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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
終堕な季節☆☆
207/210

終わりと終わり

「っちくそが!

 最後の最後になんて置き土産だよ!」


俺はそう毒づくとイライラする気持ちをなんとか押さえつける。


「どうする?

 これだけの質量を何とかするなんて……」


ハイライトの壁をぶち抜いて外へと飛び出す。

あちこちがボロボロと崩れ落ちながらもハイライトは進撃を続ける。

その足は止みそうにない。

大きな構造物が一つ零れ落ち、海に大きな波柱を立てる。

その波柱に飲まれた一隻の連合群艦が、横転する。


「シエラ、波音。

 何がどうなってるのよ!?」


ハイライトからの攻撃が来なくなり、シンファクシ達から守護の任務を解かれたのだろう。

メイナが、俺達を見つけるとこっちへ急いでやってきた。


「どうやらこいつは、帝国群本部へ突っ込むつもりらしいんだよ。

 いやー……参ったよね……」


俺はそう言うと、ハイライトの巨体を見上げる。

俺達何億人分か、計算すらできないほど巨大なハイライトを止める方法など。


「……えっ?」


メイナの信じられないという顔に正直いらっ、と来た。

いや、口には出さないけど。

顔にも出さないけども。


「どうやったら止めれると思う……?」


俺は困った顔をしてメイナを眺めてみる。


「えー……」


メイナは困ったような顔をしたが、また一つビルほどの破片が落ち、それを見たメイナは顔を引き締める。

そんなことやっている暇ではない、と悟ったらしい。


「ちなみに砲でも、無理だと思う。

 これだけの質量蒸発させることなんて不可能」


シエラが横から口を挟んできて、腕を組む。

メイナはしばらく黙っていたがやがて重々しそうに口を開いた。


「私に考えがあるっちゃ……ある」


「ほんとかよ。

 して、その方法は?」


「――僕たちが力を合わせる?」


シエラがぼそっと呟く。


「そう、それ」


流石双子、というようにメイナは人差し指をシエラに向けた。

力を合わせる?

いまいち意味が分からなくて俺は混乱する。

メイナは俺とシエラを近くに寄せると


「私達が、イージスを同調させて。

 それで跳ね返す、の」


と、細かくでも一番わかりやすい言葉で教えてくれた。

でも俺の胸の中を閉めたのは一言。


「……出来るのか?」


あのハイライトの巨大質量だぞ?

あれだけの巨大な質量を俺達三人で跳ね返せるのかよ。


「出来る出来ないというか……。

 だめもとで、やって。

 時間を稼ぐしかないかなって思うんだけど私。

 どちらにしろ今のままは……」


サイレンが鳴り響いた帝国郡都市では必死に退避が行われている。

だが、全員はとても逃げれないだろう。

そう、このままでは。


「マーズルカエル……」


俺はふっ、と頭に思い浮かんだ単語を口に出した。

そう言えばもう一隻俺達には巨大戦艦が残っていたじゃないか。

あいつのイージスも使えば……。


「あー。

避難の手助けに……行っちゃってる」


メイナが気の抜けたような声を出して説明を付け加えた。


「この戦いで何の役にもたってねーぞあれ」


俺は小さく鼻から息を吐くと都市部の上空にて、座してるマーズルカエルを眺める。

民間人収容か。


「仕方ない。

民間人を助けるため」


シエラも呆れ顔だったが民間人を助けるためなら仕方ないだろう。

期待していたものは少し遠くに行ってしまったがまぁ仕方がない。


「俺達三人が力を合わせるしかないだろ。

帝国郡基地で、受け止めるぞ」


シエラは組んでいた腕を解くと腕をぐるぐる回す。

やる気十分という感じだな。


「あー。

全力久しぶりにだそうかねぇ」


メイナはそういってニヤッと笑う。


「ねーさんの全力。

ふーん?」


シエラの片方は眼帯のようなものでおおわれていたが残されたもう一つの目がにやりと笑ったのを見た。


「な、なによ」


何か言いたいのなら言ってみなさいよ、といったメイナの意思を無視したシエラはなにも言わないで帝国郡基地へと飛び始める。

その後ろをメイナが追い、遅れた俺がくっつく。

飛行して三十秒程度後、帝国郡都市のちょうどど真ん中。

帝国群基地と大きめの都市も覆えるような位置に俺達三人は立つ。

まだ民間人はたくさん残っており、戦闘事前報告で避難しとけ、と言ったシンファクシの言葉を無視した輩のなんと多いことか。

連合群からの攻撃でへし折れている高層ビル郡の上空凡そ三千メートル。

約束の五分が過ぎようとしていた。

雲を蹴散らしハイライトの下から出ていた紫色の光が止む。

不気味なほど静かで、風だけがうるさい。

崩れる構造物が帝国群都市に降り注ぎ、家を壊す。

風と風に挟まれている俺達の立っているこの場所は、砂埃が舞い散っている。


「ねー、波音?」


「なんだよ」


メイナが俺に話しかけてくる。

こんな時だというのにまったく。

いや、こんな時だからこそか。


「私達あんたを守るって言ったよね?

でも、私達はあんたに守られてた気がするんだよね」


それが不満、だと言いたげだなおい。


「あ、ねーさん。

先にそんなこと言うのずるい」


最終兵器姉妹は急に話を始めた。

もう一回いうぞ。

こういう時だというのに。


「私達はベルカを守れなかったから。

目覚めても守るものがないから。

だからこそこんな力いらないって思ってた」


メイナはそう言って少し寂しそうに笑う。


「だけど、波音。

僕達に再び守れるものを。

正しい力の使い方を。

取り戻させてくれたのは波音のおかげ」


二人は言葉を繋げる。

次に言う言葉は五文字。

予想だけどな。


「「ありがとう」」


予想は的中。

……うん、こいつらバカ野郎だな。

それは俺が言うべき言葉だろうに。


「……全部終わってから言った方がよかったんじゃねぇのか?」


なんか改められると恥ずかしいな。

だから俺はこの言葉で今の場ははぐらかす事にする。


「もー僕達が真剣に話してるのに」


「ねーシエラ」


「ね」


うるさい。


「いいか。

俺達三人が守るのは俺達三人の後ろにいる奴らだ。

それになーシエラ。

俺はお主からまだ例のな、伝説の続きを聞けてないんだよ」


「はえ?

そうだっけ」


そうだよ。

すっかり忘れやがって。

ずっと前は、そういってからはぐらかしてただろうに。

結局ここまで引っ張りやがって。

さっさと言えっていうんだよ。


「じゃあ、終わったらね。

私が教えてあげる」


メイナはウインクして口に人差し指を当てた。


「あっ、ねーさんだめ。

僕が……」


まだ続きそうな話を間に入って止める。

そんなこと話してる場合じゃないんだよ。

一応もう一回言うけども。


「じゃあ、守ろうや」


全てを。

俺達の居場所を。

今まで居場所をずっと俺達は失ってきたんだ。

やっと安心して暮らせる場所が出来た。


「うん」


「やっちゃお!」


それをまた失うなんて絶対に嫌だ。

そういえば、俺は泥棒だった。

一度は全てを覚悟した。

親友を殺し、自分の力に目覚めたときだ。

あの時命を奪う泥棒になるんだと思った。

避けられない、運命だったんだと。

いくら俺が人を殺さないと言っていても意味がないんだと。

記憶の彼方にこびりついた血の匂いが俺を引き寄せるんだと。

だけど。

俺はこのくっそ大変な任務が終わったらそんな泥棒から脚をきれいさっぱり洗おうと思う。

いや、だってな?

また泥棒とかして、こんな兵器二人を拾い上げてみろ。

その兵器が原因で様々なことに引き寄せられてみろ。

大昔の帝国の兵器群に追い回されてみろ。

――大事な親友の正体を知らされてみろ。

なんていうか、たまんねーぞ。

もうこりごりだよ。


「イージス、最大で展開!」


俺達三人は手を真上に広げた。

ハイライトの巨大は落下スピードが空気抵抗によってあまり上がっていなかったが今の速度でも十分帝国郡都市を潰すには足りるエネルギーを持っているだろう。


「ねーさん」


「なによ」


「これ終わったら、ケーキおごって」


「やだ」


「ケチ」


俺が張ったイージスに重なるように更にイージスが追加される。

ハイライトからこぼれ落ちてくる破片を蹴散らし、落ちてくる本体を受け止める俺達の、帝国群の最後の壁だ。


「気合い入れろ!

来るぞ!」


ハイライトの本体がイージスの壁に触れた。

一瞬、世界が無音になった。

腕に負担も何も感じなかった。

だが、それは一瞬だった。

その次が、半端ではないものが来た。

腕だけじゃない。

体全体の骨が軋み、痛みが全身を包み込んだ。


「っぐ……!」


それは俺だけじゃない。

三人共全員で分担してこの重さなのだ。


「おっも……!」


メイナが、食い縛った歯の間から言葉を滲み出させる。

シエラは無言だったがあの鉄仮面が少し歪んでいた。

イージスとハイライトの接触面が激しく発光しはじめる。

あまりの質量、予想を遥かに越えた負荷に悲鳴をあげているのだ。

イージスの周りでは質量が巻き起こす風が大きく荒れ狂い、空は積乱雲を産んでいる。

まるで世界の終わりのような光景が広がる。。

イージスの負荷が段々と大きくなってゆく。

くっそ、持ちこたえられない……。

やっぱり俺達は何も守れないのかよ……。


「波音?」


「……んだよ!」


「あんたここで負けるの? 」


唐突にシエラが何かを聞いてきた。


「ここで負けたら、あんたの彼女死ぬよ?」


そうか、アリル……!


「わかってるぁぁぁぁぁ!!!」


そんなこと言われなくとも分かってる。

バカ野郎、なんて鼓舞が下手くそな奴だよ。

不器用め。

じゃあ俺もやってやるよ。


「お主らもさぁ!

何か守れるところ見せてみろや!」


「望むところ!」


イージスの厚みが一気に増したような気がした。

ハイライトの落ちてくるスピードが緩くなりはじめる。

だが、止まらない。


「っくそ……!」


腕も体も限界を迎えようとしていた。


「……あたいが手伝ってあげるよ 」


そんな声がふと聞こえたかと思うと負担が一気に減った。

まさか……。


「まー何て言うのか、うん。

あの方が手伝ってこいって言ったからなんだからね?」


エウナはそう言うと顔を赤らめた。

実の姉のこんな顔見たくなかった。

しかも恋してる顔だぞ。

吐き気がする。


「あんた――誰?」


「ああ……」


そりゃあシエラもメイナも知らないだろうな……。

エウナはがっくり肩を落としたように落ち込んだが


「後でそれは教えるから。

さっさとケリ、つけちゃうよ。

いいかい?

シエラ、メイナ、ラウナ。

呼吸を合わせて。

都市の外にこいつをそのまま落とすんだ。

いいね?」


都市の外は砂漠。

ハイライトが落ちたところで被害は軽く押さえられる。

思いっきり、俺は、俺達はハイライトを外へずらすようにイージスを傾けた。

軸がぶれたハイライトはそのまま勢いを借りて帝国群都市上空からずれ落ちて行く。

イージスという障害を失ったハイライトは重力に従いその巨体を砂漠の方へと向けた。

空を覆う巨大構造物の端っこが砂漠に接地。

ものすごい砂を巻き上げながら本体が続いて接地してゆく。

とても四十キロほど彼方で起こっていることとは思えない。

ハイライトが大きすぎてスケール感覚が麻痺しているのだ。


「あー……!」


終わった。

俺はイージスを解いた。


「ばっ、今解くな!」


ハイライトの全てが砂でおおわれるほど大きな砂埃が立ち、次の瞬間巻き上げられた砂嵐が俺達の周りを襲った。


「わっぷ!」


その砂嵐に飲み込まれ視界が一気に真っ暗に染まった。






          This story continues.


ありがとうございました。

次で終わりかと思ったら割とそんなことなかった。

割と。


でも、あと一回やって。

ほんで、エピローグですね。


あー。

終わるのかぁ。


なんか釈然としない……。

なぜ。

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