救過
「んな、またなんで急にたたか――!」
「そんなの決まってるじゃん。
それがあたいに課せられた任務だからよ。
最終兵器を見つけ次第壊していくように。
ベルカ世界連邦帝国の最終兵器反対派によってあたいは作られたのよ。
よりによってあんたの姉のあたいにね」
姉は俺の足を横から崩すようにしてけりを放ってくる。
小さく飛んでそれを回避した――かと思っていた。
ところが足を掴まれていたらしい。
地面が目の前に迫ってきてイージスでぶつかる衝撃を緩和する。
「ふざけん……な!」
自分、いまだに状況分かってないっす。
だって姉とか言っておきながらなんでおそいかかって……ああ。
それは分かった。
なんでいるのかってことだよな、問題は。
「本当に記憶ないの?
はっ――無様ね」
「うるさい!」
俺がなりたくて記憶喪失になったんじゃねぇ!
鬼灯のおっさんが勝手に弄繰り回すからだよ色々と……!
そのせいで自分だけ何も把握できていないって状況じゃないか。
力の使い方も分かってないとか言われるし。
俺の中では結論が出てるってのによ。
右手のレーザー砲を姉に向け発射する。
「はい、無駄」
姉も案の定イージスを持っているようだ。
俺のレーザーは弾かれ天井へと消える。
勝てない。
本能で悟るほどの力の差だった。
どこかに逃げ道はないか。
俺一人じゃ到底勝てない。
勝てないに決まってる。
「逃げれないよ」
俺の表情に考えが出ていたのだろうか。
姉はいじわるな顔を浮かべると天井へとレーザーを叩き込む。
崩れた大きな岩盤が降り注ぎ、俺が入ってきた入り口をふさいだ。
こんのやろう……。
「あっはっは……」
乾いた笑いを浮かべ姉は俺にまた一発叩き込んでくる。
右手でレーザーの光を掴んで遠くへと追いやった瞬間、脇腹に大きな痛みを受ける。
イージスが間に合わない。
吹き飛んだからだの先は岩盤。
体勢を立て直して何とか耐え切る。
一発でも、せめて入れてやる。
姉とはいえ負けるわけにはいかないし、ここで死ぬわけにもいかない。
「ねー、T・D。
終わりにしない?
もうね……私は……疲れた」
姉はそういってため息をつく。
疲れた?
急に何を言い出すんだ。
俺が気合を入れなおした瞬間のこれだ。
なんやねん。
「何をだよ……」
尋ねる。
静寂。
静かに俺の声だけが残る。
「うん。
全部よ」
次の瞬間、俺の腹に刀が突き刺さっていた。
姉の体がするりと俺の間合いの中にいる。
何時の間にこんなところまで来たのか。
冷静になろうと努力した頭に鋭い痛みが突入してきた。
「うぐああっ!」
耐えがたい痛み。
こんな痛みはリモコンの時以来だった。
「ほら、記憶よ。
あたいとお前の。
受け取り!」
姉のその言葉と同時に鮮明に頭の中に光が入ってきた。
目の前の景色が消える。
俺がいるのは……家?
暖かい、家。
そこには二人の女性と一人の男がいた。
一人の男は髭を蓄え、眠そうにあくびをしている。
そして手にコーヒーを持ってベルカ語の新聞を読んでいた。
二人の女性のうち一人は姉。
もう一人の女性を手伝っている。
「もーあなた、新聞読んでないで早く手伝ってくださいな」
「おーう」
「ほら、エウナも早く」
まだ俺は小さいのだろうか。
もっと周りを見渡したかったが体が動かない。
そして名前を呼ばれた俺は女性の……母のもとへとかけよった。
「どうして!?
どうしてですか!?
どうして……ラウナとエウナが!?」
「分からん」
次に浮かんできたのは暗闇。
夜、なのだろうか。
一つの机があり、二枚の紙を囲って俺を含めた四人が座っている。
「国の命令は絶対だ。
いいか、ナスク。
諦めるしかないんだ。
子供たちは……、国を守る兵器になるんだから」
親父は、そういって母親に現実を突き付けていた。
姉――ラウナって名前だったのか。
ラウナはじっとうずくまって、机の上の紙をひたすら眺め続ける。
ベルカ語……。
昔の俺には読めなかったのだろうが今の俺には読める。
『強制召集条』
と、書いてあるのだ。
その下に続く長文。
まとめると
『最終兵器になるための細胞にあんたの子供がヒットした。
実験したいし、最終兵器にしたいから国にください』
って、書いてあるのだ。
それらを見て俺の本物の両親は言葉を失っている。
「国に逆らったら……。
俺達も殺される。
それだけじゃない。
親戚も……すべてだ」
親父は指を咥えて机の上の紙を見つめ続ける。
こいつさえ消えてなくなってしまえば。
「どこに行ったんだ!?」
親父の腕に抱かれ俺達は森の中にいた。
母はラウナの手を引き、無造作にくくった髪の毛をしていた。
森の広場のようなところに不思議な機械にのった兵士たちが集っている。
その中の隊長であろう男が声を張り上げる。
「っち、逃げやがって。
いいかお前ら。
親は殺して構わない。
だが子供は絶対に殺すな。
生きて捕えるんだ、いいな?」
「はっ!」
そうして兵士たちはなだれ込んでくる。
親父も母も息を殺してただただ逃げ回っているだけだった。
「お願い……!
子供と一緒にいさせて……!」
「駄目だ。
さあ、来るんだ。
処刑台がお前を待ってるぞ」
「嫌っ……!
ラウナ!エウナ!」
「早く来い。
処刑台だけじゃない、あんたの旦那も天国であんたを待ってるぞ」
引きずられてゆく女の人の影。
母の最期の姿だろう。
俺は……何かに入っているらしい。
箱?
車?
分からない。
何かは分からないが何かに入っていることは確かだ。
エンジンのような音が聞こえて泣き叫ぶ母の声が遠くなってゆく。
姉は……ラウナはどこに行ったのか。
分からない。
何も。
「ようこそ科学技術島へ。
私は今からお前たちの親になります。
ちゃんということを聞いて……」
白い空間。
暖かい家にまた帰ってきていた。
机や椅子。
台所、ゲーム、テレビ……?
全てが揃っている何の変哲もない家。
親になるとか言っている女性はまだ若く見える。
金髪を伸ばすところまで伸ばしている。
「じゃあさっそくだけど……」
「よくやったわT・D」
「ありがと、かーちゃん」
また目の前に光景が浮かびなおしてきた。
目の前に倒れているのは血だらけの人間。
囚人服を着ている。
その服を着た囚人をどうやら俺が今殺したらしい。
返り血が実験用の白い服についており赤いシミが点々とへばりついていた。
「これで完全な完成とでもいうのかしら。
レーザーも異常なし。
イージスも、全て。
あなたは三体作られる予定の最終兵器の中で最もいい出来よ。
私だけのかわいい息子」
「ありがとう、かーちゃん」
ご機嫌な後ろ姿。
三人――か。
「かーちゃん、ちょっといいかな。
俺には姉がいたと思うんだけど……」
「いないわよ。
いなかったわよ、そんな子」
「あんた――!
帝国にまだなお尽くすっていうの!?」
今度は雨の中だった。
泥まみれになってもなお立ち上がるのは姉の姿。
俺は何をしているんだろう。
「ラウナ、いい加減考えてみて。
そうやってこぜりあって独立するよりも。
帝国に今までどおりに支配されていた方が平和だってことをよ。
そうやって死んでるんだったらもったいなくないか?」
俺はそうやって指を指した。
指の先には倒れ、体が引きちぎれた兵士たちがいる。
「帝国はもう終わりよ。
世界中でくすぶっている反乱の炎は止められないわ」
「じゃあ俺が炎を消すよ。
消し潰して帝国の平和を守らなきゃ」
「無理よ」
「……なんで?」
「あんたはここで死ぬんだもん」
This story continues.
ありがとうございました。
帝国が滅びる一因がこれです。
そしてここから先にどうするのか。
それが分かるのがこれからです。
まだあと少し、過去は続きます。
ではでは。