最終決戦の始まり
「ハイライトが……?」
レーダー観測員から発せられた言葉に全員が言葉を失っていた。
ハイライト。
かつてベルカの巨大空中要塞として作られたあの……。
超巨大超空移動要塞ハイライト、だっけな。
もうなんかあの辺の記憶があいまい過ぎて困るよ俺は。
そして、それが
「移動を開始しています。
場所は帝国群基地から東南三千二百キロ。
このままだと正午にはこの基地の直上に来ると思われます」
シンファクシは爪を噛み、レーダーを睨んでいた。
眼は鋭く、どうするのかを頭の中で考えているに違いない。
「それに、連合群の軍隊がハイライト付近に集結。
こちらに殴りこんでくると思われます!
その数……か、数えきれません!」
もはや、泣きだしそうなレーダー観測員の声は震えており部屋の中で小さくなり消える。
俺は少し場所を移動してレーダーを少し視界に入れることに成功した。
レーダーを埋め尽くさんばかりに赤色の点が大量に集まっていた。
中央の巨大な赤い点がハイライトだろう。
そしてその周りを囲う無数の赤い点が敵の総勢力。
この日のためだけに連合も本気を出していたに違いない。
「やはり報告通りハイライトは連合に乗っ取られていたか……。
全くもって、邪魔な。
ヴォルニーエルをはじめとする艦艇は湾外へ戦闘態勢で待機!
住民に避難勧告を出せ!
総員第一種戦闘配備。
とうとうこの時が来たぞ。
気を引き締めろ!」
シンファクシはそういった後、俺達を見た。
「少佐、今少し大丈夫か?」
「ええ。
大丈夫ですよ?」
「少し付き合ってくれ」
「はいはい。
了解です」
シエラ達にここで待て、と言ってからシンファクシの後を追って部屋を出る。
部屋を出たところで俺はシンファクシにがっちり肩を掴まれた。
何。
怖い。
「すまない、少佐。
アリル嬢のことだが。
話しても大丈夫だろうか」
そんなの聞かれるまでもなくイエスに決まっているだろう。
俺は小さく頷くとシンファクシの紫色の瞳をまっすぐ見据えた。
決まっている。
俺が何をしたいかなんて言うまでもない。
「アリル嬢なんだが。
アメリカの基地から運び出されたのが確認された。
どうやら今はハイライトにいるらしい。
偵察衛星がそこまで突き止めた」
「ほんとですか!」
思わずシンファクシの手を掴んでぶんぶんと振り回してしまう。
それほどまでにうれしかった。
目的地が一緒だと、いろいろとやりやすくなる。
「だが、ハイライトのどこにいるのかは不明だ。
そこらへんは戦った時に何とかするしかない。
戦闘に私情を挟むな、と一応言っておく。
だが……私の見えないところでやる分には全然OKだ。
わかったな?」
つまり俺がハイライトでアリルを救うために色々何かをしても大丈夫ってことだな。
目に見えないところでアリルを助けるためにこう……色々しても。
いいってことだな。
理解したぜ元帥。
「それだけだ少佐。
期待しているぞ。
作戦は……とにかく貴様だけ独断で行動しろ。
臨機応変にな。
じゃあそういうことだ」
元帥は手を離すとざっ、と体をひるがえし去っていく。
明日は元帥が指揮を執るだろう。
そして帝国群と連合群が本気で戦う時のだろう。
どちらにしろ明日ですべてが決まる。
戦いも終わる。
全て。
俺は、窓から真っ青な空を見上げガラスに吐息を吹きかけた。
必ず助け、そして報酬をもらうのだ。
ふはは。
だけど、少し心配なことがある。
俺が最終兵器だということを知ってからずっと思っていた。
ずーっと悩んでいたこと。
俺は最終兵器。
だが、アリルは一般人。
これだけであらかたの人はお分かりだろうと思う。
それは俺とアリルの寿命に大きな差があるということだ。
もし俺がこのまま――。
いや、やめよう。
考えたくない。
自分の部屋に帰り、テレビをつける。
どのテレビ局でもやっている番組は同じ。
『ただいま、帝国群本部に情報を照合しています。
ですが返答はありません。
先ほど出された総員退去命令は第一級通信で来ており……。
あ、元帥がテレビに出られるようです。
今、中継のカメラを切り替えます』
ぱっと場面が切り替わったかと思うと紛れもないシンファクシの部屋が映し出された。
真ん中の机に元帥は座って腕を組んでいる。
側には湯気のたった紅茶が置いてあり、触るだけで熱そうだ。
『みなさん、おはようございます。
緊急事態が発生しました。
連合群が、勢力の全てを割り振りこちらへと進撃してきているのです。
彼らは、今回の戦いで全て終わらせるつもりのようです。
みなさんを戦闘に巻き込むわけにはいきません。
地下に巨大な核シェルターを用意しています。
割り振られた番号の通りに避難してください』
元帥はまるで原稿でも用意してあるかのようにすらすらと読みあげる。
そしてテレビの地下に地区ごとに避難する地下シェルターの番号が提示される。
こっそりと俺はアリルの両親の番号を見た。
東区十二番。
『今回我々は正直負けるかもしれません。
ですが、挫けないでいただきたい。
我々は常に、勝つために。
そしてこの世界にあの帝国を復活させるために今を生きているのです。
やつらは明日、ここに攻め込んできます。
我々はそれを迎撃し、叩き落とすつもりです。
それではみなさん、いい夜を。
おやすみなさいませ』
そこでテレビの映像は消え、代わりに椅子に誰もいなくなったニュースだけがただ流れていた。
次の日の朝。
これから最後の戦いが始まるというのに驚くほど帝国群はざわめいていた。
それぞれが家族への手紙を出すと共に、最後の別れでもしているのかと思ったらそうでもない。
兵士が他の兵士と共にゲームをして遊んでいたりするのだ。
飽きれるほど平和なこの光景が後数時間もすれば戦闘の中に飲み込まれる。
そんな想像なんて出来るわけがない。
トランプをお互い取り合って、掛け金を渡したり取り返したり。
みんな今から死ぬ気なんてないように。
「この戦い勝ったよ」
その光景を見ながらシエラが言った。
なんでそう言い切れるのか聞いてみる。
「僕の経験。
戦闘前に笑ってる方は勝つ。
油断とかじゃなくて。
余裕があるやつってこと」
「あながちまちがっちゃいないねぇ。
私もこの戦いは勝てると思うわよ~?」
メイナもシエラに便乗して、兵士たちのポーカーに混ぜてもらいに行った。
あそこでPCを駆使して兵士にうちかっているのは仁だろうか。
大量のチップがあいつのよこにつまれている。
セズクは窓から外を見てぼーっとしている。
俺とシエラは二人で机に座ってお茶を飲んでいた。
何だかんだ言って俺もこうやってくつろぐ余裕があるんだからなぁ。
のんびりとしているうちに時間はすぐにたってしまった。
正午。
基地全体に警報が鳴り響く。
それと同時に帝国群の基地を覆う山脈の山頂と、山肌がくぼみだした。
代わりにしたから出てきたのは大量のミサイル発射台。
四角いビルよりも巨大な発射台の装甲版が開き丸い発射口が覗く。
くぼんだ山脈から覗くのは鬼灯のおっさんが命と引き換えに完成させた弾道レーザーの一番てっぺんだった。
なんだ、帝国群もえらいことやってるじゃないかよ。
港からはヴォルニーエルが出撃し、もう一隻の超常兵器級は基地の守りにつくらしい。
「いけるぞ!
俺達は勝てるぞおお!!!」
「うぉおおおおおお!」
その圧巻の光景を目にした帝国群の兵士たちは雄たけびをあげ連合群が来る空を睨みつける。
全員が士気を高め、これから来る敵を待ち受けうちかつつもりでいた。
敵が姿を現すまでは。
巨大な要塞島がはじめ見えたかと思うとその要塞島から空を覆うほどの戦闘機が出撃し、海を覆うほどの戦艦群がその真下に鎮座している。
「おおおおおおおぉお…………」
青い空が黒く染まり、青い海が黒色一色に塗りつぶされている。
……いくらなんでも多すぎるだろ……。
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あざまし!
こんな感じです。
帝国群も警戒を怠っていたわけではないのです。
さあはじまります。
最後の戦い!