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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
救明な季節☆
183/210

救国

雨の中倒れている。

服はやぶれ、ボロボロになった肉体。

あの姿は、俺か?


「エウナ、あんたじゃ無理よ。

勝てるわけないの」


冷ややかな目で見てる俺は姉の、ラウナの中にいるらしい。

ん、言葉にするとすごい分かりにくい。

もっと簡単に言おう。

俺がラウナの視点でエウナ、つまり俺を見ているってことだ。

分かりにくいな、すまんな。


「っな……クソが……!」


腹から血を流しながらまだ立ち上がろうとしている俺。

切られている皮膚は再生を始めているがいかんせん傷が深すぎるようだ。

そしてこの雨だ。

泥水をすすりながら生きながらえようと、立ち上がろうと俺はしている。

それを冷ややかに見つめているラウナ。

殺そう、殺そうとしているのだろう。

だが止めているのだ、感情が。


「無理。

 動けるわけないじゃん。

 いくら最終兵器っていっても……このリモコンがあったらねぇ?」


「う……う……!」


恐怖に顔を歪める俺はなんというか……。

こう、端から見ていてもすげぇかわいそう。

俺かわいそう。


「よかった。

 あんたの細胞が取れて。

 これでこのリモコンは対最終兵器における最大の――」





また場面が変わる。

天井が周り真っ白な空間。

病院?

なんかそんなふうに思える。

鼻につん、と来る感覚は。

研究機関の何かしら。

俺は何かのカプセルに入れられているらしい。

視界に泡浮かんだのが見えて確信する。


「まったく。

 いったい誰が裏切り者なんでしょうね」


「わかりません」


俺の入っているカプセルの外で誰かが話しているらしい。

そっちに目を向けることは出来ない。


「ただ――。

 あの子かな……という目星は」


「最終兵器が負けるなどよっぽどの事態だ。

 あいては一体どんな兵器を……」






「――分かった?」


意識は気が付くとまた姉の、ラウナの前に戻ってきていた。

腹に突き刺さっている刀は抜けており俺は膝をついていた。

目の前にいる姉は見下したような目をして俺を見ていた。

「またこんなにながーい月日を重ねるとは思わなかったけどね。

 あたいとしてはてっきりあんたは亡滅の日に死んだと思ってたから。

 エウナ、あんたが生きてたってことは他の最終兵器も生きてるって考えていいの?」


俺は何も言わないでただ姉を睨む。

亡滅の日、おそらくベルカが滅んだ日の事だろう。

人類が技術力を失くし、そして消えゆく力にすがろうとした日。

帝国のシステムが瓦解し、連合群が生まれたあの日の事だ。

思い出すことも出来ない。

ただ、シエラ達はあの時地下遺跡に閉じ込められた。

メイナも。

そして俺も。

おっさんに掘り出されて記憶もないままに普通の人間として生きてきていた。


「………………」


「ねぇ、黙ってちゃ分からんのよね。

 教えてくれない?」


言うわけにはいかない。

言ったらシエラやメイナにも……。

あのリモコンがもし。

もし、姉から生まれたものなのだとしたら。

最終兵器の力を持ちながらもあの力を行使出来るのだとしたら。


「ねぇ」


ラウナはイライラしているのか右腕の刀を振るう。

もし攻撃してきたとしても避けれるほど力はもう残っていない。

一気に過去を教えてくれたおかげでまだ頭が痛む。

何がどうなってそうなった、といった感じだよ。

奥底に封じ込められた鍵を叩き壊し、中身を思いっきり引きずり出されたのだ。

気分が悪くないわけがない。


「早く教えて。

 もうね、弟だからとか。

 そういう理由で手加減とかしたくないの」


また一歩、姉は俺に近づいてくると刀を振り上げた。


「は・や・く」


表面に浮き出してくる苛立ちを隠さない姉は俺の膝に刀を突き刺した。


「――っ!?」


衝撃的な痛みがこみ上げ息を呑む。


「答えないからちょっと中覗かせてもらうね?」


ラウナはそういうと目を閉じた。

体が急に重くなる。

心臓の鼓動が増長し、息が上がる。

自分の体が、自分のものじゃないような。


『そうだよ』


頭の中に響く声。

間違いないラウナのもの。

それはラウナの体から発せられたものじゃない。

俺の頭の中に直接入ってきてる。

ようするにあれだ。

今あなたの頭に直接……ってやつだ。


『ふーんみんな生きてるんだ。

 へぇ、シエラとメイナね。

 あんた名前までつけてあげてんの?』


うるさいわ。

なんかあかんのか。

普通に呼ぶよりはやっぱり名前で呼んだ方がいいだろうに。


『あんた、心の中だとすごいすらすらしゃべるのね。

 いつも一人でぼーっとあんまり口数が少ないイメージなのに』


…………。

失礼極まりないなぁ、おい。

じゃなくて。

俺の中からはやいこと出て行ってくれませんか。


『いやよ』


出て行けよ。

お主に見せるもんなんてもうないんだから。


『あんたの中見せてもらってるんだから。

 いやに決まっているでしょ?』


俺の中にいるって表現がすごい気持ち悪いんでやめていただけませんか。

それに、見られたくないものもいっぱいあるんだよ。

出て行ってくれ。


『へぇ?

 かわいい彼女もいるじゃん?

 ちゅーは……おお、終わってる。

 でもまだ童貞なんだね』


何見てんだよ。

本当にやめてくれませんか。


『それにこの記憶……。

 ああ、これか。

 これが今まであんたの記憶として定着してたんだね』


おい、どれだよ。

やめろ。

俺からしたらあいつが何を見ているのか分からないから余計にイライラする。

教えてくれるわけにはいきませんかね。


『いいの?

 ……これよ?』


そういってあいつが提示してきたのはおぞましい交通事故のあの記憶だった。

もういい、もういい。

分かった。


「出て行け」


もういい。

いいから。

目の前が真っ赤に染まっている。

俺の偽りの記憶。

それを執拗に前に押し出してくる。


『……決めた。

 このままあんたを壊してあげる』


は!?

何を言ってるんだこいつは。


『ほらほら』


引きずり出されてくるのは記憶。

それも大昔の。

鬼灯のおっさんがつくったと言っていたあのゲームだ。

戦争が目の前で行われている。

それをただ眺め続けるだけのあのゲームの光景そのもの。

大きな戦艦が空を飛び、それから吐き出される光が都市を焼いてゆく。

人々が逃げまどい黒煙が空へと延びる。

地獄絵図。


『あんたはこんなふうに街を焼いたの。

 超極兵器級をもしのぐ力で。

 帝国に逆らう国を、焼いたの』


俺が、焼いた?

国を?

最終兵器の時はそんなふうに。

…………。






「お願いします……助けてください。

 お願いですから。

 帝国にはもう逆らいません。

 お願いです、お願いですから……」


目の前に媚びる女性。

頭に乗っているのは王冠だろうか。

たぶん女王なんだろうな。


「信用しろって方が難しい。

 あんたらは裏切ったんだ。

 だから滅んでもらう、簡単だろう?」


外で大きな爆発が起きる。

空が赤く燃えている。


「ああ、お願いです……。

 お願いですから……」


「駄目だ」


俺は拒否する。

何を言っているんだこいつは、という目を向けて。

すがり、泣きついてくる女性。

そんな物知ったこっちゃないのだ。

俺が知る訳がない。

ただ逆らった、という事実があるんだ。

それを知らないふりすることができないだけ。

俺はそうやって一つ、国を。


『滅ぼしたのよ。

 簡単でしょう?』






               This story continues.


ありがとうございます。

過去編長い!

というかこれはいるんです!

いいんです!!


ではでは

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