終わりな季節☆
…………。
いったいここはどこだろうか。
何も存在しない世界。
闇。
ヤミ。
真っ暗で何もない世界。
何も生まれていないこの世界。
そんな時、世界に新しい光が生まれていた。
赤い光。
俺はその赤い光の元へと近づいた。
赤い光を救い上げ手に包み込む。
突如その赤い光は炎と化した。
驚いた俺は手を傾けてしまう。
燃え盛る炎は俺の手から滑り落ちた。
滑り落ちた炎は俺の足元に落ち、広がり、あたりの物を燃やし始めた。
やがて地面が、変わりはじめた。
炎が焼いているのは地面ではなくなっていた。
建物だった。
それも大きな大きな建物。
その建物からは人が飛び降り……そして……。
「少佐!」
シンファクシのすごくよく通る声で目が覚めた。
たたき起こされてびっくりした心臓がばくばく鳴っている。
俺はシエラ達に囲まれて眠っていた。
シエラもメイナもラウナも目を覚ましており砂だらけの顔を俺に向けている。
シエラに至っては鼻だけ砂が大量に付着してる。
擦ったのがここから見ても分かる。
お馬鹿さんですね。
その前になんで俺がここで眠っているのかを把握しようと記憶を探る。
記憶の混濁が激しく、少し前の状況を思い出すのに少し時間がかかった。
なんだっけなぁ……。
「よかったー!
波音君!」
思い出した突如がばっと抱き着かれる。
アリルのふんわりしたシャンプーの香りが鼻をくすぐってくる。
砂だらけの手で頭を撫でてやろうとしたがちょっとそれはかわいそうだからやめておく。
代わりに手の砂を簡単に払ってから背中をとんとんしてやった。
「ハニー。
やれやれ、よくやるよ」
そのアリル越しにセズクが笑って俺を見ていた。
こいつには砂一つついてない。
どっかの建物に隠れてやがったんだろう。
いや、アリルを守ってくれという俺の気持ちに答えてくれたから文句は言わないぞ。
「波音、立てる?」
シエラが手を刺しのばしてきたから、アリルを退かして手を借りる。
少し腰が痛む程度で、体の異常はどこにもないようだった。
「ったく、無茶するわね」
メイナが俺の背中をぽんぽん、と叩き俺の真後ろを指差す。
その指に釣られて振り返ると大きなものが見えた。
地上へと落ちたハイライトの巨大な姿だった。
直径六十キロを超える《超極兵器級》の朽ちた姿。
生きるように鼓動していた紫色の光は見えず、また大量に並んだ砲台も動こうとしない。
帝国郡の基地からおよそ二キロ離れたところにどうやら墜落したらしい。
それもきれいな形で。
地面に突っ込むような形ではなく滑るように砂漠に着地したためにハイライトの損傷は最小限に抑えられており、また艦橋構造物なんかもわりかし綺麗に残っていた。
そして巨大な影を地面へと落としている。
影のところにはすでに仮のプレハブが作られてきており新しい街が出来上がってきているようだった。
人々の生きようとする力は強いものだ。
少し感心するとともにスラム街と化しそうで俺は怖いけども……。
まぁそこはシンファクシがうまいことやるだろう。
「まったく。
東二十三区は砂嵐で壊滅だ」
シンファクシは俺の横に立つとそうぼやく。
すいません。
でも仕方ないと思うんです。
「だが、民間人の死者はゼロ。
けが人は……まぁ五人ぐらい出てしまったがな。
それでもみんな軽症だ。
ただ……」
「?」
シンファクシは言葉を濁した。
そしてヴォルニーエルへとその目が注がれる。
「我が軍の戦士者は……。
およそ一万人を越えてしまった。
これは……私の責任だ」
ひび割れたメガネを外しシンファクシはふー、と息を吐いた。
砂だらけの服でメガネを拭き、またかける。
「全員、英雄に、英霊に敬礼!」
俺も、シエラも、軍人ではないアリルも全員が美しくそろった敬礼をした。
空に飛ぶ味方戦闘機のエンジン音が近くなり真上を通り過ぎてゆく。
そのエンジン音すらも遠くへと消え去りやがて何も聞こえなくなった頃ようやく敬礼を解除したシンファクシは俺の方に向き直った。
「少佐、……本当に。
本当に、よくやってくれたな」
元帥は、俺に手を差し出してくる。
俺もその手を少し強く掴み、にっこりとほほ笑んでやった。
「今日の夜ははしゃぐぞ。
全員、基地に戻れ。
パーティの準備だ!」
その日の夜。
大はしゃぎしているジョンやマックス、セズク達の輪に加わり自分の武勇伝を話すメイナ達を見ながら俺は今の平和を味わっていた。
少しぐらいかっこいい感じにしても今日ぐらいは罰が当たらないと思う。
俺の目の前にいる宴会の人数は万を軽く超える人達だった。
当然帝国郡の軍人だけでなく民衆も集まってきているのだ。
万を軽く越えてもおかしくはないだろう。
会場はハイライト。
帝国郡基地は狭すぎる上に、砂の被害が大きいためだ。
「あーあー。
みんな、聞いてるか」
シンファクシの声が、会場に木霊する。
今まではしゃいでいた民衆全員が静かになり、シンファクシの方を見た。
「聞こえてるな。
なんだ。
私はこういうのは……苦手でな」
照れたように少しシンファクシは笑う。
「そうだなぁ、少しだけ長くなるけど聞いてくれ。
みんなは伝説を――。
覚えているよな?
大切なものが消えるとき
三つの死は姿をあらわす。
死は力を使い地上を無に戻す。
死は鬼神となり恐怖の中で消えていく。
大切なものを失った悲しみと共に。
ってやつだ」
当然。
この中に知らない人は誰もいないであろう。
「この伝説には……続きがあるのを。
ご存じだろうか」
シンファクシはそう付け足すとしばらく間を置く。
その間に全員に動揺が広がっていく。
動揺をシンファクシはどうやら楽しんでいるようだった。
ざわめきを右から左へと見渡し、もう一度左から右へと見渡す。
「大切なものが消えるとき。
三つの死は姿を現す。
死は力を使い、全てを守る。
死は英雄となり、光の中で生きてゆく。
大切なものを……守った喜びと共に」
一足先にシエラが俺の横で呟いていた。
そしてそれと一字一句違わずにシンファクシが話を続ける。
「我々は……死に守られたんだ。
死は……少佐たちなのかもしれんな。
まぁこれはあくまでも伝説だ。
伝説は伝説、たまたまそのようになっただけだと私は思う。
しかし、確実に言えることはある。
三つの死は何も守れないわけではない。
守ったのだ、我々を。
全てを。
そして三つの死は英雄なのだと」
全員が大声で手に持った酒を空へとかざした。
伝説、か。
信じたことなんてなかった。
でもまぁ、三つの死は俺達最終兵器なんだろうって思ってた。
「あー、それと付け足しがあった。
三つの死、とか言っていたが実際は百を、いや万を超える。
少佐、シエラ、メイナ、そしてエウナ。
活躍してくれたのは何もこいつらだけじゃない。
この戦争で死んでいった戦友達。
これまでの戦いで倒れていった戦友達。
そしてこれからを生きる戦友達。
英雄は、お前たち全員なのだと。
我々は勝利したのだ!」
もう一度大きな歓声が大空を、大地を揺るがす勢いで響きだした。
シンファクシは満足そうに微笑むと檀上から降りた。
「やれやれ、ハニー。
大した歓声だね。
まったく……いい夜になりそうだね」
「あ、俺の部屋には来るなよ」
セズクのいい夜は完全に意味深にしか捕えることが出来ない俺はたぶん心がねじ曲がっているんだと思う。
「えー」
そしてこのねじ曲がりは正しいもんだったんだとこいつのがっかりした顔が証明してくれてる。
この日の夜、俺達は大いにはしゃぎ、大いに飲んだ。
そりゃもう。
今まで消えていた平和の分も吸い取るぐらいにな。
シエラも、メイナも、アリルも。
みんな今まで見たことないような笑顔だった。
マダムもアリル父も来ていたなぁ、そういえば。
俺をぎゅーっと筋肉で潰しそうなぐらい強く抱きしめた後ワンワン泣いてた。
男らしい。
帝国郡と連合郡の戦いは。
こうやって終わったのだった。
世界に戦争は……一つも無くなった。
そりゃ細かいのを除けば、の話だけどな。
This story continues.
ありがとうございました。
次はエピローグとなります。
本当に終わっちゃうのか。
ああ。