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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
思出の季節☆
187/210

最後

深夜。

大きな月が空に浮かぶ。

その月を覆い隠すような巨大な鋼鉄の城が空を飛ぶ。

帝国群の基地は深夜だというのに煌々と明かりがついており眠っていなかった。

帰ってきて一週間が経過した。

連合群も下手に攻めてくるのをやめたらしい。

シエラ、メイナ、俺がいるということが分かっているのだろう。

今まで絶えずに鳴っていた警報は最近では鳴らなくなり、帝国群は最後の作戦へ向けての準備を着々と進めていた。

最後の戦い、それは連合群を帝国群が叩きつぶす戦いのことだ。

本部も分かっている、敵の規模も分かっている。

後はこの本部を落として各自で孤立するであろう基地を潰すだけだ。

ここ最近の作戦により連合群は重要拠点を次々に失っていた。

シエラとメイナが頑張っているおかげだろう。

後ろから足音が聞こえ、振り向く間もなく頭がわしわしと撫でられた。

そして上から降り注ぐ声。


「やあ、波音」


「ん、セズクか。

 どしたの」


ポケットに手を突っ込み、港での作業を眺めつつ俺のとなりに座ってくる。


「いや?

 別に」


どうやら理由もなく俺の隣に来たかったらしい。

こんな火器管制塔の屋上にまでわざわざ出向くとは暇な奴もいるもんだと思う。

しかも俺と仁との戦いでボロボロになっているここに、だ。

地震来たら崩れるような所に来るなんてまぁ暇なんだな。


「勝てるかねぇ?」


俺はセズクに尋ねてみる。

あえて主語は言わない。

主語を言ったら……ただの謎かけだから。

暗に戦争のことを指してるって分かるよなだって。

それ以外にも色々あるけども。

セズクがここで何を主語に持ってくるのかが気になる。


「僕が波音に?

 性的な意味で?

 うん、勝てるよ」


そしたらこうなってしまった。

なんか安心するとともにどうしてこうなってしまったんだっていう思い。

あと、こいつに聞いた俺が間違いだったわ、と反省してくるレベルだった。

変に謎をかけするんじゃなかったわ。


「ちっげぇよ」


否定して、改めて主語をつけて質問する。

全くもってアホというかなんというか。

なんでいいなおさにゃならんのかと。


「この戦争だよ。

 勝てると思う?」


「あー。

 さあ。

 波音の力の具合じゃないかな」


「俺の力具合って……」


「言葉通りだよ。

 ハニーが何をどうするかによって変わるのさ」


そういうとセズクは持ってきていた缶ジュースを俺に投げて渡した。

パッケージを見るとリンゴ味らしい。

このクソ忙しいなか缶ジュースなど持ってくるんだからこいつも大したもんだ。

そんな意味深なこと言われても分からねぇよ本当に。

ラウナにも言われたけどよ、意味深なこと。

力がどーだとか。

分からんわいやそんなの。


「ありがと」


とりあえず缶ジュースを貰ったお礼だけは言っておく。

二人してちみちみと缶ジュースを飲みながら静寂を楽しむ。

ここでお酒が出てきたらまーうれしかったんだけどな。

お酒飲んだことないけども。

あの後、ヴォルニーエルは何事もなく帰還した。

アリルも俺の部屋にずっと閉じ込めておいたし外はうろつけなかっただろうて。

帰ってきたときシンファクシは涙を出して捕虜一人一人に握手をしていた。

「おかえり」と「ただいま」のやり取りが何万回と繰り返されていた。

俺とシエラにも言ってくれた。

セズクにも。

ついでに言うとアリルはマダムにすごい怒られてた。

そりゃそうだわ。

危険なところで


セズクといえばラウナのことだが……。


「あー……。

 ねーハニー。

 ラウナのことなんだけどさ……」


ああ。

ちょうど気になっていたころだ。


「うん」


「とりあえず治療だけしておいたから。

 あーあとね。

 別に僕はラウナのこと好きになんてなってないよ。

 あいつなんか……しつこいよね」


おいおい。

なんだそりゃ、恋じゃないのかよ。


「しつこいってお主が言えるのか……」


「あははっ。

 もっともだね」


そう笑うとセズクは空を見上げた。

月と星しか見えない夜空を。

遠い宇宙から届いてる光がこうやって俺達の目に入ってくるなんて面白いなぁって思う。


「ねぇ、波音。

 僕がもしラウナのことを好きだって言ったらどうする?」


海に一隻の船が汽笛を鳴らして通り過ぎてゆく。

鉄を打つ音、戦車が走るキャタピラの音。

深夜に光り輝く電気が道を作り綺麗に線を引いていた。


「……別に?」


どうもしない。

セズクがラウナを好きになったんならそれはそれで望むところだ。

主に俺が楽になる。

セズクが惚れた相手なんて別に俺が文句を言う資格なんてないしな。

それに人の心なんて分からない。


「別に――か。

 ふふっ、ますますハニーのことが好きになりそうだよ」


「なんだそりゃ」


こいつの恋愛価値は本当によく分からんね。

ざっくり切ったつもりなんだけども、これだからな。

どうしようもないということが分かっていただけるだろうか。

なんでそれで好きになるのか本当に意味が分からないよ。


「あーセズク。

 すまん、ちょっと話したいことがある」


「ん?

 僕にかい?」


「そうだよ。

 でなきゃ名前なんて呼ばんわ」


話したいことっていうのは、仁のことだった。

あいつのあの言葉がまだ歯に挟まったスジ肉のように詰まって気になって仕方がないのだ。

本人に聞いてもはぐらかすだけで。

セズクにとりあえず聞くだけ聞いてみる。

何か心当たりがあるんじゃないかって。

そう思ってしまう。

分かる訳ないだろうけどね……。


「ふむ。

 また興味深い内容だね……。

 でもごめんね、ハニー。

 あいにく僕には分からないよ」


「だよなぁ……」


本人に聞いても分からないし。

どうしようもないなぁ。

じゃあそろそろ行こうかなぁ俺は。


「ん、じゃあセズク。

 俺はそろそろ自分の部屋に戻るわ。

 もしなんか分かったら教えてくれな」


「分かったよ。

 まぁ、何も分からなくても僕は波音の部屋にいっ――」


「迷惑だからやめろ」


まったくもう。






俺が部屋に帰ったらアリルがいた。

ソファーですやすや眠ってやがる。

母親に怒られた後疲れて眠ってしまったって流れだろう。

またなんかやらかしたに違いない。

最近アリルは母親に怒られてばっかりだから。

全くやれやれである。


「こんなところで寝てると風邪ひくぞ……」


ソファーの上で寝息を立てて眠る金髪美人を眺めてまったく、と俺は自分の布団から掛布団を持ってきてアリルにかぶせてやった。

ここで寝て風邪をひかれても困る。

もう深夜だもんなぁ。

と、ここで気が付く。

おい、俺がねれねぇぞ。

深夜だから寝ようと思ったら掛布団アリルだし。

参ったなぁ……。


「ん……う……」


何エロい声出してるんだよ。

ったくもー。

俺はアリルの体を持ち上げると俺のベッドの中におろした。

全然目を覚ます気配もない。

仕方ないから俺がソファーで寝る。

アリルは俺のベッドで寝てればいいと思う。

バスタオルを棚から引っ張り出してソファーに横になり掛布団代わりにバスタオルを体に乗せる。

明日になったらシンファクシから最後の作戦の説明があるだろう。

そして最後の戦いが始まるだろう。

そうしたら、どうなるんだろう。

分からない、でも。

今はそれでいいかなと思う。

それ以上に考えたくなかった。






              This story continues.


ありがとうございました。

ということであります。

最終章、どうかおつきあいください!

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