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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
救明な季節☆
186/210

救雪

あーあほらし。

ったくなんだってんだよ。

消えて行ったセズクと姉を思い出して改めていらっとするわ。


「あーくっそー」


姉に刺された傷はまだずきずきと痛むしよ。

最終兵器の再生能力があればあと少しすれば立てるぐらいには回復すると思うけども。

痛いのは痛い。

それになんか納得がいかない。


「早く治れよ……もー……」


釈然としない何かがずっと頭の中を駆け廻っていた。

いや、セズクに思われなくなったからとか。

俺から離れたから、とか。

そういうことじゃない。

何か……。

なんかやっぱり釈然としないんだよ。

言葉には言い表せない何かが。

しばらく五分ぐらいじっとして立てるぐらいにまで回復するとゆっくり体を持ち上げる。

理不尽で、ほんで、意味がいまいち分からない。

くそったれすぎる。


「はー……」


頭をガシガシかきむしって自分の体を確かめる。

動いても大丈夫ってところまでは回復してきたよな。

入ってきたところから出るために体を引きずりながら前に進む。

壁についている手すりを掴みながら一歩ずつ確実に歩く。

なんとか入ってきた扉を超え、ヴォルニーエルへとどうやって戻るかを考える段階に入った。

無線を使えばいいのだが確かめたところ電池が切れていて使い物にならない。

妖怪バッテリーキラーがいやがる。

誰かに発見してもらうまでここでふらふらとするしかないようだ。

シエラやメイナが気ついてくれるような所はどこになるんだろう。

とにかく屋上にでもいれば気がついてくれるだろう。

確か、エレベーターがあったはずだ。

ふらふらとエレベーターに向かおうしていると偶然仁が俺を見つけてくれた。

仁は俺を見つけ、真っ青な顔をして駆け寄ってくる。


「おい、波音!

っちょ、お前どうしたの!?」


「あーすまん、助けてくれ。

 話すのも、億劫だ」


見た目からして今の俺はボロボロだ。

腹に穴が開いてすっきりしたとかそんなのは全くもってない。

そもそも腹に穴が開いてすっきりするやつがいるのかよと。


「ったく……。

ほら、肩かしてやるよ。

あとで何があったか話せよな」


「すまん……」






仁に引きずられる形でヴォルニーエルへと戻ってきた。

まだヘリは離着陸を繰り返しておりまだ味方捕虜が残っているらしい。

降りてきた味方はみんな痩せこけ、目がギラギラと光っていた。

飢餓し、虫でも食って生きてきたような歴戦の兵士だ。

ただ、優しさも携えた表情をしている。

あちこちが破れた布切れのようなものが囚人服なのだろう。

こんなくそ寒い所でそんな服装をさせられると凍傷とかになってもおかしくない。

ヴォルニーエルの臨時格納庫の中は暖房が利いており、脱獄に成功した捕虜達が助かった喜びを噛みしめていた。

ただ、全員の臭いがきつい。

お風呂に入ることすらも許されなかったのだろう。


「お前も助かってたか!

よかった、本当によかった!」


「兄貴!

 よかった、兄貴!」


そんな声ばかりが飛び交っていて臨時格納庫の中はいろんなぬくもりに包まれていた。

よかった、というべきだろう。

ここは。


「シエラとメイナが来てくれるなんてな。

 幸せもんだよ俺達は」


「まったくだ。 

 それにヴォルニーエルも来てくれているんだ。

 負けるわけもないしな。

 いい元帥の元でよかったよ本当に――」


そんな人たちの間を抜けて俺は艦橋へと向かう。

静かな空間が欲しかった。

仁と共に艦橋の先にある、静かな応接間へと行き着くとふんわりしたソファーに座る。


「ん、話してくれるか。

 なにがあったんだ、波音?」


「んはっ。

 話すもなにもねぇけどな。

 聞いてくれよ」


姉がなー。

いてなー。

それでセズクがなー。

とまぁ、そんな感じで話したさ。

話終わると仁は大爆笑しやがった。


「あっへへへへ!

 なんだそれおい!

 いやーわからねぇなぁ、これ。

 あー面白い。

 あー笑えるなんだそれマジで」


「だろ?

 俺の気持ちは複雑極まりないよ」


あーまったくやれやれ。

取り残された気分ってすごい嫌なもんだったわ。

本当に、勘弁願いたいものだった。


「あー笑った笑った」


仁は目に浮かび上がった涙を拭いながら窓の外を見る。

雪は止んでいない。

白いカーテンのような模様はずっと上から下へとずっと動き続けているだけだ。


「なぁ、波音」


「ん?」


思いつめたような声で仁が話しかけてきた。

久しぶりにそんな声を聞いたから少し警戒してしまう。

なんだよ、らしくないな。


「この作戦が終わったら帰るんだよな……。

 ほんで帰ったら帝国群の最後の作戦なんだよな……」


その通りだけど……。

どうした。


「おう。

 そうだって聞いてるけど……またどうしたの深刻な顔して」


「いや――。

 そうだよなぁ……ってなってるだけだ」


「?」


仁はそういうと顔を伏せた。

なんかよく分からん。

帝国群の最後の作戦が近いってだけだ。

なんでどうなってそうなった……?


「どうしたんだよ、仁。

 なんか……思うことでもあるのか?」


「いや……。

 何でもない。

 何でもないんだよ……」


「…………?」


何でもないならなんで言ってきたんだろう。

俺に何か気が付いてほしい、とか?


「俺はもう……裏切らない。

 だけどさ……」


「なんだよ……」


仁は窓の外から目を離さない。

俺の方を見て話をしてほしいけどそういうわけにもいかないのかな。

何か後ろめたいことでも抱えているんだろう。


「なー波音」


「…………」


「お前にまた酷な選択を迫るかもしれない、俺は」


「……だから?」


何が言いたいのかさっぱりわからない。

なんだよ、仁。

何が言いたいんだよ。


「いや、いいんだ。

 何でもない。

 もし俺が選択を迫るとき。

 お前は迷わないでほしいってだけで」


「…………まぁよく分からんが。

 迫るときが来るってことだよな。

 その時を覚悟しろと、そういうことでいいんだな?」


仁は小さく頷くとそのまま歩いて部屋から出て行った。

残された俺の気持ちにもなってみてほしいもんだ。

窓の外で降り注ぐ雪を眺めて小さくため息をつく。


「あーなんだよもー……」


机の上に置いてある接待用のチョコレートを摘まんで口に入れる。

少し苦いからビターチョコレートだろう。

今の俺の心情がそのまま移ってきたような感じだよ。

何とも言いきれないそんな複雑な気持ち。


「あー……。

 つかれだー……」


眠気がぼんやりと頭を襲ってくる。

こうやっていろいろあった時はほんと寝るに限ると思う。

口の中に微かに残っていたチョコレートの後味が段々酸っぱくなってきた。

ウォーターサーバーから水を出して飲み干す。

セズクも仁も、なんだってんだよ。

ド畜生が……。

もう一度ベットに横になる。

疲れた、俺は。

後はシエラとメイナに任せたい。

仁もいるし、まぁ、ええやろ、と。


「あのー」


…………。

………………なんでいるんですか。


「アリルどしたのあんた」


「えへへ……。

 なんか、さびしくて。

 ついてきちゃいました」


いや、ついてきちゃったって。

え、待って。

ここヴォルニーエルだよね。


「おま、戦争中だぞ!?」


「分かってますっ。

 でも、いいじゃないですか。

 寂しかったんですから」


寂しかったって言われると何も言い返せない。

寂しくしてるのは俺だからなぁ。


「どこにずっといたんだ?」


ここに来るまでにも時間があったし。

どこに隠れてたのかぐらいは知りたい。


「応接間の隣にあるベッドのある部屋にずっといましたよ?」


そこかぁ……。

よくもまぁ、俺達の目を逃れて……。


「まじかー。

 まーなんだ。

 もうそろそろ作戦も終わるだろうからなぁ。

 大人しくしとけよ」


「はーい!」






               This story continues.


ありがとうございました!

さて最終章にそろそろ入ります。

ここまでついて来てくださりありがとうございました!

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