波音、ちゅう
「そう決めたんだ、セズク。
ごめん」
セズクは椅子に座ったままやれやれ、と頭を振った。
濁った金髪がゆらゆらと一緒に揺れる。
何も俺は言い訳はしない。
するつもりもない。
それを選んだんだから、俺は。
「波音……。
そうか、そうだよね。
波音はシャロンじゃない。
だから――僕にもう守らせてくれないんだね?」
顔に手を当ててゴシゴシとセズクは目をこする。
大きな背中の帝国郡の紋章の部分はレーザーで貫かれた時に破れたのだろう。
黒く焦げた穴が紋章の真ん中を占領していた。
「守るとか……そういうのじゃなくて……。
なんていうかさ。
セズク、お主はさ」
「……………」
前々から聞きたかったのに聞けなかったこと。
力の使い方だとかどうとか。
俺が考えた末がこれだもの。
戦争を終わらせたい、ってだけだ。
その結論ですらセズクはどこかしら不満を抱えている気がする。
別に俺は誰かに褒めてほしくてこの結論に達したわけじゃない。
誰かのためになるように考えてこの結論に達したわけじゃない。
俺が、考えて考えた末に出した結論なんだ。
だからこそ余計に不安で、不満だった。
何が違うって言いたいんだこいつは。
「セズクさ。
お主のいうさ。
俺の力の使い方ってなんなのさ」
前にセズクが俺を呼び出したときセズクは酒に酔っていた。
何かを言いたかったのだろうけど俺は分からなかったしセズクもあの状態だから分からなかった。
椅子に座っているセズクをたたみかけるように言葉を重ねる。
セズクは俺に何を伝えたかったんだ。
俺は鈍い。
そこはかとなく鈍いと思う。
だからこそ言ってくれなきゃ分からないんだよ。
「俺は確かに……力の使い方を分かってないかもしれない。
この最終兵器の力は俺には大きすぎるかもしれない。
でも持ってしまってるんだから、どうしようもないだろう?
俺は、ここから何をどうすればいいんだよ。
セズク、何を、どうさせたいんだ?
お主の言う正解ってのはなんなんだ?」
一言が、口からぽつりと出るとあとの言葉も続けて流れ出した。
今までセズクが俺に重ねてきた思い。
セズクが俺を守る理由。
「………ハニー」
だからこそ俺をまだハニーと呼ぶ。
あいつは自覚しているのだろうけど、それを認めたくないんだろう。
「教えてくれよ、セズク」
なぁ。
教えてくれよ。
「……なにも、だよ波音」
しばらくの沈黙が続いた後セズクはそういった。
なにも……?
「?」
首をかしげる。
「そうだよ、なにも、だよ。
波音。
何にも使わなくていいと、僕は思っていたのさ」
セズクはそう言って本棚の上に置いてある写真に目を移した。
セズクともう一人……誰だろうか。
ガラスは細かく割れて割れていて顔すら見えない。
焼け焦げたような入れ物に入っていて、何かにあぶられたようなそんな感じがする。
「何にも……?
へ?」
予想よりも斜め上の答えすぎた。
全然意味わからない、何、どういうことなの。
構えていた言葉が全部頭から抜け落ちる。
「………?」
「だから、何にも、さ。
波音。
何もしなくていいんだよ」
セズクは本棚の上の写真を眺めたままふと、微笑んだ。
その笑みは俺じゃなくて写真に向いてる。
何もしなくていいって、何?
「分からないかな、波音。
うん……分からないだろうな。
いいんだ、分からなくて」
また言葉を濁す。
それが逆に俺をもやもやさせるんだって何度言えばいいんだよ。
「いいから言えよ。
逆にもやもやするんだよ、そうされると」
「……だから。
波音は僕が守るから。
だから、そんな風に戦わなくていいから。
ハニーの分も全部僕が傷つく。
ハニーの分もすべて僕が――殺してあげる♪」
曇りひとつない笑顔だった。
背にゾクゾクっとした寒気が走る。
こいつはやばい。
「――――……」
「って思ってたんだ、僕」
ちょっと……へ?
待って、待て。
要するにあれか。
波音は僕が守るから波音は僕におとなしく守られて?
ってことでいいのか?
「お、おお……」
「それは僕がきっと知らないうちに波音とシャロンを重ねてるからだと思うんだ。
守れなかったんだ、僕は。
だからね、守ってあげたいんだ。
それを許してくれるかどうか分からないけど……。
でも波音はそうだった。
そう、波音はシャロンじゃないんだ。
だから僕の助けはいらないんだよね?」
そういったセズクの表情には何か黒いものが見えた。
俺がここで頷いたらこいつは死ぬんじゃないか。
自分の必要性を俺に見出している気がする。
俺としてはいつまでも俺に口を出してくるのは勘弁してもらいたいけどもさ……。
「そんなことないよ。
俺はまだセズクの力が欲しいもん。
それに俺は……」
「波音。
いいんだ。
もう、僕は薄々分かってた。
正直さ。
前から気が付いてたんだ。
波音が力を手に入れたときから」
セズクは立ち上がると俺の肩を掴んだ。
こいつ、めっちゃ手熱い。
真剣に俺の顔を見つめて来るイケメン。
なんだよ、照れるだろうが。
「波音、愛してるよ」
「おう、知ってるよ」
改めて言うことか、それ。
だからなんだ。
俺は愛してないぞ。
「波音、ちゅう」
「はぁ!?」
「一回でいいから。
そうしないと諦めれる気がしない」
「嫌だ」
「えー」
えーじゃねぇよ、嫌に決まってんだろ。
アホか、絶対に嫌だ。
何が悲しくて俺がキスをせにゃならんのだ。
しかも同性だろうが。
寂しいし悲しいわ。
心からごめんだよ。
「いいじゃんか」
「よくない」
「んー」
「やめろ!
口近づけてくんじゃねぇ!」
ったくもう。
お前が諦めれるとか諦めれねぇとか知ったことじゃないわ。
知らん、俺は断じて知らん。
「T・D、ここにいるのか?」
コンコン、とドアが叩かれ元帥の声が外から聞こえてきた。
ナイスタイミングである。
「ああ、はい。
いますよー」
「入るぞ」
俺の部屋じゃないけどな。
元帥は遠慮ない。
「……で、だ。
まずお前らは何をしているんだ?」
赤紫色の瞳が細くなり俺とセズクを見つめてくる。
改めて俺達のこの姿勢を確認してみる。
ああ、こりゃ勘違いされますわ。
「元帥、これは僕の愛を表現しているのです」
「黙れしてねぇだろ殺すぞ。
元帥、そんなことより何か用事でしょうか?」
「……ああ、ああ。
えっと、少し要件があるんだ」
知ってます。
落ち着いてください元帥。
あなたが落ち着いてくれなけりゃ誰がこのカオスを止めるんですか。
「その要件は?」
サクサク話してもらいたいから先を促す。
というか。
「いい加減離れろ」
「やだ。
だって、僕は好きだもん」
一番うれしいけど一番厄介な言い訳なんだよな。
「もういいか?
話しても」
イライラが元帥の顔に浮かぶ。
はい、すいませんでした。
「どうぞ、元帥。
お話してください」
「ったく……。
ラブラブするのはいいが、それは私の見えないところでやってくれ。
少し私には遠い世界すぎてだな」
俺にも遠いんですけどこの世界。
セズクはどっちかというとホモだから。
そんでそのホモの原因はシャロンさんにあるわけで。
ということはシャロンさんに似てるならセズクは誰でもいいんじゃねぇかと。
そう思うよ俺は。
「俺にも遠いっすよ元帥。
というよりか要件を早く言ってください」
「ああ、すまんね。
えーっと、仁だ。
仁の件だ。
それで分かるな?」
「はい」
「どうして受け入れた?」
どうしてって。
「えっとですね。
まず仁は……離れろってこの馬鹿!」
「やーだよ」
うぜぇえもぉぉおお。
話そうにもこうケツを揉まれまくってたら気になって話せんわ!
揉むなや。
「まず、仁に我々を攻撃する意思はないということが挙げられます。
それにあいつは連合を潰したいと言っていました。
ということは我々の力になってくれるのは当然と考えます。
そして、なによりあいつは強い。
もしかしたら頼りある味方になるかもしれない、と思ったからです」
理由を並べ立てる。
「もし、裏切ったら……分かってるな?」
「ええ。
俺が殺します、責任を持って」
This story continues.
ありがとうございました。
なんでこんなにホモホモしいんだ今回は。
どうしてもセズクがいるとホモホモしくなりますねぇ……。
まいったものです。