表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
終堕な季節☆☆
201/210

バカは二度死ぬ

必死に階段を下る。

アリルの右手から放たれたレーザーを左手で押さえ込み、右へと突き飛ばす。

階段のコンクリートが弾け、つぶてが身を打つ。


「くっそ、仁!

まだか!」


俺の一歩先を行く仁追いすがりながら後ろからくるアリルに気を使わなければならない。

いい首の運動どころか、下手したら筋を痛める。


「ハイライトの中央だぞ!

そんな簡単にたどり着くか!」


仁は怒鳴りながら俺に言い返してきた。

最もである。


「はのん……く…………」


そう、泣きながらアリルは俺に襲いかかって来る。

言ってることとやってること完全にちげーじゃねぇかって話ではない。

どうやらアリルはAI、人工知能に操られているらしい。

AIに操られているとするならば、AIを壊すだけだ。

誰にでも分かる至って簡単なことである。


「っち、くそ!」


アリルのブレードが俺の腹をかすめる。

イージスを張って防ごうにも、変に弾いて怪我させるのも嫌だし。


「おちつけぇ!」


俺はまた飛んでくるブレードの刃を右手を万力のようにして押さえ込む。

火花が飛び散り、ズキッとした痛みが右腕を突き抜けた。

無理か、押さえられないな。

万力を解除し、俺も手を刃と変える。

こうなりゃ、やりあうしかない。


「殺すなよ!」


「殺さんわ!

誰の彼女や思ってんねん!」


アリルからの攻撃を避けながら二十階ほど下る。

段々、蛍光灯がなくなり冷たい空気が全身を覆う。

変わりに紫色の光が鼓動を繰り返すように上へと送り出されている。


「………………」


「アリルしっかりしろ!

あと少しだからな!」


「ううああ、は、はいぃ……!」


「ここだ!」


仁が、目の前をふさぐようにして展開している巨大な鉄壁をその手でぶち壊した。

鉄壁は大きく湾曲すると壁から抜け落ち、床に砂埃を立てて倒れる。

奥には巨大な円形の建物が一つ建っているだけだった。

大体十メートル程度の大きさだと思えばいいか。

その建物はつるっとした金属で、中は見えない。

冷却用のファンである網目状の金属があり、その中でファン回っているのがかろうじて分かる程度だ。

こいつをぶっ壊せば――。


「っちょ!」


一息入れる間もない。

アリルの襲撃である。

ここまで来たんだから仁も手伝ってくれればいいんだけども……。


「仁!

 手を貸してくれ、仁!」


暇になったはずの仁を呼ぶ。

だが、仁は俺の問いかけに答えずぼーっと部屋に突っ立っているだけだった。

何してんだよこいつは!

仁!


「T・D。

 ずっと前に俺が言ったこと、覚えてるか?」


「はぁ!?」


こんな時に何を言っているのかと。

いちいちそんなこと覚えていられない。

前から襲いかかってくるアリルの攻撃を防ぎながら仁の声を聞きとろうとする。

より一層作業が困難になったぞおい!


「だけど、俺は……。

 お前がどっちを選ぶのか、それぐらい分かる。

 短い、架空の付き合いだったとしても」


「いいから手伝え!

 仁、早く!」


仁は俺の言葉を無視して金属の円柱へと近づき表面をさらりと撫でた。

くっそ、このやろぉ……。

黙って手伝えいいから。


「なーT・Dお前にはもう俺は必要ないだろ?

 だから、迷うことない。

 こいつを撃て」


ちょっと待って完全に意味が分からない。

何がどうなったのさ。

考えようとした瞬間アリルの蹴りを腹に喰らった。

吐き気と、いらだちでアリルを怒鳴る。


「っちょぉ、アリル!」


「ごめんなさい!

 っていうかあの、私のせいじゃ」


仁もこういう時に話すなよ!

わかんねーだろ!


「仁!

 なんか聞こえないけど手伝えよ!」


「T・D……。

 やれやれ、湿っぽい別れはできねーな。

 こいつを撃てばいいんだよ!

 俺にはあいにく撃てないんだ!

 そうプログラムされてやがる!」


「じゃあせめてアリルを止めてくれ!」


「それも無理!」


「使えねえ!」


またアリルが一歩引いたかと思うと俺へとレーザーをぶっ放してくる。

今だ。

レーザーを掴み、そのまま右へと逸らせる。


「っしゃおらぁ!」


レーザーは、そのまま円柱のAIを綺麗にぶち抜いた。

撃ちぬかれた穴から火花を吹き上げ、飛び散る部品。

完全に壊れただろう。


「これでどうだぁおぃえい!」


だけど、アリルは収まらなかった。


「波音君、これいったい何がどうなって」


「俺が知る訳ねーだろ!

 仁!

 どういうことだよこれ!」


「…………。

 ああ。

 損傷が浅いだけだ。

 根本から吹き飛ばすようにすればいいと思う」


仁は少しだけ考え込んでいたがすぐに答えを教えてくれた。

いいね。

となると、アリルのレーザー砲程度ではだめ。

俺がぶち抜いてやるしかないってことだな。

右腕を、巨大レーザー砲へと変える。


「波音君!

 後ろ!

 後ろに私がいます!」


「っちょ、うぉい!」


左腕を伸ばしてアリルの刃とかした右腕を掴む。

あー、そういえば……。

こいつの手、ちゃんと握ったの何時だったかなぁ。


「じゃねぇ!

 仁、どけ!」


「はいよ!」


AIさん、終わらせてあげますよ。

左腕がずきずきと痛む。

恐らく血が流れているんだろう。

でもこの手を離したらたぶん、また色々面倒なことになるに決まっている。

だから離さない。

さー死ぬがいいAIさん。

俺の右腕のエネルギーが増大してゆく。

俺の視界に表示された効果範囲を表す円が、完全に建物を包み込んだ。


「っらあ!!」


光を放つ。

太い大きな光を。


「なー波音」


仁か。


「なんつーかすまんな。

 あと、ありがとう」


は?

一体こいつは何を言ってんだ。

まるで最後の別れみたいに。

らしくねーというか、気色悪い。


「何言ってんだ」


「いや?

 別に。

 んー、まあ。

 じゃあな」


仁?

なんだ、どうしたんだよ。

本当に気持ち悪いぞ、そこまで行くと。

学校の帰り、お主の家の前で別れるみたいな、そんな他愛無い挨拶。

それを聞き遂げ、光が真っ白に視界を包み込む。

だがそれも一瞬。

あっという間に光は壁をぶち抜き、天井を切り開き、空へと消えていく。

外から見ても俺の光はハイライトを撃ちぬいたのが見えたんじゃないだろうか。

そしてその光が消え、青空の光がかすかに差し込むようになったとき。


「波音君……」


アリルは止まっていた。

俺に攻撃してこない。

ただ、目は……目だけは、紫色のまま変わってはいなかった。

だけどアリルを操るやつはもういない。

そして止まっている奴がもう一人いた。


「仁……」


仁だった。

え、じゃあ、なんだ。

あれか。

本当に、俺にお別れを言ったのか?

いや、その前に。

どうしてこのAIを吹き飛ばして仁が死んだ?

分からな過ぎて混乱する。

どういうことだ。

壊れた穴から外の様子が見える。

まだ、帝国群と連合群は戦っているらしい。

それもそうだろう。

このAIが一機壊れた程度で戦闘を中止するなんてこと連合群がするわけない。

まして帝国群を潰しに来てるんだからなおさら。


「仁……バカだったなぁ」


そういって俺は一人笑うと、まだあいている仁の目を手で閉じてやった。

俺がまた殺したんだな、こいつを。

流石に二回死んだってどうなんだろうな。

経験的に。

もしまた、俺の目の前に出てきたら聞いてみたいと思う。

……最後に、俺もありがとうの一言ぐらい言わせろよ。

バカヤローが。


「ハニー!

 やっぱりここだったか!」


壊れた天井から、セズクが降りてきた。

ラウナも一緒だ。


「ねーダーリン。

 エウナなんていいからさぁ」


「よくねーよブス黙ってろ」


「ひどい~」


それはいいから。


「セズク。

 すまん、アリルを頼む」


「いい……けども。

 いったいハニーはこれからどうするんだい?」


どうするも何も。

俺は最終兵器で。

この力の使い方はもう分かっているわけで。

それは仁からも言われていたから。


「終わらせる。

 この戦争」


「あー……。

 そういえばみかんあるけど食べる?」


「いらねーよ!」






               This story continues.


ありがとうございました。

そういう感じでした。

本当にありがとうございました。

最後の戦い。


ではでは!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ