったか。
俺もしっかりと気を保たないとって、いかんいかん。
邪心が。
「だ、大丈夫ですか?ジョンさん?」
「む。
いやはや、久しぶりに女神を見た、そんな気分だよ」
もう、このおっさんは…
ド変態だな、本当に男ってヤツは。
お、俺は違うぞ?
そこは勘違いしないように。
「シエラ…
後で俺の部屋に来てく…」
「言わせません!!」
俺のストレートパンチはジョンの頬に見事にクリーンヒットした。
その勢いで司令部の扉が開く。
十人ほどの男女の目が倒れた(血まみれで)ジョンにうつり、そして俺、シエラへと舐めるように動く。
「は、ははは…」
笑うしかない。
ここで勘違いされて俺死ぬかも。
司令部の一人の男が敵襲を告げるスイッチを押そうと指をのばした。
だが、その腕をがっちりと掴みながらふらふらとジョンが笑いながら立ち上がって
「いや、いいんだ。
俺は死んでないから」
そういってくれたことにより、俺たちは何とか誤解されずにすんだようだ。
「しかし、司令…」
「ん、この血は鼻血だ。
心配には及ばない。
それにこの子たちは、鬼灯のやつから頼まれていた子たちなんだ。
俺達のお客様だ、殺すなんてことしたら…恐ろしいよ、おうおう」
いや、普通ならそんだけ血を出したら死にますって。
それに最後の方何言ってるんですか?
日本語で頼みますよ。
「ってか、司令?」
「え、ジョン司令だったのか?」
仁は感心したような目でジョンを見た。
うん、俺もいまかなりびっくりしたね。
「いかにも。
俺は第十五帝国郡ハイライト基地司令、ジョン・H・マルチローラだ!」
親指をぐっとのばし、自分へと向け白い歯を光らせるジョン。
アニメとかなら、キラーン! と盛大な演出が期待できる場面なのだろうが現実はそう甘くはない。
「し、司令…」
オペレーターらしき女の人がはぁ…とため息をついた。
俺もおんなじ感想ですよ、お姉さん。
室内の温度が一気に十度ぐらいかくんと落ちた気がしたのは俺だけじゃないはず。
「……かっこ…悪い…」
仁、とどめをさしてやるな。
「…毎回それやってますけど、あいからわずダサいですね…」
男のオペレーターの人がジョンに話しかける。
ジョンは、ポーズをやめがっくりと方を落とした。
いま、頬に光ったのは涙なのだろうか…。
意外と家に帰って泣くタイプなのか、ジョンよ。
「―さて、諸君紹介しよう。
こちらが鬼灯との約束の子供達だ」
切り替えるの早いな、だんな。
「右から、永久波音、シエラ・F・D …」
シエラの名前が奇妙なことになっているが、このさい気にしない。
なんか紹介始まってるし。
シエラ、照れて顔真っ赤だし。
とりあえず、名前を呼ばれたので頭を下げる。
人との付き合いはまずはあいさつから…って鬼灯のおっさんにならったからな。
「はい、これ」
紹介が終わりふぅ、と息をついたところでなんか軍服を渡された。
「なんですか、これ」
「シエラちゃんにも渡してやってくれ。
あのまんまじゃあまりにもかわいそうだからな。
軍服のことだけど、あいにく今は女用は切らしているんだ。
すまない。
一応、お前らにもあるんだが…いるか?」
ずっと制服っていうのもつらいし…
海水などでべたべたするし。
記念にもなるかもしれない!
もらっておくか。
「仁、いるか?」
「俺か?
俺はもらっておくよ」
「メイナは?」
「私?
できれば欲しいな~」
「じゃ、全員もらいます」
シエラがむっと頬を膨らませて「なんで僕には聞かないんだ」的な顔をするが気にしない。
そもそも、お前のためだろうが。
人の制服の背中破りおって。
ジョンはひょいとすみの方に消えたかとおもうとすぐに俺達の服を持って出てきた。
「あれ、着るのよね?」
想像していたのと違うのかメイナが口をとがらせるが
制服をいつまでも着るよりもましだと思ったらしい。
素直に受け取っている。
「ほい、シエラ」
仁がシエラに服を渡す。
「あ、ありがと…」
考え事でもしていたのか、はっとしたような顔をして服を受け取るシエラ。
ぱさっとひろげると、俺達の高校の制服が軍服になったようなものが出てきた。
「…え?」
「あ、あんまり今と変わらないね…」
「大塔高校の制服は我々帝国郡をモデルに作られたんだ。
多少似ていても仕方あるまい」
ジョンが腕をくんでうなずきながら言った。
「もし、欲しいなら帽子もあるぞ?」
「い、いえ!
お、お構いなく!!」
メイナが両手をぶんぶんふって、拒否の意志を示す。
俺も同感。
ただ、シエラは欲しいようで
「ください」
ジョンのすそをくいっと引っ張って言った。
お、お前は欲しいのか…
「まぁ、俺の部下が戻ってくるまでその服でも着ていてくれ。
今、日本へと服を買いに行っている」
「な、なんかすいません…」
思わずあやまってしまう。
ここまでしてくれるとは…
「ここではその服を着ておいてくれよ。
でないと、部下が間違って撃ってしまうかもしれん」
からからとわりながら、ジョンは司令とかかれたマンガだらけの机に腰掛けた。
「作戦開始まで後三日ある。
そのうちに、ここ―ハイライトになれておけ。
街に行くときには服がつくまで待て。
その後なら、ショッピングにでも連れて行ってやるよ」
緊張をほぐしてくれる、いい人だと、いまさらながら気がついた。
司令の器にふさわしい、寛大な心の持ち主である。
現金だな、俺も。
海水などでぐちゃぐちゃになった制服を脱いで早速軍服に着替える。
付け足すが、ちゃんと、シエラやメイナとは別々の部屋で着替えたからな。
そこ、忘れないように。
再び、司令部に集まった俺たちに地図が配られる。
この基地への隠し扉などがくっきりとかかれた地図だ。
「では、行ってきます!」
元気よく外に飛び出そうとした俺をジョンが掴む。
他の三人はうれしそうに外へと出て行った。
お、おい!
待てよ!
「な、なんですか、司令殿?」
なーんか、嫌な予感がしながらゆっくりと後ろを振り向く。
「そういえば、思い出したんだが…」
俺のをがっちりと掴んでいる腕を放してジョンが言う。
タバコを取り出して、火をつけながらジョンは
「鬼灯のヤツからお前に銃の稽古をつけろという約束があってな。
この三日間の間に拳銃ぐらいはマスターしてもらうつもりだ。
ここは危険でな。
自分の身は自分で守らないとな」
え、まじですか?
などと、俺は言わない。
正直、最終兵器ばっかりに頼っている自分が情けなくなってきた所だ。
今の不安定な戦争時代を生きるためには自分が強くなるしかない。
「わ、分かりました」
だから、素直に俺はうなずき決心を固めた。
「よし、いい面構えだ。
昨日本部からついたばっかりのヤツに指導してもらおう。
かなり若いのにここの兵士を素手で二十人ほどのしたやつだ。
頼りになるいい人材だ」
と、ジョンが言ったときに後ろのドアが開く音がした。
かなり気になる、誰だろう?
「お、グッドタイミングだ。
入ってきてくれ」
「司令、この子を?」
ん、なんか聞いたことあるよ?
この、声。
聞いたことあるよ?
思わず後ろを振り向いた俺にさわやか青年の微笑が見えた。
すぐに前を向きなおし目をそらす。
さっき固めたばっかりの決心はすでに崩壊しかけている。
こいつにだけは、会いたくなかった。
できれば、あの一本道の後死んで欲しかった。
そう、俺の指導者はさわやかホモ野朗―セズクだった。
This story continues.
どうもありがとうございました。
はやぶさ、お帰り!