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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
救明な季節☆
185/210

救彼

「……っかりしろ!!

 セズク……おい……!」


駄目だ。

俺が何を言っても意味がない。

だって見てみろよあいつの目。

すごい虚ろだぞ。


「エウナ―?

 こいつさぁ……なんなの?」


ラウナの目つきはメンドクサイ、の一文字で言い表せた。

先ほどまで浮かべていた哀れみ、という言葉は見えない。

それほどまでにセズクは攻撃もしないでただただ謝り続けるだけだ。


「………………」


「まーホモなのはわかるけどさぁ。

 面白いよね。 

 こいつあたいのこと、シャロン?とか言うやつだって思ってるよ?」


セズクは照準のあっていない目つきをしたままずるずると体を引きずる。

血の跡が地面に残ってセズクはラウナの側にまで体を引きずったままたどり着く。


「ごめんね、シャロン……」


その口からはまだ謝罪の言葉だけが漏れ出ていた。

あの時彼女を助けれなかったことに対する自分への罰。


「もう……面倒だから。

 殺すね?」


「やめ……!」


俺は止めようと声を出したが間に合わなかった。

ひたすら彼女の、最愛の人の名前を呼んでいたあいつは避けることすらしなかった。

動けただろうに動こうとしなかった。

ラウナは刀を掲げると一気に足元のセズクへと刃の切っ先を向け……突き刺した。


「――っ!

 シャロ……ン……」


セズクの顔は何かに洗われたようなそんな顔だった。

ゆっくりと血糊が広がってゆく。

セズクの体は少し痙攣していたがそれもすぐに収まってしまった。

瞼は閉じ……至福の顔をしていた。


「セズク……!?」


嘘だろ。

自分の目が信じれない。

死んだのか?

あいつが。

あの……ホモ野郎が。

しつこく迫ってきていたあいつが。

嘘だろ。

嘘だ。

嘘。

どうしてだよ。

なぁ、セズク。

なんでだ。

先に……死ぬとか。

嘘だ。

絶対に。

信じない。

信じないぞ。


「心臓を一突きだよ。

 最終兵器じゃない限りこれで生きてれるわけがない。

 さって、エウナ。

 次はあんたの番だよ」


姉はセズクから刀を抜くと俺に向けた。

光り輝く刃にべったりとついた血が生々しい。


「まー最終兵器といえども脳みそをぐちょぐちょにされたらアウトよね?

 やってみようかしら」


またあの刀を突き立てられるんだろうか。

そして今度こそ精神がボロボロに崩されるに違いない。

一歩、また一歩近づいてくる姉の靴にはセズクの手形が残っていた。

あいつが死ぬほどの相手だ。

俺が勝てるわけがないんだ。


「エウナ。

 長かったよ本当に。 

 我が弟ながらよくぞまぁここまで生きたなって感じ。

 私は連合ってやつに協力を頼まれててね。

 今の時代は私達の時代よりも楽しめそう。

 超極兵器級のヴォルニーエルも来てるっていうし?」


むふふ、と楽しそうに姉は笑った。

人を殺して、戦艦を壊して。

そういうのが楽しみで仕方ないらしい。


「いい世の中になったわね。

 やっぱりベルカは滅んでよかったのよ。

 エウナ、あんた達最終兵器は旧世界の遺物。

 今のこの世の中にいてはならないのよ。

 全てを壊す存在なんだもの。

 力の使い方がなってないうえに身体的能力の低下も見られるし。

 あんた達も時代と共に風化するのね。

 まーなんていうの?」


ラウナは一気にここまで言うと刀の先をドリルのようにねじり始めた。

脳みそをぐちょぐちょに……って言ったな、そういえば。

イージスごと貫いて頭蓋骨に穴もあけて。

そんで一気に意識が遠くなるんだろうな。

ラウナの腕の先についていたものは刀じゃない。

ドリル。

その一言に尽きるものだった。


「じゃあ、バイバイ。

 我が弟よ、楽しかったよ」


ラウナはそういうと俺に一気にドリルの先をぶち当てに来た。

だが俺の顔についたのはドリルの先端ではない。

血だった。


「な……!?」


口をパクパクとさせて何が何だか分からないといった表情のラウナ。

ラウナのお腹からは見たことのある超振動する剣の切っ先が見えていた。


「やあ、シャロン」


「っあ……んな……!?」


ラウナを、セズクが刺したのだ。

後ろから一気に。

闇に落ちたようにセズクの声は黒いものではなかった。

白く、何もない。

だが、全ての楔から解放されたようなそんな声。


「何度も何度も後悔していた。

あの時自分はどうして恋人を助けることが出来なかったのか。

何度も何度も考えていた。

あの時、自分はどうやったら恋人を助けることが出来たのか」


一度そこで声は切れた。


「うあ……」


痛みに喘ぐラウナの声が残る。


「何度も何度も考えたんだよ。

疑問は尽きず、答えは出ない。

その重さにつぶされ諦めていたんだ」


セズクはぐりっと切っ先を捻るとラウナの内部を抉り取る。

口から血が零れラウナの黒髪が揺れた。

信じられない、といった目はラウナだけじゃない。

俺も目の前のセズクの行動が信じられなかった。


「だけどね、シャロン。

 ようやく分かったんだ。

 僕はどうすればいいのか。

 こっから先をどう生きればいいのかを。

 愛したのは君だけだった。

 今も、これからも、これまでも。

 ずっとそのつもりでいるよ」


「ぐうっ……あ……?」


ラウナの信じられないといった表情をセズクは眺めると刀を引き抜いた。

詰め物を取るように血があふれる。

セズクの胸にあったはずの傷はすでにふさがっていた。

赤く染まっている軍服に滝のように残っていた痕が変に生々しい。

そしてそれがセズクが一度死んだ、ということを証明しているようだった。


「だから、シャロン。

 一度殺してくれてありがとう。

 亡霊となった君に会えた気がしたよ。

 そうだよね、シャロン」


セズクは明らかにラウナには話しかけていないようだった。

自分の中に眠る、亡霊。

恋人に話しかけているんだろう。


「あ……うぐ……」


さらに抉るように深く突き刺した剣の切っ先がラウナから突き出す。


「そうか、そうだよね。

 君は――死んでたんだから。

 一緒にいてくれたんだよね。

 シャロン、これからもずっと一緒だよ。

 僕は君の魂を引きずって生きていく。

 だけどね、もう僕は……君には捕らわれない。

 守るべきものを守る。

 君はもう……守れないから僕は。

 今守るものを守るね」


そういうとセズクは引き抜いた刀を手の形に変え、俺に向かって手を差し伸べた。

分かってるのか、セズク。

俺、という存在に。

それが少しだけ不安だった。

俺をシャロンと認識していないのかどうか。

それだけが怖かった。


「助けに来たよ、ハニー♪」


セズクだわ。

間違いない。

紛れもないホモ野郎。

だけど今まで見たいな黒いオーラはもうない。

笑顔にはためらいがなかった。


「バカな……殺したはず……なのに」


俺もそれが疑問だった。

心臓を一突きされたんだろう。

どうして生きてられるんだ。

不思議すぎるわ。


「あー……。

 あれ?

 波音には言ってなかったっけ?

 僕はね。

 心臓とか全部左右逆なんだよ?」


なんだそれ。

聞いたことねぇぞ……。

そういう人間がいるっていうのは知ってるけども。


「くっ――あたいとしたことがっ……。

 しくったね……」


ふらふらとなんとか体勢を保っているラウナは辛そうな表情をしていた。


「まいったな……。

 生体維持器官に甚大なダメージかぁ」


「…………助からないのか?」


俺は簡単にラウナに聞いた。

俺ですら分からない弱点をセズクがまぐれながら一発で突いたらしい。

苦しそうに胸を押さえ、ラウナは


「すぐに治療すればいいけど、あんたはそれを許さないでしょ?」


といってまた笑う。

その顔には安堵が浮かんでいた。


「あたいもここまでかぁ。

 もう少しこの時代にいたかったけどね……」


脂汗を浮かべながらラウナは壁に手を付いた。

そのまま崩れ落ちるように倒れる。


「…………シャロン」


セズクはふとそう呟くと倒れたラウナの所に向かって歩く。

何をするつもりだおい。


「…………?」


まだかろうじて息があるラウナをセズクは抱き上げた。


「治療すれば、生きれるんだね。

 どうすれば治るんだい?」


「!?」


お主、何を言っているのか自分で分かっているのか。


「波音ごめんね。

 こいつを僕は助けるよ。

 助けた方がいい、そんな気がするから」


「……はいはい。

 恋は突然ってやつかよ。

 好きにしろ。

 俺はもう少しここでくたばってるからよ」


……なんだよバカ。






               This story continues.


ありがとうございました!

なんだこいつ!


イケメンですねぇ……。

はぁ……。


ではでは!

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