閃光、一瞬
全長六十キロメートル弱。
総重量、測定不能。
超巨大な超極兵器級である、ハイライト。
体のあちこちから炎を噴き出しながらもゆっくりと帝国群基地へと近づいてくる。
「ハニー。
僕は少し基地の防衛に戻るよ」
「はいはい、そうしてくれ」
俺はシエラと目を合わせてセズクに「ありがとう」とだけ伝える。
セズクは一瞬泣きそうな顔をしたがすぐに帝国群基地へと戻っていった。
『っクソが!
結局お前らはそうやって関係ない民間人まで巻き込むんじゃねぇか!』
シンファクシの声が聞こえる。
《いや、違うよ。
これは、必要な痛み。
世界に我々がいたという証を残したいという願望。
その行為を具現化したに過ぎない》
『バカが!
ふざけるんじゃねぇよ!』
《ふざける?
ああ、そうかもしれないな》
シンファクシはそうしゃべり続けながらも攻撃の手を休めようとはしない。
ハイライトはその巨体まるごと全部が炎に包まれていた。
あちこちを燃やしながらも帝国群を潰そうとする意志は消えない。
ハイライトを落とそうと帝国群のあちこちからミサイルが打ち上げられ、ハイライトはそれを撃ち落とそうともせずにその身を以て受け止める。
部品が崩れ落ち、海に、そして民間人の家に大きく損傷を残す。
メイナ、ラウナのイージス範囲外らしい。
それにいくらメイナとラウナといえどハイライトの巨大な質量を受け止めることは実質不可能だろう。
『っち、少佐!
メイナ!
シエラ!
聞こえるか!』
拡声器で巨大になったシンファクシの声は、キンキンと頭に響く。
当然、聞こえるに決まっている。
『ハイライトは超極兵器級だ!
太古の昔、その超極兵器級は、一人の“核”が動かしていた、と伝えられている。
なんとかして、ハイライトのコックピットを見つけ出しアクセスするんだ!』
いまいちシンファクシの言っている内容が理解できない。
そこに関する記憶の補完がうまいこと行っていないのだ。
ルファーめ……。
「波音、分かる?」
シエラが、そんな俺に気が付いてくれたらしい。
詳しく説明してほしいところだったが、そんな暇もないだろう。
ハイライトの片足は帝国群本部にかかっているようなものだ。
《コックピットを?
ははっ、無駄だ。
あそこは我々すら見つけることが出来なかったんだぞ?
それに見つけることが出来たとしてもコントロールは全て我々が握っている。
ハイライトの落下を止めることは不可能だ!》
「分からないけど……」
目の前を覆う巨大な壁を見上げる。
「迷ってる暇は、無いんだろ?」
俺はシエラにそういってやれやれ、と笑った。
シエラはこくん、と頷き前髪を触る。
「じゃあ、案内してもらえるか?」
『少佐、頼んだぞ!』
シエラは自分の体にイージスを張ると俺についてこい、とジェスチャーした。
俺も自分の体にイージスを強く張る。
それを合図にしたようにシエラはハイライトの炎の中へと飛び込んだ。
「波音」
「なんだ?」
ハイライトの瓦礫の穴を抜け、機関室を通り抜ける。
機関室に試しにレーザーを撃ってみたが強烈なイージスが守りを固めていた。
「コックピット、辿り着いたはいいけど接続、操縦のやり方分かる?」
「…………すまん」
落ちてくる瓦礫を蹴飛ばし、シエラに小さく頭を下げる。
シエラはため息をつくとも、めんどくさいとも似ない顔をした。
何だろうか、何か言いたいことでもあるのだろうか。
「じゃあ、僕がやるしかないね」
「っ、じゃあ、俺はどうすりゃいいのさ?」
というか、どうして俺をここまで連れてきた。
そういう問題があるなら一足先に言ってほしかったものだ。
「僕の予備」
「予備ってお主な……」
「…………ふふっ」
「笑ってんじゃねぇよ」
あ、笑った。
最近てっきり見なくなったシエラの笑顔。
そうか、こいつこうやって笑うんだっけ。
俺が最終兵器になってから周りを見る余裕がなくなっていたもんな。
アリルもどうやって笑ってたっけ。
俺は、どうやって笑ってたっけ。
「パンソロジーレーダー起動。
ハイライト中心を軸に半径五十キロで展開」
シエラは、小さくそう呟く。
「データリンクする」
俺の頭の中にシエラがスキャンしたハイライトのデータが飛び込む。
崩れ、壊れたところは赤で表示されており三次元のデータのあちこちには小部屋のようなものが沢山並んでいる。
「コックピットがどこか、分かるのか?」
先を飛ぶシエラに話しかける。
シエラはちらりとも俺の方を見ないで
「分からない。
でも、大体検討はついている」
そういって右へと曲がった。
曲がるなら曲がるって言ってくれ。
通路の壁のようなところを蹴飛ばし、無理やり体の向きを変える。
《最終兵器。
貴様らは何を望む。
何のために今を生き、何に尽くしているんだ。
お前らの国は滅びた。
そして今、我々が滅びようとしている。
貴様らが守ろうとしている帝国群はいずれ崩壊する。
また戦争の世が来るというのだ。
それなのになぜ先を急ごうとする》
敵の声が頭の中にわんわんと響く。
俺は答えをとっさに見つけ出すことが出来ていた。
だから言う。
今が大事だから、だと。
《世界が成長するには戦争が必要だ。
ベルカは戦争を失くした。
だから滅びた。
我々が今滅びたら世界は帝国群が支配するだろう。
再びベルカの世が訪れる。
だが、それではだめなのだ。
人類はまた無から歴史を刻むことになるぞ》
「波音、ここ左」
「おっけ」
今度はきちんと言ってくれたから体の向きを素早く変えることが出来た。
俺が飛んだ後ろの通路が崩れ、空が露わになる。
《人間は常に戦いが無ければ生きていけない。
貴様ら最終兵器は力で平和を生み出してきた存在だ。
力、力。
いずれはその力に自らが滅ぼされるぞ。
ベルカのように》
シエラの進む先に巨大な扉が現れた。
ベルカ世界連邦帝国の紋章が描いてある。
そしてそこだけは、無傷といってもよかった。
他の所が崩れているのにもかかわらず、だ。
「どいてて!」
シエラが右腕を対艦レーザーに変え、ぶっ放す。
だが扉はその攻撃をたやすく弾いてしまった。
「シエラ、どいててくれ」
俺が代わりにやる。
扉に掌をつけ、軽くイージスの力を込める。
そうすると扉は不思議な模様を浮かべた。
「そんなやり方――どこで?」
驚き聞いてくるシエラに俺は軽く答える。
「なに。
乙女のエスコートってやつだ」
「……何?」
頭おかしい、というような顔をされて俺は少し心が傷ついた。
ひどいってレベルじゃないぞ。
「いや、気にするな」
自分で言っててわけわからんが扉は一瞬赤の奇妙な模様を浮かべ左右に開いた。
中にあったのは奇妙な穴が開いた椅子が一つと、複雑なパイプ群。
《それが分からないから、貴様ら最終兵器は何も守れないのだ》
起動しているとは思えないがここがコックピットなのだろうか。
超極兵器級のコックピットなんて初めて来たから物珍しいがそんなことしている暇もないんだっけな。
「……僕に任せて」
「はいはい、初めからそのつもりですよ」
俺は、シエラが椅子に座り穴の中に腕を丸ごと入れるを眺めた。
すると、どこかで機関が動き出したような音がした。
鋼鉄と鋼鉄が響くような音。
コックピット全体が生き返るような音。
だが、すぐにその音は止まった。
「なんで?」
唖然とするシエラと俺に答えを教えてくれるように真後ろから声が聞こえた。
「決まってるだろ?
私がこのハイライトの核だからだよ」
そこに立っていたのは一人の男。
俺が初めて見る連合群の長。
「あなたが……?」
シエラはそういって、椅子から降りる。
右腕のレーザーを、敵へと向けると静かな口調で諭すように
「ハイライトを止めろ。
もう無駄だって分かるだろ?」
と、言った。
ハイライトの核……いや、もうこいつはハイライトなのか。
ハイライトは、そこで笑った。
「殺せ。
どちらにせよこの艦は終わりだ。
俺は死ぬ。
だが、お前たちも死ぬ。
どうあがこうが変わらないんだよ」
ハイライトは笑うと椅子に腰かけた。
シエラには反応しなかったコックピットが一気に彩られてゆく。
モニターが反応し、あちこちでよく分からない文字が浮き上がる。
「後五分で俺はハイライトを落とす。
護れるなら守ってみろ最終兵器。
ベルカを守れなかったお前たちに今回は守れるかな?」
ハイライトは大声でまた笑う。
シエラはぎりっと歯を噛みしめると
「……黙れ下衆」
手のレーザーを放った。
笑っていたハイライトはシエラのレーザーに撃ちぬかれ、椅子ごと溶けて消えた。
だが、コックピットの光は消えなかった。
浮き上がる文字は残り五分のカウントダウン。
「後五分。
シエラ、守るしかねぇよ」
俺達はコックピットを抜けると一気に外へと飛び出した。
This story continues.
ありがとうございました。
あまりにもあっけない最後だったなって思います。
名前も何も分からない敵でしたが……。
それに、釈然としない敵でしたが……。
いや、今はなにもいうまい。
次がおそらく、最終話です。
まだエピローグあるけどな!