ゴゴンゾール
「もう、落ち着いたか?」
「……はい」
「よしよし。
すまんな、なんか……」
泣きじゃくっていたアリルはようやく泣き止やんでくれた。
夕焼けは綺麗にもう地平線に沈んでしまっていて夕焼けを見るというかはアリルの泣き顔を見る、みたいになってしまってた。
いやー何て言えばいいんですか。
「もう泣くな。
前にも言っただろうに。
ほら、俺は死なないって」
笑顔をアリルに見せてやる。
アリルは少し複雑なような顔を見せて俺から目を逸らした。
「…………」
「………………」
微妙な沈黙が俺とアリルの間を取り繕う。
なんか間違えたかなぁ、俺。
言葉の選択とか。
「なーアリルさんや」
「……はい?」
俺は運転席に座りなおすと、息を鼻から吐いて空を見上げた。
もう赤色がなくなっている空は今度は白い小さな点々とした星だけが支配していた。
その星の色は赤や青もあれば黄色もある。
帝国群の方針で電力の消費を抑えるために夜は街灯の電気はつかない。
しかし、ビルの窓から漏れる光と、車の光だけは存在している。
変に明るい地上よりも静かな空の方が俺はこの時は好きだった。
「一緒に空でもみようや」
「…………そんな気分じゃ」
「いいから」
アリルをせかし、空を見させる。
そろそろ予定の時間だろうか。
携帯の時計を見るとちょうど七時半になろうとしていた。
「おっ」
大きなオレンジ色の光が空へと上がるとはじけた。
まるでそれは花火のように。
また一つオレンジ色の光が上がりはじける。
今度は青色の光が上がり、そして綺麗にはじけた。
「えっ、この時期に花火大会なんて……。
そんな、どういう……ことですか?」
「さー。
でも、綺麗だろ?」
「…………はいっ」
なかなかのロマンチストだろう、おいら。
ちなみにこれなんだと思う。
こんな時間よく花火が上がると思いますか。
上がりませんよね。
じゃあこれなんだと思いますか。
おそらく、あの花火の下には超極兵器級が一隻浮かんでる。
そしてその超極兵器級の中では元帥が訓練をこなさせている。
要するにあれは花火じゃなくて対空砲火の訓練だってことだ。
ただそれをロマンチックに言い換えたら花火ってなっただけで。
はい、すいませんでした。
「なーアリルさんや」
「はい?」
「そういえば付き合ってもうどれぐらいになるんだ?」
「…………さあ」
「だよな。
でももう一年はたってると思うぞ」
忙しくてどれぐらいなのかなんて覚えてないけども。
たぶんもうそれぐらいはたったと思う。
「なんていうか、ありがとうよ」
「いえ……。
そんな」
幸せもんだろうな、俺って。
兵器の中でも圧倒的な幸せを感じれていると思う。
星空の中に上がる花火はおよそ三十分続いた。
花火が終わるともうやることもない。
「そろそろ帰るか……」
ギアをRに入れ、後ろを見ながらアクセルをゆっくりと踏む。
山道をのんびりと運転しながら帰るわけだから余計に面倒というか……。
もう、最終兵器だし飛んで帰りたい。
道路にまで出たところでギアをDに入れ、アクセルを踏んだ。
ヘッドライトの明かりだけが頼りの中、用心しながら運転する。
と、俺の後ろから二台ほどの車が来るのを見つけた。
先に道を譲ろうかとも思ったが、俺は軍用車両だし煽ってきたりはしないだろう。
「っと!?」
とか思ってたらこれだ。
俺の横に来たかと思うと一台が追い抜いて行った。
危ないってレベルじゃない。
俺が遅いから追い抜いて行ったんだろうけども。
少し嫌な予感がした。
「アリル、シートベルト締めてるよな?」
「え、あ、はい」
「あくまでも感なんだけども……。
すごい嫌な予感がする」
「というと……」
「――わからんけど」
前に出た車より少し距離を取って走ることとする。
ブレーキを二回ぐらい踏んで距離を開けようとすると後ろから強い衝撃を感じた。
追突されたらしい。
「っそ!?」
ただの事故かそれとも……。
と思っていたら前の車も急ブレーキを踏んでいた。
赤いテールランプが光ったままこっちに近づいてくる。
そしてフロントガラスいっぱいに車が迫ってきたかと思うと首ががくんとなるほど強い衝撃で、俺の車のヘッドライトの片方が割れた音と共にボンネットに一人の男が乗ってきたのを確認した。
「アリル、つかまってろ!」
ブレーキも横にもよけれずにそのままの姿勢で迎撃態勢を取る。
右腕をレーザー砲へと変え、ハンマーを持った男がフロントガラスを割るのをひたすら待つ。
そして割れたフロントガラスで一瞬視界が遮られるのを確認した後男へ向かってレーザーを放った。
おそらく、命中。
倒れ、地面へと転がり落ちてゆく男を見ないようにして思いっきりブレーキを踏みつけハンドルを右へときる。
タイヤが軋む音と共に前の車両から俺の車のバンパーが外れると右車線へと俺の車は飛び出した。
対向車はこんなところには来ないだろう。
もう一度ブレーキを強く踏みハンドルを左へと大きく回す。
サイドブレーキを一瞬引き、その一瞬の間にアクセルを思いっきりふかした。
車体が斜めに傾き、横滑りを始める。
そのまま山道を下るはずが、昇る形となって敵の追撃を振り切ることにする。
『以上な加速は控えてください』
カーナビがそう言って警告してくるがそれどころじゃないんだよ!
「はぁ、はぁ……」
「波音君あれって……」
二台の車も引き返して俺の後ろへとついてくるのをサイドミラーで確認しながらスピードを上げる。
アリルは何が起こったのか分からないといった顔を俺に向けてきた。
でも当然俺も分かる訳がない。
「分からん。
だけど敵であることは間違いない」
目標はアリルか。
それとも俺か。
どちらでもいい。
どっちにしろ止まったら面倒なことになることは確かだ。
「波音君、あれ!」
アリルが指差した方からもう一台の車がやってきた。
今度は大きい。
四輪駆動車だろう。
そのままぶつけてくるってのかよ。
ここで逃げてもいい。
最終兵器となってアリルと共に逃げてもいいのだ。
だが、敵の正体が分からないと逃げるわけにはいかない。
もし基地の中に敵がいるなら逃げても意味がない。
だから正体を突き止める必要があった。
「アリル、体を低くしてろ!
弾が当たるのだけは避けたい!」
「は、はいっ!」
前の車は急ブレーキをかけ、車体を道路に対して横へと向ける。
その巨体で俺の先を遮るつもりらしい。
車の窓ガラスから手が伸び、銃口が俺の車を向く。
そしてその銃口が火を噴くと俺の車へと銃弾が飛んできた。
一応防弾とはいえそう長くは持たないだろう。
防弾だったフロントガラスもさっきの男に破られて意味を成していない。
イージスで運転席周りだけとりあえずガードしながら思いっきりもう一度アクセルをふかした。
こんな山道で百二十キロで走るなんてもう二度としないぞ俺は。
出来る限り相手の車の鼻先に当てるように車を持っていく。
敵は突っ込んでくる俺の車を見てもなおそこから動かずに銃を撃っていたが俺の車が相手の車の鼻っ先を蹴り飛ばすとそういう余裕もなくなったらしい。
俺の車も一応軍用車両で大型。
民間の四輪駆動車とはわけが違うのだ。
弾き飛ばされた敵の四輪駆動車はガードレールを突き破ると崖下へと消えてゆく。
「少しミスった――くそ」
さっきぶつけた衝撃でもう片方のヘッドライト割れてしまった。
「波音君、後ろから二台また来てます!」
くそっ。
何だってんだよ。
あの時のすごい魔改造ジープが懐かしくなってきた。
あれぐらいの力があれば勝てるってのに。
敵四輪駆動車にぶつけた衝撃で少しエンジンの出力が下がってきているようだった。
思うようにスピードが上がらない。
右からつけてきた敵車両に押され、右へと流される。
慌ててハンドルを左へと切るが乗った勢いは勝てない。
ガードレールへと押し付けられ火花が散る。
右手のレーザー砲で敵車両の運転席へと狙って光を放つ。
敵運転手は絶命、それと同時にブレーキを踏んだらしい。
俺の車から離れた後その場に静止した。
あと一台。
ぶっ殺してやる。
右手のレーザー砲を残り一台のエンジンめがけて三発ほど叩き込んでやった。
This story continues.
ありがとうございました!
波音に安寧ってないんですかね。
すごいもう……。
かわいそうです。
デート邪魔され過ぎですよ彼。
ではでは!