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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
回帰な季節☆
173/210

逆転睨

「何しに来た?」


食いしばった歯の隙間から洩れる殺気を含む言葉。

馬乗りになって仁の喉仏に突き付けられた刃は小さく振動していた。

仁の喉元にセズクの刃が少しかかり血がつぷっと、染み出す。

仁の白い首筋に赤い線が流れる。

いつものハンサムな顔とは大きく離れた表情。

シエラを越えるんじゃないかってほど恐怖を感じさせる表情を浮かべたセズクは


「答えろ」


と、言葉を続ける。

じりじりと恐怖を心からえぐってくるようなそんな青い瞳に臆することなく仁はセズクの目をまっすぐ見据えたまま口を開いた。


「なんてーかよ。

 俺はT・Dのよ、親友だろ?

 帰ってきてくれって言われたから帰ってきた」


「……ハニー本当かい?」


「あー……まぁな。

 大体あってる」


実際に戻ってきてくれって言ったしなぁ。

だから俺はセズクの味方は出来ないのである。

だからこそを分かっているのだろうか。

仁はしれっと俺に目配せをしてくる。

助け船を出せと言っているんだろう。

この状況がすごく面白いから見ててもいいけども本当にこのままだと殺しそうだからな。

少しぐらい助けてやってもいいかなって。

セズクは仁の首元から刃を遠ざけると逆の拳で首根っこを掴んだ。


「……二度と波音を傷つけんなよ。

 分かるな?」


そのままだと仁の首をこいつはへし折りかねない。

末恐ろしいものが見えてくる。


「セズク、ストップ。

 仁だって、分かってるから。

 だから、もうやめてやってくれ。

 こいつが暴走したら次も俺が殺すから」


「……そうかい?

 ならいいんだけど。

 また波音を傷つけられちゃたまらないからさ」


仁から離れるとセズクはふん、と鼻を鳴らして鋭い眼光で睨みつけた。

絶対に信用してたまるか、といった表情だ。

俺も信用できねぇけど、信用したい。


「ったく……。

 セズク、落ち着いてくれよ。

 俺だってそう何度も同じことはしない。

 それぐらい分かってる。

 あれだ。

 ほら、それにな。

 俺だって学習するんだ」


セズクと同じように疑いの目を向けるシエラとメイナとか、そこらへんへ向けての言葉でもあるのだろう、今の仁の言い訳は。

少し滑稽にも思えて俺は仁の顔を見てにやっと笑ってしまった。


「おい、T・D。

 なんで笑ってんだよー。

 助けてくれよ」


「おう。

 あ、セズク、すまん少し話があるから来てくれ。

 仁のことは元帥に報告しとくからとりあえず俺の部屋にいるようにしてくれ。

 あまりうろ付くなよ」


少し俺はセズクに話しておきたいことがあった。

その前に。


「おまえら、飯食ってけ、飯」


目の前に広がるご馳走をおいしく頂かなくてはならない。

ガッギスも……手伝ったのかな。

少し不安である。


「いただきまーす」






「どう思う?」


セズクのひどく綺麗にまとまった部屋で俺はそう尋ねた。

もちろん、仁のことである。


「んー……。

 曖昧なところだねぇ。

 何か目的があるわけでもないんでしょ?」


セズクはまだ仁のことが気に入らないらしい。

やたら仁を攻撃したがる。

そりゃ、そうだろう。

信じてたのに裏切られたのだから当然の反応だと頷ける。


「なんか唯一の目的は俺達と同じなんだとさ。

 よくわからんなーもう」


「え?

 波音を犯すの?

 ダメだよハニー。

 君の体は僕のものなんだからさ♪」


「お主はそーだろうな。

 ちげーよ、仁の話だよ」


「知ってるよ?

 あ、そういえばバナナあるんだ。

 食べる?」


「いらねぇよ!」


ああーもー。

セズクの部屋で俺はいらいらを隠しきれない。

自分から呼んだのに、呼び出されたみたいになってるし。

メイナとかシエラに変に警戒心持たせちゃだめだと思ってセズクの部屋に単身乗り込んだ。

そんで、仁のことをどう見たのか知りたいのにこれである。

答えになってないんですよ、お兄さん。

答え以前に話にならないんですよ、お兄さん。

まずツッコミが追いつかない。


「お主に相談した俺がバカでいいのか?」


そして話が進まない。

頼むから人の話を聞いて欲しいものである。


「んなことないよ?

 むしろ大成功だよ。

 あ、チョコレートもあるよ?」


「いただこう」


「はい」


大成功にはとても思えないのはセズクマジックなのか。

明らかな人選ミスをやらかした気がするのだ。

まぁいい、まぁいい別に。


「そんで、俺がな。 

 仁から聞いた目的は帝国郡と共通。

 連合郡を潰すんだと」


「ふむ……」


手に顎を乗せて、セズクがうなる。

なんて言ってやればいいのか分からないようだ。

俺も分からないもんだって。


「まーでもさぁ。

 正直、仁は大きな戦力になるよな。

 実際のところさ。

 だって最終兵器モドキだろ、まずあいつ」


セズクの険しい表情がさらに険しくなる。

何か地雷でも踏んだのだろうか、俺は。


「でもね、ハニー。

 あいつは、裏切ったんだよ、一度。

 そのことだけはきちんと心の中にとどめておかないと。

 分かる?」


チョコレートを俺に手渡しながらセズクは険しい表情のまま言葉を繋げる。

俺はそこで言葉に詰まる。

それは事実として帝国郡中に広まっている。


「分かる……けど……」


俺は椅子から立ち上がり壁に背中をつけて腕を組む。

なんか座っていられない衝動が全身を突き抜けたのだ。

それはセズクも同じだったのだろう。

歯がゆさが全身を駆けずりまわりじっとしていられない。

疑いたいんだけども疑いたくない。

そんな複雑な気持ちが溢れ出しそうだった。


「分かってないよ。

 何も」


そういうとセズクも立ち上がり俺の目の前に来た。

逃げれないようにか、片手が俺の顔の横に叩きつけられる。

壁にめり込んだその片手は少し震えていた。

ずいっとセズクの顔が近づいて来て、深海のように暗い青い目が俺の中をえぐるように見てくる。

これってようするに壁ドンってやつだよな。


「……何を分かってないってんだよ」


俺はセズクの言葉に噛みつき返す。

俺が何を、わかってないっていうんだよ。


「すべて、だよ波音。

 僕が思うすべてをだよ」


噛みしめた歯の間から苦しそうに絞り出すその言葉は矢となり突き刺さる。


「波音……いやT・D。

 君は何をしたいのか分かってるのかい?

 自分の中で。

 そしてそれが本当に正しい道だと思ってるのかい?」


「………………。

 なんだよ、急に」


「答えて」


濁っているはずなのに、奥まで見据えてくるようなこの瞳。

全てに諦めを告げ、目の前にあるものだけを破壊すると誓っていたのであろう瞳がまっすぐに、俺を見つめてくる。

霞むような色をする金髪のポニーテール。

セズクはこの一週間の間に大きく老けたように思えた。


「………うん。

 思ってるから――ここまで来た」


俺は顔を逸らして答える。

自分の中で答えは出ていた。

だけど正直に言ったらセズクが怒りそうで。

あえてぼやかした応答をした。


「人と話す時は、目を見て話そう?」


「っ――あ!?」


それが逆に逆鱗に触れてしまったらしい。

俺は顎を掴まれ、無理やりセズクの顔を向かされた。

今まで俺に向けたことがないような目をしている。

道端に落ちている折れた花を見るような憐れみを含んだ眼差し。


「ねぇ、波音?

 ちゃんと答えようか。

 僕はね、今君が何を考えているのか全く分からないんだ。

 不思議なことにね。

 だから、ね。

 知りたいだけなんだよ、分かる?」


「――分かるけど。

 なに、どうしたのあんた」


眼差しが変に生暖かくて目を逸らす。

そしたら顎がぐいっと動かされて無理やり合わされる。

なんやねんもう。

観念して、セズクの目を思いっきり睨み返してやった。

睨む時に世界を、連合を滅ぼしてやるという決意も込める。

だって、平和が欲しいだろ俺も世界も。

最終兵器だぜ、俺は。

命を盗む、そんな泥棒になるんだぜ?

はっと、したように二歩セズクは下がると椅子を手繰り寄せ腰をおろす。


「冗談……だろ、ハニー」


「冗談なんかじゃないよ。

 俺は決めたんだもん」


でもそれは力を無様に放つってことじゃない。


「力を……持った意味は……」


「分かってる、セズク。

 俺は、自分の思うことにしか使わない。

 最終兵器なのは平和を与えるために。

 だからこそのこの力だろ。

 分かってる、セズク、分かってるから」


椅子に座りこんだセズクはまたさらに老けたように見えた。

ごめんな……。






               This story continues.


ありがとうございました。

おそらくT・Dは決めたんだと思います。

自分ってものを。

さあ、もう最終章となりました。

長年付き合っていただきありがとうございます。

あと少し、あと少しだけ。


御付き合いくださいませ。

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