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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
救明な季節☆
184/210

救俺

「もういい……。

 もういいからやめてくれ……」


過去の自分なんて見たくない。

国を滅ぼしたなんて知りたくない。


『ほら。

 そうやってまた逃げる。

 見たら?

 過去の自分がしたこと。

 簡単でしょ?』


また目の前に展開される地獄絵図。

血が飛ぶ。

体のない首が転がり、腕がちぎれている人が泣きながら歩いている。

燃え盛る街を背に続く悪夢のような世界。

その世界が消えることはなくむしろ鮮明に蘇ってくる。


「見たくない……」


『死んだ人もそう思っていたと思うよ?』


「知らない……俺は知らない!」


そんな昔の記憶なんて。

昔自分がしたことなんて。

分からないし分かりたくない。


『あんた自身すでに血まみれなのよ。

 この世に蘇って、記憶が返ってきたところで。

 自分が犯した罪、思い知るといいんよ』


綺麗だなんて思っていない。

自分が汚れていないなんて思っていない。

昔は思っていた。

でも今はそんなことない。


「うう……」


涙腺が緩む。

枯れていると思っていた涙が頬を伝い零れる。

目の前はもう真っ暗だった。

何も見えない。


『何も見えない、じゃないでしょ?

 あんたには死者が見えてるはず』


見たくない。

見たくないんだよ。

真っ暗の眼孔と、真っ黒な口内の人が俺の目の前にいるなんて。

錯覚って分かってる。

でも本当にこれはあったことで。


「いやだ……」


『いやっていっても仕方ないでしょ?

 何もかもあったこと。

 あんたが招いたことなんだから』


姉の言葉は深く食い込んできて心を抉ってゆく。

俺が何をしたっていうんだよ。


『人を殺したの』


分かってる。

知ってる。


『じゃあそれ以上に何の心配してるの?』


心配なんてしてない。

何もしてない。


『嘘よ。

 普通に怖いんでしょ?

 人から化け物と呼ばれ、人殺しと蔑まれるのが』


違う。

怖くなんかない。

怖くなんか……。


『嘘。

 だってほら、汗すごいもん』


はっと、目の前に景色が戻ってくる。

額から滴るほどに流れた汗が地面を変色させていて、握りしめていたのか手に爪が食い込んでいる。

血がにじんでいる掌に自分の汗が沁みる。

姉は……。

ラウナはどこに行った。

俺の中から逃げて消えた……んだよな。

俺の中に入り込んできたっていうの自体怪しいんだよ……。

そうだよ、ラウナなんてはじめっからいなくて……。

そんで……。


「ね?

 うそでしょ?」


耳元で生暖かい息と同時に声が聞こえた。


「――!」


びっくりしすぎて声も出ない。

ここから離れなければ……死ぬ。

一歩、動こうとしたとき自分の腹から突き出している刀の存在を再認知した。


『無理よ。

 逃げれるわけない』


「が――う……!」


また頭の中から聞こえてくる声と共に目の前の景色が吹き飛ぶ。

死者がうめき声をあげ一歩、また一歩と近寄ってくる。

こっちに来るな――。

やめろ。

やめてくれよ。


『ほら。

 あっちも』


姉が指差した方を見る。

赤い血を流しながら俺にすがりついてくる姿。


『エウ……ナ……』


「うわあああ!」


肉親のおぞましい姿から逃れようと足を動かす。

だけど膝は笑うだけできちんとした歩行を与えてくれない。

足が砕けたように地面にべしゃりと頭から転げる。

それでもまだ逃げようと俺は必至だった。

だけど逃げれない。

足が立たない、動けない。

もう嫌だ……。

何かが壊れたような、そんな音が頭の中でした。


「……………」


『あーあ……。

 壊れちゃったかな?』


「…………………」


もういい……。

殺してくれ。

何も望まない。

俺がわるかったんだすべて。

もういいんだ、全部。

好きにしてくれ。


『そうさせてもらおうかな。

 あんたを殺すだけで全然変わるだろうし。

 それに、あんたをこのまま放っておいてもいいことはないだろうからね』


目の前が真っ暗になると死人たちが刀を持って俺の方へと向かってくるのが見えた。

今まで俺が殺してきた人達の怨念だろう。

こんなところまで来るとか、妬ましいかそんなに。

肉親の恨みが籠った顔。

手に持っている刀や銃。

早く頭にでも胸にでもぶち込んでくれよ。

楽にしてくれ。


「そういうわけにはいかないね♪」


ふと隣でそんな声がした。

姉じゃ――ラウナじゃない。

もっと低い、男の声。

聞いたことのある男の……頼りある声。


「やれやれ、僕のハニーに何をしてくれているのかな」


俺の見えない視界にぼんやりと映り込む姿。

金髪のイケメンホモ野郎。

歩き方ひとつから貴賓が漂っている。

そして、深い声には怒りが満ちていた。


『なんだお前は……?』


声がすっと遠くなったかと思うと俺は顔から地面に倒れていた。

腕の血を舐めながら、ラウナがセズクへと顔を向ける。

はっきりしてきた視界にセズクの間抜けな顔が写った。


「……シャロン?」


かっこよく決めれてたのにこいつは……。

俺が似てるんだから当然セズクのもと彼女のシャロンさんにも似てるんだろう。


「あ……う……」


偽物って言わねばならんよな。

てか、普通言わなくてもわかるやろ。


「誰かと思えばエウナの記憶にあったホモさんか。

 やめておきなさいな、

 あたいには勝てないよ、無理よ?」


ラウナは刀を振りながら言う。

セズク、逃げろ。

そいつはまじでやばい。


「……それはどうかな♪」


セズクの姿が消える。

と、金属の音が響きラウナはセズクの刃を受け止めていた。

高速振動しているためか火花が散らばっている。


「へー?

エウナよりはやるんじゃない?」


ラウナの目が嬉しそうに笑う。

刃同士が離れると熱を持ったところから陽炎が現れる。

打ち込んだセズクの刃がラウナの腹のギリギリを掠める。


「お褒めいただき光栄だよ」


「っち!」


セズクがすかさず後ろを取る。

血が噴き出して、零れ落ちる。

ここでいつもなら敵の首は飛んでいる筈だった。


「……え?」


セズクが。

倒れたのだ。

思わず目を疑うこの光景。

否定してくれる奴はいるわけもなく目を信じるわけにもいかない。


「へー?

 何、弱いじゃん」


「――……」


膝を地面につき、傷口を庇いながらセズクはせき込む。

血が口からあふれる。


「なにし……う……」


何してんだよセズク。

お主がやられるなんてそんなことってあるのかよ。

嘘だろ。


「ほらほら!」


ラウナは傷を片手で庇っているセズクに攻撃を加える。

右手の刃でその攻撃を流しながらもやっぱり隙は出来る。

その隙に攻め込まれ、セズクの白い皮膚が引き裂かれ血が流れ出す。

次第にボロボロになってゆくセズクにげんなりしたのかラウナが愚痴を吐く。


「なんなのよ、弱いくせに。

 なんで邪魔したわけ?」


「……無理だよ」


「え?

 何よ、聞こえない」


「シャロンを切るなんて……できないよ」


「……はぁ?」


ああもう……。

だろうな、うん、だろうなと思ってたよ。

それ以外に思いつかないもん理由。

だろうなと思ってた。

本当に。


「はぁ?」


ラウナは心底呆れた顔をしている。


「シャロン、なんだろ……?

 とうとう僕を殺しに来てくれたんだね?」


「ねーエウナ。

 こいつ、くるってるの?」


俺は黙って首を縦に振る。

肯定するわ、そんなもん。


「まー敵であることには間違いないみたいだし。

 ここで殺してもいいよね?」


両手の刀を振り上げてセズクに振り下ろそうとする。


「ごめんね、シャロン……。

 あの時、守ってあげれなくて。

 あの時力がなかったから……。

 なかったから僕は君を守ってあげれなかった……」


ラウナはそれを聞いてすごい複雑な表情を浮かべる。

哀れみ、それが浮き出ていた。


「お前、何を背負ってるのさ……」


「全部。

 そう、全部だよ、シャロン。

 安心して。

 僕が今度こそ守ってあげるから。

 ね?」


歪みすぎだろオイ……。

しかもこんな大事な時にそれが発動するんじゃないよ。


「セズクおい!

 バカ目覚ませ!」


「シャロン……。

 愛してるよ、本当に。

 ごめんね……」


袋小路入ってますねこれ。

俺の声なんて届くわけもない。

それに性別があるから俺よりもラウナの方が絶対に強い。

まいったな……。

まずい。

このままだとあいつ死ぬじゃねぇかよ……。






               This story continues.


ありがとうございました!

何だこれ。


というかセズクしっかりしてほしいですね。

おいがんばれ。


先週は忙しくて更新できませんでほんと、すいませんでした!

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