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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
思出の季節☆
193/210

まずい紅茶

「……………?」


「……………!!」


「…………―――」


「――――――!」


「………」


遠くで声が聞こえる。

誰が何を言っているのか分からない。

ベルカ語の緩やかな発音だけがうっすら聞こえるだけだ。

腕が痛む。

腕だけじゃない。

体全体が痛む。


「……………」


「………………」


「――!」


「………!」


頭がぼんやりする。

暖かい湯の中に体を沈め、頭まで浸かった感覚と似ている。

頭どころか体まで浮いてるような気がする。


「…………す」


「…………し。

これで目が覚めるだろう」


女の声。

シンファクシ……元帥だろうか。


「やれやれ。

最終兵器ともあろうものが小型水素爆弾で意識を失うとはね」


「最終兵器だからこそ、形として残ってたんだと思った方がいいと思う。

それに、な」


どうやら二人いるらしい。

両方とも同じ声をしている。


「この最終兵器の恋人は……。

それを知らないで連合はアリル嬢を連れ去ったんだ。

愚かなことをしたよ」


「まったくだねぇ。

 あ、起きたみたい。

 溶液排水開始!」


その声と同時に足元でごぼごぼっと空気が立ち昇る。

ゆっくりと目を開くとどうやら俺は睡眠カプセルの中に入れられていたらしい。

意識がはっきりして、黄色い液体が吐き出されていくのを眺める。


「起きたか、少佐。

 体の調子はどうだ?」


「………………」


何か喋ろうと思うも何時も口から言葉が出てこない。

何か分厚い芋でも口の中に突っ込まれているみたいだった。

その芋がまたうっとおしい。

何度もしゃべろうとしても遮ってくるように口に張り付いていやがる。


「無理もない。

 恋人を奪われたんだもんな」


シンファクシとそっくりの人間がそう言って手に持ったボードに何かを書き込んでいた。

ラフファクシか。


「まぁ、後で私の部屋に来てくれ。

 そうすれば色々と掴んでいる情報だけでも教えるから」


シンファクシはそういって俺に背を向けると角を曲がって消えた。

残されたラフファクシは俺の目を見るとふむ、と頷く。


「お前は水素爆弾を至近距離で食らっても生き残った唯一の生物かもしれないな。

 さすがは最終兵器というべきか。

 体の異常は全て治っているはずだし、細胞可変も問題ないはずだ。

 歩けるか?」


前回カプセルに入れられた時は裸だったが、今は裸じゃなく破れた服が身に纏われていた。

それだけ緊迫したような状況だったんだろう。


「…………」


口の中に入っている芋はまだ取れない。

飲み込もうと思うほど飲み込めない。

あかん。


「まあ、何も話す気にならないのは分かる。

 脳波にも異常はないし……。

 とりあえずシンファクシのところへ行くといい。

 今掴んでいるだけの情報は出してくれるはずだから」


そういうとラフファクシは俺に服を差し出してきた。

よく見るとうっすら顔が赤い。


「……早く着ろ」


案外初心なんですね、ラフファクシさん。

意外な一面が垣間見えた。






こんこん、と部屋のドアを叩く。

元帥の部屋の前で俺は立っていた。

帝国郡の紋章が背中に大きく入っているこの軍服は中々にかっこいいと思っている。


「少佐か。

 入れ」


声が聞こえたかと思うとがちゃりと、鍵が開けられる音がした。

俺は右手でドアノブを捻り「失礼します」と小さく言って中に入る。


「来たか、少佐。

 まぁ、すわれ。

 何を飲む?」


「紅茶があれば紅茶を……」


「少し待っていてくれ」


元帥は、俺の前から消えると次の瞬間には紅茶を持って戻ってきた。


「砂糖は?」


「たっぷり」


元帥はたっぷり五個砂糖を入れるとかき混ぜ俺に渡してくる。

湯気が出るほど熱いカップを受け取ると俺は元帥の前の椅子に座りこんだ。


「じゃあ色々話すけども。

 いいな」


シンファクシは横にある紙の束から一番上の方を抜き取るとぺらぺらとめくり俺に渡してきた。

その紙を受け取って今度は俺がぱらぱらとめくり中身を見る。


「これは?」


「ん、見て分かると思うがアリル嬢の予想される場所だ。

 帝国郡の撃ちあげた軍事衛星で監視していたがどうやら本部にいるらしい」


「はー……。

 本部に……」


ってまって。

なんて言った。


「本部!?」


「本部」


「ほん……えええ!?」


いやいやいや。

つまり、だ。

俺の彼女は。

連合郡の本部にいるってことだよな。


「資料の二枚目を見てみるといい。

 地図があるだろ」


シンファクシの言うとおり一枚目をめくってみると二枚目に地図が載っていた。

その二枚目の地図は帝国郡からまっすぐ連合郡の本部へと延びており赤い点々のマークが海を綺麗に遮っていた。

いつの間にか打ち上げていた人工衛星の制度もなかなかのものということか。


「それに書いてある通りだ。

 お前さんの彼女は我々の敵である連合郡本部にいる。

 当然少佐としては取り返したいはずだ。

 違うか?」


違うくないです。

取り返したいです。

元帥、俺は彼女を敵から取り返したいに決まってます。


「アリル嬢は我々帝国郡としても貴重なお方だ。

 何より守護四族の血は大きい。

 何としてでも守りたいのだよ。

 その血は未来まで守っていかなければならない」


「はい」


元帥は自分で入れたコーヒーを口に含むと顔をしかめた。


「にっがい」


想像以上に自分で入れたコーヒーが苦かったらしい。

砂糖をたくさん投下している。


「そこでだ」


「あ、はい」


続けるんだ、お話。

待ちます。


「我々の任務は連合の壊滅、そして世界の併合だ。

 新しい世界を作り出すにはきちんとした歴史を学び次へと生かさなければならない。

 我々は次の世界を作り出すための糧となるのだ」


シンファクシはいい感じにかっこよくまとめてるけども。

俺としては早いこと本題を言ってほしい。

シンファクシの話をのんびり聞き流しながら紅茶を啜る。

思わず顔を俺もしかめた。

これはひどい。

間違いなくシンファクシって料理できない系だと思う。

そう思うぐらいにひどい。


「そしてだ。

 我々は次の時代を。

 世界を変えていかねばならぬ。

 ベルカの時代に戻しあの時の進んだ文明を……」


砂糖ないか。

シンファクシの机の上にあった砂糖壺を取り、三個ぐらい紅茶の中に投下する。

あとミルクでもあったらうれしいんだけどあいにくそれは見つからない。

そして一口飲んでみる。


「あの時はすばらしいと言われている。

 あの時代のベルカの優雅な文化。

 そして軍艦、力といったら。

 まさに人類の……」


あー以外とおいしくできたかな。

うむ。

つまり。

それぐらいまずいんだ、シンファクシの紅茶。

メイナに入れてもらった方が幾分かましだと思うレベルだぞ。

メイナも絶対ひどいけどな。

あいつのごはんってとりあえずあいつが作ってるってだけで爆発するからな。

煮魚作るだろ。

その煮魚が皿の上に乗るとするだろ。

次の瞬間爆発するから。


「というわけでだ。

 少佐」


「は、はいな?」


急にこっちに話振られてびっくりした。


「ぜひ貴官には協力してもらうぞ。

 それが貴官のためでもある」


「分かってますよ、言われなくても。

 最後の作戦には参加するとともに力を出します。

 とりあえず、この紙もらってもいいですか」


シンファクシにもらった紙をひらひらとさせる。

俺の彼女が連れ去られた事実しか書いてないんだぜ。


「かまわん。

 じゃあとりあえず今回はこんなところで。

 長いこと時間を取らせて済まなかった」


「いえいえ。

 失礼します」


俺は椅子から立ち上がるとドアを開けて自分の部屋へ向かおうとする。

その廊下に出る寸前に元帥がもう一度話しかけてきた。


「少佐」


「はい?」


「そのー。

 紅茶どうだった?」


あー。


「まぁまぁ、おいしかったですよ?」


「そうか。

 ならいい。

 済まなかった」






               This story continues.


ありがとうございました。

ということで。

新章です。

最後です。


御付き合いください。

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