さよならな季節☆
次の日、子供をアリルとおじいちゃんおばあちゃんになったマダム達に任せて俺は一人家を出た。
手に持ったものを見て止めようとしたアリルも何かを思い出したらしい。
はっとしたような顔をして、静かに見送ってくれた。
今日も空が青い。
沢山の戦闘機が空を飛び朝からたくさんのカラフルな花火が上がっていた。
今日は終戦記念日。
ハイライトが地上へと落ち、帝国群が勝利したあの日。
戦闘機が空高く飛び、街では歌が聞こえる。
「大切なものが消えるとき。
三つの死は姿を現す。
死は力を使い、全てを守る。
死は英雄となり、光の中で生きてゆく。
大切なものを……守った喜びと共に」
伝説は……。
伝説はもう、悲しいものではなくなっていた。
書きかえられたのだ。
俺達によって。
平和を祝うお祭りで賑やかな街を素通りして俺はゆっくり歩いた。
「よお、久しぶり」
錆びた鉄の扉を潜り抜ける。
街から少し外れた所。
仁の墓場。
いつの間にか仁のAIがあった部屋にはあちこちから伸びた草が生えていた。
俺があの時ぶち抜いた天井からは太陽の光が斜めに差し、ボロボロになった床を照らしている。
日光に照らされた床からは黄色い花がいくつか咲いていた。
花の名前は俺は知らなかったが、なんかあいつらしいな、と思っている。
いつもは周りの草刈りをするのだが、この花だけは刈り取ることが出来なかった。
AIが存在していた空間にはこれまたボロボロになった配線や部品が転がっていた。
それは俺がかき集めて一か所に集めたものだ。
それがまた何かしらの原因で散らばったらしい。
風や動物だろう、と納得してまた全部を拾い直し一ヶ所に集める。
こんなのでも仁の体の一部なのだから無かったら寂しいだろ、と思ってな。
まぁそれ以上に俺は仁の体を吹き飛ばしてしまっていたから……なんともか。
悪いな、あの時はこうするしかなかった。
ずっと手に持ってきたお酒を取り出し、墓の前に置く。
「いい酒なんだ。
一本の値段は言えないけどな。
シンファクシがとっておいてくれた」
その酒は光に煌めく透明だ。
「あ、それとこれな。
差し入れだ」
ビニール袋の中に入っている段ボールの入れ物を取り出す。
段ボールに入ったパソコンの部品を一つ酒の横に置いた。
一万ちょっとした正規品だ。
割と高かったんだぜ?と、仁に話しかける。
酒の蓋を開け、持ってきた二つのコップに注ぐ。
コップを軽くぶつけ、チンと軽く響いたガラスの音を聞く。
「乾杯」
一気に胃の奥へと押しやる。
甘口だったから、もう少し味わえばよかったかな。
「あー。
やっぱり高いお酒はおいしいわ」
静寂。
壊れた隙間から微かに吹く風を感じる。
黄色い花が揺れ、優しい匂いが漂う。
「なぁ、仁。
久しぶりだな本当に」
当然あいつは答えてくれるわけもない。
死んでるのだから。
それなのに俺は喋る。
「俺にな、子供が生まれたんだ。
男の子だ。
なんていうか……俺の子供とは思えないような……。
そうだよ。
アリルと俺の子だ。
かわいいよ、うん」
誰も聞いている人なんているわけないのにふと後ろを振り返ってしまう。
誰もいないってわかってるのに。
酒混じりのため息を吐き出してまた墓に話しかける。
「あーなんだ。
この一年色々あったよ」
本当に色々、な。
俺はもう一杯酒をコップに次ぐと少しだけ飲んだ。
「帝国群は……でかくなって。
あーそうだ。
メイナいるだろ?
あいつ、恋人が出来たらしい。
普通の人間らしいぞ。
笑えるだろ。
あいつも人を好きになるのか、って思ったな。
シエラも恋人が出来ると色々と落ち着くのかもしれないな。
その気配は一向に見えないけどな。
やれやれだわな」
去年まではここにきてはしんみりしてきた。
でも子供が生まれた今、しんみりは出来ない。
次へと伝えなければならないのだから。
だから努めて明るく笑う。
泣いたらあいつにバカにされる。
「なー仁。
平和になったかなぁ。
まだ俺、覚えてるんだぞ?
お主のこと。
嫌な思い出じゃない。
いい思い出だけ、な。
人々は忘れるだろうけど……俺は忘れないよ。
敵だったかもしれない。
でもお主の助けがなけりゃさ。
帝国群は勝てなかっただろうよ」
名前も無き英雄、か。
そりゃ知らない人のほうが少ないだろう……。
けど、ここでひっそり一人も寂しかろう。
こっちの方がお主の性にあってるのかもしれないけどな。
「それにしても……。
みんなは元気だよな」
遠くに聞こえるのはパレードの音だろうか。
みんな祝っている中、俺はいつも、毎年ここに来てしまう。
そして明日の朝になるまでひたすら独り言を続けるのだ。
仁が、いるって仮定のもとな。
「あ、そういえば。
マックスのやつもとうとう結婚するらしい。
部下の女の人と、だとさ。
ジョンは二人目の子供が生まれたよ。
いまじゃいいパパだ、あいつ。
セズクは……うん。
あいからわず俺にセクハラばっかりしてくるよ。
俺の姉貴の猛アタックを避けてな。
まったく、どこでそんなスルースキルを身に付けたのやら」
でも、今日は夜までいれない。
生まれた子供にお祭りを見せにいかなきゃいけないからだ。
だから、終わりにする。
「すまんな、今日はそんなに長くいれないんだ。
子供を祭りにつれていかなきゃならんのよ。
…………っ!?」
もぞり、と仁の墓が動いた。
とっさに一歩引き後ずさる。
死人が蘇った?
可変式鋼鉄細胞の再生か?
頭の中を様々な憶測が巡る。
「にー」
「……お主こんな所にいたのな。
元気だったか?」
気の抜けた鳴き声でほっとした。
ルファーだった。
まだドキドキする胸をさすりつつルファーの頭を撫でてやる。
「にーにー」
うれしそうに俺の手にすり寄ってくる。
生きててよかった。
最後の戦いの時砂嵐でこいつがどこにいったのか分からなくなっていたのだ。
探しまくったんだがいなかったからもう死んでしまったのかと……。
よかった、生きてた。
「ほら、ルファー。
おいで、帰るぞ」
だが、ルファーは俺についてこようとはしなかった。
その疑問は直ぐに答えが出た。
「にー」
ルファーにも子供が出来ていた。
しかも四匹?なのか。
その四匹を守るようにルファーよりも小さい奴が俺を見上げていた。
「なるほどね。
まー、なんだ」
これで部品が散らばっていた理由が分かった。
こいつらが巣を作っていたのだ。
「仁の墓、守ってくれよな」
「に!」
ルファーのいい返事を聞き、俺はその場をあとにした。
「おかえりなさい、波音君」
「おー我が息子よ!
おかえりだ!
あいつらも来ているぞ」
はえーよ。
アリル父の言うあいつらっていうのはシエラ、メイナ、セズクのことだろう。
「あんたなんでさぁ……」
「えー嫌なものは嫌だからね。
ラウナ、少しうるさいよ」
「そんなこと……」
「ある!」
既に声が聞こえてくる。
メイナとラウナの怒鳴り合う声だ。
そうそう、なんか知らないがこの二人スゲー仲が悪いらしい。
なんでだろうね。
「あら、波音ちゃん。
おかえり~。
今からお祭り行くんでしょう?」
「そうですねー。
マダム達も行きますよね?」
俺は自分の子供が眠っているベットの側に行き子供を眺める。
すーすー寝息を立てて眠っている。
平和かもしれないこの世界に生まれてきて幸せになってくれるかな。
「あたりまえよ~。
孫は私が抱っこするわぁ~」
「いや、それは駄目だ。
プロテインじーちゃんがやるぞ」
「だめよあなた。
抱っこするのはおばあちゃんよぉ?」
「だ、だがな……」
とりあえず全員俺の家から出ろ。
すげー邪魔だから。
「みなさん!
ごはん食べたらお祭り行きましょう!
皆さんが来ると思って定食頼んでおきましたから!」
「いいぞ!」
「波音。
あんたの嫁さんは気が利くね」
「ハニー。
僕はまだ結婚なんて認めてないからね!
ハニーは僕の――」
あーうるさい。
飯食って少し休憩したら祭り行くぞ。
もう夜になるじゃねぇか。
「綺麗ですね……。
お祭り」
沢山の人混みに自ら混ざりに行くのも正直気が引けたがまぁ。
まぁ、まぁ、悪くはない。
「お~よしよし。
綺麗よねぇ~」
「あー」
孫の小さい手がマダムのほっぺたをにぎったり鼻を引っ張ったりしてる。
「ねー波音君?」
「ん?」
アリルが、結婚指輪のついた薬指を俺の耳に当てる。
何、何?
「あの子、検査の結果が出ました。
結果は陽性でした」
さーっと背中を冷たいものが流れ落ちた。
子供にも遺伝として伝わるのか。
「でも、私達が。
きちんと育てれば大丈夫だと思います。
だから……」
「これからも一緒にいてくれな、アリル」
「っ!?
は、はい!」
あいつが言うよりも先に言ってやった。
照れたアリルは、顔を真っ赤にする。
かわいいものだ。
「お、歌が始まるぞ」
大きなステージが展開され、アーティストが出てくる。
風流な音楽が流れ出す。
電気があちこちで付き始め昼間のように明るく光る。
「いえー!!
ノってるかべいべーども!」
「シンファクシさん何やってんすか……」
「いいぞー元帥!」
思いのほか大好評。
シンファクシが出てきたと思ったら歌って踊ってやがる。
しかもロックで。
「ワン、トゥー、スリィー!」
ドラムとかギターとか色々なって騒がしい。
「何やってんだか……」
俺は呆れながらもそれをしばらく眺める。
シンファクシの口から思ったよりも綺麗な歌声が流れ出す。
ベルカ語の流暢な歌声が会場を包む。
大切なものが消えるとき
三つの死は姿をあらわす。
死は力を使い地上を無に戻す。
死は鬼神となり恐怖の中で消えていく。
大切なものを失った悲しみと共に。
大切なものが消えるとき。
三つの死は姿を現す。
死は力を使い、全てを守る。
死は英雄となり、光の中で生きてゆく。
大切なものを……守った喜びと共に。
俺は守れたんだろうか。
いや、もうそんなことは思うまい。
なぁ、仁。
守れたよな。
「あー」
自分の子供を抱っこしているアリルを眺める。
金髪の髪を綺麗にまとめ、薄化粧をしたアリル。
本当に俺の嫁かこれ。
綺麗すぎねぇか。
「あ、波音君!
また花火がはじまりましたよ!」
「……そうだな」
赤、青、黄色。
さまざまな光が暗闇の空を彩る。
その光は空で弾け、世界をその色に染めてゆく。
こういった光景が見れるだけ、平和になってよかったと思うべきだろうな。
大切なものが消えるとき。
三つの死は姿を現す。
死は力を使い、全てを守る。
死は英雄となり、光の中で生きてゆく。
大切なものを……守った喜びと共に。
怪盗な季節☆
完
なっがい間、ありがとうございました。
怪盗な季節☆これにて完、とさせていただきます。
思えば本当に長かった。
高校生からの作品なため、至らないところも多かったと思います。
2009.07.2から、始めさせていただいたこの作品。
2014.1.12日にて終わりです。
まぁ、なんていうか。
しゃくでば、もあったし。
何より……言葉に出来ないです。
よくぞ完結させた、自分。
がんばったな。
さて。
これで超空陽天楼に注力できるというものです。
超空陽天楼は、怪盗のおよそ5000年前のお話です。
怪盗で出てきた単語も超空陽天楼でたっぷり出てきます。
http://ncode.syosetu.com/n0155bc/
何宣伝してんだって話ですね、すいません。
またなんか気が向いたら怪盗な季節☆外伝としてセズクのストーリーを書くつもりです。
よろしければご覧になられてください。
では本当に。
長いことありがとうございました。
ここでいったんお別れとします。
まぁどうせまた……色々と、こう。
なんか外伝みたいに続くんですよ、きっと。
たぶん。
では!