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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
終堕な季節☆☆
195/210

テスト

「んなっ、なんで……俺が――」


「静かに。

 他の人も見てる」


大声を上げそうになった俺をシエラが押しとどめる。

口を押えて不満だ、という気持ちを隠そうともしないで俺はシエラの前に座りなおす。

俺の横に座っているメイナは大人しく頼んでいた注文の品を食っている。

サンドイッチ食ってんなこの野郎。

呑気なものだ。

まったく。


「いい?

波音は、まだ最終兵器として自分を取り戻してない。

力の使い方すら分かってない」


……またそれか。

力の使い方、力の使い方。

お主らは言うだけで何も教えちゃくれないじゃないか。


「じゃあ教えてくれよ。

俺に。

使い方をよ」


半ばシエラにつかみかかるように言う。

分からないんだもの。

だって。

明らかにならない以上俺にはどうしようもない。

それ割と前から言われ続けてるけどいまだ釈然としないことの方が多い。

いい加減この辺ではっきりさせてくれないか。


「力の使い方、力の使い方。

そればっかりじゃねぇかよ……。

俺は教えてもらってないのにわかるわけねーだろうがよ……」


椅子に大人しく座り直すとコップに入っていた水を一気に飲み干す。

メイナのはまだ水の中に砂糖が浮いていた。


「んー、ねーさんあとよろしく。

僕ケーキ食べたい」


そして俺は激怒していると言うのにシエラのこの態度だ。

イライラが収まるわけなくむしろイライラが増す。

ふざけた態度とりすぎじゃねぇか少し。


「メイナはどう思うのさ」


空っぽになったグラスを静かに机の上に置いてそのままメイナを見る。

メイナの意見も聞きたい。


「んーとね。

波音はね。

今いられても邪魔なの。

分かるかなぁ?」


思いっきりとどめを刺されました。

シエラよりもオブラートに包まなかったぞこいつ。

ひどくないか。


「そそ、つまりそういうこと。

 ケーキうまい」


「え、マジで。

 私にも一口ぃ、シエラ―っ」


「やだ」


「えー」


最終兵器二人の話を聞きながら俺はやり用のない怒りを押し込めていた。

力、力と。

この野郎が……。


「ねーシエラ」


「ん?」


「波音、納得してない顔してるけど」


する方がおかしいだろ。

おかしい。

それぐらい分かってほしいもんだ。


「えー。

 じゃあもう一つの理由も言った方がいいのか」


「たぶん……」


こいつら二人は一応ひそひそと話しているつもりだったんだろうな。

一応お互いがお互いヒソヒソのつもりだもんな。

全部聞こえてるんですけど。

丸聞こえ。

二人はお互い顔を見て頷くと


「波音。

 実はもう一つ理由があって」


「言ってもいい?」


「言えよ。

 早く」


二人の顔がアホに見えてくる。

もう怒る気力もなんかないわ。

失せた。

怒る気力。


「早く言ってくれやもー……」


「アリルがさらわれたのはもうみんな知ってる。

 だからこそ余計に心配なだけ。

 あなたが復讐に走らないかってことが」


「俺が?

 まさか……なんでさ」


「…………。

 そういう気になることがないって保障がない。

 だから連れていけないって言ってるのよ。

 りょーかい?」


いや全然。

了解でもないし、自分の心をお主らに分かられてたまるかと思ってしまった。

これがいけないのかもしかして。


「じゃあ俺はどうすりゃいいのさ。

 帝国郡の基地で一人のんびり待ってろってか?」


あほらしい。

そんなこと出来ないね。


「簡単に言えばそうなる」


メイナはシエラのケーキを一口切り取るとあんぐりと食べやがった。


「あの、僕のケーキ……」


「あ、ごめん間違えた」


嘘つけ、わざとだろ。


「とりあえずそういうことだから。

 話は終わり、波音。

 解散しよ」


「待てよ!」


レジにお金を置いてさっさと店を出ようとする二人を押しとどめてまだ話を続けようとする。

だが二人はさっさと出て行こうとする態度をやめない。

シエラの肩を掴んでこっちを向かせる。


「なんでだよ。

 わかんねぇよ」


「分からないなら仕方ない。

 分からないんでしょ?」


「…………」


「じゃ」


二人は店から出るとそのまま歩いて本部へと帰ろうとする。


「待てって!」


走って追いかけ、もう一度引き留める。


「なに」


くどい、と言わんばかりにシエラに睨まれて俺は少し怯んだ。

だけど、ここで引くわけにはいかない。

ぐっ、と怖いのを飲み込んで口を開く。


「俺は……アリルを守りたい。

 帝国郡を守りたい。

 力の使い方、俺の中では分かってるんだ。

 お主らとは違う。

 確かに違う!」


ここまでしっかりと主張したことはあまりない。

だからこそシエラも驚いた顔をしているのだろう。

店の外で話しているためか通行人がなんだ、なんだっていう顔で見てくる。

だけどやめない。


「だけど、俺には俺なりの力の使い方がある!

 誰かに指示されるわけでもない!

 でも、俺は。

 自分の勝手で力を使おうとか思ったことないんだよ。

 だからこそ逆に信じてほしい。

 俺は、誰かを守りたいんだよ」


そのあとの言葉は静かだった。

何も言わなかったから。

言う必要性も感じなかったし。

静かに時間だけが立つ。

通行人も来ては消えていくし、車も来ては通り過ぎていく。


「…………波音」


黙っていたシエラが口を開いた。

痛いほどの沈黙の後だったからこそ逆に俺はしっかり答えなければならないと思った。


「守れるの?」


「ああ、守るしかない」


正直、自信なんてなかった。

だけど言い切ったからにはこのまま突き通すしかないだろ。

俺はシエラを睨みつける。

拳一つ下にあるシエラの紫色の瞳をじっと睨む。


「じゃあ、見せて?」


何を。

俺の疑問の答えを教えてくれるようにシエラの右ストレートが俺のほっぺたに入って来た。


「――っ!?」


なん……は?

吹っ飛んだ体が先ほどまでいた喫茶店のドアガラスを突き破って壁に叩きつけられていた。


「キャー!!」


「なんだ、おい!?」


民間人に被害出す気かよ……。


「シエラァ!」


ふざけやがって。

この女許さねぇ。

俺はジャンプしてシエラに殴りかかろうとする。

だが空中で横から俺に対して繰り出されたシエラの蹴りを思いっきり食らって喫茶店の壁を突き破り、そのまま隣の家にまで吹き飛ばされる。

悲鳴を上げて逃げ始めた民間人を確認する。


「ごほっごほっ……くっそ」


ずきっと痛む脇腹を抑え、“イージス”を展開する暇すら与えてくれなかったシエラを恨む。

割と本気で蹴りやがったよあいつ……。

俺が人間じゃなくてよかった。


「どうしたの。

 それじゃあ何も守れない」


そう言いながらこっちに歩いてくる顔はまさにラスボス。

メイナも止めてくれればいいのになんかわざとらしく知らん顔してる。


「うるせぇ!」


シエラがこっちに殴り掛かってきた瞬間体を横に逸らせる。

鞭のようにしなるシエラの足が続いて後ろから飛んでくるからこれをイージスでガード。

跳ね返す。


「っ……」


「っりゃあ!」


そしてノーガードになったシエラの腹部。

そこへパンチを叩き込んだ。

思いっきり俺のパンチを食らい吹き飛んだシエラは隣の家を四つぐらい貫通する。

砂とアスベストとコンクリートがまざった煙にシエラの小柄な体は隠れ見えなくなる。


「どんなもんだバカ野郎」


格闘のポーズをかっこよく決めてみた。


「良いんじゃない?」


耳元でぼそっと声が聞こえ後ろを振り返る。

メイナだった。


「だいぶ取り戻してきてるみたいじゃん。

 シエラに一撃加えたってだけで普通の最終兵器モドキより全然強いよ。

 シエラ―!

 あんたが心配するより波音は感覚も取り戻してる。

 連れて行っても大丈夫だと思うよ」


「…………そう」


けむりの中から歩いて出てきたシエラは、俺を見ると少し首を傾げた。


「なんだよ」


「波音。

 予想より全然違った。

 一緒にいこ」


「当たり前だろ。

 俺はもう迷わないんだよ」


「いい覚悟。

 あ、波音」


「ん?」


シエラにようやく認められたうれしさ。

それで心がいっぱいだった。

だから油断していた。


「壊したもののお題。

 よろしく」


「よろ!」


「おいふざけんな!!!!」


捕まえようとしたのをするりと抜け二人は逃げていく。

あのやろー……。






               This story continues.


ありがとうございました。

更新できましたありがとうございます。


まー。

ええ。

シエラね。


なんか。

久しぶりだねあんた……。

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